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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
一章 冤罪で婚約破棄された私は『氷狼宰相』様と婚約することになりました。

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17話 敗戦処理

 二回の決闘が終わった後、デルムとソフィアは決闘時の約束を果たすべく、話し合いが行われていた。

 デルムが所有している一番大きな部屋に、ソフィアとレオ、そしてデルム、側近たちが揃っていた。

 ソフィアが決闘に勝った場合、要求していたのは『水障壁』の権利と研究室の全ての引き渡し。


 ソファにはソフィアとレオが座っており、その対面にデルムが座っていた。

 デルムはプライドをズタズタに引き裂かれたショックからか放心しており、その薄汚れた格好と相まって、いつものキラキラしたデルムからはかけ離れていた。


「それでは『水障壁』の権利を手放してください。この念書にサインをお願いします」


 ソフィアはデルムの前に念書の文言が書かれた紙を差し出す。


「約束だ、まさか違えることはないだろうな」

「……」


 デルムは何も言わずにそれにサインした。

 すでに心が折れてしまったデルムは特に反論することはなかった。

 デルムは『水障壁』権利を手放した。

 しかし、研究所の段階になって、デルムの側近が止めに入ってきた。


「それでは、研究室の譲渡についてですが……」

「ま、待ってください!」


 じろり、とレオが入ってきた側近を睨む。


「貴様は決闘の約束に関しては関係ない人物のはずだが?」

「しかしですね、研究室全て、というのはこちらとしても大打撃なのでして……」


 側近はレオの視線にたじろいだが、引くわけにはいかないのか食い下がった。

 後ろのデルム派閥の研究者達も頷いている。

 デルム派閥ではデルム自身が大半の研究室を保有しており、それが手放されるということは、大人数のデルム派閥にとっては大打撃だった。

 研究室がなくなってしまう人間は十人では足りないだろう。

 だが、それはソフィアのせいではない。


「そんなことを言われましても、私は自身の開発した『水障壁』と自分の全てを賭けて決闘をしたんです。決闘に勝ったから研究室を全て貰うのは、正当な権利のはずですが」


 ソフィアが研究室を手に入れたのは決闘の正当な報酬であり、研究室の権利者がデルムである以上、ソフィアが責められる謂れは無い。

 ただ、彼らの言いたいことも分からないでもない。

 そもそも決闘を止めもしなかった彼らに言う権利はないが。


「研究室を賭けの対象にしたのは私ではなく、デルム様です。不満なら私ではなくデルム様に不満を言ってください」

「ですが、このままでは私たちは研究を続けることができません!」

「どうかお慈悲を……!」

「お願いします! ソフィア様……!」


 研究者達はソフィアに深く腰を折り、お願いする。

 確かに、ソフィアも研究室がなくなった時、途方に暮れていた。

 それまでしていた研究もいつ再開できるか目処が立たない、というのはかなり精神的にストレスになる。

 慣れた研究室を突然手放すのも辛いだろう。

 ソフィアはそんな事情などお構いなしに研究室を取り上げられたのだが。

 しかし、ソフィアは譲歩をしてあげることにした。


「そこまで言うなら」

「おお……!」

「ありがとうございます!」


 ソフィアは譲歩することにした。


「では、私から研究室をお貸しする、という形でどうでしょうか」

「それで十分です!」

「では、金額についてですが」

「え、お金を取るんですか……」


(いや、無料で使うつもりだったの……?)


 ソフィアは逆に困惑した。

 まさか相手が無償で研究室を貸してもらえると思っていたなんて考えていなかったからだ。

「お前達は慈悲で研究室を貸してもらったにも関わらず、その上無償で使わせろ、と言っているのか?」

 レオの不機嫌そうな声と表情に、彼らはびくりと肩を震わせた。


「い、いえ! もちろん払わせていただきます!」

「それでは、月額このくらいでいかがでしょう」


 ソフィアはメモにサラサラと金額を書き、提示する。

 メモを受け取った彼らは目を剥いた。


「はっ!? えっ、これは!」

「い、いくらなんでも高すぎます!」


 メモに書かれた金額は確かに相場よりも高かった。

 それでも払えない金額ではない。彼らは少しでも値切ろうとソフィアに対して文句を並べ立てた。


「もう少し安くしてください!」

「これでは研究どころではありません……!」


 彼らは口々に不満を並べ立て、耳を塞がなければならないほど大きな声で騒ぎ立てた。

 デルムの派閥は人数が多いため、声はかなり大きい。


「いい加減にしろ!」


 レオが一喝した。

 不満を並べ立てていたデルム派閥の研究者はシン、と静かになった。


「そもそも貴様らに貸してやるだけ慈悲だと言っただろう。金額に不満があるなら自前の研究室を用意すればいい」


 レオの言っていることは正論だった。

 そもそも敵である彼らに研究室を貸す、というだけでもソフィアはかなり慈悲を与えていると言える。

 そのため研究者は誰も反論することができず、目でレオに対する怯えと、不満を表すだけだった。

 ソフィアは顎に手を当てる仕草をした。


「それなら、条件を飲んでくれるなら金額を値引きします」

「ほ、本当ですか!?」

「ソフィア……いくらなんでも甘すぎるぞ……」


 またもや譲歩したソフィアに対してレオは呆れたような声を出した。

 しかしソフィアはレオに耳打ちをする。


「大丈夫です。これは譲歩なんかじゃありませんよ」

「そうなのか」

「はい、見ていてください」


 ソフィアは新しくメモに金額を書くと研究者達に提示する。


「条件を飲んでいただけるならこれくらいまで下げます」

「こ、これなら研究を続けていける……!」

「ありがとうございますソフィア様!」


 研究者達は分かりやすく明るい顔になり、安心していた。

 そこにソフィアは指を立て、条件を提示した。


「条件は、私の研究を手伝うこと、です」

「研究を手伝う?」

「はい、私の研究の雑用をそちらに回すのでしてください。それが条件です」


 ソフィアがそう言うと、彼らは渋り始めた。

 自分たちの時間が縛られるのは嫌なようだ。


「それはちょっと……」

「雑用は、いくらなんでも酷いじゃないですか」

「私たちも自分の研究があるのに」


 彼らは口々に不満を述べる。

 我慢の限界を迎えたレオがまた先ほどのように一喝しようとしたその時、ソフィアが研究者達の言葉を遮った。


「でも、あなた達も私を雑用として扱っていたじゃないですか」

「え?」

「デルム様のに混じってあなた達の仕事が紛れ込んでいたこと、気づいていないと思っていましたか?」


 デルムに舐められていたソフィアは、デルム派閥の人間にも同じく侮られていた。

 そして第二王子の仕事に紛れ、自分たちの仕事を押し付けていたのをソフィアは気づいていた。

 バレていないと思っていたのか、研究者達は図星をつかれたような表情になった。


「そ、そんなことは……」


 彼らは否定するが、その額には冷や汗が浮かんでいた。


「そもそも、譲歩に譲歩を重ねているんです。これでも不満があるようなので、契約は無かったことに……」


 ソフィアはソファから腰を浮かせた。

 その瞬間、研究者達は青ざめた。


「そ、それは困ります!」

「申し訳ありませんでした。ソフィア様!」

「条件はそれで大丈夫ですから!」


 契約はなかった事に、と言われた彼らは慌ててソフィアを引き留めた。


「それでは、条件を飲んでいただけるということで宜しいですか?」

「も、もちろんです!」

「では、念書を書いてください」


 ソフィアは紙に金額と条件を書き、研究者達に渡す。


「ね、念書ですか」

「はい、口約束だけで破られては困るので」


 ソフィアが念書を書くように言うと、研究者達は渋々、と言った様子でサインをしていく。

 その間にソフィアは注意事項を伝えることにした。

「注意事項を言っておきますが、義務をサボったり、手を抜いたらすぐに研究室は取り上げ。違約金も支払っていただきます」

 そして最後の一人がサインをし終えると、ソフィアは念書を受け取り、全員の名前を確認して頷いた。


「それでは後日契約書を送るので。もう出ていってもらって大丈夫ですよ」

「行きましょう、デルム様」


 側近の一人がデルムに声をかけると、デルムはゆっくりと立ち上がり、肩を支えられて歩いていく。

 デルムと研究者達は部屋から出ていき、部屋の中にはレオとソフィアだけの二人だけになった。


「なるほどな。お前が狙っていたのはこれか」

「はい」


 実質的に手に入れたのは研究室数室だが、今後の利益を考えれば得たものはかなり大きい。


「これで大量の人手と、継続的に資金を調達することができます。研究がし放題になりました」


 仕事の内容も、量も特に限定はしていない。

 つまり、ソフィアの思うように働かせることができる。

 ソフィアが望むなら、それこそ以前のソフィアのように馬車馬の如く働かせることができる。

 そして、彼らは逆らえば研究室を取り上げられるので逆らうこともできない。

 要は彼らはソフィアの下請けということだ。

 その上、お金まで納めてくれるので、研究資金を搾り取ることができる。


「最初に高額を提示したのはそのためか」

「始めに無茶な要求をしておくとその後の要求が通りやすくなりますから」

「俺が思うより、お前は強かなようだ」

「そうですよ。私、実は強いんです」

「……」


 レオがソフィアの頭に手を乗せた。

 そしてじっとソフィアを見つめている。

 その様子を不思議に思ったソフィアは首を傾げた。


「レオ様……?」

「お前は俺の婚約者だ」

「え、はい……」

「妾になるかどうかを勝手に賭けるようなことは二度とするな」

「はい、申し訳──」


 ソフィアが謝ろうとした瞬間、レオはソフィアにハグをした。


「レオ様っ……!?」


 ソフィアは動揺した。

 少しジタバタと暴れるが、レオがそれでも離さないので次第に大人しくなった。

 一分ほどしっかりと抱きしめるとやっとソフィアを解放した。


「いいな、二度とこんなことはするな」

「わ、分かりました」


 ソフィアはこくこくと何度も頷いた。


「では、俺は仕事に戻る」

「は、はい……」


 レオはそう言って、王宮へと戻って行った。

 そして部屋に残されたソフィアは、レオが出ていった瞬間崩れ落ちた。


「な、何今の……!?」


 いきなりハグをされた。

 その事実に心臓はあり得ないくらい鼓動が早くなっているし、頬は紅潮し熱くなっている。

 それからしばらく、レオの行動を思い出して悶々とするのだった。

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