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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
六章

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社会科見学という名の家庭訪問。

今日もアクセスありがとうございます。

 王立キングスランド学園。

 そこはイシュタリカで、最もレベルの高い学び舎であり、更に内部では成績ごとに組み分けを行われる。



 特に上位2クラスともなれば、彼らの卒業後の進路は必ずといっていいほど、イシュタリカの重要機関へと繋がる道だ。



 そんな王立キングスランド学園だったが、確かにそこの生徒は将来有望なのだが、今回の件はあまりにもぶっ飛んでいる。

 現場の人間たちは、当初そう考えていた。



「では見学は以上だ。何か質問はあったかね?」



 時刻は朝の五時過ぎ。

 こんな時間ではあったものの、彼らはここで仕事にあたっていた。



「あ、ありません……ですがまさか、カイル教授が携わっていただなんて」



 彼の名はロラン。アインの学友で、先日学園の5年生になった12歳の男の子。

 彼もアインと同様に、一組(ファースト)の維持に成功している。

 クラス内順位は3位、今年はバッツにも順位で勝り、ようやく3位まで上り詰めた。



 ちなみに主席と次席は毎年恒例の、アインとレオナードの二人に納まっている。



「特に語る必要ないだろう。なにせ機密だらけのこの作業だ、口に出さない方がお利口というものだ」



 そう言いつつ、眼鏡の位置を調整するカイル。彼は一年次の頃から、アイン達の世代の一組ファーストの担任を務めている。魔工学を専攻している教授だった。



 だがロランとしても、まさかこんな場所で出会うとは思ってもみなかった。なにせつい先日も、いくつか技術的な質問をしていたばかりなのだから。



「ですがまさかですよ、本当に。まぁこれを言ってしまえば、俺が呼ばれることもまさかなんですが……」



 現在ロランが居る地域は、王都から水列車で30分程度、海沿いに進んだ場所にある巨大な施設。ここではとある建造物の製作が進んでいた。



「君の質は高く評価されている。それは誇りなさい、実は私も教授として鼻が高い」


「あのー……カイル教授?学園では褒めてくださったことなかったと思うんですが」


「私は厳しい教育こそが、人を成長させると信じている。まだ君たちに飴を与える必要ないだろう?だがここは学園ではないのでな」


「は、はぁ……なるほどです……」



 二人はそんな、気の抜けるような会話をしていたが、その施設は数多くの声が響き渡り、賑やかに業務が行われている。



「君は今日から、学園の合間……見習いとはいえ、ここで技術者として勤める。私はその技術を尊重する。だから……ともに大きな夢を見ようではないか」



 カイルはそう言って歩きはじめ、ある一つの大きな物体へと体を向ける。



「本当に大きいですね……」


「これは我々技術者や研究者にとって、大きな夢をもたらす一つの宝だ……」



 辺りには、すでにくみ上げられた部位や部品がいくつも並んでいる。その中でも、この"素材"は更に度肝を抜いてきた。



「"海龍の背骨"……これほど船に向いている素材は、何を探しても他にはない。殿下の力は我々のような者達にも、大きな夢を与えてくださったのだ。ロラン、君も深く感謝するように」


「……はい。仰る通りだと思います」



 この施設の何処を見渡しても、アインが討伐した海龍の素材で覆いつくされている。だがこのすべてが、一つの船となると思えば期待も大きい。



 まだ学園生の男の子が、こうした舞台に来るのは異常ともいえる人事。だがそれは、彼への期待と評価の現れでもあった。



 ——海龍艦の計画が始まり、すでに一年の月日が経とうとしている。それは順調に進み、この数年以内には、完成した姿をイシュタリカへとお披露目できることだろう。




 *




 ロランが朝から、国の機密に触れていたその日。時刻は朝の9時過ぎとなり、一組ファーストの生徒たちが教室に集まっていた。……彼らの顔を見れば、ちらほら見かけた顔を見つける。だがしかし、おそらく5年次の今になるまで、一組ファーストの維持に成功していたのは、アインやレオナード、そしてロランとバッツの4名だけだろう。



「ロラン。眠そうじゃん」


「あーうん……実は朝からちょっと仕事でね」


「朝から何してんだよお前、その職場危ないんじゃねえか?そんな時間から働かせるなんて」



 バッツが口にすることは、ロランをフォローしての事だった。もしその内容を知っていれば、こんなことは口にしなかったと思うが……。



「あ、あはは……どうだろうね」



 何とも言えない気持ちになるのはロラン。実際今の職場は、きっと最高責任者を辿りまくれば、アインにも近づくはずなのだ。なにせ国家プロジェクトの、"海龍艦"の造船なのだから。



 ——アインは海龍艦というものが、今造船中と知っている。だがそこにロランや自分たちの担任が携わっているなんて、考えたこともなかった。



「まぁ体には気を付けるんだなロラン」



 レオナードの優しい言葉が、ロランの心に染み渡る。



「ありがとレオナード。体には気を付けるよ」


「……そういえばさ、今日はなんでみんな集合してんの?」



 アインは知らない。今日なんで一組ファーストの生徒たちが集合しているのかを。だがレオナード達はそれを知ってるようで、アインへと説明する。



「殿下。今日は恐らく、"社会科見学"の相談ではないかと」


「……は?」



 最近のアインは、立て続けに面倒ごとに鉢合わせていた。その中でも特にハイムの件が、彼の心の中に深く入り込む。セージ子爵との件も思い返してみると、随分と色々あったものだと実感してしまう。



 そして今度は社会科見学?



 落差が大きすぎて、どうにもしっくりとこない。というか、この学園でそんな行事があったとは初めて知った。



「社会科見学……?なにその平和な、なんか学園向けの行事は」


「殿下。ここは学園ですので間違ってません」


「……ちょっと混乱してた。確かにここは学園だった」



 自分たちの年代から考えると、規格外な友人たちしかいないため、たまに学園だということを失念してしまう。アインはまだ5年次で、まだ6年次も残っている立派な学生だった。




「その件で、いくつか連絡があるのではないかと」


「なるほどね。ちなみに行き先は?一組ファーストはどこ行くの?」


「アイン何にも聞いてないんだなお前。自由だよ、自由。俺たちで好きに選んでいいんだって」



 レオナードの代わりに答えたのはバッツ。それを聞いたアインは、『自由授業制どころか、そこも自由なのか……』そう心の中で嘆いた。



「自由すぎだろこの組」


「大抵は、大商会とか国の施設……城内には入れないけど、城のそばの建物とかに行くのが多いね。あとはそうだな、ホワイトローズ駅なんかも、そこそこ好評らしいけど」


「城の施設は勘弁してほしい。割と本気で」



 過去の事例をロランが口にするが、アインとしては城の周囲は遠慮したい。なにせ自分の家だ、あまり意味がない。



「だとしたら大商会か?最近だとオーガスト商会なんかがいいんじゃねえの?」


「オーガスト商会も勘弁してくれ。色んな意味で行きづらい」



 商会のご令嬢が自分の側近なのだ、それを思えば、そちらも遠慮したい。



「おいおいアイン!……お前我がままだな!」


「……察して差し上げろ、バッツ」


「それじゃえっと……ホワイトローズ?」



 消去法で行けば、ホワイトローズが有力候補か?アインとしても、ホワイトローズに関しては文句がない。



「あそこは良い駅だよ、なぁみんな」


「……え、えぇそうですね殿下」


「知ってるわ……ったく」


「はは……ま、まぁ確かに有数の駅だから、勉強になると思うよ」



 この4人のグループは、おそらくホワイトローズに向かう。そう、昼になるまではそう思われていた。



 その数分後、担任のカイルがその教室へと現れ、社会科見学についての説明を始めた。一週間以内に目的地を決めて、それを伝えに来いとのお達し。



 テラスにでも行って、みんなでゆっくり考えよう。アインはそう思っていた矢先のことだった。




 *




「なぁアイン。元気出せって……そんな落ち込まなくてもいいだろ?」


「……こうなるなんて、思ってもみなかった」



 4人が良く集まるテラス席。昼過ぎの席が空いた頃、4人はそこで食事をしていた。ただ一人だけ、どうにも元気のない様子だったのだが。



「で、殿下……ですが我々は光栄に思いますよ?あのように言っていただけて、嬉しく思ってますので……で、ですから」


「そうだってアイン様!だから元気出してってば。宰相様の言葉があったからって、そんなに落ち込まなくても……」



 アインが落ち込んでいる理由は、例の社会科見学にあった。ホームルームが終わった後、アイン達4人はカイル教授に呼び出され、とある話を説明される。



「ま……まるで俺の家庭訪問じゃないか!」



 宰相の有難いお言葉により、彼ら4人の社会科見学先が決まる。場所は王都、そして城ホワイトキング。城門をくぐり、その中にある施設群を見学することになった。



 魔物実習の際に、アインの試練に付き合わせた礼を含める。城内は難しいが、城門の内側にある施設をご案内……と、ウォーレンからの招待が届いたのだ。



 もちろん三人は喜んだ。城門の内側には、重要な施設や人々が多くいる。それを思えば、これほどの見学先は他にはないだろう。



 ちょっとした特別扱いだが、今回限り……とウォーレンが決定していたのだった。



「こんなことになるなら、オーガスト商会の方がまだよかった……」



 城ともなれば、皆がいる。家族皆どころか、クローネやクリスなど……本当に皆が居る場所だ。



「(カティマさんには何かを渡して、研究室から出ない様にしておこう。軟禁がベスト)」



 当日は、あの駄猫を自由にしてはいけない。それが何よりも重要事項だった。



「もうしょうがねえってアイン。だから来月までに、しっかりと覚悟決めとけよ」


「自分の家に行くのに、覚悟を決めることになるなんてね……」



 社会科見学は一月後。アインもそれまでには、覚悟と妥協と、あとは諦めの気持ちを用意しておかねばならない。



「ねぇレオナード!そう言えば俺……城に行けるような服持ってない!」


「……何か貸してあげるから安心しろ、ロラン」



 アインの気持ちと裏腹に、なかなかテンションの高いロラン。レオナードという、頼りがいのある友人が居て安心していた。



「ありがとレオナード!いやー冬だったらコートとかで隠せるんだけど、もう初夏だからさ。さすがにそういう服持ってなくて……」


「ロランもそろそろそういう服を用意しておくべきだな」


「あー……確かに。お給金貰ったら見にいこうかな、買い物付き合ってよ」


「そうだと思ったよ、全く。……まぁ買い物に付き合うのは構わない」



 アインはぼーっと二人を見る。楽しそうにしているロランとレオナード、二人を見ていると、純粋に楽しめてない自分がなんとなく悔しい。



 病欠でもしてしまおうかと思うが、難しいだろう。



「言っとくぞアイン。謎の不参加なんて決めやがったら、カイル教授に告げ口するからな」


「な、謎の不参加なんて……そんなずるいこと、するわけないだろ?」


「慌ててんぞお前。ったく、一応単位ある行事なんだから、しっかり参加しろよ」



 なるほど。逃げ道は無かったようだ。しっかりと卒業するためにも、我慢して参加する必要があった。



「(……こんなことになるなら、バルトへの旅も、早めにって考えとけばよかったかな)」



 現在日程を調整中のため、新たな調査には出向けない状況のアイン。冒険者の町バルトは、旧魔王領などを含めて、多くの危険も伴う地帯。



 なのでそういった面も含めて、イストに向かう時とは比べ物にならない程の、多くの打ち合わせが行われている最中だった。



 それが纏まり次第、アインは次の調査へと向かうことになる。それは決して遠い話ではなく、そこそこすぐに纏まるだろうと、クローネから報告を受けていた。



「ねぇねぇ!バッツとアイン様も一緒に行こうよ!」


「しっかし元気だなお前。それで?行くってどこにだよ」



 妙に元気のいいロラン。それほど彼にとっては、社会科見学が楽しみなのだろう。バッツがその元気さに驚きながら、続きを尋ねた。



「レオナードから服借りるときにさ、ついでにどこか遊びに行こうって思って!」


「あ?ならレオナードの家でいいじゃねえか」


「おい待てバッツ。うちに殿下をご招待できるわけがないだろう!それほど立派な家じゃないぞ!」



 知らぬ間に遊びに行く話が進んでいるが、それ自体は悪くない。アインも賛成だった。



「いやお前、公爵家じゃねえか……どの口が立派じゃないなんていえんだよ」


「ふ、普通の貴族が招待していいお相手ではないだろう!」


「まぁそんな気にしなくていいんだけどね……」



 厳格な父の下に育ったレオナードからしてみれば、王族を貴族の家に招待するなんてとんでもないことだ。そんなことをすれば、自分が父からどんな叱責を受けるかわかったもんじゃない。



 アインとしては気にしないでほしくも思うが、そう簡単にはいかない。



「殿下はもう少しご自分の立場を……」



 そんなレオナードを無視して、合点が言ったかのように、手をパンッと叩くアイン。



「なんか面白そうだし、レオナードの家で遊ぼうか」


「殿下あああああああああああっ!?」


「オーケー。それじゃその予定で。んでいつにする?」



 嘆くレオナードを横目に、アインもつい楽しみ始めてしまう。先ほどまでのテンションとは対照的な、喜ぶ姿を見せるアイン。



「次の休日にしようよ。……五日後だね、どう?いいレオナード?」



 ロランの希望は早め。そのため、直近の休日はどうかと尋ねる。



「……もう、好きにしてくれ」


「んじゃ五日後だな。なんか土産持ってくからよ、元気出せってレオナード」


「なに持ってくのバッツ?」


「アイン。こういうのは相場が決まってんだよ、肉だ」


「なるほどなー……肉か。参考になる」



 うんうんと納得するアイン。漫才染みたやり取りを、放心してしまったレオナードの前で披露する二人。



 先日のアインはこう考えていた、休む暇がしばらく無さそうだと。……だがこうして、学友と楽しめる時間が見つかった。せっかくの機会なのだ、それを大いに楽しむことに決めた。



「いやー楽しみだなレオナード」


「……私は心労が徐々にですね……殿下」


「はははっ!大丈夫大丈夫!別にお爺様とかが行くわけじゃないから!」


「陛下がいらっしゃるとなれば、きっと寿命の多くが飛び散ってました」



 レオナードいじりも大概にしておくべき。そう思うこともあるのだが、彼の反応が嬉しくて、ついそれを続けてしまうアイン。



 ——自分の家への社会科見学。



それはあまり待ち遠しく思えなかったが、レオナードの家へと行くのは楽しみになったアイン。そして対照的に、当日が来るのが少し怖いレオナード。



 レオナードの父は、城内で王族と顔を合わす機会があったとはいえ、自宅に来るとなれば話は別だ。今日の夜、レオナードは帰宅した父と母へとこれを伝え、同じく放心させてしまうのだった。




おそらくこの章は、話数少なめで終わると思います。

その後から、新章として次の調査……etcなどなどになる予定です。

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