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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
三章

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知識のすれ違い

総合の四半期ランキングに、今日付で49位に入ってました。

教えて頂いたので確認したらとても驚きました。

皆様の応援のおかげです、本当にありがとうございます。

 王立キングスランド学園の案内はそれなりに時間を要した。

 広い土地にいくつもの専用の施設。アインにとっても初めて見るものが多かったため、それを知ったディルも事細やかに案内や説明を行っていた。



「さて、これで以上です。主要な施設群の説明とご案内は終わりですね」


「ありがと。こんなにいろいろあるなんて思ってもなかった、でも俺が使う場所って少なそうだけどね」


「確かにそうですね。ですが図書館に魔法の実習棟は便利ですから、城で試したり調べるよりかは使いやすいかと思われますよ」



 この学園には巨大な図書館が設置されており、大きさに負けず蔵書量もイシュタリカ内でも有数と言える。



一組(ファースト)しか閲覧できないエリアもあるので、是非今度見に行っては如何でしょう」


「え、それって城にないような本まで?」


「ございます。というよりもイシュタリカでも一冊しかないような貴重な資料まで保管されてますよ。厳重に警備や劣化しないよういくつかの魔法がかけられてますが」



 デュラハンに関することや、正体不明の魔石について何か手がかりがあるかもしれないと思ったアイン。

 せっかくの自由授業制なんだから、それを活用して調べものでもするかと決めた。



「じゃあ今度行ってみるよ」


「生徒手帳はお忘れなく。それがなければ入れませんから」


「りょーかい。あれ、そういえばディルは学園にいる間ずっと俺の護衛をするの?」


「常にとは参りませんが出来る限り御傍に居りますよ。私も一組(ファースト)なので授業は自由なのですが、最高学年はどうにも自由というくせに抜けられないことが多く」



 学園内での護衛は、あくまでもディルの見習い試験も兼ねている。王立と銘を打ってるだけあり、この学園はとても安全な場所だった。王太子という立場から、理想を言えば常に傍に控えているのがいいだろう。とはいえ学園内であり、同じく生徒だったディルは常に傍にいるというのは難しかった。



 アインは楽観視しており、一人でゆっくり過ごせる時間もあると考えれば別に問題ないと思っている。



「まぁいいよ。ここはそれなりに安全だってお爺様も言ってたし。あそこにいる人たちも、何年次かはわからないけど一組ファースト?」


「左様でございます。基本的に数人規模で自由にしている者達は、学年問わず一組ファーストです」


「そっか、そういえばさ」



 ちらちら外で自由に過ごしている生徒を見かけたアイン。今目にしたのは二人の女生徒。

 ディルについて知らないことだらけだったアインは、たまにはと思っていつもは話さない話題をディルに向けた。



「ディルってどっちのほうが好み?」



 二人の女生徒を見ながらディルに問いかけた。



「わ、私の好みですか……?」


「そうそう。たまにはこういうことも聞いて、ディルの事知りたいなって」


「む、むむむ。なるほどそう言われてしまえば」



 特に渋ることなく答えを口にしてくれそうなディルに、アインは喜ぶ。



「いいじゃん俺しかいないんだし。教えてよ」


「……どちらも好みではありません」


「え?ほんとに?可愛いと思うけど」



 二人とも容姿は可愛く、スタイルも悪くない。そのどちらも違うと言われて理想が高いのかと思ってしまう。



「うーんならいいや。じゃあディルの好みってどんな人?」


「……最低でも、私より強い女性がいいですね」


「え?」


「できれば身長も元帥閣下、父上と同じぐらいはあればよいかと。同じく逞しい体つきだと更に魅力的に感じます」



 想定外の答えにアインもすぐには対応できなかったものの、3テンポ程遅れて返事が出来た。



「つまりロイドさんみたいな強さと体の女性が好きってこと?」


「左様でございます。組み敷かれたいですね」


「お、おうそうか……出会うのは難しそうだけど、応援してるから」


「ありがとうございますアイン様!この話をすると大抵は無理だと言われるので」



 それはそうだろうなとアインは納得した。ロイドほどガタイが良くて逞しい女性なんて、どこにいるのだろうと思ってしまう。



「少し早いけど、ラウンジ行って軽くご飯食べちゃおうか。人が来てからだと面倒だろうから」


「承知いたしました。ではご案内いたします」



 自分で聞いておきながらこの話題を掘り下げたら大変だと思ったアインは、移動して茶を濁すことにした。

 まだ昼食には少し早いが問題ないだろう。ピークの時間となる前に、軽く食事をすることにした。



 クリスが昼過ぎには迎えにくるので、少し時間を潰してアインは城に帰ることになる。

 ディルは午後も学園にいなければならないため、アインだけが帰ることとなった。




 *




「えぇ田舎の方の出身でして。このような格式高く、素晴らしい学園で皆様と切磋琢磨出来ることがとても嬉しく思います」



 アインがディルに学園案内をされていた時と同じ頃。

 近くのリーベ女学園では、編入という形で入学したクローネがクラスの女生徒たちと話をしていた。



「まぁ。クローネ様のようなお方にそう言われてしまっては私達が霞んでしまいますわ」


「そうですわね。クローネ様の様にお美しい方と友人になれるなんて、私も嬉しく思います」


「なんでも宰相ウォーレン様のご推薦だとか。必須の課題もほぼ満点だったと聞いて、私たちは皆クローネ様とお会いできる日を心待ちにしてましたのよ」



 どこまでが世辞で、どこからが本心なのか。今までも貴族社会で生きてきたクローネはそんなことを考えてしまう。



「もしよろしければ私の兄とお会いしてくださいませんか?兄もクローネ様のことをすごく好ましく思うでしょうから!」



 あぁやっぱり同じ面倒はここでもあるのか。そう考えたクローネ、彼女にとって異性に関することをあしらうのは慣れたことだ。

 相手は貴族、そしてハイムの貴族であるアウグスト家の威光は通用しない。だからこそウォーレンの威光が大きな影響を作り出す。



「そんな。ただの平民に貴族の殿方は釣り合いませんわ。大変光栄な申し出ですが、私では淑女としてまだ足りないことばかりですもの」


「そんなことございませんわ。あのウォーレン様がお認めになられた方なんですから、それにこんなにもお美しいクローネ様を邪険にするわけがありませんもの」



 美しい、可愛い、褒められるのは嬉しいことだが彼女たちにこう言われてもあまり嬉しく感じない。

 今までに経験してきたパーティのやり取りと変わらない。



「そう仰って頂けて光栄に思います。ですが私がなにか粗相をしてしまえば、ウォーレン様にもご迷惑が掛かりますから……」



 こう言ってしまえば彼女としても強く出られないだろう。少なくともウォーレンの庇護下にあるのは嘘でないのだから。



「ねぇ貴女。ウォーレン様のお考えもあるでしょうから、そう強く勧めてはクローネ様も困惑なさってしまうわ」


「そう……ですね、申し訳ありませんクローネ様。つい何か良いご縁を結べるかと思いまして」


「いいえ大丈夫ですわ。私のことを良く思っていただけて嬉しい限りですもの」



 どうせ側室に当てるつもりだろうと思った。貴族でもない女を正妻にあてるわけがない。

 そもそもクローネは最初から相手にしていないわけだが、話がすんなりと収まったのは良かった。

 ハイムにいた頃ならば、空気を読まずに話を勧められて気が滅入ることはいくらでもあったからだ。



 リーベ女学園は良い場所だ。学則はとても厳しいものの、立派な淑女を育成するのに何一つ問題がないと感じる学園だった。クローネの目標はとても高い。そのためリーベ女学園でも高い成績を収めることは当然ながら、ウォーレンから与えられる課題もこなさなければならない。



「……これからよろしくお願い致しますわ。皆様」



 編入学と言うことで、学園へと通う期間はそう長くはない。そんな中、学べることは周りの倍以上のペースで学ばなければならない。クローネは自分にできる最善を尽くそう、そう心に決め学園初日を終えた。




 *




「カティマ様。お待たせ致しました、こちらがご注文の品物でございます」


「ニャニャアッ!?ついに来たかニャ!」



 アインとクローネ。イシュタリカの将来が学園初日に臨んでいた頃、城では自室で届け物を受け取ったカティマが居た。

 それは彼女が年単位で探し続け、大陸イシュタルの端から端を探してようやくみつかった一冊の大きな分厚い本。

 カティマはこの一冊の本のため、一年間で自分が自由に使える金の2/3程を使ってしまった。



 彼女は少しの後悔もなく、むしろこれまでの生涯でもトップクラスに入るほどの代物だった。



「うむいい仕事だったニャ!ありがとうニャ」


「いえいえ。それではごゆっくりどうぞ」



 給仕が梱包された箱を手渡す。中にはお目当ての本が入ってるのは分かっているが、このドキドキ感は抑えきれない。

 慎重に開封し、本に傷をつけないよう気をつけながらその姿を箱から取り出した。



「……さすがの一品ニャ」



 とある高名なエルフが一生を賭して書き上げた一冊の本。それがこの本だった。

 中身への強い興味はひとまず置いておこう。それでもその本の外装すらもある種のオーラを感じる。



 ドワーフの名工が作りあげた革製の外装。一言に革製の外装と言ってしまえば寂しさも感じてしまう。

 その美しくも厳かな革表紙ははたして型押しなのか、革を彫って仕上げられたのか。技法が全く分からない。

 素材は恐らく、長い年月を生きた鱗のない小さな龍種の皮膚だろう。1cm程の分厚くも頑丈な素材である。

 その分厚い皮を使って作られた立体感のある作りは、それだけでも大きな価値がある一品だ。



 研究馬鹿のカティマと言えど、こうまで見事な物であれば扱いには注意をする。

 自分専用に作られた小さな手袋を手に嵌め、気を引き締めて本を開く。



「……やっぱり簡単には読めないニャ」



 著者の高名なエルフとは数百年……もしくは千年単位で生きているかもしれないと言われている、長い時を生きて来たエルフだ。

 そのエルフは勤勉で研究第一の男だったらしい。ちなみに今生きているのか、死んでいるのかも分からない。

 しばらく前に隠居したと言われた後から、彼の消息は不明のままだ。



 そんな彼が使った文字は、『古きエルフ文字』と呼ばれる古いエルフたちの間で口伝の際に使われていた特殊な言語。

 研究一筋だったカティマとしても、いくつかの古きエルフ文字を調べ内容は理解していた。

 そういうものの、あくまでも単語で言えば数十個といったところで、文章を解読するのには難しい。



 うんうんと唸り続けこの本を読もうとページをめくってみるものの、さっぱりだ。



「魔王に関することで、特に詳しいと言われてるこの一冊ニャ……デュラハンとかだって何か情報があるはずニャのに」



 タイトルに関して言えば多少は理解してる。カティマは魔王に関する事柄を纏めた本として、この高級な一冊を探し求め購入したのだから。だからこそカティマも表紙に記入されている魔王という文字は理解できた。



「……ビンゴニャ」



 そして彼女は見つけた。文字が読めないなりにも挿絵も用意されているこの本だからこそ、資料となるであろうページを発見することができた。



「ニャるほど、これは初めて見る姿だニャ。興味深い……初めましてニャ、君が今アインの中にいるデュラハンだニャ?」



 魔王の側近として描かれているデュラハン。それが意味することは、アインの吸収した魔石の持ち主がこの挿絵のデュラハンだということだ。なんとも精悍な顔つきをしている。デュラハンは騎士の姿をして仰々しい鎧をまとっているとはいえ、種族としては妖精の一種だった。挿絵のデュラハンの姿は、少し長めの銀髪を靡かせる美丈夫だ。



 同じくいい顔つきをしているアインとは、どことなく似ている気がした。



「ニャー……姿が分かっても、やっぱりちゃんと読みたいもんだニャ」



 何とももどかしく感じる。せっかく手に入った本だというのに読めないのが悲しくてならない。



「しょうがないニャ。研究室に行って資料を集めて、ああ新しい資料も注文しないといけないニャ」



 読めなかったものの研究意欲が強くなる題材に、カティマは気持ちを新たにまずは文字を解き明かすことにする。

 大枚をはたいて購入したという理由もあるが、なによりこのままわからないのはカティマにとっても悔しいのだ。



 そして机からメモできる用紙を取り出し、必要な物をリストアップし始めた。

 一通りを書き終えたところで、再度本をペラペラとめくり始める。



「しっかしいい本だニャ。挿絵も綺麗に描かれてるし、早く解読したいニャ……ニャ?」



 とあるページでカティマの指が止まる。そのページに描かれていたのはフードを被っている女性。

 目は見えないものの、口元から察するになかなか美しい女性に思えた。

 黒いローブに身を包み、いくつかの宝石を身に着けている。これはおそらく魔道具か何かの一種だろう。そして手に持った大きな杖。初見でわかる、彼女は魔法使いだ。



「この女も魔王の側近かニャ?あるいは嫁?まぁいいニャ。解読後の楽しみにとっとくニャ!……それにしても、資料探すのも一苦労だニャ。古いエルフと繋がりのあるエルフが近くにいたらニャ……はぁ、難しいニャ」



 古きエルフ文字と言われる言語は、基本的に口伝でしか伝えられていない。そのためこの本のように、文字におこされるのは数少ない機会しかない。

 そしてその言語が分かるエルフの部族はすでに数が少なく、探しても見つけるのにまた数年はかかる。

 それを思うとあまり現実的ではなかった。



 だがカティマからしてみれば、興味をそそられるページしか存在しないこの一冊。その一冊を解読することを心に誓ったカティマ。



 そんな中、ドアをノックする音が聞こえた。

 絶対に解読するぞと気持ちを固めたカティマの元に来客が来る。ノックされた音を聞いてカティマは返事をした。



「誰かニャ?」


「私です」



 カティマの部屋に足を運んだのはクリス。



「入っていいニャ」


「失礼致します。カティマ様、妃殿下がお呼びです。お呼びというかお怒りです、なんでもカティマ様がご予定を遅刻しているとか……」


「やってしまったニャ。仕事があったのニャ……ごめんニャクリス!この箱とかちょっと片づけておいてニャ!」



 クリスの報告に顔を青くしたカティマが急いでララルアの元へと向かった。部屋を飛び出すと同時に、クリスに本の入っていた箱を片付けて置いてくれとお願いをする。



「走っては危な……もう遅いですね。はぁ……カティマ様、もう少し落ち着いてくれたら私も助かるのになあ」



 いつもカティマに何かしらの事件を起こされているクリスにとっては、もう少し落ち着いてくれた方が助かることが多い。

 そう考えるもののまずは依頼された掃除を行おうとした。



「箱を片付けるぐらいなら私でも大丈夫だもんね。っと……」



 梱包に使った箱を見て察したクリス。また高級な物を買ったのだなと。そうともなれば箱も念のため取っておくことにした、この後箱を研究室の入り口まで持ってくことにする。



「あぁ本を買ったのねカティマ様。……って、本が開きっぱなしだわ。閉じてあげようっと」



 カティマは本を開いたまま部屋を飛び出していった。

 折角の高級な本ならば、閉じたほうが本にもいいだろうと考えたクリスは本のそばに行く。カティマが全く解読できなかったその本のそばへ。



「うわぁすっごい久しぶりに見たこの文字。よくこんな古い本手に入れて……高かっただろうなぁこれ。えっとなになにタイトルは……『魔王の真実についての考察と、彼の側近達について』。えぇ……なんて物騒な本を買ったのよカティマ様」



 クリスはその本の文字が読めた。彼女が産まれた地方の部族は、今でも古い教えを守って生活を送っている。

 そんな中久しぶりに見た『古きエルフ文字』に興味を抱いた、だがタイトルを確認して興味は薄れていってしまう。

 興味が薄れていった結果、特にページをめくることもせず本を閉じた。



「よししっかり閉じて。これで大丈夫っと」



 そして梱包に使っていた箱を手に持ったクリス。アインを迎えにいくための支度もしなければならないが、まずはカティマの研究室に行って、この箱を入り口に置いてくることにした。




「でも魔王の側近って女の人も居たんだ。人間が居たなんて聞いたことないけど……ううん」



 魔王に関しても部族でそれなりの教育を受けて来たクリスは、不思議に思った。

 彼女の記憶では魔王には人間の部下はいなかったはずだから。だがそう考えているうちに、一つの結論に至る。




「あぁそっか……"エルダーリッチ"かな?道理でリッチと違って人間みたいな姿だと思った」

いつもアクセスありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本語系かと思ったらその前にすれ違い系だったかぁ
[一言] アインよりクローネの方がハードモードじゃね?
[一言] 箱にしまって部屋の入口に置いておくなんて・・・ 誰かがゴミと間違えて捨ててしまいそうな予感・・・
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