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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第二十二話:攻城の心得

孫子の兵法:この乱乱乱世の世界には至高の兵法だろう……!

  同日 大事だいじ 地方政庁内客間 午後八時四十五分頃

 就寝の時間が迫っているこの時間。貴狼きろうが保護者らしく――

「殿下(陽玄ようげん)、師殿(鋒陰ほういん)! そろそろ御休みの時間ですぞ!」と今も将棋で対局中の陽玄と鋒陰に向って言葉を放った。

 しかし、二人は幼児であることも相まって、勝負に熱中状態。全然聞く耳を持たない。

「貴狼殿、しばし待たれよ。もうすぐ対局が終わるぞ」

「いや、これ……とう残っているに終わってますよ! 生殺してるだけですよ……!」

 鋒陰の言葉に、ツッコみが抑えられない真藤しんどう

 盤上を見れば、その大半を玉(玉将)の鋒陰の駒々が占めている。

 それに対し、王(王将)の陽玄の駒は“王”とたった一つの“歩”のみ。

 はっきり言って――「詰んでいますぞ!」と貴狼。

 知らずに著者わたくしが記すところをパクってもいる貴狼あにき……。


「予は諦めない……。この世においては諦めないことが肝心ぞ……!」と弱気になって動揺している自分を奮い立たせる陽玄。震える手を必死に動かそうとしているのがその表れ。

 しかし、それは焼け石に水であり、その闘志が回復する見込みは――全くない!


「師殿! いくら“世の厳しさ” を教えようとしても、これはあまりにも酷ではないか?」

「儂は何度も『待った良し』と言ったのだ! でも陽玄が決して言わんのだ!」

 貴狼の無理もない問いかけに、ツンとあらゆる批判を受け付けないように答える鋒陰。

 自らはきちんと手を尽くしていた故に、その自らに一切の非はないと言いたげである。

 実際にそうなので、貴狼もそのことでを理不尽に鋒陰かれを批判しない。


「こんな盤面もの、上配殿下(陽玄の父)が見たら……。

 即刻、刃を抜いて我らの首をねにかかってくるぞ!」とここで我が子の為には理不尽な存在となれる者を口にする貴狼。その顔には焦りの色が伺える……。

 己を京賀けいが国の『摂政』という同国で事実上最高の地位に推挙してくれた恩人であることも相まって、『上配殿下』とやらにはあまり強く言えないようだ……。

 少なくとも、現時点ではそのように見える……。


 鋒陰は視線こそ盤上に固定していたものの、貴狼の言葉を全て聞いている。

 そして鋒陰かれはそろそろ勝負を終わらせる決心を固める……。


「それなら! いっそ、殿下の王を取っちゃえば――」

「仮にも殿下の『王将』ぞ! 下手に取れば『不敬』のそしりを受けるぞ!」

 真藤の迂闊うかつな発言。それを途中で、貴狼は即座に忠告して遮った。

 ほぼ全ての官や民が陽玄を慕うこの国においては、不味いどころではない話。

 この部屋の周辺に他の者はいないので、幸い“ここ”だけの秘密はなしとなった。

 だが最悪の場合は暗殺者が出る話に拡大してしまう……。

 そうすれば、真藤をこの国にスカウトする話が消滅パー……!

 以上のことは陽玄の師である鋒陰にも適用されるが、ここで鋒陰かれが投了(降参)するという選択肢も良くない。既に有利さは、それをするにはあまりにも不自然すぎる程。

 甘やかしてしまうという負の面もあるが、何より陽玄自身が認めないだろう……!


「安心せい! こういう時は、“王”を取らずにその“兵”を取るに限る!」と鋒陰は容赦も躊躇もなく、陽玄に残された最後の“歩”を取って、自身の持ち駒にしてしまった!

「あっ……!」と涙目になった陽玄は、それしか口に出来ない……!


「『王』は国にとって――最後の城! かの有名な孫子が『城攻めは下策!』といたのに、そんな城を攻めるのは下の下の下ぞ! だったら、その兵を攻めるのみ!

 何せ、兵や民もいない“指導者リーダー”なぞ……。最早、“指導者リーダー”ではあるまいてっ!! はっはっはっ!!」と豪語して、得意げに笑ってみせる鋒陰。

 先程の……陽玄を性格を熟知しての鋒陰かれの手――えげつない。

 だが当の鋒陰ほんにんは――ま、“王”にもよるがな……! と内心を秘めてもいる。

 たった一人でも“会社” を立ち上げられる時代を味わった身だ。先程、鋒陰かれが言ったことを保証できるのは 、“この世界”の“この時代とき”ぐらいだろう……。


「さ~て、戦場を片付けるのは勝者の――って、あれ?」

 鋒陰が盤上の駒々を片付けようと思ったら、既に陽玄が黙って片づけている最中。

「おいおい! 死んだ者が、どう戦場を片づけるのだ?

 まさか、屍奴隷アンデッドにして使役するか?」

「――そのまさかだ!」

 鋒陰の軽い冗談に、真剣な眼差しと共に応える陽玄。

 冗談に冗談で応えることに慣れていない故のハプニング……。

 それから、鋒陰は「じゃぁ、儂は寝る! おやすみ!」と布団へ突入。

 陽玄も――それに「おやすみ……」と応えて将棋盤を片付けてから布団へ――。


「摂政閣下、今の話って――」

 何か言いたげそうな真藤に対して、貴狼は慌てて「他言無用だ! 後は察しろ……!」と遮る。この世界では、死者の奴隷化は秘中の秘たる奥義。存在自体は知られているが……。


 この世界、死者になっても安らぎはない――残念!!

次回予告:いよいよ真藤をスカウト!


今回の登場人物

*京賀国

陽玄ようげん:京賀国の君主。まだ幼い。

貴狼きろう:京賀国の摂政。

鋒陰ほういん:陽玄の師。まだ幼い。

真藤しんどう:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。

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