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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第十五話:戯れからの危機

意外と夕飯も長い……。

※全話の続きです。

 ――いつまでもこの部屋が沈黙に覆われるのは不味まずい。と感じた仙水せんすい

 この状況は打破すべく、とにかく自身の思考を練り直してみることにする。

 ――俺を拾って取り立ててくれた兄貴だ……。と貴狼きろうを信じてみると……。

 ――こいつには何かある……。とすぐに思い浮かんだので、話題を振ってみることにする。

「そういや、この『真藤しんどう』っていうのが新しい『転移者』という訳ですか……?」とし計るような視線を、当の『真藤ほんにん』に向けながら……。


 そして瞬く間に、真っ先に鋒陰ほういんが「ほうほう、ほのほおい!(訳:そうそう、その通り!)」と口に物を入れた状態で答えてくれる。その目も無垢むくに輝いている。

 これに陽玄ようげんも「叔母上(月華げっか)が尽子みやこ(京賀国の首都で読みは「じんし」)で見つけてきてくれたのだ!」と口に物が無い状態で続く。

 さらに貴狼が止めと言わんばかりに、目をギラギラと輝かせて――

「魔法が使える! しかも――今の技量で回復系だ!」と嬉々として紹介する。

 この紹介の貴狼の紹介の直後に、仙水は両目を純粋に輝かせながら――

「へぇ……そいつはすごい……!」と声を漏らした……。

 この世界に魔法があることを知っている彼でも、この反応リアクション

 自身は魔法を使えると言っても、ほんの護身術程度。回復系も使えるが、所詮は鼻血を止めるのがやっと。はっきり……「回復魔法は使えない」と言った方が話が早い……。


 一方、話題になった当の真藤ほんにんは別のことを考えている。

 顔が堅くなっているので、難しく考えていることは誰の目にも明らかである。


「どうかしたか? 食(あた)りでもしたか?」と真藤に問いかける鋒陰。

 しかしそう問いかけた直後、暢気のんきそうに鍋の中の具を頬張っているところを見ると、彼が真藤を心配しているわけではないのは、目に見えている。

 ――ほぼ確実に、社交辞令を兼ねた冗談だな。と著者ナレーターは思った。


 しかし、冗談が通じない人もこの世――少なくとも、この世界にいる。

「殿下、御無事で……!?」と血相を変えて陽玄の無事を確かめる――この貴狼である。

 ――先に真藤の心配せんか……。と無表情のまま内心で呆れる陽玄。

「心配するでない。鋒陰が言ったのは、ほんのたわむれぞ……!」

 陽玄がそう言って貴狼かれの不安を払拭ふっしょくさせようと試みるが……。


「存じております、殿下。臣はそれを逆用して、たわむれに興じたまでのこと……」と平然をあらわにして不敵な笑みを浮かべてみせる貴狼。

 先程の冗談が通じない人に見せかけたのは演技という訳か……。

 このことに「乗りが良いね~!」という褒め言葉を、ニヤリとしながら漏らす鋒陰。

 これに続いて「やはりな……」と漏らして呆れる陽玄。しかしながら、この直後に漏らした笑みが、貴狼が冗談が分からぬ人間ではないと信じていたということを物語っていた。

 これらの漏れた評価に貴狼は一切照れることなく、別の方に視線を向けて――

「しかし――興が過ぎましたかな……?」と若干の焦りの言葉を漏らした。

 そんな貴狼かれの視線の先には――苦しそうに両目を限界まで開けている仙水。

 鍋の中の具のどれかが、彼ののどに詰まってしまったのだろう……。

 必死に自身の手で「ボンッ、ボンッ!」と自身の胸を慌てて叩き続けている。


 地方政庁ここで君主である陽玄に“ヤバい”夕食を用意してしまった。

 こんな事故があれば、例え陽玄や京賀国の政府が許したとしても、陽玄くんしゅを敬愛する京賀国の住民から総スカンを喰らう羽目になる。それは生き地獄も同然……。

 男に限っては、自身の妻からも離婚され、子は周囲からのいじめから身を守るために自身の手から離れていく。そして男は妻子を守るためにこの現実を受け入れざるを得ない……。

 このように最悪な未来じたいを考えて、焦るに焦って動揺してしまった仙水。

 その同様の果てに――自身の咽に何かを詰まらせてしまうのも無理はない。

 いや、詰まらせずに平静を保てという命令ほうが無理があるのだろうか……。

 そんな仙水かれの身を「だ、だ、だ、大丈夫ですか……!?」と慌てて案じる真藤。

 当の仙水かれは、無理をせずに咽に詰まっていたのを「ゴクッ!」と水で流し込む。

 その甲斐あってか、物理的な危機も脱して「はぁはぁ……」と動揺の余韻を味わうことに成功する。この時の仙水せんすいやつれ様は著しかった……。

 そして、余韻を味わい終えた仙水かれは、自身の身を案じてくれた真藤に――

「ああ、大丈夫、大丈夫……」と台詞セリフを送ってみせた。


 一方、冗談ジョークの元である貴狼は仙水に構うことなく食事を続けている。陽玄と鋒陰の二人も同様。危機から脱した人間と見()せば、即座に関心が薄れるのだろう。

 ――この御三方……この辺が意外とドライかもしれない……。と真藤は思った……。


「戯れが過ぎますよ……貴狼の兄貴……。生きた心地が二重の意味でしなかったんすけど……」と今も食事を続けるドライな貴狼に向かって文句を吐く仙水。

 咽に手を抑えていることから、まだ先の不快感が残っている様だ……。

 そんな仙水かれを尻目に、文句の標的ターゲットとなった貴狼は――

「文句なら、しかめっつらをしてた真藤に言ってくれ!」と『標的ターゲット』という不名誉な称号を真藤に譲った。それも一切悪びれる様子ことなく……。

 これに「ええっ!! 僕のせいですかっ!?」と真藤は激しく動揺する。

 そんな真藤を、仙水は即座に「お前のせいじゃないてっ!!」とフォローする羽目に……。

次回予告:そろそろこの世界の流行が明らかに……。


今回の登場人物

*京賀国

陽玄ようげん:京賀国の君主。まだ幼い。

貴狼きろう:京賀国の摂政。

鋒陰ほういん:陽玄の師。まだ幼い。

仙水せんすい:京賀国の地方知事。

真藤しんどう:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。

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