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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
44/110

第43話 招かざる珍客と檻の主 其のニ


 

 天妖(てんよう)という言葉がある。

 長く生きた魔妖が神格化し、天に召し上げられた者の総称だ。魔妖特有の妖気が備わっているが、神格の証でもある神気もその身に纏い、その姿は尊厳に溢れ、思慮深く、人々から畏れ崇められている存在だ。

 徒人には見えないものを視る『力』を持つ者にとって、その気配は『特徴的』であり『独特』だった。

 まるで、毒と治癒の力が同時に混在しているかのような、不思議な気配はやはり独特だとしか言い様がない。

 本来ならば天妖は天にあると言われる城に住み、その姿を現すことは滅多にない。初めて天妖を見た者は、始めは困惑するが、すぐにこれは天妖であると納得するのだという。

 特にこの麗国に住む者にとっては、慣れ親しんだ気配だ。



 彼君もまた、天妖なのだから。


 


 そして、世の中何事にも例外というものがある。




「──お前ら重い! 離れろ!」



 竜紅人(りゅこうと)がもがきながらそう言うと、不思議なことに鵺の子供達が離れた。やれやれといった風情で竜紅人が身を起こすが、子供達はめぇめぇと鳴きながら、やたらと竜紅人に纏わりつく。

 成獣になるととても澄んだ神秘的な声で鳴くというのに、何故幼獣はめぇめぇなんだと、竜紅人は心の内で思った。

 鵺の子供達は、身体で嬉しい楽しいを表現するかのように、座っている竜紅人の足に身体を摺り寄せたり、身体をごろごろさせてみたり、飛び跳ねたりしている。

 :香彩(かさい)がそっと、身体をごろごろさせている子のお腹を撫でた。気持ち良いのとその手で遊びたいのとで、四肢をばたつかせているその姿はとても愛嬌がある。


 ふと、竜紅人は思い出したのだ。 

 旅の目的を。



(……鵺が天から堕ちたのは)

(子供を探すためじゃ、ないのか?)

(じゃあ……今)



 もふっ。

 としたものが、竜紅人の顔を覆う。

 いつの間にか鵺の子供が、竜紅人の頭から顔にかけてよじ登り、遊んでいたのだ。

 思考を寸断された竜紅人は、鵺の子供を勢いよく剥がす。



「だーもう! お前らここに座れ! じっとしろ!」

『めぇ!』



 すると鵺の子供達は竜紅人の前で、とてもお利口に並んで座ってみせた。

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