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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
五章 ―魔法都市イスト―

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紅い魔石

本日分の更新です。

 アイン達が通された部屋は、主任教授の個人スペースのようで、質の良い柔らかいソファが用意されていた。

 だがいくつかの保存用ケースが用意されており、その中にはいくつかの魔石も保管されていて、アインの興味を惹く。



 彼はコーヒーを用意し、それをアイン達一行へと手渡す。



「さて……まずは自己紹介でも。私はオズと申しまして、ここイスト大魔学の主任教授を務めております。主な専攻分野は魔石エネルギー学。魔石の持つエネルギーについて研究しております」



 オズという主任教授は、研究者の間では有名な男だった。彼は若い頃より研究の才能に恵まれ、イシュタリカでも替えが効かない程の人材。



「えっと。俺は……」



 アインは自分の偽名を考えていた。その名はアイク……カティマの件といい、アインは名前を考えるセンスが自分にないのを新たに発見してしまった。下の名前をちょっといじる程度のことしか、なんとなく考えつかなかった。



「あぁ失礼。その擬態に関係している魔道具をまずは外していただけますか?私の方でお調べさせて頂きましたところ、マジョリカ名誉教授からの紹介状に、『アイン王太子殿下』という情報がありましたので……おおよその状況は理解しております」


「ね、ねぇクリスさん。マジョリカさんそんなこといってたっけ……」


「言ってなかったですね。……全く」



 できるなら最初に言ってほしかった。少し心臓に悪い思いをしたじゃないか。



「……なら外しますね」



 アインがマジョリカ特製の魔道具を取り外し、それに倣ってクリスとディルの二人もそれを取り外した。その魔道具は指輪の形をしているため、取り外すのに苦労することはない。



「それでは改めまして。ようこそお越しくださいました、アイン王太子殿下。先ほどは『重要なお客様』とだけ申し上げたことをお詫びいたします。私以外の者達もおりましたので、あのような措置をとらせていただきました」


「それが正解だったと思います。気遣い頂けて感謝してます」



 それは何よりでございます、とオズが小さく笑った。



「じゃあこっちも自己紹介を……俺は必要なさそうだから、三人ともいい?」


「それでは私から。クリスティーナ・ヴェルンシュタイン……イシュタリカ騎士団にて元帥の席についております。以後お見知りおきを」


「私はディル・グレイシャー。前・元帥だったロイドの子であり、今はイシュタリカ近衛騎士団にて、アイン様の専属護衛見習いとしての任務を頂戴しております」



 なんとなくカティマが口を開かなかったので、アインは護衛の二人を促して、自己紹介をさせた。二人が終わってから、カティマがついに口を開く。



「……私はカティマ・フォン・イシュタリカ。名高きオズ教授にお会いできたこと、大変光栄に思いますわ」



 ——!?

 まるで一国の姫のように、淑女のように優雅な挨拶をしたカティマ。仕草だけでなく、語尾にニャとつけないその話し方も初めて見たアインは、つい言葉を失った。



 だがそれはアインだけでない。クリスとディルの二人も同じように驚き、言葉にできない様子だった。



「っ……ま、まるで姫のようだ……っ」


「アイン様っ……実際、第一王女ですので姫様です……!」


「ま、まぁアイン様のお気持ちもわかりますが……」



 挨拶を邪魔されたのが気にくわない様で、カティマの顔に青筋が浮かんだ気がする。だが勿論それどころではなかった。

 研究者としてもどこか思うところがあったのか?だからこそこんな殊勝な態度を取ったのか?



「おぉ!まさか王都の頭脳と呼ばれる第一王女殿下とお会いできるとは……光栄に思います」


「(ねぇクリスさん。なに王都の頭脳って……)」


「(カティマ様の異名だとか……。なんでも、ここイストでも有名なカティマ様は、イストの研究者たちからは王都の頭脳と呼ばれてると……)」



 小さな声で話す二人を意にも介さず、カティマはオズとの会話を進める。



「私は今回、アインの手伝いとして、無理をいって陛下から許可を頂きました。イストに来られる貴重な機会ですから、是非数多くのことを吸収して帰りたいと思います」


「こちらこそ。是非研究に関してお話をさせていただきたい、まさか王都の頭脳と呼ばれるお方と、今日この日に出会えるとは思ってもみませんでした。……おっと。失礼致しました王太子殿下、研究を生業とする者として、つい……」


「いえいえ、是非後でゆっくり話してあげてください」


「はっはっは。さて……それでは殿下。私共の協力が必要とか、一体何をお調べになっていますか?」


「えっと。カティマさん説明お願いしてもいい?」



 素直にカティマが頷いた。

 自分よりも詳しいカティマがいるのだ、だからせっかくだしカティマに説明をしてもらおうと思ったアイン。

 カティマのように頭がいいと、やはり物事を整理しながら相手に伝えるのも上手い。必要な個所をおさえながら、できるだけ簡潔に纏めながら情報をオズへと知らせた。そして自分たちが調べたい、赤狐についてもだ。



 話を聞いているオズの様子は、何度も表情を変えて驚きを表現していた。

 今カティマが話していることは、今まで誰も知らなかったことであり、研究者としては興味を惹かれない訳がない。



 そして最後に、アインが魔石を吸収できるということを伝えると、そのボルテージは最高潮に跳ね上がる。



「っ……殿下。今の話はすべて本当ですか?魔石も吸収できるとは……」


「えぇ。そうですよ」



 デュラハンの魔石や、エルダーリッチの魔石を吸収したこともカティマは説明した。それを聞いて、少し考えた様子を浮かべるオズ。



「……名誉教授が私を紹介した理由がわかりました。魔石の話も込みで、私が最適でしょうね……」



 オズは魔石研究においての第一人者。おそらく彼ほど魔石に詳しい人は、ここイシュタリカにも存在しない。



「少々お待ちください。では持ってくると致しましょう」


「持ってくる、ですか……?」



 考えていた様子のオズだったが、その表情を変え何かを決定した様子。そして彼は、おもむろに立ち上がり、部屋に設置されているケースに向かって歩き始める。

 アイン達が部屋に入った時に見つけた、魔石なども保管されているケースだ。



「オズ教授。一体何を?」


「ご安心くださいクリスティーナ様。ここにもマジョリカ名誉教授がお作りになった封印がございます、なにかしら暴走するということはございませんので……よっと」



 ケースを開けると、そこに入っていた彫金が施された箱を取り出したオズ。それをもって、アイン達の許へと戻ってくる。



「……これはなんですか。オズ教授」



 ついオズが答える前に、質問をしてしまったアイン。



「これはですね、殿下がお探しのモノがはいっております」


「俺が探してるモノ……?」



 アインが不思議に思っていると、オズはそのケースを解放した。すると姿を現したのは一つの魔石、紫がかった炎のような模様が、何か毒々しく感じる。



「貴重な品物です。私もこれ以外には、もう一つしか見たことがありません」



 クリスはその言葉で、誰よりも早くそれを察知した。

 だからこそ唐突にアインの手を両手に取り、強く握りしめた。彼が変貌することが無いように、なんとか助けになれないかと考えたのだった。



「……クリスさん?」


「申し訳ありませんアイン様。ですが少しこのままでお願いします……。オズ教授、続きを」


「え、えぇ……実はですね」



 驚いたのはアインだけでなく、オズも同様に驚いていた。護衛がいきなり主君の手を握り始めたのだから、何事かと思うのは当然だ。



「これは赤狐の……魔石です」



『あぁなるほど』、クリスが自分の手を取った理由を理解できた。

 やけに熱を持ったクリスの手から、彼女の緊張が伝わってくる。だがオズの言葉を聞いても今は大丈夫だった。

 彼女が……エルダーリッチが、自分の夫のデュラハンを抑えているのだろうか?そう思うと少しの笑みすら零れる。



 自分の体の中で、夫婦喧嘩はやめてくれよと祈りを込めた。



「貴重な品ですね」


「えぇ。といっても、もう私ができる研究はすべて終了しております。解析も済みましたし、搾り取れるだけの情報はこの魔石から搾り取りましたので」


「随分と長い間研究をしていたのですか?」


「……赤狐を研究するということ、随分と笑われてきた人生でしたけどね」



 はにかむように笑うオズだったが、その表情からはどことなく苦労してきたという様子が伺える。



「是非俺たちにもそのことを教えて頂けないでしょうか。もちろん謝礼は致します」


「そんなとんでもございません、謝礼は結構です……むしろ私の方こそ、お金を払わなければならないような話ですから。研究者としてそう思ってしまいませんか、第一王女殿下?」


「えぇ仰る通りかと。我々研究者は、未発見の事実を知ることができるならば、それ以上の報酬はありませんからね」



 まだ"可笑しな"様子のカティマが、オズの言葉に同意した。



「……で、ですが王家の人間が無報酬でそれをするのは。ねぇクリスさん?」


「アイン様が仰る通りですね。不正に権限を行使した、そう思ってしまう者もいるかもしれませんから」


「ふむ……でしたらこう致しましょう。いくつかアイン様のその体質について、ご質問させてください。それを報酬とするのは如何ですか?もちろんその内容は、別の誰かに教えることは致しません」


「……秘密を守ってくれるなら、もう少し詳しく話してもいいかなって思います。でもそれだと、教授の研究成果を発表できないのでは?」


「疑問に思うこと、不思議に思うことがいくつか解決に向かうのです。別に発表なんていらないでしょう」



 オズは生粋の研究者だった。自己顕示欲があるわけでもなく、研究成果を金のために使う訳でもない。

 彼は純粋に、自分が気になったことを解決したい。そう思っているだけなのだ。だからそれを思えば、金を貰うよりも情報を貰うほうが、何よりも輝いて映る。



 少し考えてしまったが、もしかすると自分にとって有用な情報が、オズからもたらされるかもしれない。そう思えばこの話は悪くない。



「……わかりました。では答えられそうな事ならお教えします」


「それはありがたい!本当にありがとうございます!」



 本当にうれしいようで、オズは少年のような笑みを浮かべた。

 アインとしては、むしろ礼をいうのはこちらだというのに。そう思わざるを得ない。



 今日はまず、お互いに持つ情報を整理しよう。そして新たな情報を模索する、そういう方針に決まった。

 その日は夕方まで皆で情報を伝えあいながら、皆で糸口を探していた。




 *




「っ……はぁ。はぁっ……」


「グリント様!やりすぎは体を壊します!」



 ハイム王都にある、新たなラウンドハート邸。そこではひたすらに訓練を続けているグリントの姿があった、周囲には疲れ切って倒れてしまった、王都の騎士の姿がある。



「リバイン。俺は強くならなきゃいけないんだ、そうじゃなきゃっ……あんな無様な真似はっ!」



 父ローガスが面倒を見ていた、リカルド・ランス子爵の息子のリバイン。

 彼はグリントの付き人のように、よく彼のそばに控えている。グリントがティグルとエウロに向かった時は、あまり公にしていたわけではなかったので、リバインは置いていかれていたのだ。



「グリント!またお前は……無理をしすぎるなといっているだろう!」



 付き人のリバインだけじゃない。父ローガスも同じくグリントのことを心配している。エウロから帰って来てからというもの、来る日も来る日も多くの訓練を続けており、行き過ぎた部分があるのはローガスも心配に思っている。



「父上……いらしたのですか」


「いらしたのですか、ではない。体を壊しては元も子もないだろう?」


「で、ですがっ!」


「はぁ……そろそろ教えてくれんか。お前がやられた、イシュタリカの騎士のことを」



 半年以上の月日が経っていても、ローガスにすら彼のことは伝えられなかった。それほど屈辱的で、ただ虫のように転がされたのを口にしたくなかった。



「言えぬのなら、しばらくの間自室に謹慎を申しつける!」


「なっ……父上!」



 心配なのは事実なのだ。息子が努力している姿は美しく思えるが、だが現状では許すわけにもいかず。

 多少強引だろうとも、グリントの相手の事も知っておきたかった。



「教えれば、謹慎はありませんか?」


「その後もあまり無理はさせないがな。謹慎はしない、約束しよう。だからその相手のことを私にも教えてくれないか?」



 近くにあった椅子に腰かけ、グリントと目線を近づけるローガス。この場の姿を見ていれば、彼は良い父親として振舞えているように思える。ただそれはアインのことがなければ、の話だが。



「……恐らくとしかいえません。私より7つほど年齢が上かと思います」


「ん?それではまだ見習い騎士程度の年齢だが」


「そう言ってるのです!兄上……アインの護衛を務めているようでしたが、ですがまだ俺と同じく10代の男です!」



 その言葉はローガスとリバインに、十分すぎる衝撃を与える。なにせグリントは、この年齢であろうともすでに優秀な騎士だ。聖騎士のスキルだけでなく、天才的なセンスと才能によって大きく成長を続けてきている。

 そのグリントが、同じ10代の騎士相手に、虫けらのように扱われたという事実。



 ローガスは言葉には出さなかったものの、その騎士と一度戦ってみたいと思ってしまう。



「なるほど。グリント……お前がその騎士に、どうしてそんなに執着しているのかよくわかった」


「次は絶対に倒しますっ……。あいつを同じように、虫けら同然に扱ってやるんだ!」



 野心に燃える息子の姿を見ると、応援してやりたい気持ちになる。自分も分かるのだ、グリントはローガスと同じくとても負けず嫌い。だからこそ、何が何でも奴に勝ってやる!そう口にする想いがわかる。



「次は本当の決闘だ。それであいつを……ディルという騎士を打ち倒す」



 拳を強く握り決意するグリント。イシュタリカの騎士と、そんな本当の決闘をする機会が来るのか?おそらく来ないだろう……そうとしか思えないローガス。だが半年前、グリントがアインと唐突に出会ってしまったことを思えば、何が起こるか分からない。



 グリントがそう決意していたところ、その場に一人の来客の知らせが入った。



「グリント?訓練を頑張っているのは良くわかります。でも貴方にお客様よ」


「母上?いったい誰が」



 グリントたちが集まっていた訓練所、そこに母のアルマが姿を現した。グリントに来客があり、その知らせに来たのだ。



「貴方の婚約者様がいらしてるわ、さぁ身支度をしてお部屋に行きなさいな」


「っアノンが!?わかりましたすぐ行きます!」



 来客はアノン。アノン・ブルーノ……彼女はグリントの婚約者で、グリントの一歳年上。許婚として内定していた身だったが、今ではグリントもアノンのことを強く気に入り、彼女と会う日をいつも楽しみにしている。



 彼女が来てくれたことで助かったと思ったローガスにリバイン。グリントが素直に休む気持ちになってくれるのは重畳だ。



「父上!それでは失礼致します!……リバイン、また明日会おう!」


「あぁ行ってこいグリント。きちんと身支度をするのだぞ?」


「えぇいってらっしゃいませグリント様。また明日お会いしましょう」



 元気に走り去っていくグリントを見ると、年相応の姿にローガスは安堵する。



「……すまんなリバイン。世話をかける」


「とんでもございません。……いつか、グリント様があの想いを果たせる日が来るといいのですが」



 リバインもわかってる。それは難しいことだ、なにせ国交が断絶されているイシュタリカの騎士と、偶然以外に出会ってまた戦える機会なんて、考えるだけでも難しい。

 だがそれでも、グリントの想いが成就するのを祈ってやまない。




 *




「アノン!」


「まぁグリント様。こんにちは、急がせてしまったかしら」


「そんなことはない!待たせてしまって悪いな!」



 訓練後の体を清めた後、身支度をしてきたグリント。グリントの部屋にはアノンが待っていた。

 薄く塗られた化粧と、明るい色のドレスが目を引く。



「さぁこちらへどうぞ。今日もお疲れさまでした」


「う、うむ……すまんな!」



 彼女のそばに近寄ると、少しグリントの頭を撫でた後、グリントを自分の胸元に抱き寄せる。

 まだ大きく発育しているわけではないが、それでも女性特有の柔らかさと、アノンの香りに頭がクラクラしてくる。



「そんなに照れなくてもいいじゃないですかグリント様。……さぁ、お話ししましょうか?」



 つい照れた様子を隠せずに、アッサリとアノンに見つかってしまったグリント。男として恥ずかしい所を見せてしまったと思ってしまうが、アノンは全く気にする様子がない。



 ベッドに腰かけ、隣をとんとんと叩いた。そこにグリントが腰かけ、他愛もない雑談に花を咲かせた。

 彼女といるとなぜか安らぎ、どことなく頑張れるような気持ちになれる。



 ローガスや母のアルマへは絶対に見せられない、アノンにしか見せないグリントの姿。



「今日も訓練を頑張っていたと聞きました。グリント様が頑張るお姿はとてもカッコ良くて、私もつい見惚れてしまいますが……でも、やっぱりやりすぎは禁物ですよ?怪我をしてしまっては心配ですから」


「……わかった。少し気を付けるとする」



 彼女の言葉は素直に聞くことが多かった。大好きなアノンに嫌われたくない、そう思えば多くのことを我慢できる。それほど彼女のことを想っていた。



「ふふっ……いい子ですね。グリント様は、いつか私にも……グリント様が雪辱を果たす機会をお見せくださいね?」


「あ……あぁっ!もちろんだ!特等席にアノンを招待するからな!」




 元気なグリントの姿を見て、思わず小さく笑みを零したアノン。



 グリントは思う。アノンは王都でも評判の、縁起のいい美しい赤毛を持つ可愛らしい婚約者。そんなアノンと共に居られる時間が、何よりも幸せだった。




いつも多くのブックマークや評価、本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アノンは赤狐か? [一言] グリントリア充かよ
[気になる点] アノンってあいつですよね。祝福のスキルが誰の加護で出るかわかる前から何度も赤毛の描写があったので怪しいと思っていましたが・・・。
[一言] あからさまに
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