仕掛け
正次郎は一体,兄弟姉妹に対して何をしたかったのだろうか。
水で満たされる館を作り,水圧による密室を作り,兄弟姉妹を一人ずつ殺すことに何の意味があるのか。
もちろん,相続人を定めるため,という目的があるのだろう。だとすると,あまりにアンフェアである。
というのも,現在,二郎,三枝,四郎が生き残っているが,3人は別に試練をくぐり抜けたわけではない。
単にターゲットとされなかっただけである。
3人が死んだ2人の勝利した結果として生き残っているわけでもない。死んだ2人だって何かに負けたわけではないだろう。
相続人を決めるための「危険な仕掛け」がこんなに不公平で良いのか。
正々堂々の殺し合いの場である「コロシアム」を設立しようとした正次郎らしくないではない,と二郎はなんとなく思う。
そもそも,一郎と五郎が殺されたのは,この館の「危険な仕掛け」によるものだと言えるのだろうか。
広間に水が溜まるのは「仕掛け」と言えるだろう。それによって密室ができることも「仕掛け」と呼べる気がする。
しかし,ナイフで首を切るというのは,人為的になされた行為に見えるし,「仕掛け」という言葉にもそぐわない。もしかすると,広間に水を貯めて密室を作ることまでが「仕掛け」であり,その後の出来事は,正次郎が想定した「仕掛け」ではないのかもしれない。
とすると,一体誰が正次郎の想定した「仕掛け」を超える殺人を行っているのだろうか。
ダメだ。このことを考えても一向に答えは出ない。そもそも殺人の方法が分からないからだ。
視点を変える必要がある。たとえば,こうだ。
正次郎の想定した「仕掛け」,すなわち,水で満たされる居間とは一体何のために仕掛けられたのか。
仮に正次郎が生前海を愛していたのであったとすれば,このような館を作る動機は十分にある。今が水で満たされたとき,客室から見える景色はまるで潜水艦の中にいるようであり,幻想的で素敵だ。
しかし,正次郎が生前海を愛していたという話も聞いたことはないし,正次郎が潜水艦に乗ったことがあるという話も聞いたことがない。冒険家である正次郎の関心は海よりも密林の中にある沼や川にあったのではないか。
だとすると,なぜ正次郎は,このような「仕掛け」を作ろうと思ったのか。
正次郎の人生の中に,このような「仕掛け」との接点はどこかなかっただろうか。
-あった。
正次郎は,過去に車ごと川に沈んだことがあるのである。
正次郎は,このときの九死に一生を得た体験を,その後幾度となく語っている。
それくらいに正次郎にとって,この体験は重要なものなのである。
正次郎は,この体験を再現し,自らの子どもたちに経験させるために,潜水館を作ったのではないか。
とすると,正次郎は,自らが助かったときと同じ方法を,この潜水館から生き延びる方法として用意している可能性が高い。
さて,正次郎は,あのときどのようにして助かったのだったか。たしか-
二郎はようやく閃いた。この密室のドアを開ける方法を。




