第十九話:弱小の双玉
新聞から「シャレ」にならない話……。
「もう一つ……。今度は新聞に載っている面白い話もしてやるか!」
話をやめず続けていく貴狼。まだ配下の新聞社を使って、面白い情報を手に入れた時の興奮が冷めきっていないようだ……。既に仙人並みの歳だというのに。
真藤はとりあえず「お願いします……」と話を聴く体制を取り続ける。
お喋りな貴狼の話を止めずに付き合ってあげる優しい真藤。
「救国政府が今の内戦の前から分裂するきっかけよ!」と言いながら、今度は盤上の王将と玉将の側面同士を密着させて、扇状の二枚一組にする貴狼。
余談だが、王将と玉将はまとめて『双玉』と呼ばれる。
少しややこしい気がする……。なにしろ片方は『王』だもの……。話を戻す……。
「『きっかけ』……? それに『前から分裂』とは……どういうことでしょうか……?」と疑問を口にすることも忘れない真藤。尤も、ほぼ相槌に等しいが……。
「事のきっかけは、我が京賀国と佞邪国への外交問題だな!」と貴狼は話を続ける。
「『外交問題』……?」
「救国政府とやらを樹立したはいいが、東は人口四万を擁する我らが京賀国!
西は人口七万を擁する佞邪国! 対して救国政府が擁する人口は……たったの二万!」と貴狼は盤上の双玉から離れた位置に三つの駒を置いていく。
真ん中に“歩(歩兵)”を挟んで、その両隣の升には“金(金将)”と“銀(銀将)”が配置されている。金が佞邪国、銀が京賀国、歩が佞邪救国政府。
これらの駒に「国力が違いすぎますね……!」と感想を漏らした真藤。
今の彼の頭には、高校生と中学生の番長に挟まれた小学生の番長が映し出されている。
その力関係は嫌でもはっきりとしている。確実に小学生が不利である……。
「そこで、官男と猛己は『己らと数倍の兵力を持つ佞邪国と京賀国に、“今のところ”は敵対しない!』と互いに一致する方針を打ち立てた訳だ!」と貴狼は歩の両隣の升に配置されている金を銀を一升程離していく。
駒の動かし方はさて置き、歩が金と銀の双方と距離を置きたいことを分かった真藤。
「その点は一致していたんですね……」と彼が呟くと、貴狼は即座に――
「逆に――『その点』しか一致していなかった……!」と盤上の別の所に置いておいた双玉の密着を解いて、二枚一組を解消させた……。
「どういうことですか……?」と問う真藤。これに貴狼は――
「奴らの……先の分かれ道が大問題だったのだ……!」とため息を吐きながら応じていく。
「『分かれ道』ですか……?」
「憎い相手ながら、賢い方針を打ち立てた奴らに用意された道は――たった二つ。
さて、ここで用意された『二つの道』――分かるか……?」
ここでいきなりの貴狼の問いに、真藤は戸惑うことなく――
「はい。一つは『三国鼎立』です!
佞邪国と京賀国を争わせて、救国政府は国力の強化に努めます。
その後、強くなった救国政府で、弱った両国を攻めます!」と答えてみせる。
「良案だが、地理的に難しいと言わざるを得ない……。
何しろ、両国が互いに接する国境は短く、逆に両国のどちらかと接する国境はそれに比べて数倍ときている……!」と貴狼がツッコんでみるものの――
「それなら、自国は佞邪国と京賀国の“緩衝国”と成りえる訳です!
この点を利用すれば、うまく生き残ることができます!」と真藤は止まらない。
どこか乗りに乗ってきている真藤……! ――これが正解です!と言わんばかり。
続いて貴狼が「なるほど。では――二つ目は?」と別のことを訊いてみると――
「二つ目は――二国の内の一国と同盟するかです!
と言っても、京賀国の宗主である佞邪国と同盟する政策になるだろうと思いますけど……」と真藤は当然のように盤上の歩を金に密着させる。
良く言えば “全く的を外していない”、悪くいえば“あまりにも常識的な”答え。
――まだまだ青いとはいえ、陸に戦を経験していないのは此方も同じで……俺も人のことは言えんな……。と貴狼は真藤の答えを評価して自嘲する。
別に悪い意味で評価などしていない。というより、できない。
かっての自身も真藤と似たような考えを持ったことがあったから……。
そして――こいつはまだ伸びるぞ!と期待してもいる……!
「そこが……大問題だったのだ!」と貴狼は盤上の金と歩の密着を解いた。
これに真藤は「えっ?」と素っ頓狂な声を上げる。
その顔は見事に――信じられない! と言ったものだ。
「佞邪国と同盟する案は猛己が。より正確には、畔河派が推していた!
だが、腐っても――『佞邪救国政府』! 君主制を打倒して……その名の通りに“佞邪国を救済するための政府”が名指しで敵対する君主国と――手を組めると思うか!?」
「生き残るには、これが最も合理的な政策です!
それに手を組むのは、手を組んだ相手を叩くためです!
確かに大義名分の点では一時的に矛盾しまいます……。
ですが、生き残れなければその大義どころか、国もありません!」
貴狼の話を聴いても、そう簡単に自説を曲げない真藤。しかも感情的でない。
彼の反応を見た貴狼は――我が京賀国に仕官させたい! という思いを一層強くする。
確かに必ずやこの男は京賀国――そして陽玄にとっても“宝”となる“人材”となることだろう! それ故に貴狼は――必ずや真藤を“勧誘”するべきと決意する!
次回予告:何事も合理的な考えだけで解決できたら――人生苦労しない……。
今回の登場人物
*京賀国
・貴狼:京賀国の摂政。
・真藤:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。




