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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章 ―冒険者の町バルト―

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ポルターガイスト的なあれ。

実際の味は鶏肉に近くて悪くないです。

 アイン達一行が、旧魔王領へと足を踏み入れて早数十分。

 問題があったとすれば、アインが引き起こした件のみだろう。

 だがしかし、ロイドやディルからしてみれば、変に暴走されるよりかはましな結果ということで納得できる。



 宿泊地の準備をしていたのだが、さすがに残された廃墟を使う気にもなれず、そして開いた魔王城に入るなんてもってのほか。

 というわけで一行は素直に多くのテントを設営し、持ち込んだ調理器具なども設置していった。



 旧魔王領へと来るまでにあった極寒はなんとやら。ここではなぜか春の様な陽気に恵まれ、皆はすでに羽織っていた防寒具を脱いだ次第。



 言葉にすると春の陽気の中、のんびりとキャンプの支度をしているようにも感じられる。

 魔王城が開いたとき、一同はかなりの警戒を行った。



 だがそれも数分の事。



 待てども待てども何も起こらない事態に、初めにロイドが構えを解いた。

 未だ監視されてるような気配は感じていたが、だが何一つ変わらない状況に、ついに野営の支度を命じる。



 それからというもの、本当に何も起こる気配を感じられなかったため、春の陽気を楽しみながらの支度となったのだ。



「ロイド様ー!もう火いれちゃっていいんですかー?」


「おう!やっちまえやっちまえ!肉食ってこれからに備えるぞ!」



 一人の騎士が、アインの近くに居たロイドに声をかける。

 彼は昼食の支度に回っていた騎士で、早速先ほど取れたヤツメウサギを調理することとなる。



 例えば高級な料理店にいけば、贅と手間を凝らした一皿を味わえることだろう。

 貴族であろうとも確実に唸る。それがこの魔物の肉だ。



 だが今回はそんな調理なんてものはできるわけがない。

 ……といっても、彼ら騎士やロイドたち。そしてアインを含めた今回の一同は、むしろバーベキュースタイルで好き勝手食べる方が性に合っている。



 そのためこうした調理の方が、彼らにとっては幸せだろう。



「アイン様。そこまで我慢なさるなら、もう吸収してしまっては……」


「……だめだ。そんな悪魔の言葉を口にするもんじゃないよ。俺はあのウサギ肉を食った後、最後の最後にこれを頂くって決めてるんだ」


「さ、左様でしたか……失礼致しました」



 そわそわしてしょうがないアイン。

 こうまで我慢してしまうなら、もういっそのこと食べてしまえばいいのにとディルは思った。

 だがそこはアインの流儀。今回ばかりは、最後まで我慢すると心に決めている。



 通常ならば、素手で魔石を手に持つ姿は異常だ。

 なにせ魔石が放つ魔力は、人体に悪影響を与え体を(むしば)む。



 アインの様な特性があるからこそできる仕草。



 春の陽気に包まれた廃墟。

 そこで魔石を強く握りしめる少年……絵になるように思えたが、その感情は"ごちそう"にありつくことしか考えてないあたり、どうにも締まりがない。



「そっち持ってくれ。いくぞー」


「よーし立てろ。曲げるんじゃないぞ!」



 所々で、上半身をタンクトップにして作業している騎士の姿が見える。

 動いているうちに暑くなったのだろう。だが腰にはきちんと剣を下げているあたり、最低限のことは忘れていないようだ。



 何気に今回の行軍は、性別が"男"のみで構成されている。

 別に特別そのようにしたわけではないが、組み分けが終わってみると、まさかの男祭りとなっていた。



 そのせいもあってか、彼らはいつもより自由に振舞っているように感じる。



 食堂の天使メイが居れば、どんなに可愛がられただろう。

 ちなみにバーラが今回の調査に同行していない理由は、まだ彼女がこの日程に耐えられると判断されなかったから。

 捨て駒のような使い方となるのを危惧した結果だ。



「それにしても、あんなに立派なテントあったんだ」



 魔道具を使い、居住空間を快適になるよう作られたテント。

 魔石を原料にして、空調機能や断熱機能を作用させ、それを使う者に快適な部屋を……という仕組み。



 それがいくつも組み上げられ、中々に壮観な光景に早変わりしていく。



「アイン様のお使いになるものは、もちろん我々のよりも上等ですのでご安心を」


「……別に一緒でもいいのに」



 皆が頑張ってるのに、自分だけこうした待遇なのは悪い気がする。

 だが騎士達やディルからしてみれば、アインが同じ待遇ともなれば、むしろ申し訳ない気持ちでいっぱいになるため、この方が彼らにとっても好ましい。



 ちなみにアインが使うテントの設備は、空調機能などは勿論の事。

 床の良い歩き心地や、遮光性能が完備。それとちょっとした遮音性能が備わっている。

 テントの中とはいえ、そこそこの平民よりかはいい空間で過ごすことができる。



「焼いてくぞー!設営終わったやつから食いにこーい」



 そうこうしている間に、調理班の者が声を上げる。

 火の用意が済んだということで、肉を焼き始める音が聞こえる。

 徐々に広がる香ばしい香りと、肉の焼ける幸せな音。

 それが更に士気を高め、設営は順調に進んだのだった。



「さぁアイン様。とりあえず我々も頂きましょうか」


「そうだね、悪いけど先にちょっと貰っておこうかな」



 楽しみにしていたヤツメウサギの肉。昼からこんなのは贅沢だろうか?だが険しい道のりを歩んだ彼らにとっては、これぐらいの熱量の方が好ましかった。

 それはアインも同様で、空いた腹にようやく食糧を詰め込めることに、心が強く躍ったのだった。




 *




 カツンカツン……革靴の奏でる足音が、その広い廊下に響き渡る。

 急に止まったかと思えば、その音は再度カツンカツンと鳴り始め、彼女の忙しない様子を表していた。



「あ、あのー……クリス様?」


「っ!?マ、マーサ殿でしたか……どうかしましたか?」


「た……大変申し上げにくいのですが、その……」



 元帥クリスティーナ。

 アインや近しい者達からは、クリスと呼ばれている女性。

 その階級に恥じぬ強さを持ち、類稀な美しさもあり、女性騎士達からの人気も高い。



 王城の廊下で忙しない足音を立てていた女性。それは彼女だった。



「オリビア様から。言伝がございます」



 それを聞いてクリスは、何かあったのか?もしやアインに緊急の……!?と考えを巡らせる。だがマーサが口にした言葉は、それに全く関係ない言葉だった。



「『足音がうるさいから、双子にご飯でも与えて来なさい』……とのことです」



 瞳から色を失ったかのように、そして口を開けて悲しそうな表情となるクリス。

 ただ自分が迷惑だったという事実に自己嫌悪してしまう。



「そ、そうでしたか。失礼ですがマーサ殿……そんなにうるさかったでしょうか……?」



 子犬の様な表情の彼女を見れば、本当のことは伝えづらい。

 だが主君であるオリビアの言葉もあり、なかなか茶を濁すというのは難しい。



「……少しだけ、音が響いてたかなと思います」



 マーサは気遣いがよくできる女性。

 そんなことはクリスも理解している。だからこそ、彼女が少しだけ響いてたといった言葉は、クリスにとっては大打撃だ。

 マーサがこう伝える程の事ということは、つまり"そこそこ"うるさかったと予想できる。



 落胆したクリスへと、マーサが一つのバケツを手渡した。

 バケツ……?と疑問に思ったが、中身を見て納得する。



「え、えっとそのー……。オリビア様が、これをクリス様にお渡ししなさいと」


「頭を冷やして来いということですね……」



 バケツの中に入っているのは大量の魚。

 溢れんばかりに詰め込まれた魚は、双子のご飯ということだ。



 双子は自分たちで狩りもしているため、城での食事はあまり量を必要としない。

 そのため手に持てるサイズのバケツで事足りている。



「ありがとうございますマーサ殿。では外に行ってきます……」


「お、お気を付けていってきてくださいね……?」



 とぼとぼと歩くクリスの後ろ姿は、どこか心配になる寂しそうな姿をしている。

 最後は納得したクリスだが、やはりバルトへと付いていきたかったのだろう。



「うーん。あながち給仕たちの噂も馬鹿に出来ない、とか?」



 クリスの中での優先順位が、オリビアからアインへと変わり始めたのでは?という噂だ。

 それは主従関係としてということではなく、クリスが異性としてアインを意識しているのかもしれない、ということ。



 その結果、アインの方が大事になってきてるのでは?と噂になっている。

 先程の様なクリスの姿を見れば、その噂も現実味があるなとマーサは実感した。



 ——若干ぼーっとしながら歩いたクリスは、バケツを片手に城の外へと向かった。

 王都近辺の気温はまだ高く、外を歩くのも半袖じゃないと熱く感じる時期。



 到着した水辺では、双子が楽しそうに泳ぎ回り、餌をくれるのを待っていた。



「はい二人ともー。ご飯持ってきましたよー」



 時折クリスも餌を持ってくることもあってか、双子はクリスの顔と声を覚えている。

 彼女の声を聞いた双子は、元気よく水面へと顔を出す。



「おっきくなったね二人とも。もうすぐここの水路には入れなくなるのかな……」



 エルとアルの成長を感じたクリスは、声をかけながら魚を水面へと撒き始める。

 少しずつ撒かれるその魚に、双子は嬉しそうに齧り付く。



 この水路にいる双子は、段々と窮屈そうに見えてきた。

 これからもどんどん大きくなるであろうことを思えば、城内で姿を見られるのも、もう短い間のことなのかもしれない。



「あの海龍みたいに大きくなるのかな?うーん、でもまだまだだよね?」



 思い返すのは、港町マグナ沖で発生した海龍騒動。

 艦隊を連れて行ったというのに、あと一歩で全滅という事態にまで追い詰められた。

 その時を自分の最期と思ったクリスは、最後にアインと話したかったと考えたことを思い出す。



 オリビアやカティマのように頭がいいのに、自由でよくわからないことをして心配させる。

 アインはそんな男の子だったが、クリスはその慌ただしい日々を宝石のように感じていた。



 そんなクリスからしてみれば、アインが助けに来てくれた瞬間は、今でも鮮明に思い出せる。



 最初はさすがオリビアの子だと感心していたが、それからはアインという個人の人間性に惹かれていった気がする。



「次の調査は一緒に行けますようにって、二人もお祈りしてくれる?」


「キュ?キュキュキュ!」


「……キュー!」



 アインの言葉はそれなりに理解できるのだが、クリスが言うことはあまり理解できなかった。

 だがそれでも、彼女が寂しそうにしていることはなんとなく理解できた。



 魚を食べるのを一端止めて、クリスの方を向いてヒレを動かす双子。

 慰めようとしているのは一目でわかった。



「ふふ……ありがとう二人とも。海龍に慰められた人なんて、きっと私が初めてだよね?」



 慰めてくれたお礼に、残った魚を一気に水に投げ入れる。

 双子はそれを見て、嬉しそうに食いついた。



「あーあ。アイン様今なにしてるんだろうなー……気になってしょうがないよー。はぁ……」



 クリスの心の中で、様々な思いががんじがらめになっている頃。

 旧魔王領に到着したアイン。彼は今、出来上がったヤツメウサギのバーベキューを、魚を頬張る海龍と同じ顔で、嬉しそうに食らいついていた。




 *




「舌がとろけるとはこのことだ……」



 一噛みすると肉汁が広がる?そんな当たり前のことは考えなかった。

 適度に調理された香辛料と塩。それだけの味付けのステーキ肉……だが、新たな肉の世界を知った気がした。



 舌がとろけるというのは、むしろ表現としては適切でなかったかもしれない。

 正しくは、舌"と"とろけるの方がいいのかもしれない。



 気が付けば、あっという間に消えたと感じるその肉質。

 柔らかく、舌の動きだけでも引き裂けるほどの柔らかさが、口の中でアインと同化していく。



 味の方向性は牛でもなければ豚でもない。そしてもちろん鶏肉とも違った風味。

 口の中で感じたのは、まるで生ハムのように成熟した濃厚な香りと、甘美な脂の甘さだった。



 ……2体のヤツメウサギを逃がしたのを後悔してやまない。



「如何ですかアイン様?」



 同じく肉を食べていたディルが、アインの近くに寄ってくる。

 彼も同じく味に感動していたのだが、主君を尊重することができた。



「もう、ロイドさんに足を向けて寝られない」


「え、えぇ……お喜び頂けてるようで、父も嬉しく思ってるかと」



 嬉々として肉を焼いてるロイドをみれば、彼も楽しそうにやってるのが良くわかる。

 アインはこんな美食を手に入れてくれたことに感謝し、しっかりとこの味を噛み締める。



「王都への土産用に、結構な量を保存しております。なので戻ったら陛下達にもご賞味いただけますよ」


「そりゃいいね。いいお土産が手に入ったよ」



 まさにロイドさまさま。

 技も見せてもらえたしで、アインからしてみればいいこと尽くし。



「みんなも楽しそうだね」


「勿論ですよ。なにせなかなか食べられる食材ではありませんし、疲れた後にこんなものを食べれば、元気にならない訳がありません」



 近衛騎士の給金は、当然のことながら平均をはるかに上回る。

 とはいっても中々これほどの高級食材にはありつけない。



 美食は大事だね、とアインは心の中で頷いた。



「お爺様たちにも、早く届けたいよ」


「えぇ。なので無事にこの調査を終えて、皆で王都に帰還いたしましょう」



 ディルが口にしたように、まずはこの旧魔王領での調査を無事に終えなければならない。

 今回は1クール目ということもあり、今日を入れて三日間の日程だ。



 魔王城の門が開いたことなどを考えれば、慎重な調査が行われることになるだろう。

 あくまでも安全を第一に、怪我無くバルトの町へと戻りたい。



 美食を味わった一同が、このいい雰囲気のまま、三日間の日程を終えられるようにと祈るばかりだった。



「ところでアイン様?魔石はこれから吸収なさるのですか?」


「うーん……肉で満足できた部分もあるから、とっておこうかなって。明日とかにでもって思ってたけど」


「……っ!?何か体調に問題でもあるのですか!?」



 驚いた表情のディルを見ると、若干の切なさを感じるアイン。



「俺ってそんなに食いしん坊だったかな……」



 機会があれば次からは自重しよう。

 ——勿論のことだが、自重できる自信はあまりなかった。




 *




 初日ということもあり、アイン達は設備の設営や休憩などによって、夕方過ぎまでの時間を費やした。

 そのため今日はもう休み。潔く英気を養うことにした。



 アインも用意されたテントへと入り、体の疲れを癒している。

 用意されたスペースはおよそ8畳程度。

 テントとしては大型の品だったが、魔道具によって小型化されて運搬されたため、運ぶために労力はあまり必要ない。



 魔道具開発の技術者には、頭が下がるばかりだ。



「そして寝心地も悪くない」



 簡易的なベッドとはいえ、寝心地はそこそこいい。

 こんな場所で休むことを考えれば、これ以上の寝心地を望むのは酷というものだ。



 余裕を持ったこの空間には、いくつかのバッグと水の入ったタンク。

 そして大きめのクッションが床に置かれている。



 手に取った時計を見てみると、時刻は既に夜の9時。



 昼とは違い、用意された夕食は持ち込んだ品。

 保存食に火を通して、暖かくしたものを食べた。

 味は昼間のステーキとは比べものにならなかったが、それでも味に配慮して作られたのは感じられた。



「どこから手を付けるのかな……」



 考えるのは調査活動。

 何処から手を付ければいいのかなんて、アインには想像もつかなった。

 それも想定よりも広い旧魔王領。そしてこんな廃墟での調査活動なんて、アインにはイロハなんてものは備わっていない。



 そのため研究者頼りになるのは容易に想像できる。



 城門が開いた魔王城なんていう、男心をくすぐる建物が近くにあるが、さすがにそれは即決できない。

 如何にアインといっても、あの場所は何があるか分からない。その危機感は備わっている。



 ふと、テントの外で金属が擦れる音が鳴り始める。

 それは鎧を着た騎士が歩く時の足音で、アインにとっては聞きなれた音。



 不思議に思ったのは、なぜ今鎧を着てこっちに来るのか?ということ。

 そしてもう一点。重厚な金属が擦れるこの音は、どうにも聞き覚えがない鎧の音だ。



「誰だろ。なんかあったのかな」



 入り口の近くへと向かうアイン、そして新たな音を耳にする。



 地を伝うような、巨大な何かが地面に落ちる音。

 それがアインのテントの外で鳴り響いた。



 さすがに何かが起きてると感じたアインは、急いでテントの外に出る。



「……なにこれ?」



 するとアインの目に映ったのは、2つの白い巨大な塊。

 それにはどうにも見覚えがある。見覚えどころか、昼間に口にした生き物だ。



「ヤツメ……ウサギ……?」



 ピクリとも動かないその2体は、よく見ると首元に一つずつの傷があった。

 その体に触れてみると、体はすでに冷たい。血抜きも施されたのだろうか、血が出てくる様子はない。



「誰がこんなの持ってきて……」



 辺りにはだれもおらず、アインがただ一人佇むのみ。

 先程まで聞こえていた金属音。そんなものは一切聞こえなくなっている。



「こいつらもしかして、昼間の逃げた2頭なのか?」



 そうだとしても、なぜこんなところで死んでいるのかが解せない。

 そしてさっきの足音はなんだったのか、謎ばかりがこの場に募る。





「……拝啓王都の皆さま。旧魔王領で、ポルターガイストに遭遇しました」



 ……差出人不明の荷物なんて、怖いだけだよね?

 とりあえずロイドたちを呼びに行こう。彼らに身に覚えがないか、それを聞いておかなければならない。




今日もアクセスありがとうございました。

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