自分探しの旅
生まれ育ったミドガル王国を出て、オリアナ王国の収容所にたった一人で入ったことにより、僕は自分を見つめ直す機会を得ることができた。
そもそもの目的は自分探しの旅だったしね。
僕は、陰の実力者になりたくて、陰の実力者になるべく振る舞ってきた。
だが、本当に今の方向性でいいのだろうか。
何か足りないものはないだろうか。
そう考え、様々な可能性が浮かび、今回はその中から一つ今までの僕に足りなかったモノを補ってみた。
それは――包容力だ。
陰の実力者は当然のことだが強い。
だが問題は、その強さを表現するためにどう戦うかだ。
瞬殺する――シンプルでいいだろう。しかしそれだけでは飽きてしまう。
圧倒的力を見せつける――当然だ。だがそれだけでは足りない。
敵の攻撃を全て無効化する――これだ!
陰の実力者には何をやっても無駄だと思い知らせ、絶望を与えた上で圧倒的な力をもって瞬殺するのだ!
大切なのは敵に全てを出し切らせ、それを完全に無効化することだ。そうすることで心の底から絶望と敗北感を与え、陰の実力者の圧倒的力を見た者の心に深く刻むことができるはずなのだ。
僕は今まで、敵の攻撃をすべて出し切らせていただろうか?
その上で、真の絶望を敵に与えていただろうか?
答えは否。
僕に足りなかったのは、相手の攻撃を全て受け止める包容力なのだ!
というわけでいてもたってもいられずに例の五人の囚人の攻撃を受け止め無力化しようとしてみたものの、全く足りなかった。
あれだ、レベル1の囚人に全てを出し切らせたところで意味がないのだ。
低レベルモブは瞬殺すべき案件だった。
最後に四人で合体自爆攻撃とかしてくれないかなとか期待していたけど無駄だった。
モブは瞬殺、これが陰の実力者。
そしてボスには全てを出し切らせる、これも陰の実力者。
たまには瞬殺とかもいいけどね、要は状況に応じて臨機応変に対応できるだけの引き出しを用意しておかなければ真の陰の実力者にはなれないということだ。
これで僕はまた一つ陰の実力者に近づくことができたのだ。
僕は自分の成長に喜びながら収容所の中庭を歩く。
霜柱がザクザクと音を立てる。
澄んだ空気に白い息が溶けていく。
おっと、足元で囚人が凍死している。
清々しい朝だ。
そんな感じでモブ囚人たちの中に溶け込んでいると、不意にどこかで覚えのある気配を感じて僕は振り返った。
「ん?」
僕が振り返ったのを感じ取ったのか、相手も振り返って僕を見た。
「――え?」
そして僕らはしばらく見つめ合った。
彼……いや、彼女は一見すると男の囚人だった。
みすぼらしい囚人服に身を包み、顔はボロ布で隠して蜂蜜色の瞳だけが覗いている。
女性らしいシルエットは隠しているのだろう。
イプシロンは盛るためにスライムを利用したが、彼女は減らすために利用しているようだ。
ボロ布の隙間から、ほんの少し蜂蜜色の髪が出ている。
彼女は、間違いない。
「ローズ……先輩」
「シ、シド……君」
僕らは互いに驚いてしまった。
彼女は武神祭でやらかして指名手配されたからミツゴシ商会でバイトしていたはずだ。
ミツゴシ商会のバイトの彼女がなぜこんなところに……。
いや……そうか、彼女も覚悟を決めたのだ。
いつまでもバイトのままじゃいられない。
いつかは将来を真剣に考える日が来る。
彼女も、自分探しの旅に出ていたのだ。
そして彼女は――バイトを辞めて国盗りをすることにした。
もともと、彼女が国王を刺したのが全ての発端だったのだ。
だからこの結果は必然だったのだろう……。
「ローズ先輩……やはり、あなたは……」
ぼくは彼女の反骨精神に感動しうまく言葉が出てこなかった。
ちなみに彼女の魔封の首輪も偽物のようだ。
つまり彼女はこの収容所に侵入したわけで、ここまでの材料がそろえばおのずと答えに辿り着く。
彼女、ローズ・オリアナは――フクロウである。




