客室
「そういえば,あの部屋はなんなんだろうね?」
遺言書の話が一段落したところで,おそらく兄弟姉妹全員が館に入った当初から気になっていたであろうことについて,二郎が話を切り出す。
この館には,出入り口の扉以外に5つのドアがついているのである。
いずれのドアにも窓のようなものが付いており,さらにナンバープレートが貼ってあった。ナンバープレートは廊下の正面にあるドアが3,その左隣のドアが2,さらにその左隣のドアが1となっていて,1の対面に4のドア,その右隣に5のドアがあった。
「客室じゃないかな」
そう言ったのは五郎だった。
「僕らはちょうど5人で,椅子もちょうど5脚,それでドアも5つあるんだから,それぞれが僕らそれぞれに割り当てられた客室なんだよ。多分」
五郎が理路整然と答える。
二郎はそこまで冷静に状況を分析していなかったが,ドアの先が客室だろうということは同じように想像していた。
「じゃあ,荷物も置きたいし,それぞれの部屋に行こうかしらね」
三枝が立ち上がろうとするのを,一郎が制止する。
「おい。待て。誰がどの部屋かというのは決まってるのか?」
「たしかにそうね」
「番号どおりでいいんじゃないですかね」
そう提案したのは,四郎だった。「番号どおり」というのは言葉足らずであったが,兄弟姉妹にはすぐにその意味が通じた。
すなわち,一郎が1の部屋,二郎が2の部屋,三枝が3の部屋,四郎が4の部屋,五郎が5の部屋をそれぞれ利用するという意味である。
「そうしましょう」
「まあ,それで誰も異論はないな」
三枝と一郎はバッグを持つと,それぞれの数字の部屋へと向かった。
彼らに遅れて,二郎も椅子に立てかけておいたリュックを背負うと,2のナンバープレートが貼られた部屋の方へと向かった。
館の入り口のドアが押し戸であったことから,二郎はこのドアも押し戸であろうと想像して,ドアを押した。しかし,ドアは動かなかった。今度はドアを引いてみるとドアは開いた。引き戸だったのである。
なお,客室のドアには鍵は付いていなかった。
おそらく「客室」という推理は間違っていなかった。
しかし,この館全体の様子と同様,客室にしてはあまりにも殺風景であった。そこには先ほどまでいた広間同様に内装がなく,黒灰色の壁が露出しており、窓もなかった。
4畳ほどの狭い部屋にあるのはベッドだけである。ベッドといっても通常思い浮かべるような木のベッドではない。ただ単に長方形のブロックを横に寝かせただけの「土台」のようなものだった。別にその上に布団や毛布が載っているわけではないため,これはベッドではないのかもしれない。たまたま人間が横たわるのに十分な大きさと高さだというだけかもしれない。
二郎は「ベッド」に横たわった。椅子に座ったときと同じ冷感が二郎の身体を襲った。




