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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
三章

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名代

いつもアクセスありがとうございます。ここから4章の始まりです。

 イシュタリカでも冬が近づき、外に出るには上着を羽織らなければ、風邪を引きそうになる寒さ。

 空は少し雲が多く、晴れ晴れとしているとは言えない天気。そんな中、彼は中庭に出てきていた。



「ほんとよく食うなお前達」



 海龍事件から5カ月、外はもう寒くなってきたころ。アインは城の中庭で、ペットの双子が餌を食べる様子を見ていた。性善説をこの双子に唱えるのは違う気がするが、全くと言っていいほど無害で、もはや城内のマスコットと化している。



「「はぐはぐはぐはぐっ!」」



 紆余曲折があったが、双子の海龍は飼うことが許された。現在の大きさなら、中庭にある水場での飼育が可能だったため、そこに放されている。水場は城門を通ったあとの、幾重にも作られた水路と繋がっており、そこそこの広さを誇っている。

 そのため彼ら海龍の双子も不便には思っていなかった。



「今日も元気ですねエルとアルは。ねぇアイン様?」



 エルとアル。アインが呼びやすくて分かりやすい名前がいい、そう思って考えた名前がこの名前だった。エルが雌で、アルが雄。性別が別々の双子だった。



「そうだねマーサさん。たくさん食べるから見てて気持ちいいよ」


「何を食べるのか心配でしたけど、杞憂でしたね」



 海龍の飼育実績なんて、あるわけがない。だから何を食べるのか、どう育てればいいのかなんていうのは探り探り行われてきた。その中でも、食事には特に問題がなかった。魚を食べれば牛や豚のような家畜も食べる。陸上にすむ魔物の肉も食べる、そして野菜も問題なく好き放題食べていた。

 あとは海水と真水の2つの水を用意してみたが、真水でも特に問題はないようだった。真水でも問題ないのが確認されたので、城内の水場に放されている。



 ちなみに今は、マーサを含む3人の給仕が双子に餌やりをしている。肉や魚、野菜などバランスよく用意されたメニューだった。



「はいはい。まだおかわりあるわよ」


「いい子いい子。あぁほら礼してるわ、ほらこっちよ」



 2人の給仕が餌を与える姿を見ていると、なんとなく和む。当初海龍を飼うと決まった時は、城の人間たちからとても怖がられていた。マーサが覚悟を決め餌を持っていった所、ピーピーと可愛らしい声で鳴かれてしまい、その恐怖はあっさりと消え去った。その後は給仕たちの間で当番制となり、順番で餌やりをしている。

 アインは飼い主だが王太子として時間が取れない時や、学園に行くときなど。そうした時間が多いため、給仕に手伝ってもらうことが多かった。



「キュルルっ!」


「キュアっ!」



 食事への礼なのか、一言声を上げてから水の中に潜り始める。



「あぁ行っちゃった……」


「はぁ癒されたわ。じゃあ行きましょうか……アイン様。それでは失礼致します」


「うん、ありがとね」



 そしてマーサを残して、二人の給仕は次の仕事へと向かって行った。



「食事をしている姿を見る限りだと、可愛い子達なんですけどね。やっぱり水に潜った後の動きをみると海龍なんですね」


「小さくても、海龍に違いはないんだろねあれは」



 彼らも恐らく、生まれつきで海流のスキルを持っているのだろう。体を動かさずとも、水の流れで水路を移動したり、それをお互いにぶつけ合って遊ぶ姿が見受けられた。



 アインが水場に足を運ぶ時、泳がないで水流に乗って運ばれてくる姿は、すこし間抜けにも見えるが可愛らしくもある。



「さてと。それじゃ俺もそろそろ行こうかな」


「畏まりました。……何か御用事でしたか?」


「お爺様に呼ばれてるからさ、ちょっと顔出してくるよ」


「承知いたしました。それではご一緒致しますね。お茶をご用意致します」



 双子の様子を楽しんだアイン。今日は学園が休日だったが、昼過ぎから話があるとシルヴァードに呼ばれていた。遅れてシルヴァードを待たせることが無いように、早めに向かうことにした。




 *




「お爺様。ただいま参りました」


「うむ。お主はカティマと違い、時間を守るよい子だ」



 あっさりとディスられるカティマのことは、アインも特別フォローすることはしない。そうしてアインは、シルヴァードの正面の席に腰掛けた。部屋で待っていたのはシルヴァードといつもの二人、ロイドにウォーレン。

 そしてアイン側の方は、アインとクリスの2人が腰かけ、合計5名が集まっている。



「こんなに重鎮が集まって。どうしたんですか?」


「ウォーレン、説明を」


「承知しました。アイン様、アイン様は王太子というお立場にあります」



 シルヴァードに促され、ウォーレンが説明を始める。



「うん。その通りだね」


「過去何度もご説明致しましたが、王太子は陛下の名代として、多くの公務に向かうことがございます」


「それもわかってる。ということは、何か俺がやることが決まったってこと?」


「左様でございます」



 肯定の意思をアインに伝え、続いてウォーレンは数枚の資料をアインとクリスの二人へと手渡した。



「ウォーレン様。これは?」


「まずは一枚目をご覧いただきたい。まとめた数字は、エウロと我々の取引における金の動きなどをまとめたものです」



 なぜエウロ?と不思議に思ったアインだが、言われた通りその内容を見る。



「……随分と好調なんだな」


「えぇ。アイン様が仰る通り、採掘量が多いみたいですが」


「お二人とも、気が付いて頂けたようでなにより。仰る通り、採掘量が順調でございます。水面下で、新たな魔道具の企画も進んでおります。ですが現状、エウロから取れる海結晶は、イシュタリカにとっての必需品なのです。まさかこれほどまでの成果を得られるとは、思ってもみませんでした」


「うん……確かにこれほどの量なら、イシュタリカとしては重要な取引だね」


「正直に申し上げますと、新たな魔道具の規格も……それが確実にできあがるという保証もありません。開発はここ数年で大きく進んでますが、確約は無いのが実情です」



 イシュタリカは、何をするにも魔道具を利用している。その中には必ず海結晶が使われており、それがなければ魔石から人体に有害な物質が流れ込み、大きな悪影響を生じる。だからこそ海結晶はイシュタリカにとって重要な素材なのだ。



「そのため。ここまでの成果が上がったエウロとの関係を、一段階親密なものとすることを、我々は決定したのです」


「まさかそれって。俺がエウロに行って……」



 その先がハイムだったら、また別の気持ちや考えが頭をよぎったかもしれない。

 だがエウロならば問題ないだろう。そんなに動揺していない自分にアインは安心した。

 自分も成長したのだと実感する。



「その通りだアイン。そこからは余が説明しよう……初めての名代としての公務では、身に余るかと思った。だが皆と会議をした結果、アインならば問題はないだろうと判断が下った。余が足を運ぶにはことが大きくなりすぎる、そこで名代としてお主がエウロへと行くことになった」


「お、お爺様っ……そんな急にっ。学園はどうなるのですか」


「うむ。定期試験は来週だったな、学園の最高理事として許可する。帰国次第同じ内容の試験を受けることとする、なので問題はない。組の降格も、試験後の判断とするので安心するといい」



 学園も問題ない、そして帰国次第試験をうけることが許される。それを聞いて組の降格がないことに安堵する、とはいえ試験の結果が芳しくなければ降格もあり得るが……。



 ところでアインは、いつか自分が名代として公務にあたることは覚悟していた。だがそれでも初めての名代がエウロへの出張なんて、全くこれっぽっちも思ったことは無い。



「王位継承権の問題とかから、俺がエウロまで出向いてもよろしいのでしょうか?万が一があったら……」


「クリスを筆頭に近衛騎士団全体と、ディルもつける。ウォーレン子飼いの者達もつくため、問題はない。城から近衛騎士団が居なくなるのは辛いが、それでもいつでも万全を保てるわけではない。城の警戒レベルは大きくあげるので、両者ともに問題はなかろう」


「あぁ……そこまで護衛してくださるなら、安心ですね。うん」



 近衛騎士団。イシュタリカで、最も優秀な騎士達の集まりだ。武に秀でているだけでなく、彼らは頭もいい。一人一人が、緊急時に指揮官として行動できるよう育て上げられたのが、イシュタリカの近衛騎士団だ。そしてクリスとディルの二人も護衛として付いてくる。十分な護衛力を誇っている。



「それで、いつ向かえば」


「来週中となる。よいな?」


「また急な……」



唐突に決まった仕事に、若干げんなりしてしまうが。文句を言っても仕方がない。



「ウォーレン、クリス。アインのことを頼むぞ」


「承知いたしました」


「はっ!」


「って、ウォーレンさんも来てくれるんですか?」



 ウォーレンが一緒に来るなら心強い。そう思ったアイン。会談のような場で、彼以上に頼もしい人物は、アインには思い浮かばない。



「特別な会談でございますので。陛下の名代として王太子殿下、そして宰相の私が出向くこと。この意味はあちらもしっかりと理解することでしょう」



 イシュタリカの誠意と、本気度を見せるためにこのメンバーが選定された。



 会議の中では、田舎国家にそこまでしてやる必要もないといった意見が多く出たのだ。国の強さは圧倒的にイシュタリカが勝っており、下手に出ていると思わせるのは容認できないという、そんな姿勢の者達が多くいる。だからこそ、両者の意見をまとめた結果がこれだ。

 ウォーレンとアインの二人で、本気度を証明する。それと同時に、イシュタリカの戦力を示威行為として見せつける。



 そのため今回アイン達が乗り込み、エウロへと向かう船は……。



「アイン。お主に私の名代として、ホワイトキングの利用を許可する。我らの本気を見せるとともに、イシュタリカの強さを見せつけよ」



 アインがエウロへ向かうため、乗り込む船はホワイトキング……歴代イシュタリカ王が引き継いできた、イシュタリカ最大の戦艦だった。



 その後のアインは、身近の女性たちの説得に走り回った。

 まずはオリビア。唐突な話に、シルヴァードへと撤回させに行きそうになったのを、なんとか止めた。その後は朝までオリビアの部屋で過ごし、話や茶を共にすることでなんとか許しを得た。

 次にクローネ、彼女はオリビア程の事態にはならなかった。だが帰国した後は、何日間か買い物に付き合うことを約束させられる。それと一つの手紙を預かった。



『お父様たちに渡してほしいの。エウロ経由で、なんとかアウグスト邸に届くようにね』



 それを聞いて快諾したアイン。必ずと約束し、手紙を届けることを誓った。



 アインは旅支度に奔走すると思っていたが、そこは優秀なマーサだった。流れるような速さでアインの旅支度を終え、出発前日には、すでに完璧な用意が終わっていて、荷物は港へとすでに運ばれていたのだった。



 そして当日、アインは特に大きな騒動もなく、専用列車に乗り込みクリスやディル。そしてウォーレン達と共に港町マグナへと出向き、イシュタリカ王専用船ホワイトキングへと乗り込んだ。



 姿を見たことはあったが、乗り込んだことは無いアイン。乗り込んでみれば、その豪華なつくりや多くの兵器に驚き、つい船内を探検してしまう。ウォーレンが、その様子を微笑ましく見ながら案内をするのだった。




 *




 ここエウロの海も、冬に近づいて寒い風が吹き抜けている。特にアムール公が住む城は、海に面しているため冷たい海風が肌に突き刺さる。

 いつもならそんな風も、少し面倒に感じていたとはいえ、今日ばかりはその面倒な思いを感じることはできなかった。



 なぜなら、それ以上の緊張することがこれから起こるからだ。



「いやはや……アムール公。あれほどのものとは想像できませんでしたね」


「……あれは、まことに人が作り上げた物なのか……!?」



 エウロにある、アムール公が住む城の近く、そこにある停泊所に泊められた3隻の船。城とは反対側の岬には、別のイシュタリカ船が停泊している。その船達でも度肝を抜かれたというのに、その倍以上も大きな船が3隻、その中央にある船はさらに大きく、美しい。



 つい先ほど到着した、エウロとの会談に臨むイシュタリカの重鎮が乗ってきた船だった。

 両脇に並ぶ戦艦は、その重鎮たちの護衛の騎士達が乗り込んでいるのだろうと、予想されている。



 その3隻の中でも、特にその場にいる者達の目を奪うのが、その中央にある一番の存在感を放つ船だった。



「名高きイシュタリカ王専用船……ホワイトキングですね」


「エ、エドよっ……私の姿になにか問題はないか!?失礼に値せぬか!?」


「ございませんよ。彼らは高い文化を誇る国の方達です。誠心誠意、我らの考えを伝えれば怒ることもないでしょう。ご安心を」



 つい立場も忘れ、ハラハラしてしまうアムール公。圧倒的なイシュタリカの強さに、これ以上正気を失わないよう努めるので精いっぱいだった。そんな彼の横では、エドが彼を落ち着かせようとしていた。



 そして、唐突にブオーッと大きな汽笛の音が鳴り響く。それはホワイトキングの両側に停泊した巨大な戦艦からだ。それを合図に、2隻の戦艦から身なりの良い騎士達が姿を見せ、整然とした歩きで降り立った。そしてホワイトキングを挟むように2列に並び、中央を開ける。



「……統一国家イシュタリカ。最高の騎士団、近衛騎士団でしょう。見事な動きです。一糸乱れぬ統一感、見事という他ありません」


「今この瞬間侵略されては、一瞬で我が城が落ちそうだな……」


「何をおっしゃいますかアムール公」


「む、そ……そうだな。一瞬で落ちるなんぞ」


「あの3隻が近づいてきた時点でもう落ちてますよ」



 それを言われてしょぼんとしてしまうアムール公だが、それは事実だった。数多くの砲撃や魔道具を装備しているイシュタリカ最高峰の3隻。それがここまで近づいているのだから、勝負をしようとするならば、もう決着はついている。



 そんなことをしているうちに、ホワイトキングから4人の人が降り立った。近衛騎士団の間を歩き、アムール公たちの許へと進み始める。


「アムール公。どうか毅然とした態度で」


「う、うむっ……」



 どうにか気を取り直して、彼らを迎える心構えをするアムール公。一歩ずつ向かってくる彼らをみると、心臓の音がどんどん大きくなるのを実感する。



 そしてついに、邂逅の時がやってきた。



「お初にお目にかかります。私はウォーレンと申す者、イシュタリカでは宰相を務めております」


「こ……こちらこそ。私はアムール・フォン・エウロ。ここエウロの元首である」


「ウォーレン様。貴方様のお名前は、ここエウロでも耳に致します。私はエド。家名はございません……幼き頃より、アムール公に仕えてきた老臣でございます」


「貴方がエド殿であったか。お褒めに預かり光栄ですな、私も貴方様のお名前はよく存じ上げております。先日は大陸の猛者が集うという大会で、優勝を飾ったとか」



 一瞬、ピクリとエドの眉が動いた。遠い大陸の事だというのに、家臣の情報までしっかりと把握しているのかと。



「おっと。私が長々と会話をしていてはいけませんね。ご紹介致しましょう……こちらにいらっしゃるお方が、シルヴァード陛下の名代として参りました。王太子アイン様でございます」


「アムール公、お初にお目にかかる。私はアイン・フォン・イシュタリカ。陛下の名代としてここエウロへと参った。此度は実りのある会談となることを祈っている、どうかよろしく頼む」



 アインは船の中で、ウォーレンからいくつかの指導を受けていた。

 決して完全な上からの目線で対話をする必要はない。だが完全に平等という立場である必要もない、少しのさじ加減ではあるが、少しだけ立場を上にみえるよう振舞って欲しいと。



 少し難しく感じたアインだが、その通りに振舞えるよう気を付けていた。



「此度はアイン殿下と出会えたことに感謝する。さぁこのような場で長居はお体に触るであろう、我らが城へと案内しよう」



 両者にとって、重要な会談が始まる。これから先のお互いの繁栄を求めるがため、多くの思惑が会談の中を駆け巡ることとなるだろう。




 *




 アイン達、イシュタリカからの一行がアムール公の城へと入城していた時。それは起こった。



 不穏な事というのは、前触れなくやってくる。そして今回もそうだった。

 エウロにあるアムール公の城。その近くにある町には、ある国からの客人が姿を見せていた。

 自らの身分を大いに利用し、強引にアムール公とアイン達がいる城へと向かっている。3台の馬車を率い、彼は張り詰めた表情をして大急ぎで馬を走らせていた。



 町を歩くエウロの民は、何事かとその馬車たちを見るものの、その中に誰が乗っているのか。そして何が起こっているのかなんて何一つ理解することが出来なかった。



「で、殿下っ……!いささか強引なのでは!?」



 一人の幼い男の子が、自らの主君へと意見を告げた。



「構わぬ!我々ハイムの王族が来るのだから、エウロと言えど無下にはできぬだろう!時間を与えて、隠蔽されては叶わぬ!大急ぎで向かうのだ!」


「しょ……承知いたしました!ほらお前たち!馬を急がせろ!」



 ハイムの第三王子、ティグルには今年から一人の幼い護衛見習いが付いている。

 彼の名はグリント。ハイムが誇る大将軍、ラウンドハートの家系に生まれた、次期当主だ。聖騎士を持って生まれたことやその才能から、まだ幼い身ながらも第三王子ティグルの、護衛見習いとして付き添っている。



「はっ!」



 更に馬を急かし、城へと向かう一行。

 ようやくだったのだ、ようやく集まった手がかりから、彼女が最後にいたのはエウロというのがわかったのだ。



 彼はその手がかりを得てからというもの、ここエウロを目指すために様々な手回しを行ってきた。そして今日この日、ようやくエウロへと到着し、もうすぐアムール公の城にたどり着く。



「……もうすぐだ。必ず見つけ出してみせるぞ、クローネッ!」



 彼の暴走した一途な思い、それがどういう結末に転がるのかはだれもわからない。たとえその場に、奇妙な縁によって結ばれたアイン達が待っていようとも。



 ……イシュタリカの王太子と、ハイムの王子。彼らが邂逅するのは、おそらく誰一人として望む者がいない、それが両者の……いや、ハイムのためだろうと。



これからも皆様に楽しんで頂けるよう、読みやすく面白い文章になるよう続きを書いていきます!

どうかよろしくお願いします!

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[気になる点] ここの話から4章と書いてありますが、3章になってます
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