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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第三十三話:金川の戦い~エピローグ~

傍矛の今……。


※今話で金川の戦いシリーズは終わります。

 一方、傍矛ぼうむ金川ここの役所の一室で拘束されている。

 しかも彼の傍には、彼の監視を務める京賀けいが国の一個分隊十人がまるごと付いている。彼らは皆、屈強な精鋭で、その各々の片手には剣が握られている!

 万が一の時には即刻、傍矛やつの首を刎ねたり、胴体を刺突できるように。

 傍矛は筋力だけはある男であるため、このように警戒されてしまっている……。

 さらに彼らは皆、鋭い眼光を傍矛の一身に注いでいる。それなのに、傍矛の意識はまだ夢の中。挙句の果てには、その口から「俺は主席だぞ~っ!」と寝言がとび出る始末。

 その一室に「失礼します!」と、一人の男が両手に一杯のおかゆを持って入ってくる。傍矛に付く従兵の一人である洲漕しゅうぞうである。


「ううん……」と呻きながら目を覚まし始める傍矛。いいタイミングで起きてくれた。

 そこへ洲漕が「同志! おはようございます!」と傍矛かれに声をかける。

「おお……お前か……。こんなところで……今、何してんだ~っ?」

「同志の食事を運んで参りました!」

「そりゃご苦労。でっ、こいつら……誰?」というこの傍矛の問いに、洲漕は――

「京賀国の兵隊さん達です!」と淡々と答えてくれる。

 すると、一気に眠気が吹き飛ばされた傍矛は血相を変えて――

「何で京賀国てきの兵隊共が俺のすぐそばにいるんだよ!?

 ――てかっ、今、何で俺縛られてるんだよ!?」と慌てて洲漕に問い質してしまう。

 ここでようやく、彼は己自身が縛られていることにも気づいた。


「『何で』って、決まってるじゃないですか!

 自部隊おれたち全員、京賀国の軍隊の捕虜になったんすよ!」

 この洲漕の答えに、傍矛は見る見るうちに青ざめて――

「お、お、おっ……主席おやじに……こっ、殺される……!」と言い残して失神。

 またも夢の世界へ突入した傍矛! しかも突入した先が悪夢であることを悟って……。

「同志、同志! これ食べてくれないと!」と洲漕が彼の体を揺さぶって、傍矛の意識を悪夢から引きずり出そうとするも、それから十分ぐらいは起きてくれなかったそうな……。



 こうして傍矛が率いた部隊は全員まるごと、京賀軍の月清げっしん率いる中団(五個中隊を擁する一個連隊規模)の捕虜となった……。

 それもこれも、前日に金川じもとの住民達から振る舞われていた全ての酒に、京賀軍が運んで来た睡眠薬が含まれていた為である。

 月清かれ金川ここを退く前に、金川じもとの代表者達に、金川ここを警備していた畔河政権てきの小隊全員の助命を条件に協力を要請。

 代表者達のみならず、住民の全員が一致して――

「あの馬鹿共(金川を警備していた小隊)が助かるならば!」と要請を快諾。

 これらのことによって、京賀軍と彼らに通じていた金川じもとの住民達にスムーズにお縄になった。それから、傍矛とそんな彼に付く従兵長である申竜しんろう、同じく従兵の洲漕の三人以外の者達は全て牢屋に詰め込まれてしまった。

 そして部隊の指揮官である傍矛も縛られて役所の一室に運び込まれてしまった……。


 こうして、『金川きんせんの戦い』は終わった。

 この世界の軍事史上において、稀に見る“無血の戦い”として……!

 後のこの世界の軍事史に、住民達の協力による――傍矛の部隊への睡眠薬入りの酒の振る舞いの部分は、『金川の戦い』における『月清の罠』として刻みこまれたのであった!


 現在、捕らえられた者達は先に捕虜なった金川を警備していた小隊の世話を。傍矛の方は洲漕が世話をしている。もちろん、彼らの見張りは京賀の軍が担当している。

 しかし、佞邪救国政府の過穀政権、同政府の畔河政権、そして京賀国による三つ巴の戦いが終わるのは、現時点からはもう少し先のことである……。



 ところで月清は何をしているか? 彼は金川ここの役所に仮設した自身の本陣で――

「お前の“努力”で京賀わが軍は戦わずして三百二十の捕虜を得た! 礼を言っておく!」と目の前で畏まっている申竜に礼を言っている最中であった。

 一国の宰相に礼を言われるとは、大半が照れてしまいそうな境遇シチュエーションであるはずだが、申竜は一切動じないどころか、喜ぶ様子も見せずに――

「いえいえ、まだ戦いは終わってはいません! 恐れ入りますが、礼はその後で……」と応えてみせる。礼を言われたからといっても、油断は一切していないようだ。

 これに月清は感心しつつも、それを一切顔に出さず、むしろ厳しい目つきで――

「ではこの先も、お前の『努力』に期待させてもらう! 下がってよいぞ!」と許可。

 月清かれ自身の謀略の為でもあるが、今の申竜は表向きは“畔河政権の一分隊長”ということになっている。警戒をするに越したことはない。

 すると申竜は「では、失礼します!」とその場を辞していった。

 今まで畔河ちゅうおうとの狼煙のろしを担当してきたので、これからその畔河ちゅうおうへ裏切りの狼煙のろしを担うのだ!


 申竜がその場を辞するのを見届けた月清は「後は……」と呟いて、視線を送っていく。

 その視線の遥か先は甥の陽玄ようげんがいる大事だいじが在る――はず……。

 せい歴八百四年四月二日の午前七時頃のことであった……。

次回予告:いよいよ陽玄らの方に話は移る――はず。


今回の登場人物


*京賀国

月清げっしん:京賀国の宰相。陽玄の父方の叔父。まだ少年。


*佞邪救国政府畔河政権

傍矛ぼうむ:畔河政権付(無任所大臣相当)。猛己の長男。後継者争い敗者。

申竜しんろう:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。

洲漕しゅうぞう:申竜の部下。

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