閑話:師弟の旅支度。
短めの閑話です。
本日更新予定の内容を書いていたら、閑話っぽくなったので別投稿します。
王都へとアインの土産、そしてクローネの手紙が届いて数時間後。
職人街の片隅にある、ムートンの鍛冶屋は慌ただしい様子が続いていた。
時刻は既に夜だったのだが。そんなのは関係なしに二人は騒ぎ続ける。
「おいエメメっ!なんだこの請求書はよぉっ!?」
慌ただしいながらも、水を汲んで一息ついていたムートン。彼の目へと一通の手紙が映る。
中を開ければ、"ちょっとした"金額の請求書。あて名はエメメとなっている。
「なんですか師匠ー!ちょっと炉の音うるさくて、よく聞こえないですーっ!」
魔石炉をバラすためには、いくつかの部品の中から、残っている魔石の力を抜き切らなければいけない。
完全に抜き切らなければ毒となり、それは周囲に悪影響を残す。
エメメは特殊な機材を用いて、その残存魔力を取り除いていた。
「あー!?てめぇ師匠の声と炉の音、どっちのが大事なんだよてめぇ!?」
第三者からしてみれば、確実に無茶苦茶言ってるとしか思えないセリフ。だがこの二人には、そんな常識は通用しない。
師匠ムートンの影響を受けている弟子エメメ。そんな彼女も、謎の熱血を発揮するのだった。
「むむ……それは挑戦状ですね!?いいですよ、かかってくるといいです!さぁ師匠!もう一度!」
「おうよく言った!てめぇを焼鳥にすんのは延期してやるよ!——……この請求書はなんだって聞いてんだよ!」
炉の音がうるさいながらも、ムートンの話す言葉に集中したエメメ。
二人の掛け合いは賑やかながらも、耳を澄ました彼女は、その種族としての強さを発揮する。
「おぉそれでしたか!新居用の止まり木を買ったんです!フオルン組の純正品ですよ!」
バルトから水列車でおよそ3時間。その場所にある、フオルン達の集まりがフオルン組。
質のいい木材を使い、職人たちの要望に応えてきたのが彼らだった。
「相変わらず木材はいいもん選ぶなてめえは!鉱物とかを見る目とは大違いだ!」
「えへぇー。ですよねですよね?」
照れるエメメ。彼女の容姿を言葉にするならば、まさに小動物系の女の子。
身長は150前半程度で、翼を開けば身長よりも広くなる。
オレンジがかった明るめの茶髪を、ショートヘアに仕上げている。
鍛冶をしているにもかかわらず、肌は白く陶器のように保たれていた。
「一応聞いとくけどな。お前これいつ届くんだよ」
「三週間後です!いやー特注なんで、時間かかるんですよ」
大体の予想はしていた。
だが本人からこういわれると、怒りで体がプルプルと震え始める。
「こんの馬鹿野郎っ!やっぱり焼鳥かてめぇ!?鳥じゃなくてもう焼鳥だったのか!?」
「え、え……え!?師匠どうして怒るんですかっ!師匠の分も必要なら、ちゃんと追加注文しますからぁ……っ!」
額に青筋を浮かべ、どう折檻してやろうかと考え始めるムートン。
三週間という期間を聞いて、鳥頭ということを再確認してしまったのだ。
「俺が止まり木を何に使うんだアホが!三週間っていえばよ、俺たちもうここにいねえだろうが!」
「……ほんとだっ!?うえぇえ……どうすれば……っ」
この家を売り飛ばすわけではない。だがしばらくは王都に住む予定だ、だからこそ、ここに新たな止まり木が届こうとも意味がない。
「ど、どどど……どうしましょう師匠!?今からキャンセルはできないです!でもでもそんなことに気が付くなんて、さすが師匠ですね!」
「ン……?おう、そうだろそうだろ!?俺はやっぱり頭悪くねえんだよ……ったく、しょうがねえなあ」
褒められて悪い気がしない。それは大凡の人々が感じることだろう。
ただこのムートンは、褒められると常人の数倍は気分をよくする。ただそれは、親しい仲の者限定の話だ。
どうでもいい客に褒められても、目の前で鼻をほじる程度の精神力は持っている。
「なんとかできねえか、俺の方でも考えてやるよ馬鹿野郎!ったくこの馬鹿弟子が……」
「キャーッ!マジですか師匠?一生ついていきます!」
安っぽいことで感動できるということ、それも立派な才能なのかもしれない。
そしてこの二人が楽しそうなら、それがきっと一番なのだろう。
飛び上がってじゃれついてくるエメメ。それを難なく受け止めるムートンの姿。
そんなムートンの両腕は、今日も逞しかった。
帰宅したら本編の更新を行います。
アクセスありがとうございました。




