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55 ダリエル、先代勇者と互角に戦う

 妙なことになった。


 レーディだけでなく、何故か俺まで先代勇者アランツィルにしごかれることになった。

 何故?


「ダリエルさん」


 試合が始まる直前、レーディが小声で俺に話しかける。


「気をつけてください。今まで言う機会がありませんでしたが、アランツィル様はアナタを大きく買っています」

「え?」


 会ったばかりだというのに、いつそんな株を上げる機会があった?


「アナタが魔王軍にいた時からです。アランツィル様は、四天王に強力な補佐がついていると言って私に気をつけるよう忠告しました。今思い返すと、それはきっとアナタのことだったんです!」


 マジか?

 ゼビアンテス襲来をきっかけにして俺の経歴を知ったレーディだが、だからこそできるアドバイスだな。


「アランツィル様が、魔王軍時代のアナタにまったく注意を向けていなかったわけではありません。何がきっかけで過去の記憶と繋がるかわかりませんから気を付けて!」


 そう言われてもなあ。

 どう注意したらいいんだ?


 既にやる気たっぷりのアランツィルの前に、嫌々ながらも進み出る。


「随分長くこそこそ話していたな。レーディからどんなアドバイスを貰ったのかな?」

「アナタは情け容赦がないんでヘタすると死にますよって」


 本当のことを言うわけにもいかないので上手くはぐらかす。

 だが、さすがに剣を合わせた程度で正体がバレることはないだろう。


 俺が武器とオーラの扱いを覚えたのは魔王軍をクビになってから。

 本来オーラを武器に込める戦い方は人間族だけのものであるからには、過去の俺を魔族と信じて疑わないアランツィルにとって益々疑惑から離れていくだろう。


 ならばあとの問題は、普通に打ち合って生き延びられるかどうか。

 あのオッサン見た目通りに手加減しなさそうだもんな。


 ダメージを受けないように切り抜けないと……。


「レーディから聞くには、あの子はキミをパーティに迎えるために、この村に留まっているそうだな」

「はあ……」


 あの小娘本当に口が軽いな……!


「それだけが理由でもないと思いますがね」

「あの子は、人を見る目はたしかだ。当代勇者に抜擢されたのも実力より、そこを重く見られたからだと思う。そのレーディが認めた逸材だ、私もよくたしかめてみたい」


 アランツィルは剣をかまえる。


「キミの武器はどうした? 丸腰で受けて立つ気かね?」

「おかまいなく」


 俺はいつも通り、ナイフ形態のヘルメス刀を手の裏に隠して……。

 ……おうッ!?


 ガキンと金属のぶつかり合う音が鳴った。


 またしても雷鳴の速さで迫ってきたアランツィル。伸ばしたヘルメス刀で、剣を防ぐ。


「ああ、あっぶねー!? おかまいなくとは言いましたが、丸腰を装った相手によく迷いなく斬りつけられますね!?」

「実はキミの武器のことは知っていた。オーラに反応して自在に大きさと形を変える。物珍しい武器だ」


 レーディか!?

 アイツが喋ったのか!?

 本当に口が軽いなあの娘!?


「その性能を活かして、スラッシュ(斬)スティング(突)ヒット(打)の三特性すべてを一つの武器で賄えるとか。時代は進んでいるのだな。私が現役の頃には想像もつかなかった武器だ」


 と言いつつもアランツィル、剣を振り上げ襲い掛かる。

 俺はその猛攻を完全に食い止める。


「その万能性も、使い手の力量が伴わなければ発揮できないがね。オーラ適性は本来偏りのあるものだ。全部で四つあるうちの三特性に百パーセント適応する冒険者などそういない」


 いや、まったくいないと言っていい、とアランツィルは言った。


「キミは例外らしいな、だからこそ、その狂った装備はキミの手に馴染む」

「だからこそこれを作った酔狂人は、俺にコイツを託した!」


 会話中もやむことのない猛攻に、俺は必死で対抗した。

 目まぐるしく形態の変わるヘルメス刀で、相手をかく乱する。


「剣形態で斬る!」


 と見せかけてストック形態で突く!

 騙して攪乱し、それで何とか鬼強い先代勇者と拮抗する。


 ……考えてみればとんでもないことだ。

 この俺が、魔王軍最下級の暗黒兵士に過ぎなかった俺が勇者とやり合っている?

 尊敬するグランバーザ様と互角の戦いを演じた先代勇者に?


 なんだか凄く恐れ多い気がしてきた。


「厄介だな、その武器……!」


 天国のスミスじいさんよ見ているか?

 アンタの遺作を最強勇者が認めたぞ?


「武器以上に恐ろしいのはキミ自身だ。複数のオーラ特性を偏りなくフル発揮しているからこそ、その武器は変幻自在。キミ以外の者が手にすれば、ただのゴミだろうな」

「その言い方は!!」

「やはりレーディの目はたしかだな。キミは世界で一二を争う最強冒険者だ」


 そう言ってアランツィルは剣を捨てた。

 何故捨てた?

 もう戦い満足したというのか?


「本気を出させてもらおう。でなければキミに失礼だ」

「えー?」

「世間では、キミのような万能型はいないとされている。どんな冒険者でも得意なオーラ特性と不得意なオーラ特性がある。不得意がないとすれば、それは得意なものもない器用貧乏だと」


 長所には、必ずその裏表となるべき短所が伴う。

 そう思うなら俺の全特性適応はありえざる異常だった。


「しかし私はキミを見て驚かない。オーラ特性をすべて使いこなす万能者を見て。いないはずの者を見て。何故かわかるか?」

「わかりません!」

「キミと同タイプの冒険者は他にもいるからだ。この私だ」


 アランツィルが取り出した新しい武器。

 それは長い棒だった。

 さらに左腕に小さな円盾――、バックラーを着けている。


「棒……、ヒット(打)か?」

「そう思うだろう?」


 アランツィルは棒を振り回し、俺目掛けてぶつけてきた。

 何か嫌な感じがした。

 俺は防ぐことなく回避する。


「いい判断だ」


 ちょうど俺の背後にあった木が、俺の代わりに棒の直撃を受けて……。

 輪切りに斬り裂かれた。


 ただの棒で、木を斬った!?

 へし折ったんじゃなく!?


 斬られた木の断面は、テーブルのように真っ平らだ。


「スラッシュ(斬)オーラをまとわせるのに、刃のある武器でなければならないルールはない」


 棒をかまえながら言う。


「極限以上のスラッシュ(斬)オーラなら、ただの鈍器ですら鋭利な刃物に変える。そしてスティング(突)も」


 棒を突き出す。


 これも嫌な感じがしてかわすと、背後にあった別の木に深々と突き刺さって穴を開けた。


「スラッシュ(斬)スティング(突)ヒット(打)。この三特性すべてを活かすにはシンプルな棒が一番適した武器だ。それに小盾を加えて、全オーラ特性はカバーできる」


 つまり勇者アランツィルは、全オーラ特性をフル活用できる万能タイプ。

 俺と同じ……。


「キミの不思議武器ほどの順応性はないがね。しかしキミの方はガード(守)に即した形態はないようだが?」

「そっちはまだ研究中でね」

「なるほどやはりキミ自身は万能型か。実に面白い」


 お喋りは終わりと、棒を掲げて降りかかってくる。

 俺は迎撃。

 こちらの攻撃を小盾ていなせばいい分、攻防はアランツィルの方に分がある。


 ヘルメス刀を各オーラに合った形態に変えることでアドバンテージを取りたいが、ヘタに変形させるとその変形動作自体が隙になりかねない。

 この未曽有の強敵からしてみれば。

 アランツィルのオーラ三特性を混ぜ合わせた棒術は完成の域に達していた。


 このままでは経験の差で押し切られる!?


「堅いな、キミは……!」


 攻め込みながらアランツィルは言う。


「非凡なオーラ適性に頼るだけの戦い方ではない。堅実で、実にイラつく戦い方だ。先読みをしているな? 軍師の経験でもあるのか?」

「さあ……!」

「ちょっと先読みの仕方が的確すぎやしないか? まるで私の戦い方を事前に見たことがあるかのようだ。ならばもっと手加減なしでいいな!!」


 アランツィルが飛びのいて距離を取った。


 電撃的に、俺の脳裏に彼の次の行動が予測できた。

 それに対処する方法も。


 ヘルメス刀に過剰なオーラを込める。


「「『凄皇裂空』!!」」


 先代勇者アランツィルのみが使う、『裂空』を遥かに凌ぐ上位オーラ斬撃。


 この世に二つとないはずの絶技が、真正面からぶつかり合った。

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