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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第二十話:悪化したミイラ

非合理が理解できない時――どうする?

「その合理的な考えが……できなかったんだな……!」と盤上の王将を呆れるように「ツンツン」とつつ貴狼きろう。ついでに、失望の視線もその駒に注いでおく。

「ひょっとして、反対したのが主席の『官男かんなん』という方だからですか?」

 信じられずに再度()いてみる真藤しんどう。――“玉(畔河はんが派)”はいいとしても、“王(過穀かこく派)”が納得しない! とでも思ったのだろう。

 既に話は――合理的であることが如何いかに常識的であるかをり込まれた平成世代の日本人にとっては理解できない領域ところ。無理もない……。

「そうだが……それだけじゃない! 過穀派が全員一致で反対していたからな!」

「――どうしてそこまで……!?」

 貴狼の答えに戸惑いの疑念を隠せない真藤。これに貴狼は止めと言わんばかりに――

「もちろん、『君主を戴く国々との友好はあり得ない!』という感情論もあった!

 だがそれよりも大きかったのは……ただ単に『畔河派あいつらと同じ政策さくが気に入らない!』とか、『畔河派あいつらと違う道を行きたい!』っていう感情論だな。

 どうも過穀派あいつらときたら……畔河派そいつらとの違いに帰属意識アイデンティティーを見出したようだな……」と補足を投入する。

 ついでに貴狼は盤上の双玉同士を「コツコツコツコツ」と小刻みにぶつけ合わせていく。

 ちなみにこれらの佞邪ねいじゃ救国政府の内部事情も、配下の新聞社エージェントを使って手に入れた情報ネタ。また別の新聞社エージェントはその工作も担当中。


「反対の為の反対ですか……」

 呆れながらも、この話を断じることに成功する真藤。早い話が足の引っ張り合い。

 前の世界のテレビドラマの世界。加えて現実の政治の世界でもあった気がする……!

「そこから先の両派は、主導権を握るべく暗闘したい放題……!

 結局、救国政府やつらは挙兵から一年と経たずに二枚岩のぶつけ合わせ放題よ!」

「必ずしも『呉越同舟』にはならないんですね……」

 貴狼の話が再開して、またも呆れる真藤。どこまで呆れば済むのか……。


「しかも中央が機能不全こんなざまだから、救国政府むこうの各地方の役人共も『今がチャンス!』とでも思ったのだろうなぁ……!

 今じゃ民に対して、私欲な重税や労役を課したりと、政治は大いに乱れ放題!

 専横し放題で、救国政府そこの民達の苦しみは計り知れんものらしい……!」

「結局、救国政府かれらは何がしたかったんですか……!?」

 貴狼の口から救国政府の内情を聴いて、怒りを混ぜた疑問を口にする真藤。

 こればかりは大小問わず正義心を持つものは全員が同じように口にするだろう。

 救国政府の関係者メンバーがこれを聴けば、怒りを抱いても反論を口にすることは叶わない。何せ、自分達でも本来の目的を忘れてしまったのだから……。


 しかし、貴狼はそんな真藤かれの感情を一切を考慮せずに――

救国政府やつらは目的は――“人民を君主の支配からの解放すること”さ!」と彼らが忘れていた本来の目的を、救国政府かれらに代わって真藤に答えてあげる。

 しかも冷静に淡々とした口調で……。京賀国じこくに不都合な話ではないのだから。

 これに真藤はまたも呆れて、「はぁ……」と失望が混じった溜め息をして――

木乃伊ミイラを討ち取るどころか、自分が悪化パワーアップした木乃伊ミイラになっちゃってるんですけど……」と何所どこかの有名なゲーム風にアレンジしたことわざでツッコんでしまう。その辺の記憶は残っているようだ……。

 アレンジ元はもちろん――『木乃伊ミイラ取りが木乃伊ミイラになる』である!

 そして貴狼も先の真藤の例えに合わせて――

「しかもその木乃伊ミイラが人の生き血を吸う金の亡者(アンデット)系の悪の化身(モンスター)になった形態ものだから、笑うに笑えんよ……」と返した。

 しかし『笑えんよ……』と言っておきながら、その顔は不敵に笑っている。

 きっと金の亡者(アンデット)系の悪の化身(モンスター)の……限りなく悲惨な末路を計画して――嘲笑あざわらってのことに違いない……。

 こういう奴にろくな最後を送ってもらいたくないと思っているのだ。

 そうだよね。――というよりそうでないと困る……! 京賀国くにの都合の意味で。


「だったら、どうして……そのように笑ってるんですか……?」

 貴狼の笑みを突っ込んで訊いてみる真藤。その目は明らかに不審者を見る目。

 自身が言ったことと真反対のことをしているのだから――無理もない。

 これに貴狼は先の笑みを崩すどころか、より自慢気に――

「なあに……両派やつらをどう料理してやろうかと考えているだけだ……!」と冗談を交えて答えてみせる。やはり、悪の化身(モンスター)共の処分を楽しみにしている……!

「ひょっとして煮たり焼いたりでもするんですか……?」と真藤も貴狼に応じて、冗談を交えて訊いてみる。この時の真藤かれには苦いものだが、まだ笑顔がある。


「いいね、いいねぇ、それ!! 見せしめに釜茹かまゆでやら、火刑やらで退治するのは、さぞ効果があろうて!! ははははははははっ!!」

 そのアイディア頂き!!と言わんばかりに高笑いする貴狼。これぞ『嘘から出た真』!

 陽玄ようげんと対局しつつ耳を傾けていた鋒陰ほういんも「いいね!」と賛同。

「……」

 これらに対して己を苦笑いごと凍らせたかの如く、固まって何も声を出さない真藤。

 軽く言った冗談ジョークが重い現実リアルになりかけている。笑えない……。

 無論、その内心で――言うんじゃなかったああああぁっ!! と激しく後悔もしている。

そろそろ、『過穀』も覘いてみる?


今回の登場人物

*京賀国

陽玄ようげん:京賀国の君主。まだ幼い。

貴狼きろう:京賀国の摂政。

鋒陰ほういん:陽玄の師。まだ幼い。

真藤しんどう:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。

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