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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
五章 ―魔法都市イスト―

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初日を終えて。

申し訳ありません。台風により帰宅時間が日を跨ぎそうなので、半端な量ではありますが投稿します。

初日から話が進んでなくて申し訳ありません。

「……意味が分からないのニャ」



 時刻は午前4時。資料は数枚程度の量だったが、ついそれを読みながら考え事に数時間を費やしてしまった。

 ただカティマが指摘したいのは時刻の事ではなく、アインのその状況にあった。



「くーっ……くーっ……」


「なんでそこで寝てるのニャ、クリスは」


「……疲れてたんだろうね」


「王太子の膝枕で寝落ちする近衛騎士なんて、初めて聞いたのニャ。近衛騎士どころかクリスは元帥だニャ」



 もちろんアインも初めて聞いた。当たり前だ、そんなことをする騎士なんて前代未聞。おそらくイシュタリカの長い歴史でも、初めてがクリスとなったはずだ。



「というか。なんでそんなよくわからない体勢で、クリスは資料持ってるのニャ……」



 アインの膝の上に横になりながらも、指で広げる数枚の資料があった。



「え、だってクリスさん以外が触れたら燃えるって」


「別にテーブルに並べさせればいいと思うのニャ。馬鹿かニャ?」



 ……カティマに馬鹿かといわれたのがどうしても悔しくて、立てるなら立ち上がって彼女の耳をひっぱりたい。そんな欲求がよぎってしまうが、今はできない。



 自分の膝の上で、なんとなく幸せそうに寝付いている彼女を見てしまうと、起こすのをつい躊躇ってしまう。

 昨晩の事だ。話が長くなると思ったクリスは、一度私服に着替えてきた。だから鎧で寝苦しいと言うことは無いだろう。

 いつのまにかほどけている彼女の長い髪が、アインの膝の上いっぱいに広がっているのを見ると、絡み合ってしまわないかとつい心配になる。



「ダメな姉ってそんな感じなんだろうニャ……」


「なにそれ。自分の事?」



 オリビアからしてみれば、カティマは姉。……つまりはそういうことだ。



「……やんのかニャ?」


「……やったるニャ」



 お互いもはや深夜のテンションだ。もう朝のほうが近い時間帯だが、寝ていない彼らからすれば同じこと。

 よくわからないテンションのまま、カティマはアインへと飛び掛かった。



「はい残念でした」


「っひ、卑怯だニャ!?そんなのずるだニャ!」


「はい座ろうね。俺の勝ちだからこれ」



 使われたのは幻想の手。デュラハンもまさか、こんなことにそれを使われるとは考えないことだろう。というかアインもこんなことに使うとは考えたことがなかった。まさに深夜のテンションが生んだ、ただの荒業に他ならない。



 そのまま幻想の手を使って、正面の席に座らせた。



「……こんな時間に何やらせるのニャ」


「ちょっとは悪かったなって反省してるよ。ディルは?」


「途中から休ませたニャ。まったくアインは……こんな時間までクリスを付き合わせて、ひどいやつなのニャ。ちなみにいつ頃から、クリスは寝落ちしたのニャ?」


「着替えて気が緩んだのかもしれない。着替えてきてから、一時間もしないうちにあっさりと」



 カティマが大きく開けた口から、彼女の健康的な牙が姿を見せる。噛みつかれたら痛そうだ。

 彼女が驚く顔はなかなか珍しいので、じっくり見ることにした。



「早すぎなのニャ」


「まぁ疲れてたんでしょ。そっちは終わったの?」


「なんとかニャ。で……そっちの資料は、面倒そうニャ?」


「……たぶんね。このままいくとカティマさんの予想通り、俺は魔物化するかもしれないかな」


「……説明するのニャ」



 アインはここ数時間で、いくつかの仮説を考えた。もちろんオズ教授から貰った資料を元にだ。



「異人種は、すべて魔物となる可能性を秘めている。それが結論らしい」


「それは私も考えてたニャ」



 研究者たちがその研究の末に見つけたのは、異人種が持つ"核"の可能性だ。その作用が肝になる。



「裏付けが出来たってことだね。実験内容はシンプルだよ、ただ使われる技術が馬鹿みたいに難しいだけ。原理を簡単に説明するとこうだ、異人種に魔石のエネルギーを溶かし入れて核の肥大化を狙う。すると核が持つ役割が強くなって、徐々に魔物化する。これが原理となるらしい」


「ニャ……それって痛みどころの話じゃないのニャ。体の負担を考えると。かなりの被験者が死んだはずだニャ」



 アインの言葉を聞いたカティマ。魔石のエネルギーが人体に与える影響を理解しているカティマ。

 だからこそその結果がどうなるかなんて容易に想像がついた。



「さすがはカティマさん、そうだよ。被験者の99.9%が息絶えた、そう書いてあった」


「……成功例があるのかニャ?」


「うん。でも正気を失って研究者を殺した。だから殺処分らしい、そこそこ強力な魔物に変貌したってあったね」


「……なるほどニャ。つまり実質成功はしてないってことだニャ。それで?」


「ここからは仮説だけどいい?」



 そしてついに、アインが考えた仮説がカティマへと説明される時だ。



「続けるニャ」


「俺がやってることはさ、たぶん同じことなんだよね。魔石のエネルギーを吸ってる、ただその過程において、痛みがあるのかないのか、それぐらいの違いしかない」


「待つのニャ。アインは毒素分解で、体に悪影響のあるもの……つまり毒になるものを吸わなくなっているはずなのニャ!」


「だって別に毒じゃないでしょこれ。核からしてみれば……ただの"進化"の結果だ、それで魔物になる。だから悪影響とは判断されないってことだよ、たとえ俺の意思が別だろうとね」



 少しの沈黙の後、カティマが大きくため息をついた。



「……少し喉が渇いたのニャ。アインもいるかニャ?」



 その空気に耐えられなかったのだろうか、それともいったん休憩を入れたかったのか。そのどちらかわからないが、カティマが水を取りに行く。



「お願いするよ」


「了解だニャ……まったく私の甥っ子は、面倒ごとばかり手にするのニャ」


「悪いとは思ってるんだけどね」


「……ところで、一つ考えたことがあるのニャ」


「ん?なに?」



 2つ分のグラスを持って戻ってくるカティマ。席に座ると同時に、なにやら考えがあるようでそれを口にし始めた。



「魔物化したときの、デメリットってなんだニャ?」


「そ、そりゃ会話ができないとか……」


「それは勘違いだニャ」


「……え?」


「というかアインが進化するとしたら、そういうやっすい雑魚じゃないのニャ」



 あまり悲壮感を持っていないカティマに、アインは少しの希望を抱く。

 カティマはやれやれといった様子で、若干冗談じみた空気を醸しながら、次の言葉を発した。



「デュラハンとか思い出すのニャ。魔物ニャけど、あれたぶん普通の服来てたりしたら、魔物とか判断できないのニャ。エルダーリッチもそうだニャ」


「た、確かに……」


「あまりこういうことは言いたくないのニャ。でも……いざとなったらアインが進化した種族を、異人種として新たに認定させればいいのニャ。……お父様も多分そうするのニャ」


「随分と力技だね」


「……まぁそんなもんだニャ」



 なんとなく、そう言われると元気を取り戻せたアイン。冷たく感じていた手足に、熱が戻ってくるのを感じる。どうやら自分が考えている以上に、アインは思い詰めていたようだ。



「ちょっとトイレ行ってくるよ。……よいしょっと、ごめんねクリスさん」



 優しく彼女の頭を横にずらしたアイン、そのまま立ち上がり。トイレへと向かって行った。



「はいニャ。……さて」



 アインが立ち去って行ったのを確認してから、カティマは水のお代わりを取りに行った。そして水を入れながら口を開き、彼女に話しかけた。



「クリス。今の話は他言無用だニャ、たとえディルでも……お父様たちでもだニャ」


「……お気づきでしたかカティマ様」



 実のところ、クリスは目を覚ましていた。カティマにはそれが分かったから、今まで黙っていた彼女に口止めをする。



「アインの幻想の手の時に起きたのニャ。私はケットシーだから、そういうのに敏感だニャ。……それと、他言無用なのはわかったかニャ?」


「……陛下にご命令されれば、さすがに……」


「なら、話は早いのニャ」



 水を入れ終わったカティマが、ゆっくりと振り向いた。振り向くまでの時間が、何分にも感じる程、どこか優雅で美しい。振り向いた彼女の顔は、長年城に居たクリスですら見たことのない、どこか神々しい表情を浮かべていた。



「……クリスティーナ・ヴェルンシュタイン。そなたに第一王女、カティマ・フォン・イシュタリカが王族令を発令する。旅の最中に得られる情報のうち、アインの魔物化に関する情報を口外することを禁じます。これは他の王族を含む、すべての存在に口外してはならないとする。……さて、これでいいかニャ?」



 カティマも紛れもなく、イシュタリカ王家の人間だった。いつもの彼女の雰囲気からは想像できない程、威厳に満ちたオーラを感じたクリス。……それを受けてクリスも素直に頷き、了承してしまう。



 そしてクリスが知る限り、カティマが王族令を使用したのは初めての事だ。



「うんうん。素直に了承してくれてよかったのニャ。……真面目な態度は疲れるのニャ。まったく……」


「……カティマ様は、どうお考えなのですか?」


「それはアインの最悪のケースかニャ?」


「……はい」



 どうにもカティマは、アインに最悪のケースを伝えてない様に思える。それはとても優しく、まるで上澄みの部分だけを言葉にしたような、そんな印象を抱く。



 だからこそクリスは、カティマの本当の考えを聞きたかった。



「……過去を繰り返すかもしれないニャ」


「過去、ですか……?」



 意味深な言葉に、更に疑問を返すクリス。……だが、時間切れのようだった。



「ただいま……って、あれクリスさん。起きてたんだ」


「っア、アイン様っ!?」


「いやいや、そんな驚かなくてもいいのに」



 アインがトイレから戻ってきた。もちろん戻ってきたことにより、この話は終わりだ。アインが居るところでする内容でもない。



「アイン。クリスは膝の上で寝落ちしたのが恥ずかしかったのニャ」


「っそ……そうですけど、そんな態々言わなくても!?」



 カティマはフォローしたつもりだった。クリスが急な事情には弱いことを理解しているからこそ、だがクリスの受け取り方は違った。

 なにせ膝の上で寝落ちしてしまったことは本当だし、その恥ずかしい思いを今更になって実感している。

 さっきまでは笑えるような雰囲気でもなく、相当真面目な雰囲気を醸し出していたと思う。その落差が大きいがゆえに、羞恥の気持ちも比例して大きくなってしまう。



「まぁそんな気にしなくても……よだれが垂れてたわけじゃないし」


「よだっ……本当ですかアイン様!?そんな粗相を……っ」


「だからしてないってば、あーもーっ!」


「はぁ……こんな時間から、うるさい主従なのニャ……」



 いつも通りの雰囲気になったことを、嬉しく思うカティマ。アインとクリスに自分の考えを少し話してみたものの、正直カティマも予想できない件だった。前例がなく、仮定するのも難しい。

 だからこそ、彼女が一番にできることは祈る事。彼女は神の全てを信じているわけではないが、それでもこういうときは祈りたくもなる。

 あとは少しでも研究の成果が役に立つよう、考え続けることだった。



 クリスがその羞恥から、若干慌ただしかったもののそれはアインによって、なんとか抑えられる。

 その後はもう朝に近い時間であったが、3人とも休むことにする。

 今日は昼頃から活動しよう。そう決めて皆自室へと休憩に向かった。



 もう日は跨いでしまったので分かりづらいが、つまりあと2回寝ればオズ教授との約束の日ということだ。



 調査するのは勿論だが、せっかく魔法都市イストまで足を運んだのだ。アインは今日という日は、魔法都市の町並みを楽しむことにしていた。



アクセス有難うございました。

これからもよろしくお願いします。

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