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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第二十八話:熱血化と視線

申竜の『努力』の始まり……。

「それに……京賀軍やつらは休んでるんだろっ!?

 この機会逃したら、それこそ――同志首席おやじ粛清ころされるぞ!」

「例え休んでいたとしても、今はもう休んではいませんよ!!」

「それに罠でなくとも、既に相手は万全の態勢を整えていることは必至ですぞ!」

 キレて剣で脅す傍矛ぼうむに対して、官僚達は驚きこそすれども口を閉じない!

 所詮、後継者争いに負けた傍矛やつ。どうしてこいつに屈することがあろうか……!


「どっちにしても……討って出るっきゃねえだろっ!?」

 周りの冷ややかな視線に押しつぶされそうになる傍矛。

 内心で泣きそうになりながら“出撃”を主張するも官僚達の反応は冷ややか。

 くじけて虐殺ヤケを起こしてやろうと思った、その時――

「同志の仰る通りっ!! 京賀軍やつら畔河しゅとの目前に迫っているのです!!

 もし、京賀軍やつらが増援部隊と合流すれば、我々に勝ち目はありません!!

 ならば――京賀軍やつらがその増援部隊と合流する前に、討って出るべきです!!」

 金川から命からがらに脱出してみせた(そういう設定)申竜しんろうが激昂する傍矛を援護し始めたのだ! しかも、やる気満々で! 少なくとも外見上は……。

 その光景を見届けた、彼の部下である洲漕しゅうぞうは内心で――本気で金川きんせんおびき寄せる気なんだ……! と緊張を高める……!


「分隊長如きが、何をたわけたことを……!!」と一人の官僚が申竜に対して反撃!

 しかし申竜はこの格上の相手に一切怯まずに――

「そもそも――我ら救国政府(畔河はんが政権)には、身分などないはず!!

 私は『たわけたこと』と承知で申したが、『分隊長如き』とはあまりにも非礼!!

 我らが掲げる『万民の平等』という理念をお忘れかっ!!」と反撃してねじ伏せる!

 それも間違った理屈ことを一切言わずにである!

 それに『万民』が『平等』なら、そもそも敬語とか要らないはずだが……?

 ここで余分な知識を記すが、佞邪救国政府を僭称せんしょうする過穀かこくと畔河の両政権内では、敬語の使用は個人の自由に委ねられている。


 話を戻して、申竜の反撃に感化された一人の官僚が「そうだ、我々には身分などない!」と発したのをきっかけに、他の官僚や将校達も――

「それに『金川』が落とされたとあらば、京賀やつらが本腰を上げるのは時間の問題!」

「もし政庁ここを大軍で囲まれたら、“ジリ貧”となることは目に見えている!」

「よくよく考えてみれば――仮に“籠城”するにしろ、既に十分な兵糧は過穀に送った後!

 余裕がないとは言えんが、逆に余裕があるとも言えん!」

「ならば――我々の兵力が“多数”で、敵の兵力が“少数”の時に討ってでるべし!」

「その通りだ! 過穀で戦っておられる同志主席(猛己)も、政庁ここおびやかされているとあっては、我が救国政府の統一(過穀政権の滅亡)事業にに専念できぬ!」

「例え罠でも、座して死を待つよりは――!」

「我らの力を以てすれば、“鎧袖一触がいしゅういっしょく”! 京賀の貴族ボンボンなぞ敵ではないっ!」と次々と出撃論を展開! 熱血化ヒートアップ

 この時点で、政庁内の意見は“出撃”のほぼ一色に染まった!

「……」

 無論、『ほぼ』というからには出撃に反対する者もいたが、それを口にすることはなかった。反対意見を述べて “孤立”することは避けたかったからだ。

 畔河政権ここで『孤立』することは、ほぼ確実に“次の粛清の標的ターゲット”にされてしまうことに繋がる。すなわち自殺行為に他ならない……。


 さて、この一色の意見に一番喜んだのが、言わずもがな言い出しっぺの傍矛である。

 傍矛かれの記憶では、己の主張が通ったことはこれが初めて。

 後継者に選ばれなかった敗者じぶんについていく者なんていないはずなのに……。

 しかし、この時に至って初めて――自分についてくる者達がいた!

 傍矛は申竜に感謝の視線を送った後に――

「よーしっ、お前ら――出陣するぞおおおおおっ!!」と雄叫びを上げる!

 これに対して、広間内の武官全員達も「おおおおおおっ!!」と雄叫びを以て応える!

 文官達に至っては、戦えもしない者でさえも「うおおおおっ」と雄叫びで応える!


 こうして広間が熱気に包まれて興奮の真っただ中、申竜は傍矛に向かって――

「同志傍矛、お願いがありますっ!!」と畏まる。

 このいきなりのことに、「何だ!?」とキョトンとして返す傍矛。

 これに続いて武官や文官達も水を打ったようにキョトン。

「ここで水を差して――何事かっ!?」と言わんばかりに不機嫌になる……。

 そして申竜は、より一層畏まって土下座をして――

「先の戦いでは虚しく敗れしまい、多くの同志達が京賀の軍にとらわれています!

 同志! 是非、私に――彼らを救う機会をっ!!」と傍矛に請う!

 この請いを聞いた傍矛や官僚達は――何とやる気があって、漢気おとこぎもある奴!と申竜に対して感心を絶やさない。中には涙目になっている者もいる……。

 同じく聞いていた洲漕は――せっかく生き残ったのに、また死地に行くんすか!? と思いながら青ざめるのみ……。既にその目に至っては死者のものとの差がない……。

 しかし、長いこと青ざめるばかりではいられない。先程、申竜に集中していた周りの視線が今度は己に集中していることに、彼はすぐに気付いた!

 その集中した視線は「分隊長も行くんだから、お前も行くよねっ!?」と物語る……。

次回予告:行かなきゃ、ヤバそう……。


今回の登場人物

*佞邪救国政府畔河政権

傍矛ぼうむ:畔河政権付(無任所大臣相当)。猛己の長男。後継者争い敗者。

申竜しんろう:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。

洲漕しゅうぞう:申竜の部下。

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