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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
第二期イシュタル統一物語:間章 グラベル港での出来事

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グラベル港でのことを話して。

コミックス最新刊が6月に発売します!

アインが魔王になる前の物語を、どうぞよろしくお願いいたします!

 エルダーリッチと赤狐の真祖が邂逅を果たし、言葉を交わしていた頃に。

 同じグラベル港の中でも一番大きな通りを挟んで立ち並ぶ、数多くの出展スペースを見て回るアインたち。



 ここグラベル港にはいま、通りに面していなくとも多くの出展スペースがある。

 アインが前に確認したように、団体によっては出店のために大きな施設を建築していることもあり、各所で力の入れようが窺えた。



「やっぱすごいなー」



 アインが感嘆した声を聞き、ロランが笑って、



「ボクのところも他のとこみたいに、色々出展できたらよかったんだけど」



 白衣の裾を風に揺らしながら言う。

 すると、それを聞いてバッツが口を開いた。



「しゃーなしだろ」



 次にレオナードが、



「ああ。ロランのところはあまりにも機密だらけだ。今回の出展も、細心の注意を払って準備されたと聞くぞ」


「そうだねー……そのあたりのこともあんまり話せないんだけど……」



 苦笑するロラン。

 通りにごったがえした人の中を歩きながらである。

 どことなく、その光景は王都の大通りにもよく似ていた。敷き詰められた石畳は真新しいこともあり、一見すると新都市のようですらあった。



(今後も使う予定があるんだっけ)



 アインが思い返す。

 今回の催しに限って整備するなど税金の無駄。今回整備されたグラベル港は、今後はより一層多くの用途で使われる予定があった。



 臨海都市シュトロムが襲撃されてまだ間もない。

 あの地はまだ復興途中だから、イシュタリカ全体の利益を考えてもグラベル港が整備されるのは都合がいい。

 これにより、襲撃の余波を最小限に抑える狙いがあった。



「ハイムの旧王都で復興に使っている魔道具にも、ロランの研究所で開発された技術が用いられている。自治区を預かる私ですら詳細を知らぬのだから、アイン以外には話せないだろうな」



 そうつづけたのはティグルだった。

 いまの言葉を聞いたロランが申し訳なさそうに言う。



「はは……ごめんね」


「気にするな。というかむしろ話さないでくれたほうが助かる」


「え? どうして?」



 ロランが耳と髭を揺らして問いかけた。



「可能な限り機密は耳に入れておきたくない。知らないほうが楽な立場でいられることのほうが多いからな」



 ティグルが笑って答え、つづける。



「だが、アインは知っているのだろう?」


「機密のこと?」


「ああ」


「知ってるけど、それはそれで問題があるんだよね」


「問題だと? どういうことだ?」



 小首をかしげたティグルに対し、アインが力の抜けたことを告げる。

 こればかりはアインにとってもどうしようもない、とある問題に関わる話だ。



「いやさ、魔道兵器も含めて俺もお爺様も機密は耳に入れてるよ。ロランが直接説明に来てくれることも少なくないし」


「だと思っていたが、何が問題なのだ?」



 アインは頭がいい。そして勤勉だ。

 シルヴァードだって、その統治が歴代国王の中でも特に素晴らしいものであると認められている。

 つまり、二人ともしっかりと学ぶ良き王族なのだ。

 しかし問題となるのは、



「主に、俺とお爺様の理解が追い付かないことかな」



 そんな二人でもまったく理解できていないこと。

 専門的知識の多くを王族がすべて理解すべき必要はないが、二人とも理解できるように努力している。

 ……だというのに、



「ロランが技術を一気に百年は進めたって言われてるから、俺たちじゃ端から端までよくわからないんだよね」


「なるほど。うれしい悲鳴というやつか」


「だいたいそんな感じ」



 ロランも大それたことは言わないが、既存の技術を遥かに上回る成果を出しつづけている自覚はあった。

 アインたちを前に説明する際は説明の準備にも余念がなく、何日も要する。

 入念な支度によりどうにか要点は伝えられているが、細かなところは無理があった。



 以前、ロランが城を去ったあとの謁見の間で、アインとシルヴァードが残って次のように話したことがある。



『――――うむ。申し訳ないが、ほとんどわからなかった』


『俺もです。ですのでお爺様、このあと、俺と一緒に書庫で復習というのはどうでしょう』


『奇遇じゃないかアイン。余もそうするべきだと考えていたところだ』



 果たしてそこまで二人がする必要があるかどうかという疑問もある。

 けれど二人は、魔道兵器というものがどれほどの影響をもたらすかよく知っていた。

 ハイム戦争において圧倒的な優位を生み出したことも記憶に新しい。

 また、技術の扱いについては王族も深く考えて然るべきなのだ。



 なので二人は学ぶことに余念がなく、ロランが説明に来る度に勉学に励んだ。

 今日も友人たちと楽しむだけで終わらないようにしたいところだ。



「なーんかこうしてっと、昔を思い出すな」



 皆がきょとんとしている最中にバッツが思い出していたのは、



「ほらあれだよ、課外学習。俺たちは城に行っただろ? あのときは騎士の訓練を見学して、いまは新技術を見学しようってんだから、ちょっと似てる気がしてな」


「ふむ……そんなことがあったのか」


「おう! 気になるのか、ティグル?」


「気になるな。王立キングスランド学園のカリキュラムは前々から興味があった。いい機会だし、皆の学生時代のことでも話してくれ」



 こうして、この日の視察……あるいは見学? 五人でグラベル港をめぐる時間は少しずつ過ぎていった。



 五人は展示をいくつも見て回った。

 やがて、もうすぐ夕方になろうという頃。

 アインとバッツ以外の……いわゆる研究者や文官適正の高い三人は足が棒になる思いだった。

 しかし、友人同士で新たな技術を見て回る機会は貴重で、何より楽しかった。



 グラベル港に新設されたレストランで早めの夕食もとった。

 テラスで通りの賑わいを目の当たりにしながら、足が疲れていた三人たちは休憩としても。



 ふと――――



(いまのって)



 アインが感じ取った、魔力の波動。

 木霊たちだ。あの小さな姉妹の気配を感じ取ったアインは、彼女たちの気配がした方向に目を向けた。どこかの研究所が建てた施設の屋根の上で、光る球がふわふわしているのが見えた。

 間違いなくあの二人だと思い、アインが椅子から立ち上がった。



 恐らく、何らかの展示の光とでも思われているのだろう。

 周りに木霊の光を気にしている者はいなかった。



「殿下、どうされましたか?」


「あ、ああ……ごめんレオナード。ちょっと気になるのがあって」



 五人の食事はそれからすぐに終わって、軽いデザートも楽しんだ。



「んお!?」



 バッツが慌てた声を上げたのは、食後の茶が席に届いたとき。



「やべぇ! この後、うちの展示に戻って父上の仕事を手伝うんだった! わりぃ! 俺はもう行くぜ!」



 バッツが残る茶を勢いよく飲みほした。

 暖かな茶だったからけほっ、けほっ! と軽くむせていたけれど、すぐにニカッと白い歯を見せて笑う。

 学生時代よりずっと男らしくなり、爽やかな笑みだった。



「やれやれ、相変わらず騒々しい男だな」


 

 レオナードが仕方なさそうな目でバッツを見ていた。



「でも、バッツらしいって思うなーボクは」


「まぁな。この男らしいといえば聞こえはいい」


「おん? どういう意味だ?」


「バッツはどこまでもバッツということだ。学生時代から変わらず、わかりやすい男だよ」



 バッツが座っていたレオナードの肩を小突けば、レオナードはわずらわしそうに手を振りながら笑っていた。

 ロランの肩もぽん、と叩いたバッツがティグルの肩にも手を置いて。



「慌ただしくて悪いな」


「気にするな。クリム家が主導となっている展示、あとで私も拝見させてもらう」


「ああ! そんときは俺か父上が相手させてもらうから、声をかけてくれよな!」



 最後にアインへ顔を向けたバッツが、



「アインもまたな! 楽しかったぜ!」


「うん。俺もだよ」



 こうしてまずはバッツが去った。

 すぐにロランとレオナードも別の仕事のために席を立ったのを見て、ティグルも同じようなことを言った。



 もう、日がほとんど傾いてしまっている。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、解散の時間が訪れたのだ。



 また集まろう、と約束を交わしてから。



「――――よし」



 幸い、木霊を見てからあまり時間は経っていない。

 アインが「マルコ」と呼べば、どこからともなく燕尾服の紳士が姿を見せた。



「こちらに」


「少し用事ができたんだ。人を探してこないといけない」


「かしこまりました。護衛は――――不要のようですね」



 にこりと微笑んだマルコに「頼んだよ」と言って、アインが人ごみの中に紛れ込む。大通りを歩く人々は一瞬、自分たちの間を風が吹き抜けていったような気がした。

 その風がアインが動いたことで生じたということは、誰も知らない。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「それで」



 クローネの声だ。

 夜、王都に帰ったアインはクローネに木霊とのことを話した。

 例によってセラのことは色々と問題があって話せないから、木霊たちが何かしているようだ――――という風に言い訳してである。



「木霊たちは逃げちゃったのね」


「……そ。すごく早かった」



 ちなみにアインがいまいるのは自室で、クローネの膝の上。

 ソファに座ろうとしたら彼女が先に腰を下ろし、ぽん、ぽんと膝を叩きながら「こっちにきて」といったから素直に甘えた。



 少しの間そうしてから、アインが居住まいをただした。

 クローネはアインと少し離れたことに不満そうだが、短く息を吐くだけ。



「木霊たちはアインと仲がよかったのに、どうして逃げたの?」


「たぶん、いたずらしてるからとかじゃないかな。だからちゃんと話を聞いておきたいんだけど」



 神出鬼没な木霊たちは、アインがエルフの里で会ったそのときから賑やかすのが好きであるというのが周知の事実だから、クローネにもこの説明で事足りた。

 実際にはセラのこともあるが、木霊たちはすでにセラから口止めされているから逃げたのか、ただの悪戯心で逃げたのか不明なままだ。



 クローネが「それじゃあ」と、



「クリスさんに木霊のことを聞いてみるのはどうかしら」


「確かに、それがいいかも」



 クリスならアインが知らない木霊の話を知っていそうだ。

 いまの助言に感謝したアインがクローネの頭をなでると、彼女はくすぐったそうにしながらアインに甘えた。



「今日は楽しかった?」


「うん。いろんなものを見れたし、みんなと一緒にいられたしね」


「ふふっ、よかった」



 クローネは微笑みを浮かべて、



「じゃあじゃあ、もっと聞かせて。本当は私も見たかったけど見れないから……どういうものが展示されていたの?」



 彼の腕を引き寄せ、抱き着くようにして。

 アインの土産話が聞きたくて、ついクローネは急かしてしまう。 

 もちろんアインも城で待っていた彼女のためにもっと話したいと思っていたから、間を置くことなく話しはじめたのだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 夢の中であることを、アインは瞬時に理解した。

 あのとき、あの世界で見た古い王都だ。

 それは旧王都のことではなく、いまの王都ができる以前の、まだ草原と海が広がっているだけの時代の景色だった。



 そこに、シャノンがいた。

 彼女は岬の先に立って、アインのことを待っていたのだ。



「シャノン?」



 歩いて近寄りながら声をかける。

 いつもならシャノンはすぐに振り向いたはずなのに、今日はそうしない。アインが隣に立つと、横顔を見られないようにぷいっと顔をそらす。



「え、ええー……」



 アインが困惑した声を漏らせば、シャノンがいつもより落ち着かない声音で、



「気にしないで! 別にその……顔が見えなくても話せるでしょ?」


「そりゃ話せはするけど、こうも隠されると、理由が気になってしょうがないんだけど」


「い、いいの! 今日はこのままで話しなさい! わかった!?」



 と、相も変わらず顔をそむけたまま言われたアイン。

 無理強いする理由はないから、彼は「わかった」と困惑したまま頷いた。

 一方のシャノンはほっと胸を撫で下ろして、



「……シルビア(あの人)のせいで、妙に緊張しちゃうじゃない」


「なにか言った?」


「なんでもでない! いいから、ちょっと話し相手をして!」


「そりゃ構わないけど、さっきから挙動不審じゃん」


「べ、別にいいじゃない! 赤狐が挙動不審だったらおかしい!?」



 挙動不審だったら有翼人(ハーピー)だろうが、狼男(ワーウルフ)だろうが関係ないのだが、それはそれとしてアインは突っ込まなかった。



 シャノンは今日、シルビアと話したからアインをこの世界に呼び寄せた。

 きっとアインはまだ知らないから、自分の口から話したくて……いいや、アインに今日のことを聞いてほしかった。



「……あのね」



 なので、いつまでも照れていてはダメ。

 自分でそれはわかっていたから、気持ちを落ち着かせてからアインを見た。

 今日、シルビアと会って話をしたということを、ここでアインに伝えるために彼に顔を向けたのだ。





今日もアクセスありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに読みに来たら昔からの推しが幸せになれそうで安心した。 幸あれ
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