第43話 招かざる珍客と檻の主 其のニ
天妖という言葉がある。
長く生きた魔妖が神格化し、天に召し上げられた者の総称だ。魔妖特有の妖気が備わっているが、神格の証でもある神気もその身に纏い、その姿は尊厳に溢れ、思慮深く、人々から畏れ崇められている存在だ。
徒人には見えないものを視る『力』を持つ者にとって、その気配は『特徴的』であり『独特』だった。
まるで、毒と治癒の力が同時に混在しているかのような、不思議な気配はやはり独特だとしか言い様がない。
本来ならば天妖は天にあると言われる城に住み、その姿を現すことは滅多にない。初めて天妖を見た者は、始めは困惑するが、すぐにこれは天妖であると納得するのだという。
特にこの麗国に住む者にとっては、慣れ親しんだ気配だ。
彼君もまた、天妖なのだから。
そして、世の中何事にも例外というものがある。
「──お前ら重い! 離れろ!」
竜紅人がもがきながらそう言うと、不思議なことに鵺の子供達が離れた。やれやれといった風情で竜紅人が身を起こすが、子供達はめぇめぇと鳴きながら、やたらと竜紅人に纏わりつく。
成獣になるととても澄んだ神秘的な声で鳴くというのに、何故幼獣はめぇめぇなんだと、竜紅人は心の内で思った。
鵺の子供達は、身体で嬉しい楽しいを表現するかのように、座っている竜紅人の足に身体を摺り寄せたり、身体をごろごろさせてみたり、飛び跳ねたりしている。
:香彩がそっと、身体をごろごろさせている子のお腹を撫でた。気持ち良いのとその手で遊びたいのとで、四肢をばたつかせているその姿はとても愛嬌がある。
ふと、竜紅人は思い出したのだ。
旅の目的を。
(……鵺が天から堕ちたのは)
(子供を探すためじゃ、ないのか?)
(じゃあ……今)
もふっ。
としたものが、竜紅人の顔を覆う。
いつの間にか鵺の子供が、竜紅人の頭から顔にかけてよじ登り、遊んでいたのだ。
思考を寸断された竜紅人は、鵺の子供を勢いよく剥がす。
「だーもう! お前らここに座れ! じっとしろ!」
『めぇ!』
すると鵺の子供達は竜紅人の前で、とてもお利口に並んで座ってみせた。




