表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第ニ幕 海容
107/110

第38話 幕間 ―柊 ―



 かくんと開くのは、髑髏の下顎骨(がかくこつ)かがくこつだ。

 蝋に火を灯し、中に差し入れれば、ほのかに内側が明るくなる。

 眼窩(がんか)から洩れる淡い光が、白土の壁に影を落とす。

 僅かに揺れる灯火が映し出すそれは、まるで伸び切った髑髏の嗤う様。



 くすくす、と。

 くすくす、と。



 女童(めのわらわ)の鈴を転がした様な、嗤い声がする。



 くすくす、と。

 くすくす、と。



 面白いものを見つけたのか、とても楽しそうに女童は嗤う。

 


「何かあったのか? 『(ひいらぎ)』よ」



 女童に話し掛けるのは、妙齢の女だ。

 女の方へ振り向く女童の、肩で切り揃えられた紅髪がふわりと揺れた。白磁器の肌に、身に纏うきらびやかな神具が、よく似合っている。

 紅を挿した口唇がにこりと笑うが、その瞳は真円を描いたまま、閉じることはない。



 くすくす、と。

 くすくす、と。



 女童は嗤う。



「……忌子と黒王が、鬼に拐われた模様」



 そう言いながらも、女童の目は決して女を見ることはない。

 女童は『柊』と呼ばれている。

 生まれた頃より今を見ることを許されず、遠くのあらゆる出来事を、その脳の内で『()る』ことができる『遠見(えんみ)』の力を持った者の総称だ。


 女童に名は無い。

 ただ生まれ堕ちた日から、盲目の真円の目を持って、仕える『家』の為に遠くを見渡すのみ。



「……ついにあの鬼どもが動いたか」

「是」



 真円の目の幼女は、三日月のように口をうっすらと開き、嗤う。



彼君(かのきみ)の『力』に揺らぎがございます」



 女童の言葉に女は怪訝そうな表情を見せた。



「揺らぎとは何だ? 『柊』よ」



 くすくすと嗤いながら、『柊』は遠くを見据える為か、その真円の目を更に大きく開けたように見えた。

 眼球の中に映る、髑髏から漏れる幽かな光が、何と不気味なことだろうかと女は思う。



「揺らぎは揺らぎ。天からの制約にございましょう」

「……制約、とな」

「是。この目には、しかと見えてございます。天より伸びた幾多の光の糸が、彼君に絡み付いております」



 『柊』は言う。

 その光の糸は時が経つにつれて、少しずつ数を増やしているのだと。



「彼君の『力』は制約により揺らぎ、やがては消えゆく運命。そうなれば国境に敷かれた結界もまた揺らぎが生じ、綻びが生まれましょう」

「──何と……」



 女は天を仰ぎ見る。

 自分の犯した過去の過ちに、暗澹たる思いに駆られて日々を過ごし、引き摺るようにして生きてきた。

 それが清算できるのだ。

 


(……あの罪人と忌子に今度こそ)



 今度こそ……。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ