婚姻サバイバル武闘会 ~私の拳で王子のハートを鷲掴み!~
この国では、王子は成人の儀と同時に婚姻を行う慣わしがある。
王子は自ら妃を選ぶことができるのだが、現王子は一風変わっていた。
この国で一番強い魔術師を娶りたい、と願ったのだ。
すぐさま国中から年頃かつ強大な魔力を持つ女性達が集められ、王宮闘技場で婚姻を賭けたサバイバル試合が開催された。
熾烈な戦いの末、生き残ったのは私とマリア嬢のみとなった。
「ほらほら、そんな所に隠れていてもムダよ!」
「くっ!」
闘技場の小さな柱の影に隠れていた私は、マリアの猛烈な火炎魔法を凌ぐために身を屈めた。
「オホホ! いくら希少とはいえ、たかが治癒師ごときがこの私にかなうとでも?」
マリアの高笑いが響き渡る。
「私の魔力切れを狙っているつもりなら無駄よ。【無限魔力】のスキルを持つ私相手ならね。さあ、攻撃魔法を使えない貴方の心が折れるか、そのちっぽけな柱が折れるか、どちらが先かしらねぇ?」
(持久戦に持ち込むのは無理のようね……ならば!)
私は意を決して柱から飛び出した。
「アハハ! 観念したようね。せめて未練が残らないよう、最大火力で貴方を焼き尽くして差し上げますわ!」
マリアの手から巨大な火球が放たれる。
私はグッと拳を握り、全力で火球へと突っ込んでいった。
マグマのような火球が身を焦がす。
……熱い!
でも私の王子様への想いはこの程度じゃ収まらない!
私は自身に治癒魔法を施しながら、マリアの元へ突っ走る。
「なっ? こ、この!」
焦ったマリアが魔法を乱発する。
私は全て真正面から受けつつ自身を治癒し、その勢いのままタックルをした。
「オラッ!」
私はマリア共々地面に転がる。
一瞬早く体勢を整えた私は、すかさずマリアの首根っこを掴んだ。
「獲ったわよ!」
「グッ! ……このクソ治癒師がぁ!」
私は流れるようにマリアの体を捌き、コブラツイストを決めた。
「魔法で攻撃しないなんて卑怯よ!」
マリアは口から泡を吹きながら必死に抵抗する。
「ルールには『武器と道具の使用禁止』としか書かれていないわ。さあ! 貴方の失神した姿を王子様に晒す前にギブアップしなさい!」
「グッ、ウウゥ……」
獣のような唸り声をあげていたマリアだったが、暫くして
「ギ、ギブ……アップ」
と呟いた。
『それまで! 勝者、治癒師のルチア嬢!』
審判の声が響き渡る。闘技場は割れんばかりの喝采に包まれた。
「しゃオラアァァ!」
どこか引きつった笑みを浮かべる王子を横目に、私は勝利の咆哮を轟かせた。




