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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
69/110

第68話 幕開け


 

 『(ひいらぎ)』が()ている。

 限りなく気配を薄くしていたが、確かにこちらを、そして覚醒を成した真竜を見ている。

 介入する時期を伺っているのは明白だった。

 彼らを確実に押さえられると、接触出来ると分かった時に『柊』は動き出すのだろう。



 かつての罪人と忌子を始末する為に。



 青年はくつくつと嗤い、彼らのいる離れを視る。

 自分と『柊』の遠見(えんみ)の力に気付いているのは、たったのひとり。

 敢えて見て見ぬ振りをしているのだと青年は理解していた。

 こちらがこれから成そうとしていることに気付いているのか、それとも好都合だとでも言うのか、静観を続ける彼に、ある一種の不気味さを青年は感じる。



(……それこそ、神が神たる所以なのだろうが)



 敷かれた道筋を(たが)えば、彼は出てくる、容赦なく。

 だが、それはあまりにも分かりやすい。



(そう……彼を表に出すには、違え続ければいい)



 材料を与えれば、誰かが必ず道を外れるだろう。条件は揃っている。

 そしてそれは『柊』にとって、またとない機会に繋がるはずだ。



「……本当に恐ろしいなぁ、我らの主は」



 青年の言葉に、是、と(いら)えが返る。

 天妖の子を地へ引き摺り降ろす餌に使った『光』といい、果たしてどこまで読んでいるのか分からない。

 だが確実に『彼女』の望んだ方向へ進んでいるのは確かだ。

 青年は悠然と笑みながら、『力』を行使する為の印を結ぶ。 

 『彼女』と同質の『力』が、『忌子』の作った宿の離れの結界に覆い被さった。

 やがてそれは『同質の力を持つ者』同士、分解され融け合い、ひとつのものへと変わるだろう。

 


 全ては『彼女』が望んだことだ。

 ならば従い、動くまで。



「では主の望むままに、参ろうではないか。那務羅(なむあみ)よ」

「承知(つかまつ)りました。風丸(かぜまる)様」



 闇に紛れる様に姿を消す二人を、『柊』の眼はじっと見つめていた……。





【第一幕 天昇   完】



 

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