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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
第二期イシュタル統一物語:五章 エルデリアという都市で。

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田舎娘たちの豪運。

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 シャリアとソフィーの話を聞いて戻ったカティマが、上機嫌にヒゲを揺らす。

 彼女は店主マジョリカの前で口を開く。



「ご機嫌にもなるニャ。どういうことかというとだニャ~……」



 田舎から出てきた異人二人の目的は、王太子アインに会うこと。

 会って何をするのか、そこまではまだ聞けていない。あの二人はいま湯を浴び、長旅の疲れをいやしている。

 話を聞いたマジョリカの大胸筋がピクッと揺れた。



「殿下にねぇ~……ただのファンにしては、随分とワケアリみたいだけど」


「確かにそうニャ。一体全体、どこの村から来たのか不明ニャけど、それはそれとして長旅をしてきたことは明らかニャ。ってことは――――それなりの事情があって来たはずなのニャ」



 などと話しながら茶を飲むこと数分。

 二人の予想を裏切って、湯を借りていた少女たちはさっさとここへ戻ってきた。

 髪の毛に残されていた汚れは消えているが、まだ湿り気が残っているのを見ると、大急ぎで戻ったようだ。



「あらら~早いわねぇ」


「もっとゆっくりしてきたらよかったのニャ、って、私の家じゃないのに偉そうに言えないけどニャ」


「いいのよいいのよ。さて、じゃあとりあえず――――ご飯かしらね」



 マジョリカは少女たちが何か言う前に、店のカウンターの裏手に歩を進めた。

 その下に用意されていた冷蔵用の魔道具からパンやハムなどの、軽くつまめるような食材をぱぱっと取り出し、それをいつの間にか取り出していたまな板の上で調理した。



 ごくり、と少女たちの喉が大きく上下していた。ついでに魔道具でスープを温め、カップに入れて差し出すと二人はもう一度喉を鳴らす。



「食べなさいな。話はそれからよ」


「い、いいの……?」



 ラミア族のシャリアが問いかけると、マジョリカが目を細めて頷く。

 シャリアはセイレーンのソフィーと顔を見合わせ、故郷の老人たちが口を酸っぱくするほど言っていた注意の言葉を思い返すも、食指を刺激する香りに我慢も限界。



「毒なんて入ってニャいから、早く食べるニャ」



 カティマの言葉も、普通であれば逆に疑いをかけられるようなものだったが、今回ばかりは少女たちの我慢が限界だったせいか、



「い、いただきます!」



 という声を二人は重ね、食事にありつく。

 途中、熱いはずのスープも勢いよく飲んでいたのを見て、マジョリカはくすくすと笑いながらおかわりを用意していた。



 パンのほうも、元気に三度はおかわりする少女たち。



 立ったまま食事をさせるのは気が利かなかった、とカティマが苦笑して、少女たちを店内に置かれたソファに誘う。

 カティマが一人用のソファに腰を下ろし、少女たちは同じソファに腰を下ろした。

 もう、食事は終わっている。



「ありがとうございました! このご恩はきっと……」



 ソフィーの礼が途中で止まり、彼女の顔色がその髪の色に負けじと青くなった。



「どうしたのニャ?」


「い、いえいえ~……その……何と言いますか……」


「……ははーん」



 するとカティマが勘付いた。



「ニャハハっ! 食事代をふっかけられるとでも思ってるのニャ?」


「っ――――」


「ソ、ソフィー!? そうよね、確かにこんなおいしいご飯ははじめてだし……い、いくらお支払いすれば……」


「その……ごめんなさい……私たち、お金は全然なくて……どうにかしてお支払いしますから~……!」



 最初は笑っていたカティマも、ここまで言われると心が痛む。

 彼女は元王族として思うところが生じ、嘆息してから二人に言う。



「安心するニャ。別にお金をもらうつもりはないのニャ」



 少女たちはまだ半信半疑だったものの、カティマに重ねて言われ、またカティマから漂う器――――としか言いようのない、自分たちの心に不思議と染み入る言葉の重さに、つい頷かされていた。



「その代わりに、よければ聞かせてほしいのニャ」


「聞かせてほしい、ですか~……?」



 ソフィーがおずおずと聞き返した。



「まずはどこから来たのかからだニャ。見たところ、遠くから来たみたいニャけど」


「……ソフィー」


「大丈夫。きっとこの人たちなら平気だから」



 最後の確認を終えてから、ソフィーがつづける。



「名もなき村です。エルデリアはご存じでしょうか? 私たちはあそこから歩いて数日の山にある村から来たんです~」



 思っていた以上に遠くから来た事実にカティマが驚いていた。



「随分と遠くから来たんだニャ。水列車の乗り継ぎで丸二日くらいかニャ?」


「いえいえ~そんなお金はありませんので」


「私たちは、二か月かけてこの王都に来たんです。歩ける限り歩いて、どうしてもというところで水列車を乗り継ぎました」


「……ニャ? に、二か月って言ったかニャ?」


「は、はい! 私とソフィーは村のお金を預かってようやくここに来れたんです! 無駄使いはできなかったので……ご、ご飯も節約して……」



 道理であんなに腹を空かせていたのだとカティマが、マジョリカが察した。

 しかしこれでは、



「……帰りの路銀はなさそうだニャ」



 との声に、シャリアとソフィーが間髪入れずに「はい」と言った。

 帰りは何か月掛けて村に帰ることになるのか、想像もつかない。しかし彼女たちに悲観した様子はなく、さも当然と言わんばかりであった。



「歩いていれば、いつか村に着きます」


「私とシャリアは戦えますから、どうにかなりますよ~」


「そうは言うけどニャ……」



 やはり、ワケアリにしか見えない。

 少女たちが出会った当初より打ち解けてくれているのを見て、カティマが本格的に旅路の目的について問う。



「王太子に会いたいって話、二人がそんなに頑張る必要があるんだニャ?」



 再び少女たちが間髪入れずに「はい」と。



「私たちは、村の未来のためにやってきたんです~……」


「ふむ。詳しく聞かせてくれるかニャ?」



 これまでと同じように、ソフィーの口調には少し特徴があった。

 別に他者を苛立たせるようなものではなく、彼女の種族、セイレーンに由来する特長であることを、カティマはきちんと理解している。



 ……歌が得意な種族ニャし。



 得意というだけに限らず、セイレーンは総じて歌が好き。

 普段の声もまた美しいと知られ、話し口調も特徴的な者が多かった。



 そんなセイレーンのソフィーはもう一度、シャリアと見合って視線だけで意識を共有。



「お金がないんです」



 と。

 まぁ、わかる。

 カティマは頭がいいからではなく、この娘たちの状況と出会い方を思えば理解できないはずもなかった。

 だが曖昧過ぎて、カティマも苦笑してしまう。



「お金がない理由も教えてほしいのニャ」


「ソフィー、ここからは私が」



 シャリアが言った。



「ここ数年、エルデリアからくる仕事がめっきり減ってしまって……。農業や狩りでどうにか村の生計を保てていますが、この先どうなるかわからないんです」



 すると、マジョリカが「あらあら」と。

 同時にカティマも訳知り顔で頷いていた。



「カティマ様、この子たちの村は海結晶の加工依頼を受けていたんじゃないかしら」


「私もそう思っていたのニャ」


「っ……ど、どうしてわかったんですか!?」


「ええ、私もシャリアもそこまで話してないのに~……」


「こう見えて、私もつい最近までイシュタリカ中の情報を確認していたからニャ」



 その理由を敢えてまだ語らず、つづけるケットシーの元王女。



「海結晶の加工依頼の件数が減ってることは国でも把握してるのニャ。というか、それを見越して、加工を担っていた者たちの仕事がなくならないよう動いてたはずニャ」


「お詳しいんですね~……仰る通りなんですが……」



 たとえば鉱物の加工に関して仕事はいくらでもあるから、国が主導している事業はいくらでも振り分けられたし、民間の商会や研究所でも十分な仕事があった。

 それが海結晶をはじめとした、希少な資源の加工業のはずだったのだが、



「私たちの村は寄り親の町があって、エルデリアからの仕事などもそこからいただいていたんです。だけど、父が最近はうちの村に仕事が振り分けられなくなってきたって……」


「ニャ? シャリアのお父さんかニャ?」


「私のお父さんが村長なんです。それで、町長にも掛け合って仕事をくれって言ったんですが、ダメでした。それでほかの村に聞いてみたら、いくつかの村が同じ状況になっていたんです」


「ニャ……?」


「ごめんなさいね。あなたたちの村で仕事に遅れが生じたとかじゃないのよねん?」



 マジョリカはぶしつけかと思ったが、尋ねなくてはと思い問いかけた。

 しかし、シャリアもソフィーも勢いよく首を横に振る。



「私たちの村は海結晶の加工をしていた頃から、納品の成績がよかったんです!」


「そうなんですよ~……私とシャリアの種族は生まれつき、ああいった魔力を孕んだ鉱石の加工を得意としておりますから」


「――――確かにそうよね。私も魔石の運搬とか搬入で世話になってるもの」



 納品の遅延はこれまで一度もなかった、そう彼女たちは力強く言った。

 他の村の事情は知らないが、辺境の村々にとって重要な収入源だ。町やエルデリアの信頼を失うような真似はしないだろう。



 最近は農業や狩りでどうにか村を存続させられているが、今後は不透明。

 町に嘆願しても、エルデリア領主にはそもそも聞き入れてもらうことができないどころか、門前払いをされるばかり。

 もう、頼れる相手は限られていた。



「……こんなの無茶だってわかってます」



 シャリアが言うように、町長や領主が無理なら王族――――というのは……。

 けれど、それほど追い詰められているとも取れた。



「だけど! 英雄って呼ばれてる王太子殿下なら……!」


「きっと、私たちの村も救ってくれるかもしれない。そう思って来たんですよ~……」



 それくらい、アインの名が大陸の辺境まで響き渡っているということでもあるのだろう。

 ふぅ、と息を吐いたカティマとマジョリカ。

 マジョリカはソファを離れ、カウンターに向かって茶を淹れながら、



「仕事はいくらでもあるはずなのに、妙よねぇー」


「んむ。私たちが調べていた人口に対して、十分な依頼を保っているはずニャ」


「ってことは裏があるのよ。海結晶周りって、お金が馬鹿みたいに動く話だったじゃない? この転換期を利用して、仕事を絞りながら稼げるだけ稼ごうって人がいるんじゃないかしら?」



 シャリアとソフィーが沈痛な面持ちを浮かべていた。

 そうしたまま、少女たちはマジョリカとカティマという、移植の二人組の話を聞いていた。



「それが事実ニャら、耳の痛い話だニャ」


「カティマ様ならそう思うだろうって私も考えてたけど、無理よ。国の端から端まで目を光らせるなんて、目と手がいくらあっても足りないわ」


「だとしても、思うことはあるってことニャ」


「あの、どうして貴女がそこまで――――」



 シャリアが問うも、カティマはまだ答えなかった。

 決して無視をしようとしていたわけではないのだが、カティマは腕組みをして、シャリアたちの村のことを考えていた。

 それにエルダリアと言えば、あの銀髪の男が現れるかもしれない、とアインが言っていた。



「とりあえず、だニャ」



 カティマが少女たちに目を向けた。



「宿が決まってニャいって話だったニャ」


「はい。ご飯だけはどうにかって思っていましたが。そうよね、ソフィー」


「そうよ~。うまくいったら、住み込みで数日お世話になれる職場があればとは思ってたけどね~」



 すると、マジョリカが茶を運んできながら言う。



「じゃあ私のお店にしなさいな」


「ニャハハっ! それがいいのニャ!」



 唐突な提案と、マジョリカの異様な姿を再びまじまじと見て、



「――――え?」



 少女たちの声が再び重なり、目を点にしていた。

 実際、ここまでくると彼女たちもこの店主は大丈夫な人だ、と確信してはいたものの、あまりにも話がよすぎる。

 つまるところ、自分たちにとって都合がよすぎたのだ。



「あんたたち、魔石の台座磨きもできるわよね?」



 魔石の台座といえば、魔石が持つ魔物の魔力が周囲にあふれ出てしまわぬようにするためのものだ。これがないと、周囲の空気や物質を汚染してしまう。

 しかし、海結晶の加工をしていた村の者なら、それができるはず。



 特にセイレーンとラミアは、そうした術を生まれ持っている。

 古き時代、まだ異人に認定されるより昔のことになるが、この二つの種族は瘴気窟などにも住処を作ることがあった。

 より魔物らしく生活していた時代には、自分たちの住処を作るため、人体に悪影響をもたらす魔力を抑制する性質を利用して生活していたこともあるという。



「セイレーンの歌は荒々しい魔力を抑えて、ラミアの炎は汚染された魔力を浄化できる。そうだったわよね?」


「できますけど……どうして、私たちに……」


「はい~……私とシャリアによくしていただいても、お礼なんて全然できませんよ~……?」


「そんなの知ってるわよ。別にあんたたち二人に何かしてほしいとかじゃないから、遠慮なく好意を受け取っときなさいな」



 マジョリカが運んだ茶の香りが、少女たちを落ち着かせた。



「っとゆーわけで、荷物を置いて行くとするかニャ」



 茶を飲み終えてから立ち上がったカティマにつづき、まずはシャリアが席を立つ。

 ずるずる、と蛇の下半身を前に進ませた。



「どこへ行くのですか?」


「この時間は確か、港だったはずニャ」



 とだけいい、カティマが店の扉を開けて外に出た。

 カラン、カランと鐘の音が扉の上から鳴る。

 すぐにソフィーも立ち上がって、翼を一度だけはためかせた。



「さぁさ、行ってきなさい。私はあんたたちのお部屋を用意しといてあげるわね」



 しっし! と乱暴に手を振りながら、その顔には笑みを浮かべていたマジョリカ。

 きょとんとしながら店を出た少女たちは、白衣に身を包んだ妊婦のケットシーを前に、いまさらながらそのことを気にして、



「おなかに子供がいるのに、大丈夫なんですか~?」


「大丈夫ニャ。専属の治療師たちに確認してもらって、軽めに運動したほうがいいって言われるまでになってるからニャ」


「あらら~、専属の治療師の方がいらっしゃるなんて、すごいお金持ちなんですね~!」


「……というよりは、立場上ってとこかニャ」



 どうせこの後、驚かせてしまうのだ。

 カティマは身分を明かすことなく、二人を連れて大通りを歩く。

 いつしか、少女たちは何者かにつけられていることに気が付いた。大通りに出て、間もなくのことだ。



「安心していいのニャ。うちと城の騎士たちなのニャ」



 その言葉が新たな疑問を抱かせるも、少女たちは迷いながらカティマの後を追った。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 この時期には日の入りが早い。

 けれど、イシュタリカ王都の夜は明るい。人々の営みの光が、そこかしこを照らしていた。

 港もそう。今日はいつもより多くの船が並んでいて、目を凝らせば沖まで見える。



「おっ、来たみたいニャ」



 王都の港の、水面が不規則に揺れて膨張した。桟橋から離れたところに、双子の海龍が姿を見せる。

 壮大な魔物の生きざまには、思わず言葉を失い見入ってしまった少女たち。

 だが、本命はこれではなくて、桟橋に近づいてくる一隻の巨大な戦艦。



「な、ななな――――何よあれ!? ソフィー! ねぇ!」


「わからないわよ~! すっごく大きい魔物が甲板に縛り付けられてるってことしか……!」



 戦艦の甲板に、巨大な海の魔物が縛り付けられていた。

 名をシーサーペントという、沖の海を荒らす巨大な魔物だ。



 そして、歓声である。



 割れんばかりの歓声が周囲に響く中、元王女が言う。

 楽しそうに笑いながらだった。



「朝の仕事を終わらせて、騎士たちに稽古をつけて、ついでに城下町での公務を終えてから魔物討伐に出る。そんな王族は、アイツだけニャ」


「お、王族……?」


「あの~、王族の方をアイツって言うのはまずいような……」


「ニャハハっ! ま、いいのいいのってことニャ!」



 やがて、選管が停泊して騎士たちが下りてくる。

 そうしているうちに、タラップを抜ける一人の青年が姿を見せた

 誰よりも注目を集めていたその青年が、カティマに気が付き近づいてくる。少女たちが思わず息を呑まされる迫力と、無意識に膝をつきそうになる力強さを感じ取っていた。



 異人の中でも、魔物よりの性質が強い種族だからだろうか。

 彼女たちは周囲の者たちよりも強く感じていた。こちらに近づいてくる、覚醒した魔王の歩く姿に。



「……カティマさんが港に俺を迎えに来てるとか、嫌な予感しかしないんだけど」


「はぁ~、人聞きが悪いのニャ。言っておくけどニャ、今日の私は道案内をしてきただけなのニャ」


「へ? 道案内?」



 注目を集めながら、その桟橋で。

 魔王は、アインは少女たちを見た。



「えーっと、君たちが?」



 え、あの、その。

 うまく言葉が出てこない少女たちに変わり、カティマがアインに。



「君たちが、じゃないニャ。まずは自己紹介ニャ」


「お、おお……確かにそうだけど……なんだろ、カティマさんに常識を説かれるとすごく悔しいな」



 不満というほどでもないが言葉を漏らして、アインが少女たちに向き合う。

 面と向かうとより強く、この凛々しい青年の凄みが全身に伝わってきて止まない。

 そして、



「アイン・フォン・イシュタリカ。よろしく」



 顔は知らずとも、名前くらい知っている。

 そして、周りの民の反応からこれが嘘ではないことも、容易に想像できた。

 ピク、ピクと頬を引きつかせるほど緊張したソフィーのことを、彼女の幼馴染でもあるシャリアは一度も見たことがなかった。



 もちろん、シャリアが落ち着いているわけではない。

 彼女も驚きながら、無礼にもアインから目をそらしカティマに視線を送る。

 こういうとき、妙に勘が鋭くなるときがある。



「……王族をアイツって呼んでいたのは」



 カティマが頬を掻きながら笑っていた。



「私はカティマ・グレイシャー。つい最近まで、カティマ・フォン・イシュタリカっていう名前だったのニャ」



 少女たちは言葉に出さず、同じ言葉を頭に浮かべていた。



(……お父さん、お母さん。私たち、王太子殿下にお会いできました)



 この日の出来事を、シャリアとソフィーは忘れることがなかった。

 こんなにも自分たちに都合がよく、うまくいく日があるなんて、と。



「それで、この子たちは?」


「エルデリアの近くにある村からはるばる来てくれたのニャ。どうしてもアインと話がしたかったみたいニャ。私が先にちょっと聞いておいたって感じかニャ」


「ん、りょーかい」



 フットワークが軽いことはいつものこと。




 ◇ ◇ ◇ ◇




(カティマさんが連れてきたんだし、よほどの事情なのかな)



 あまり多くを話すことなく、アインは事情を理解していた。また、いまアインが頭にしばしばその存在を浮かべるエルデリアの名が出たこともあって。

 彼は騎士たちに軽く命令をして、ここでの後片付けのような仕事に向かうと言った。



「詳しくは城で話そう。カティマさん、お願いできる?」


「ほいほい。じゃあ城で待ってればいいかニャ?」


「うん。話を聞くのは二時間後で」



 アインが離れようとしたところで、シャリアは感情がぐるぐる渦巻く中でもまずは礼と、急にやってきたことへの謝罪をしようとしたのだが、アインが忙しそうに離れて行ってしまったから話しかけられなかった。



 一方のアインは、隣にやってきたマルコから聞く。



「夜からの予定も詰まっておりますが、大丈夫ですか?」


「わかってる。でも急ぎの用みたいだから、あの子たちの話を優先しておきたい」


「承知いたしました。ところで――――」



 マルコが一枚の羊皮紙をアインに手渡した。

 それを見たアインが「ははっ」と乾いた声で笑う。



「追加のお仕事でございます」


「……大丈夫。夜が明ける前には寝れると思う」



 忙しいのはもう慣れっこだ。

 無理をしすぎないように気を付けているから、たまに今日のように、頑張らなければならない日がやってくるだけ。



 ここでアインが「頑張らないと」と言えば、



「私もお供いたします」



 マルコがそう言い、アインの傍に控えたのである。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 ――――王都から遥か遠く。

 エルデリア、新興都市とも呼ばれるこの地。



 昔は汗を流し、炭鉱の煤にまみれたで賑わっていた酒場も、当時は木製の野性味あふれる外観と内装だったのだが、いまでは都会のそれに似て洒落た姿に変わっていた。足を運ぶ者の姿も変わり、いまでこそ身なりのいい者たちの姿も少なくない。

 店員のサービスも磨かれていた、そんな変わりゆくエルデリアの酒場に足を運んだ男がいた。



 男が開いている席に着くと、女性の店員がふらふらっと誘われるように近づき注文を聞く。

 涼しげな笑みを浮かべた男の口から、



「おすすめをいただこうかな」



 と言われ、女性は「はい」とすぐに応じてカウンターへ戻った。

 銀髪の男は注目を集めていた。けれど、彼がそれらの視線を送る主に目を向けると、ぶしつけに見ていた者はすぐさま目をそらす。



「君たちはその目で何を見ている? 欲にまみれたこの町で、私という男はどういう存在に見えているのかな」



 彼の問いかけは誰か個人に対してのものではない。

 このエルデリアに漂う、欲望そのものに対して。




今日もアクセスありがとうございました。


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[一言] シーサーペントって、どんな感じの魔物ですか?
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