表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第ニ幕 海容
109/110

第40話 怪訝の目 其のニ



 それは今、この場にいる者達にとっては、あまりにも効果的だった。

 添えられた手が離れ、療は叶を見上げる。

 先程までその紫闇の瞳の奥に孕んでいた赫怒の念は成りを潜め、凪のような穏やかさが占めていた。

 療は何故か不安のようなものを、引っ掛かりのようなものを覚える。


 何故彼はこんなにも落ち着いた瞳をしていられるのだろう。


 療はもうひとりの人物を見る。

 地面のある一点をじっと見つめて、微動だにしないのは紫雨だった。彼が見ているものを僅かに視界に入れて、療はすぐに視線を紫雨へと戻す。

 彼が見ていたものは、地に染み込んだ血痕だった。

 療は思い出す。

 風丸によって横抱きにされた香彩が、ぽたり、ぽたりと落とした水滴の音を。あれは首を、まるで線を描く様に鋭爪で傷付けられ、滴ったものだ。



(……紫雨は、何を思ったのだろう)



 香彩を拐う彼らから、今は亡き最愛の人の名前を聞かされて。

 風丸と那務羅が何故、彼女を知っていたのか、療には分からなかった。どこかで接点があったのか、思い返してみても心当たりがなかった。

 紫雨は、表情にこそ現れていないが、ぐっと拳を握り締め、痕を凝視する。

 その眼光はいつになく鋭く、憤然とした気配を顕わにしていた。


 あまりにも対照的なふたりだった。

 療は改めて叶の落ち着き様に、怪訝(かいが)の目を(みは)った。

 それに紫雨も気付いたのだろうか。


 地面を見つめていた紫雨の視線が叶を捕らえたかと思うと、その胸ぐらを掴んで自身の方へと引き寄せる。

 一瞬の出来事に療は、茫然とその様子を見ていることしか出来なかった。



「──何処までだ、お前は!? 何処まで知っていたっ!?」



 感情を隠すことをせず、声を荒げる紫雨の姿を初めて目にして、療の心は動揺する。いつも落ち着いていて寛容な態度で人に接する彼しか、療は目にしたことがなかったからだ。



 そして。

 紫雨の言い様に。

 療は、思い出していた。

 

 風丸の言葉を。



 ──見て見ぬ振りをして高見の見物をしていた彼君が、どのような反応をするのか……見ものだな。



 心の中に冷水を落とされた気分だった。

 ふたりを拐った鬼の言葉だ、信じてはいけないと思いながらも、療は何故か風丸のその言葉に、妙に納得がいったのだ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ