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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第二十六話:連座の恐怖からの誘い

虚無的に悲しい申竜の身の上話……。

「つまり……『京賀の騎兵達が攻めてきて、我々二人を除いた小隊全員が捕虜となりました。その後、京賀の騎兵達のほとんどが金川そこで休んでいます!』と……?」

 命令の意味を考えられない申竜しんろうの――必死に頭から絞り出した末の発言。

 何か反応を示さなければ、殺されてもおかしくない状況の真っただ中。

 もう一度記すが、実際に彼の首には剣が据えられているのだ!

 とにかく彼はその反応を示してみせたのだ! だがその割にはすらすらと言えている。

 しかも、“確認”という一番無難な問い。短時間で良く練り上げたものだ……。

 この彼の発言が良かったのか、月清げっしんは一切の気を高ぶらせることなく――

「そうだ! ついでにお前達は『隙を見て脱出してきました!』とでも言っておけ!」と申竜の対応を付け加えるのみで済ませてくれる。


「あの……もしも……俺達の伝令が宰相殿下の命だと知れたら……?」

「そんなもん、俺達の命が無くなるに決まってるだろ!!」

 洲漕しゅうぞうから月清への質問に対して、質問された本人に代わって答えてあげる申竜。気持ちが高ぶっていなければ、完璧に代弁できていたことだろう……。


「京賀の宰相殿下(月清)からっすか? それとも猛己もうきの奴からっすか?」

 今度は洲漕から申竜への質問。これには質問された本人が――

「双方から追われて斬られるんだよ、俺達が!!」とキレる!

 ――末路くらい、自分で考えろ! と心の底からもキレている……!

 言葉通りに彼と洲漕の命は『風前のともしび』。

 そんな状況では、死への恐怖から自身の末路を考えられないのは無理はない。

 無論、申竜とてそれくらいのことは考えているが……。

 それを考えているのにキレたのは、実は――ただの八つ当たり!

 死への恐怖に耐えながら申竜かれの正気は辛うじて保っている状態。

 最早、自棄やけを起こす数歩手前の状態……。

 耐えろ――申竜! 自棄を起こさなければ助かる――はず……。


「――それだけではない!!」

「「!?」」

 月清の割り込みに、全神経を集中させて彼を自身の瞳に映す申竜と洲漕。

 もう首に据えられている剣のことは、頭から消えている……。

 彼らが考えているのは最悪の場合ケース。それは親族や友人等に罪が及ぶこと!

 そんな二人に月清はどこか見捨てたような目で、当然のように――

「お前達の一族郎党を畔河ちゅうおうに引き渡す!!」と宣告する!


「そっ、そんなっ……!! そんなことすれば、親父がっ、おふくろがっ……!!」

 泣きそうになりながら言葉を絞り出して、直立状態を崩す洲漕。

 今の畔河政権くにで犯罪が発覚したら、連帯責任で処罰されるなんて当たり前!

 ましてや命が惜しくて敵の命令を受け入れたとあらば、“裏切り者”や“売国奴”、そして“そんな奴の関係者”として全員が即処刑されてしまう! つまり“族誅”!

 異世界の現代人にとって“非情”かつ“時代遅れ”のように思えるが、この世界では個人の罪を集団で償わせるなど珍しいことではない!

 それどころか、一部にとっては「汚名に満たされた人生」から解放する温情的な手段。

 この世界の者達にとって、彼らの甘~い意識なぞ、“非常識”かつ“時代遅れ”のように思っていることだろう。そもそも“人権”なんて概念がまずないのに、この世界の者達を無意識に非難するのは、あまりにも“無意味”ではないか……。

 それに連帯責任、つまり“連座” で『族誅』されるなんて、王朝や政権にとって――

「都合がいいからっ!」という面が強いのだが……。

 例えば、放伐(暴君や暗君を討伐すること)等による出来立てほやほやの新王朝が自らの王朝を正当化するために、暴君を輩出した前王朝の血族を皆殺しにするとか……。


「……」

 申竜に至っては、動揺もしていなければ、声をも一切出していない。

 しかし、その顔は一切悲しみという者が漂っていない。まるで氷の如く無表情なのだ。

 恐怖の余り、涙や悲しみと言う感情さえも枯れ果ててしまったのだろうか……?


「どうしたんすか……? 分隊長……?」

 申竜の異変を察知した洲漕が彼に問いかけてみる。今の彼には自身が感じている “悲しみの空気オーラ”というものが一切漂っていない。まるで無色……。

 そんな彼は渋々ながらも、顔を洲漕に向けて――

「俺……親族とか……友人とか……いない……」と答えてみせる……。


「……」

 二人だけではなく、二人に付いている兵や月清を包み込む無色で寒い空気オーラ

 この乱乱乱世、生きていても食や欲のために人間関係を断つなぞ珍しくないこと……。


 月清は自身達を纏うこの空気を打破すべく――

「とにかく! お前達二人の努力次第では、我々はお前達の罪を許すどころか、“功”ある者として京賀国側こちらに迎えよう! 戦友達も同様にだ!

 場合によっては、今の位から上の官位も授けてやる!」と止めを言い放った!

 これぞ、申竜と洲漕の裏切りを後押しする決定的な――誘い……!

いざ――裏切りの伝令!?


今回の登場人物

*京賀国

月清げっしん:京賀国の宰相。


*佞邪救国政府畔河政権

申竜しんろう:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。

洲漕しゅうぞう:申竜の部下。

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