№4 あい愛妻弁当たち
いただきますっ。
「お腹空いたなあ」
康治は愛の逃避行ごっこで走り疲れ、お腹が減っていた。
「では、勇者様、お昼にしましょう」
「やった!」
二人は木陰で腰をおろした。
康治は背中に担いだ大きな風呂敷を降ろす。
「急に、私たちが旅立つことが決まって、みなさんがお弁当を作ってくれました」
「(ディオラ)出るの大変だったもんな」
ディオラを絶つ際、乙女たちの強烈な反発に合った康治はしみじみ言った。
「みなさん、寂しいんですよ。私だって、留守番は嫌です」
「・・・メロンたん」
「・・・おかげで、勇者様と二人っきりなんですけどね・・・さっ、食べましょう」
「うん。いただきます!」
ポランはごそごそと風呂敷の中に手を入れる。
「ではっ、まずデュラ子さんから特製スタミナドリンクだそうです」
「・・・あいつは、その事しか頭にないのかな」
康治は苦笑いをして、一気に呑んだ。
(きくっ!)
彼は顔が火照り、手先や指先の抹消が熱くなるのを感じた。
「続いて、ケイさんの武骨手作りおにぎり3個入り」
「・・・これは、見た目が・・・」
そのおにぎりは、究極に力づくで握られ、ぺっしゃんこの不格好だった。
「塩・・・が入ってないっ」
康治はぺろりとたいらげる。
「続いてはライヤさんメイヤさんの特製幕の内弁当」
「安心するう」
康治は安定の旨さに幸せを噛みしめ食す。
「安心安全だねっ」
康治は涙を流していた。
「では、エリザ様の大好物オムライス」
「・・・エリザの大好物って・・・」
「メイヤさんとライヤさんに発注したそうです」
「発注って・・・手作りじゃないのか」
「アタクシは食べるのが専門だそうです」
「ああね」
康治は言っている間にオムライスを平らげた。
「ではっ、デザート部門」
「よっ、待ってました」
「エスメラルダさんとアリエルさんで桃のコンポートタルト」
「こいつらのは怪しいんだよな」
「あっ、お二人からメッセージをいただいてます。今回は媚薬なしよとのことです」
「ほんとかな」
「大丈夫だと思います。お二人は勇者様とお二人に効くようにしたい訳なんですから」
「ふーん」
ぱくりと康治は口に入れる。
「では、シャロット様でクッキーです」
「・・・シャロットか」
「美味しいですか?」
「うん、まあ」
「そうでしょうね。シャロット様、夜通しで作っていましたから」
「・・・そうなの」
康治は残り一枚のクッキーをしみじみ見つめ、ゆっくりと食べ終える。
「勇者様っ」
「ん?」
「はい。チョコレート、あーん」
ポランはチョコを手に持ち、康治にあーんする。
「あーん」
彼女はそっと口の中にチョコを入れる。
「美味しいですか。私の手作りですよ」
「うん。あーん」
「はい。はい」
「あーん」
ポランはニコニコと康治の食べる姿を見つめる。
それから、そっと、彼の頬に口づけをする。
「ん?」
「私、今とっても幸せですよ。勇者様」
ポランはまた屈託なく笑った。
ごちそうさまっ。




