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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
第二期イシュタル統一物語:間章 グラベル港での出来事

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【コミックス8巻発売中!】セラの目的と、銀髪の男の目的。アインが気が付いたこと。

先日、コミックス最新刊が発売となりました!

書籍版準拠で進む旧魔王領編を、よろしくお願いいたします!


『魔道具の歴史にまた一つ、画期的な技術が生まれようとしているのです!』



 翌日、アインが足を運んだ展示会場に響き渡る声だった。

 会場は広い天球上の建物の中にあり、数多くのブースが並んでいる。どれも魔道具にかかわる研究成果を発表しており、いまの声が聞こえてきたのは、この会場の中でも中央にあるひときわ大きな展示スペースからだった。



 研究者をはじめ、一般人を含む多くの来場客が耳を傾ける先で、また、



『偉大なるイシュタリカが我ら民間と手を合わせ、魔道具の新時代に備えて造り上げる、超巨大製造施設の建造も進んでおります!』



 アインは昨日のうちにロランに尋ねていた。

 ここでの発表は本当に歴史的なものになるだろうと聞き、道理で注目を集めていたのだと思った。



 広い会場の片隅で、アインは壁に背を預けながら声を聞いていた。

 いまなお、ひときわ大きな展示スペースから届く声に意識を奪われていた。



「……眠い」



 そういったのは、アインの隣で身体を揺らすアーシェだ。

 縁あってこの日はアーシェとこの会場にやってきていたのだが、彼女はあまり魔道具に興味がないらしく、眠そうな目をしている。

 アインの肘あたりに身体をふらっとぶつけ、そのまま体重を預けた。



「絶対にアーシェさんは興味なかったと思うんですが」


「ん。ない」


「じゃあどうして、一緒に来てくれたんです?」


「たまにはお日様を浴びてきなさいって、お姉ちゃんが。ついでに護衛として傍にいろって言ってた」


「護衛って、俺のですよね?」


「ん」



 例によってアインに護衛が必要かどうかという議論はさておき、シルビアが言いたいこともわかるアインは「なるほど」と簡素に言い頷く。



 しかし、わからない。

 セラはここでの研究発表に興味を抱いていたように思うのだが、アインはその理由を少しも予想できなかった。



 一応、聞き逃すことのないように届く声に耳を傾けていたが……



(セラさんにしてみたら、俺たちの魔道具なんて時代遅れな気がするんだけど)



 だからと言って、アインは考えることはやめなかったし、むしろここで彼はより深く考えるために頭を働かせていた。

 けれどセラの思惑がわからないことは相変わらずで、



「アーシェさん」


「ん、なに?」


「魔道具の新技術に興味を持つとしたら、どういうところですか?」


「美味しいお菓子を作れるかどうかとか」


「ああ、アーシェさんらしいですね」



 一方でアインが興味を抱くとすれば、魔石の制御装置の精度だ。

 だが実のところそれは、前々から人体のまったく影響のないと言える精度を誇っていたから、どちらかというと海結晶の代替品の発明という言葉に興味が向く。



 いまでこそハイム自治区やエウロ、ロックダムにもイシュタリカと同じように人体への影響が考えられた魔道具が流通しているのだ。



「うーん」


「さっきからどうしたの? 眠い?」


「いえ、目はぱっちりなので問題ないんですが……よくわからなくて……」


「? なにがわからないの?」



 言葉に詰まってしまったアインだったが、ちょうどよくシルビアの姿が頭に浮かぶ。



「たとえば母上が新たな魔法技術に興味を抱くとしたら、どんなことだと思います?」


「……威力と効果くらいじゃない? お姉ちゃんくらいになると、それ以外にはあまり興味がわかないと思う」


「そういうことです。ある分野において絶対的な知識を誇るような人が、どうしたらその分野に興味を抱くだろうなーって」



 どこかなぞなぞのように聞こえてくるが、アインは真面目。

 アーシェもアインをぼぅっとした瞳でアインを見上げ、彼が本気であることを確信した。とはいえ、声音から冗談を言っているとは思っていなかったのだが。



「私だったら――――」



 アーシェの声にも少し、さっきより力が入っていた。



「ほかのことを考えるかも。その技術自体に対してじゃなくて、周りにどういう影響を与えるのか、とか」



 昔は旧魔王領を統治していた者として。

 王になるため成長途中にあるアインに対し、元国王として言う。



「どういうことですか?」


「たとえば私がいま王様だったら、あの魔道具の……よくわかんないけど、すごい技術はすごいって思う。仮に私が魔道具研究の一人者でもそうだと思うよ」



 本題はここから。



「じゃあ、今度はその技術が国にどんな影響をもたらすのかじゃないかな」


「アーシェさんが言ったように、技術そのものっていうよりは二次的な影響ってところですか」


「ん。お金も動くならそういうのも気にしないといけないし」



 参考になる話だったが、いまの例はセラに関係ないような気がした。

 では、別の二次的な……何らかの影響などが、セラを動かすに値する理由だったということなのかもしれない。

 アインは展示会場を見つめながら腕を組む。



(ここにあの元相談役との関係も探すのは……)



 やはり難しい。

 頭を悩ませること、さらに数分。



『しかしご安心を。海結晶の加工を生業とする地、エルデリア(、、、、、)も大いに賑わっております。いまも海結晶の加工(、、、、、、)が行われているとあって――――』



 研究員が口にしていたエルデリアというのは、イシュタリカ北方にある都市のこと。

 三大都市と呼ばれる魔法都市イスト、冒険者の町バルト、港町マグナに比べるとその規模は劣るが、エルデリアは魔道具職人にとっての聖地とも言える場所だ。



 新たな技術が生まれる魔法都市イスト。

 流通の最前線とも呼ばれる港町マグナ。

 鍛冶師の聖地である冒険者の町バルト。



 これら三つの大都市の要素が、少しずつ混じっている。



 古くは海結晶の加工を担う場所として栄え、近年では新技術の試験などでも注目されている地域である。

 アインもいつか視察に行きたいと思っていた場所だから、聞き覚えがあった。

 聞くところによると、最近は特に発展が進んでおり大都市に劣らぬ町並みを誇った。



 研究員の話はつづいていた。



『先ほど申し上げた最新の施設での加工は、過去にない速度で素材の研磨から調整まで、すべて以前までの日じゃない速度で進んでいるのです。これからのイシュタリカの魔道具は、より精度を増した効果に限らず、海底資源、海結晶のみに頼らない時代になるでしょう!』



 会場中に響き渡る拍手の音だった。

 アインも頼もしく思うが、やはりセラのことばかりが脳裏をかすめる。



「ふぅん」



 とアーシェが、



「海結晶はまだこれからも使われるんだ」


「ですね。後継の素材は生まれてますし、新技術による置き換えも進んでいるようですけど」


「手段は多いほうがいいってこと?」


「らしいです。なんだかんだ、海結晶を用いた制御装置のほうが都合がいい魔道具っていうのもあるそうですから」



 むしろ一つの技術に頼ることのほうがどうかしている。

 イシュタリカは選ぶ手段を増やすことができてきた、ということ。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 そして――――。

 数十分後、昼になった頃に。



「んー……」



 アインは同施設の食堂で、アーシェと昼食を取りながら声に出した。

 周りには多くの来場客がいるというのに、注目を集めたりはしていない。

 簡素な丸テーブルを囲んで昼食にいそしむのが、魔王二人組みであるなんて、誰も考えてなどいなかった。



(どっちなんだろ)



 セラ自身に何らかの気になる情報が展示されるから、彼女はここに足を運んだ。

 それか、銀髪の男の動向が気になるから、彼女はここに足を運んだ。

 あるいはそのどちらもなのだが、やはり情報が少なくて、注文した料理にフォークを伸ばすアインの動きが鈍い。



(いや……そういえば)



 セラはアインと銀髪の男を近づけないようにしていた。何度も、これまでそうした節があったではないか。

 しかし今回、セラはアインを止めたりしていない。



(ってことは、あの男はここに来ていないんだ)



 つまりセラ自身に目的があってグラベル港に足を運んでいることがわかる。

 話を整理すると、セラがここに直接足を運ぶ必要があって、しかしアインに明かさず調べているようだ。

 ここにあの男との関連を疑わないはずもなく、



「……あの男が何かしてるから、ここにきて確かめてるのかも」



 アインがつい呟きを漏らした。



「ん、何か言った?」


「――――いえ、この料理おいしいですよね」


「うん。すごくおいしい。こういう展示会場のご飯だから、どうせ適当だろうって舐めてた」


「調理に新しい魔道具を使ってるので、その宣伝も兼ねてるそうですよ。各商会が力を入れてるって話です」


「おぉ……だからなんだ」



 先日も似たような話をしたと思いながら、アインはついさっき呟いた自分の言葉が正しいのではないかと思いはじめていた。

 再び整理するなら、セラは銀髪の男が何かしようとしているから、ここに調べごとに来た。



(ついでにそれが、この会場の展示と関係がある説が強い)



 魔道具、そのエネルギーの管理や制御。



 セラが酔狂でこうした催しごとに顔を出したことも、だからってアインに会わずにいることも違和感しかない。

 アインは整理したことを何度も繰り返し確認して、



(これらの関連から考えられることは何だろう)



 以前、臨海都市シュトロムを襲ったときよりもそうだ。

 あの男がまた、何か大きなことをしでかそうとしている気配を、アインは強く感じ取っていたのだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 容赦しないというわけでもないが、午後からのアインはこれまで以上に本腰を入れた。

 そして、セラの魔力の名残りを見つけ出したのだ。



 それはアインが王都に帰るまであと一時間もない頃、空は夕暮れ。

 もう少しずつ空の端々に黒が見えはじめてきた時間帯のことで、アインは海に浮かんだリヴァイアサンの甲板からグラベル港を見た。



「どうなさいましたか?」



 近衛騎士に問いかけられたアインが「ごめん、ちょっと気になって」と。

 答えたアインの横顔に、近衛騎士は普段は感じない緊張感と覇気を感じ取り、無意識に息を呑む。

 とんっ……アインが一歩進むと、その足音すら巨大な魔物の地響きのように思えた。



「――――いる」



 確実に、どこかに。

 アインという存在に強く影響を与えた竜人、セラ。彼女の気配を探ることはたとえアインでも難しい。

 セラという圧倒的強者にとっては、アインに悟らせないことなど造作もなかった。



「あそこか」



 はじめてといっていいほど明確に、セラの気配を探り当てた。

 するとアインは近衛騎士に「ごめん、忘れ物をしたから行ってくる」と告げ、驚く近衛騎士につづけて、



「すぐに戻るから!」



 と言い残し、駆け出した。

 タラップを抜けてグラベル港へ戻り、感じ取った気配に向けて風のように走った。



 数分もたたないうちに彼が足を運んだのは、グラベル港の中でも端の端、新設された街道ではなくて、古びた街道へ進む廃れた道だ。

 建物と建物の間にある、薄暗く細い道の先に――――彼女はいた。



「見つけましたよ! セラさん!」



 アインの声を聞いてセラが足を止めた。



「ふむ。やはり来たか」



 簡素に言って、彼女は足を止めてアインに振り向く。

 どうしてここにいるのか、何を隠しているのか。聞きたいことはいつだって山ほどあるのだが、アインはひとまず、自分に振り向いたセラを逃がさないということだけを考えて言う。



「俺が来た理由はわかりますか」



 けれどセラは頷かない。

 彼女は笑って、



「わかっておるが、話す気はない。アインもそれは知っていよう」



 笑いながら言ったセラの姿が、薄らいでいく。

 霧に包まれたように周りの視界が悪くなっていく。すぐさま足を動かしたアインがセラに近づこうとしたのだが、セラの傍にたどり着くことができない。

 霧の中を懸命に欠けるアインは、どんなに進んでもセラから遠ざかっていた。



「セラさん!」


「しかし驚いた。まさか儂の気配を見つけてしまうとはのう……。前に戦ったときから、また一段と強く成長したようじゃ」



 セラが笑みを浮かべながら優しい声で言った。

 まるで姉のような母のような、そんなアインを包み込む穏やかな声にほだされそうになってしまうけれど、アインは歯を食いしばりながら前へ前へ足を進めた。

 けれど、状況は変わらず霧の中でセラが遠ざかるだけ。



「しかしまぁ、悪くなかった」



 遠ざかりながら届くセラの声。

 アインが手を伸ばすと、さらに距離が開いていく。



「久しぶりにアインの顔を近くで見れた。儂もいい気分じゃよ。あとはそうさな……そのまま平和に暮らしてくれたらいい。古くからの家族たちも一緒に、ずっとな」



 だからここではわざと気配を悟らせたと、そう言っていようにも聞こえた。

 実際、セラの気配を探れるくらいアインは成長していたが、ここにセラがアインに見つかったらいいな……と思っていた気持ちも嘘ではない。

 それに、クリスから教わった術も活かせていたからだろうか。



 十数秒も経てば、セラの姿は完全に消えてしまう。最初からいなかったかのように、霧の中に消えてしまったのだ。

 すると、霧すらも最初からなかったかのように消え去った。



 夜の街中、古びた狭い道に立つアイン。

 懸命に動かしていた足を止め、視線の先につい数秒前までいたはずのセラが見えなかったから息をついた。

 もう、彼女の気配はどこにもない。



「……まぁ、こうなるだろうと思ってたけどね」



 悲観しておらず、逆に想定通りだったと笑う。

 ゆっくり歩きながら桟橋へ向かう途中、気が付くと花の香りがそばに降りていた。



「意外と気落ちしてないのね」



 シャノンだった。



「呟いてた通り、どうせこうなるだろうって思ってた自分もいるしね」


「へぇ、それだけなの?」



 シャノンがくすりと笑いながら問うと、アインが晴れやかな笑みを浮かべて、



「手掛かりは得られたから、あとは頑張るだけだよ」



 セラも銀髪の男の目的がわからなかったから、探っていたように思えてならない。

 そして、彼女がその目的を看破できたかどうかはさておき、アインはセラより先に看破してしまえばいいと考えた。

 銀髪の男が何を考えていたのか、そしてセラが何を考えてこの地に来たのか。



「ぜんっぜん情報がないのに、意外と前向きね」


「いや、情報ならあるよ」


「……あら、どこで見つけてたのよ」



 気にしているシャノンを伴って歩きながらアインが言う。



「銀髪の男、黄金航路の元相談役がすることには関連性がある。あいつは必ず大衆を巻き込む騒動を引き起こすために行動していた。イシュタリカに来てからもそうだった。港町シュゼイドでも、人寄らずの幽谷でも……ああ、海都市シュトロムでもか」



 いずれの機会でもそうなのだ。

 今回、セラが調べていたことも考えれば、おのずと考えられることもある。



「何をするのかはわからないけど、きっと次の狙いは――――」



 エルデリア。イシュタリカ北方にある都市。

 海結晶の加工により発展し、近年はそれ以外の要因もあって賑わう地。



「あのお方が秘密にしてるのに、動くのね」


「そりゃ、俺が王になる国のことだし。むしろここで、セラさんが動いてくれてるのならいいや~って投げるほうが問題じゃない?」


「ふふっ、そうかも」



 逆にセラより早く銀髪の男の目的を看破するくらいの気概がないと、この大国の王になどなれやしない。

 アインは夜空を見上げ、



「エルデリアみたいな場所に手を出せば、イシュタリカに大きな被害を与えられる。だけど、これまで以上の規模の騒動に……過去にない事件を引き起こそうとしてるはず。問題はその手段だ」



 何度か言葉を交わしたあの男の性格から察するに、間違いなく。

 奴が引き起こす騒動は徐々に苛烈さを増し、イシュタリカに与える傷も大きくなりつづけた。

 次はこれまで以上。むしろアインが想像する以上の騒動にしようとしている、なんて考えるのは容易だった。



今回の間章はもう一話かSS的なお話で終わりとなりまして、次章へと移っていく予定です。

引き続きweb版、そして書籍版、コミックス版ともどもよろしくお願いいたします。


今日もアクセスありがとうございました。

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