面倒な事ばかり増えてくる。
夜にはまた投稿する予定ですが、この時間にも投稿してみたかったのやってみました。
3000文字程度であっさり読める量となってます。
「こんなに身軽だったんですか!?」
「えぇそうなんです。どうですか?さすがにこんなに……なんて思わなかったでしょう?」
オズ教授の部屋に、アインの驚きの声が響き渡る。オズの指示に従い一枚目の資料に目を通していたところ、彼からの説明も併せて驚きの事実に、アインは驚愕した。
今見ているのは赤狐、彼らの過去の分布図だった。
「……大陸中っていってもいいぐらいですね」
「この調べが一番手間がかかりました。とはいえ苦労したとはいえないのですが……なにせギルド頼みだったもので」
「ギルド頼み、ですか?」
「えぇ。実はですね……」
その手法は、主にギルドを利用するといったもの。
なにせいくら研究のためとはいえ、さすがにこの広い大陸イシュタルを駆け巡るわけにもいかなかった。だから金を使って、ギルドに依頼したのだ。
その内容は『過去の魔物の素材取り扱い履歴の参照』。ギルドへと持ち込まれる貴重な素材は、その性質や特徴が詳しく記録される。赤狐はその貴重な魔物として扱われていると考え、過去の記録を調べてもらったのだ。
「なるほど。確かにそのほうが効率がいい」
オズの調査方法に感心しながら、アインは再度資料に目をやった。
その調査の結果、数多くの場所で"特徴的"な素材が発見されていたのだった。それは過去の王都ギルドでも確認されており、それ以外にもマグナやイスト。そしてもちろん冒険者の町バルトでも同じく確認されていた。……それ以外にも、農村近くでもその素材が確認されていたことを見れば、驚かないはずがなかった。
「正直いって、もう少し隠れて生きてるいるもんだと思っていました」
「良くも悪くも享楽主義な性格があります。それが祟ってなのか、随分と自由にしていた者達も多くいたようですね。……まるで人や異人種のことを、調査するように観察していたと考えられます」
「……その理由は一体」
「理由なんてありませんよ。彼らはなまじ頭のいい魔物ということもありましたが、知識欲も豊富だった。ただその知識欲の中に多くの遊び心が混在していたのです。例えばそう……人の体に魔物の脳を移植すればどうなるのか?などといった残酷なことも、遊び半分で調べていたとか」
豊富な知識欲+同じく多くの遊び心……そこから生まれたのは、相手からしてみれば残酷なことが多かった。だがその二つの気持ちが混在することによって、おそらくは赤狐の頭には罪悪感も無かったのだろう。
「随分と参考になります」
「それはよかった。なので王太子殿下が追っている、魔王の幹部だった赤狐。彼女と私が説明した赤狐は別物かもしれないです」
「……自由だったからこそ、ですか?」
アインの言葉に、素直にオズが頷いた。
「えぇ。仲間意識というものも一部の者達だけだった、そう結論付けております」
すべての赤狐達が同じ意識や目的を共有していたわけではなく、あくまでも一つの集合体だったと。オズはそう結論付けている。
新たなことがわかるのはいい事だったが、こうも重要な事ばかり知ってしまえば、アインの頭も少しずつも疲れてきた。考え事も多く頭の中に浮かんでくる。
それからも昼過ぎまで、数時間にわたってオズからの教示を受けた。
「これはこれは、長く語りすぎてしまいました。お許しください王太子殿下」
「いえとんでもない。本当に助かりました」
途中に何度か休憩をいれていたとはいえ、やはりこういった話ばかりだと疲れてしまう。アイン一行の中でまだ元気なのは、カティマただ一人だけだった。
「まだイストには滞在なさいますか?」
「えぇ。あと10日程度は」
「でしたら丁度いい。門番には伝えておきましょう。是非何か不可解に思うことや、聞きたいことが出来たらいつでもいらしてください。なので本日は一度解散と致しましょう。あまり詰め込みすぎても効果がないでしょうから……私はいつでもここにいますので、是非ご遠慮なさらずに」
アイン達が疲れてしまった様子に気が付いたのだろうか?そう考えれば、わざわざ時間を作ってもらったのに申し訳ない。そう感じるアインだった。
申し訳なさそうに思う感情を隠すことなく露にし、正直にその気持ちをオズに伝える。
「……申し訳ないです。オズ教授の仰る通り、少し整理する時間が欲しいと思ってます」
「はっはっは。それは当然のことです。なのでお気になさらず……我々研究者ですら、同じくそう思う時があるのですから。そうですよねカティマ様?」
オズの言葉に、カティマが『えぇもちろんです』と頷いた。申し訳なく思うが、今日は一度お暇させてもらい、後日また話を聞きに来よう。
「では王太子殿下。またお会いできる日を心待ちにしております。……ですが努々お忘れなく、狐は昔から人を騙すといわれてますから。『研究者気質の赤狐』だけでなく『無邪気に遊ぶ赤狐』……そのどちらにもご注意を」
今日貰った資料を持って、アイン達は一度宿へと戻ることにした。
最後にオズが言った言葉に、長年研究してきたことからの重みを感じた。大まかに分けて2種類の赤狐、どちらも根底はやっかいな生き物だ。
オズへと挨拶と礼をして、アイン一行はその部屋を後にする。
部屋を後にし廊下に出ると、全館暖房のせいかまだ暖かい。だがそのまま歩いて外に出ると、外の涼し気な空気が、アインの火照った頭を癒してくれた。少しだけ吹いている風が頬にぶつかるのが心地よい。
「うーん、でもさすがなのニャ」
「なにが?」
外に出ると、中では静かだったカティマが口を開く。
「魔王の部下だった赤狐としか説明してないのに、オズ教授はそこからも側近だったとすぐに予想するんだから、さすがだと思ったのニャ」
「あぁなるほど。たしかにそうだね」
別に隠していたわけではないが、ただ魔王の部下としか説明していなかった。だがそんな少ない情報からも彼は予想し、当ててみせたのだから大したものだ。
「研究者気質なのも、無邪気に遊ぶ方も……どっちも同じく面倒だなぁ」
結局のところ、どちらも悪影響をもたらすのに違いはない。興味本位に好き放題されたら、こちらとしてもたまったもんじゃない。
「……うーん」
「どうしたのクリスさん」
アインとカティマがオズ教授について話している後ろで、なにやら考えてる様子のクリスがうんうん唸っている。
「あ、いえすみません。ちょっと気になったことがあっただけで……」
「なるほどね。でも俺も同じく気になってることたくさんあるからさ、宿に戻ったらゆっくり整理しよう」
「いえそういうことではなくて……ううん。やっぱり、なんでもないです」
大したことではなかったのか、次の言葉を続けることなくクリスは引き下がった。クリスも疲れているのだろう、そう思ったアインは静かに彼女に微笑み、宿への道を再度歩き始めた。
「うーん……でも、あの赤狐が"女性"だったなんて、カティマ様は説明しなかったような……」
オズが口にした言葉、『魔王の幹部だった赤狐。彼女と私が説明した赤狐は別物かもしれないです』。クリスはこの台詞がどうしても頭から離れなかった。
——そんな彼女の疑問。彼女が小さな声で口にしたその疑問は、イストを吹く冷たい風によってかき消されてしまう。
夜に帰宅したらまた投稿予定ですので、よろしくお願いします。




