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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章 ―冒険者の町バルト―

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88/623

旧魔王領への道。

皆様のおかげで、ついに35000ポイントに到達することが出来ました。

ここまで多くのブックマークや評価、感想やメッセージ。本当にありがとうございました。


これからも楽しんで頂けるように更新して参ります。

どうぞよろしくお願いします!

 想定していたよりも長く、バルト伯爵との会談は続いた。

 旧魔王領の件が影響していたのは言うまでもない。



 夕方になり、赤い夕陽がアインの部屋にも差し込み始めた頃。

 バルト伯爵はついにこの場を立ち去った。



「(さて、どうしようかな……)」



 結局のところただ一つの事は揺るがない。

 旧魔王領へはクローネは連れていけないことだ。

 だが彼女本人は行く気満々な辺り、どう説得するか考えものである。



 チラリとロイドの顔を窺う。

 彼は頭のいい男だ、そのせいか、アインが苦悩している内容もアイコンタクトで理解できた。



 口元に手を当てて考え始めるロイド。

 お前は待機だ!と命令してしまえば簡単なのだろうが、最初から強引な手段というのも(はばか)られる。



「日が昇ってから出発したとして、昼前には到着できると思いますが……」



 ディルが口にするのは行軍時間のことだ。

 だがしかし、近衛騎士がどの程度の時間で移動を終えられるのか。それがはっきりとしていない。



「なにせ我々も、雪の山中の行軍にはあまり慣れておりませんので。……申し訳ない限りです」



 王都も冬には雪が降る。

 そうはいっても、やはりそうした訓練はあまり詰めていないこともあり、そこそこ手を焼くのでは?と予想している。



「こればっかりは、砦の防衛を行ってる騎士達や冒険者。彼らの方が慣れてるものね」



 そしてアインの隣に腰かけるクローネ。

 彼女が口にする様に、近衛騎士よりもそうした者達のほうが慣れているだろう。

 だがそれをとやかくいってもしょうがない。現状でのベストを尽くすために、考えなければならない。



 ……まぁアインにとっては、もう一つの方が懸念材料な訳なのだが。



 そう考えていると、ロイドが何かを考えついたようで口を開く。



「ところでアイン様。カイゼル殿から頂いた紹介状……あれを使って、ギルド側から調査させるのは如何ですか?」


「……えっと、つまりそれって」


「二手に分けての調査活動です。旧魔王領を調査する隊と、ギルドに働きかけて調査する部隊。……如何でしょうか?」



 この言葉を聞いて考える。



 つまりはバルトに残って、ギルドへと働きかけて調査する部隊。それにクローネを指揮官として任命し、紹介状も預けて全てを任せる。そういうことだろうか?



 そして自分たちは、旧魔王領へと行軍する……。ふむ、なるほど。



「(長年元帥だったその力、お見事です)」



 ありだな。

 むしろそれ以外ないのでは?とアインは心の中で検討する。



 というよりも、実際そのほうがいい気がしてならない。

 効率や向き不向きを思えば、このほうが最適な結果をもたらせるのでは?と期待もできる。



「じゃあロイドさんの案も取り入れて、これからの事を話し合おう」



 流れは決まった。あとは彼女が納得できるように、このことを伝えるだけだ。



 ——実は正直に。『クローネが心配なんだ』と真摯に伝えれば、彼女は留守番を我慢することぐらいできた。

 これはまだ女心を理解しきれていない、アインの一つの間違えだった。




 *




 数人の近衛騎士や給仕を交えて、数度に渡る会議が行われた。

 それはロイドが発案した、二手に分かれての調査活動についてだ。



 そして決まった組み分けはこうだ。



 戦闘力に優れたメンバーと、研究者たちを固めた"旧魔王領"組。

 そしてクローネを筆頭とした、バルトを拠点に調査活動を行う組。

 ちなみに後者には、アインがカイゼルから受け取った紹介状を手渡し、代理という形でその調査にあたってもらうこととなる。



 不満そうにしていたものの、アインの代理という言葉に納得したクローネ。

 彼女はバルトでの街中での調査活動に同意する。



 その後は彼女の指揮により組織が作られ、一日と経たぬ間に組み分けが終了。

 そして必要となる資材の選定や確認が行われ、旧魔王領へと向かう者達の荷物へと、資材が詰め込まれた。



 慣れない雪道の行軍ということもあり、その内容は慎重に慎重を重ねた準備となり、万が一遭難しても一カ月は持ちこたえられるほどの用意ができた。



 クローネが苦虫を噛み潰したような顔を幾度と浮かべ、この支度に苦労していた様子が見て取れた。



 旧魔王領への出発は、バルト伯爵との話し合いから4日後に決まった。

 ——そして遂に。その四日後の朝がやってきたのだった。



「今日も寒いね……」


「でも雪は降ってないわ。その代わり、凍るように寒いのだけど」



 その日の朝は、バルトに来てから最も寒い一日となった。

 窓に付着した水滴が凍り付いており、屋根にできた氷柱(つらら)は更に地面へと延びている。

 いつもより数十分ほど早めに目を覚ましたアインとクローネ。

 特に約束も合図もなかったのだが、まるで待ち合わせをしていたかのように、リビングスペースで合流した。



「気温が低い方が、地面が滑りやすくなるの。だから気を付けてね?坂から転げ落ちて、そのまま町に戻ってこないように……ね?」



 クスクスと笑いながらそんなことを言うが、地味に切実な問題だ。

 アインは今回のメンバーの中でも、クローネと同じぐらいに雪に慣れていない。

 だから足を引っ張らないかと心配していたのだが、クローネにまで言われると自信がない。



「……本当に気を付けないと、現実になりそうで怖いよ」


「あらそうなの?私は戻ってくるならそれはそれで歓迎するわ。コロコロ転がって戻ってきたら、抱きかかえて止めてあげるから心配しないで」


「それは魅力的だね。わざと転がってしまいそうなほどに」



 冗談に花を咲かせながら、アインの旅支度を手伝うクローネ。

 荷物の支度は終わってるのだが、今は防寒具の着替えの最中。寒さが厳しいということもあり、入念な支度をしていた。



「あとはこれ。保温できる魔道具だから、大事にね?……お腹が空いても、無意識に吸ったらだめよ?」


「死活問題だからね。昔の俺でも、きっと我慢できたんじゃないかなって思うよ」



 クローネが言うのは、アインが幼かったころの話だ。

 訓練をする前は、無意識のうちに魔石を吸っていたことを思い返した。

 それは近くにいたクリス。彼女の魔石を無意識のうちに吸っていたほどには、食いしん坊な彼の性格を表していた。



 近頃は魔物化の心配もあってか、魔石を吸収していなかったアイン。

 だがカティマの研究により、適度な量ならば問題ないことが証明されている。魔物が進化するに必要となるレベル、それほどのエネルギーを吸収しなければ、魔物化という面では影響がない。

 だからアインはまた前のように、魔石を吸収して楽しめるようになった。



「交換用の魔石はこっちの袋ね。……わかってると思うけど、交換用のも食べたらだめよ?我慢できる?」


「あのね。小さな子を見るような目で見ないでね?それぐらい我慢できるよ?」



 よくいえば優しい表情といえないこともない。

 だが言い方を変えると、子供に言い聞かせるような話し方は、若干の悲しみがこみ上げる。



「大体さ。そういう魔石ってワームとかビッグビーとかでしょ?なら別に目新しくもないし……」


「……ねえアイン?目新しかったら食べてたの?」


「あ……」



 100%の否定ができなかったせいか、喉から絞り出すように『あ』という声が漏れる。

 それはもちろん隣にいる彼女へと届き、ジト目になってアインの瞳を見つめる。



「……殿下?『あ……』、とはどういう意味でしょうか?」


「やだなあもう。そんな笑顔になってプレッシャーかけて……聞かなかったことにしてくれない?」



 こんなことは考えたことないだろうか。

 美人のジト目はどことなく迫力というか、ある種の圧力を感じると。



「念のため。ロイド様にも注意するように伝えておくわね」


「あれ?俺って信用がないのかな」



 国民へは語れないが、アインには一つの武勇伝がある。

 それは海龍を討伐したときの話で、クリスから語られた話だった。

 死の瀬戸際にありながらも、アインは逞しくも海龍の魔石の味を楽しんでいた。そういう話だ。

 アインがクリスに膝枕されていた時の話だが、それは隠されることなく王族や近い立場の者たちが耳にしている。



「海龍の時のことがあって、この件でまだ信用してもらえると思ってたの?」


「うーん……。正直なところ五分五分かな?って思ってた」


「ふふ。五厘もあればいいかもね?」



 話しながらも丁寧且つ順調に進む支度。

 こうした世話の部分でも一流とは、やるじゃないか……とアインを唸らせる。



 気兼ねなくじゃれつける、この空気が心地よい。



「はいお終い。あとは……バッグを持って歩くだけね」


「ありがと。……おっとと、結構重いね」



 防寒着を装備し終えたので足を動かす。

 いつもみたく足を動かしても、その足取りは数十倍に感じるほど鈍重だ。

 つい体を床に倒してしまいそうになった。



 加工済みとはいえ、ほぼ全身を毛皮で覆われた装備で包まれて、中にも数枚の服を身に着けている。

 それが軽く感じるはずがない。仮に防寒にだけ重点を置くならば、今ほどの重量にはならなかったはずだ。



 だが向かう先は旧魔王領。

 そこに向かうのに、防御力を度外視するなんて自殺行為にしか思えない。

 そのため防御にも優れた素材を選び、わざわざ王都から運んできたのだから。



「足取りが不安定みたいだけど……平気?ちゃんと歩ける?」


「えっと……ちょっと待ってね」



 そうして部屋の中でテストする。

 旧魔王領への道のりは厳しいが、最低限足を動かせるかぐらいはここでも確認が取れる。

 一歩ずつ確かめるように、じっくりと床を踏みしめながら感覚を調べる。



 皮膚の表面に、新たに自分のものではない皮膚を重ねた感覚。

 重心の管理に四苦八苦するが、一歩目と比べれば全く問題がない。



「意識さえすれば問題ないかな。さっきのは一歩目だし、感覚がつかめてなかっただけみたいだ」


「そ、そう。それなら私も安心できるわ」



 安心したようで、はぁとため息をついたクローネ。ずいぶんと彼女にも苦労を掛けた。

 その苦労に報いるためにも、必ず何かの成果を持って帰りたい。



「……でもこんなことならさ。城でもちゃんと試して来ればよかったね」



 アインにとってその言葉は、特別大きな意味をこめていない。

 だがそれを聞いたクローネにとっては、アインが考えている以上に重く受け止める結果となる。


「そ、そうね……ごめんなさい」


「え?どうして謝るのさ」



 自分の言葉に申し訳なさそうな表情を浮かべた彼女を見て、アインは少し焦ってそれを尋ねた。



「だって事前に確かめておくなんて、補佐官の私が気が付くべきだもの……」



 珍しく落ち込んだ。いや後悔したような表情になる彼女。

 責任感を強く持つことには好感を持つが、アインにしてみれば、もう少し砕けた態度になってほしい時もある。



「別にそんな気にすることじゃないんじゃ……」


「もしものことをゼロにするのも、補佐官としての私の仕事よ。……それは曖昧にしたくないの」


「う、うーん……」



 別れ際にこのような顔をされてしまうと、アインも心配な気持ちを抱く。

 そこでシルヴァードが気に入っている言葉、『信賞必罰』が頭に浮かんだ。



「ねぇクローネ。俺は三日後に帰ってくる、それはいいよね?」



 初回ということもあり、今回の日程は今日を入れて三日間。

 おそらく二度目三度目と、何度か向かうことになるのだが。

 


「……えぇそうよ。でもそれがどうしたの?」



 ならこういう時ぐらいは、少しいつもと違うことを言っても罰は当たらないだろう。



「俺は帰ったら、きっと体がすごく疲れてる。だから補佐官クローネに命じるよ、俺が帰ったら体をほぐしてほしい。それで今回のミスは帳消しだ」



 隙あらばイチャつく。

 なんてことはなく、おそらくアインの体は相当の疲労を貯めこむだろう。

 普段歩くことのない厳しい道のりに、更に多くの雪が降り積もっているのだ。



 そこを数時間歩き回り、更に旧魔王領での調査も思えば、体が疲れないわけがない。



 なので本音をいってしまえば、『マッサージしてくださいお願いします』という部分があるのも否定できない。

 ——その言葉を聞いて、案の定ポカンとする彼女を顔を見て、アインは笑みを零す。



「ク、クローネ……何その顔。海龍に飛びついたときのことだけどさ、あいつも同じような顔してたよ」



「む、むぅ……っ!何よそれ……もうっ」



 ようやく一つだけ勝てた。

 頬を少しだけ膨らませて、普通の少女のように不満な様子を醸し出す彼女。

 若干頬が赤くなってきてるのは、照れ隠しだろうか?



 それにしても、『むぅ』っていう姿なんて初めて見た。

 でもこういう彼女も有りに思える。



「不満そうだけど、俺がそれでっていってるんだから決まりだよ」



 とりあえず、彼女がとやかく反論する前に断言する。彼女は案外、こうして強引にするほうが素直なときもあるからだ。



「……言われなくても。アインが帰ってきたら、それぐらいしてあげるつもりだったもの」


「あ、そ……そうだったんだ。じゃあ念入りにってことで頼むよ。それでいいでしょ?」



 彼女のサービス精神には驚かされるが、それでも強引に行くアイン。

 言わなくても念入りに行ってくれるのだろうが、まぁ物は言いようだ。



 暫くの間、唇を噛みながら不満そうにしていた彼女。

 そうして心の中で整理が付いたのだろう。恥ずかしそうに赤面しながら、ようやく納得に至った。



「わかりました……。殿下がそう仰るなら、今回はその優しさに甘えさせていただきます」


「ん。素直でよろしい」



 もしかしたら幸先がいいかもしれない。

 こんな小さなことだけど、クローネが照れた顔やむくれている顔を見られたのだから。

 きっと調査も上手くいく。そう考えることもおかしいことじゃない。



「さてと、それじゃ行こうか。集合にはちょっと早いけど、まぁ大丈夫かな」



 実はなんだかんだ体も慣れてきた。

 クローネをフォローするために、身振り手振りに体を動かしていたのが功を奏したのだろう。

 体がその独特の重量に慣れてきたようで、当初よりも体が軽く感じる。



「ねぇアイン。本当に気を付けてね?無理はしないでね?」


「わかってるって。初日ってこともあるし、危険な状況になったら途中で帰ることも考えてるからさ」



 遭難は避けたい。

 といっても分かりやすい道のりらしいので、遭難することなんて数年に一度程度らしいのだが。

 それに今回はギルドから数人のガイドも付く。装備も装備なため、支度は万全だ。



「ロイドさんたちはもう下にいるかな?」



 約束の時間にはまだ少し早い。

 だがきっとロイドやディルは、もうすでに宿のロビーでいくつかの仕事に入っているだろう。



「いると思うわ。出発のために支度を再確認してると思う」



 クローネの言葉に頷いたアイン。

 見送りに来てくれるというので、ロビーまで一緒に向かう二人。



 ロビーへと降りると、予想通りにロイドたちが支度の真っ最中。

 軽く挨拶をしてから作業を続けてもらい、およそ10分後に準備を終えた。



 近衛騎士達もいつもと違い、完全な防寒機能付きの装備に衣替え。

 不謹慎に感じるが、ちょっとしたレジャー気分がアインの心に芽生える。



 ——その後は『いってくるよ』とクローネに告げて、アインはついに宿を出発し旧魔王領へと向かう。

 近衛騎士だけでなく、数人の研究者たちも引き連れての今回の道のり。



 宿を出ると雪は降っていないものの、汗も凍りそうになる程の寒さを顔に感じた。



 だが手足を振ってみても、そこには寒さを感じない。

 用意された装備が優秀なようで、どうやら全身に寒さを感じることは無さそうだ。



 ……まずは三日間。今日を入れて三日間だ。

 宿に戻れたら、二度目三度目と再度向かうことになると思う。

 だがそれに甘えることなく『最初から発見がありますように』と、アインは懐かしのロリ女神に祈りをささげた。



今日もアクセスありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] クローネに可愛げがなさすぎてメインヒロインなのに魅力を全く感じない。それに、いくら本人から懇願されたからとはいえ、補佐菅に徹するなら様呼びや敬語は必須なのでわ!? [感想]私個人としては、ハ…
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