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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
十四章 ―因縁の終わり―

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やっとの休息。

今日もアクセスありがとうございます。

「……貴方は、まるであの男の子のような人だ」



 軽薄そうにへらへらと笑いながらエドが口を開く。



「――あの男の子?」



 時間稼ぎだろうか。

 アインはエドを警戒するが、興味に負けて尋ねてしまう。



「えぇ、あの男の子――マルク(・・・)ですよ。しかし、マルク(・・・)にマルコ……名前が似ていて面倒ですね」


「マルク……。初代イシュタリカ王が、俺と似ている?」



 アインが食いついた事で、エドは大げさな手振りで語りだす。



「指導者のくせに先陣に立つ。それでいて、強い存在感に満ちている。……貴方の容姿も相まって、瓜二つのように思えますねぇ」


「……だったら、なんだっていうんだ」


「いいえ、別に何もありませんよ。ただ、それが気にいらないっていうだけですから」



 息を整え終えたようで、エドが胸を抑えながら背筋を伸ばす。

 太ももからは真っ赤な血液が流れ出るが、気にしない様子でエドがアインに視線を向ける。



「――あぁ、今頃になって思い出しました。そういえば、私の元娘が世話になってる様子で。……お手数を掛けましたね」


「元娘……?」


「バーラです。もしかすると、次女のメイも共に世話になってるのでしょうか?いやはや、名を久しぶりに聞いたせいで思い出せませんでしたよ」



 すると、アインが目を見開きエドを見る。

 高まる動悸を感じながら、必死に声を落ち着かせて尋ねた。



「二人が、お前の娘?……嘘じゃないのか?」


「こんなことを嘘ついてどうしますか。――あぁ、密偵のような何かでも心配ですか?お気になさらず。役柄のなかで儲けてしまっただけの娘ですから、私にとって二人は大した意味を持ちません。お好きに使ってください……って言えば信じてくださいますか?」


「……下種だな」


「役柄なんて、それこそ人の数だけございます。それを否定されても……おや?ところで、随分と落ち着いていますね。なぜです?宿敵と思っていた種族が身内に居ただなんて、普通に考えれば発狂ものでしょうに」



 ――なぜですか?



 相変わらずやつれた様相を見せるが、エドがアインの心境に興味を抱いた。

 アインは慌てるどころか、最初にエドを罵倒してみせたからだ。



「ウォーレン。っていう名前に聞き覚えはあるか?」


「ふむ?ウォーレン、ウォーレン……えぇ、そういえば、貴方と共にエウロに来ていたはず。その方がどうなさいましたか?」



 こいつらには仲間意識がないのだろうか。

 それとも、何か事情があって正体が分からなかったのか。

 エドが惚けているように見えず、アインが続けてエドに尋ねた。



「じゃあ、ベリアという女性については?」


「……全く知りませんねぇ。それで、その男女二人がどうし――……あぁ、なるほど。バーラの件を知っても落ち着いていたのは、こうした事情でしたか」



 合点がいった。

 そう言わんばかりの笑顔でエドが答える。



あの二人(・・・・)の事だったのですね。今になってもイシュタリカの宰相を務めるだなんて、よっぽどあのピクシーに気持ちを奪われていたようで。姿かたちが変わり過ぎて、全然気が付きませんでしたよ」



 すると、エドは力ない手つきで拍手を送った。



「彼らも随分と役者だったみたいで……ちなみに、数百年もの劇には相応の価値があります。どんな気分で生きてきたのか尋ねたいところですが――もう、二人とも殺しちゃいましたか?」



 ――あぁ、もう駄目だ。



 エドの態度に我慢ならなくなったアインは、半分無意識に足を前に進めた。

 マルコの剣を突きをするように構えると、一直線にエドの懐に入り込む。



「ギギィッ!」


「ッ……盾に……!?」


「脚本から外れすぎてしまいました。申し訳ないのですが、私はこのまま退かせてもらいます」



 アインとエドの間にやってきた生物……魔石を埋め込まれたウサギが、エドに向けられた攻撃を代わりに食らう。

 身代わりとなったウサギは、苦しそうな声をあげて動きを止めた。



「――不思議と、どうにも力が出ないんですよ。認めるのは癪ですが、貴方の相手をするには分が悪い」



 魔石の中身を吸われた影響なのだが、現状のエドはそれを把握するには至れなかった。

 エドはアインから視線を反らすと、何かを探し出すように辺りを見渡す。



「はぁ。この分だと、馬車……いや、その中にいた豚も潰されましたかね」



 エドの言葉に、アインが重苦しい表情をみせた。

 アインがここに来るまでに何があったのか。それはアインやディル、それにマジョリカを含むイシュタリカの援軍にしか分からない事だ。



「どうやって潰したのかが不思議ですが、まぁいいでしょう」


「逃げるつもりらしいけどさ……逃がすわけないだろ」



 絶対に逃がすまいと、アインが大股で近づく。



「――あぁ、ところで、これは助言です。今頃、バーラが仕事をしてくれているはずですよ?」


「そういう揺さぶりはいらない。さっきまで思い出せなかったんだろ?」


「それも演技です。これも一つの舞台ですから」


「……仮にそうだったとしても、お前を見逃す必要はない。ここで仕留めれば楽になることに違いは無いんだ」



 アインが三文芝居を一蹴する。

 エドはこうした問答にため息をつくと、虚をつくように走り出す。



「少しも動揺しないのは、本当につまらないですね」


「おい――だから、逃がすつもりは……ッ!?」



 どういう原理なんだ!アインが苛立ちを露にする。

 突然ネズミが数匹ばかり出現すると、アインの顔に噛みつくように飛びついた。



「あー、もうッ!お前らほんっと何なんだ……。って、はぁ……くっそ」



 ネズミを処理すると、すでにエドは立ち去った後。

 遠くに向けて目を向けようとも、彼の姿が目に入ることは無かった。



「殿下ッ!無事かしらッ!?」


「あ、あぁ……マジョリカさん、来てくれたんだ」


「当ったり前じゃないの!――って、あれ?あのおじ様はどこに?」



 身体をくねらせて辺りを見渡すマジョリカ。

 その姿も、十分魔物らしさに満ち溢れていたが、触れれば火傷するのでアインは決して口にしない。



「自慢のメリケン装備してきたっていうのに、何処に消えたのかしら」


「逃げたよ。状況が不利だからって、あっさりと退いてった」


「……驚いた。元帥閣下ですら勝てない相手を、殿下が撃退しちゃうなんてね」



 マジョリカらしい驚き方でアインを見ると、アインは照れたように苦笑いを浮かべる。

 手の甲を頬に添えると、最後は『あらまぁ……』と口にした。



「――ロイドさんは?」


「無事よ。ただし、片目は失うことになるでしょうけど」



 バーラの下に担ぎ込まれたロイドだったが、エドの槍が貫いた眼球は諦めざるを得ないようだ。



「……それで済んだなら、まだなんとかって感じか」


「そりゃそうよ。戦場で片目を失うだけで済むなんて、神様に熱い接吻をしてもいいぐらいだわ」



 彼女(??)の熱い言葉を聞き、アインはロリ女神の事を思い出す。

 心の底から、やめてやってほしいと願うのだった。



「残ってたハイム兵も退いてったわ。あの気持ち悪い小動物たちも無力化できたし、戦況は落ち着いたって言えるんじゃないかしら」


「そりゃよかった。援軍に来た甲斐があったってもんだよ」


「――それと、元帥閣下は混乱してるわ。『どうしてアイン様が居るんだ!』って騒いでたもの。殿下が直接説明した方がいいかもね」


「うん、分かってる。今からロイドさんのとこに行くよ。一応、防衛体制を確認してから――って思ったけど」



 アインが顔をあげた。

 目を点にすると、少しの間考える事を放棄する。

 いやぁ、すごいな……と、ただ素直に驚きの声を漏らした。



「これがあるなら大丈夫かな」


「他人事みたいに言うのねぇ……。まぁ、これだけ太い木の根で覆われてるんだもの。攻め込むのは大変よ?」



 自分自身で作り上げた巨大な木の根の壁を見て、アインは何故か他人事のように呆れてしまう。



「まぁ……燃やされたら大変でしょうけど、見た感じ生木みたいなもんだし、燃えにくいんじゃないかしらね」


「うーん、てことは、取り合えず気にしないでいいって感じ?」


「あとで水でも掛けとくといいんじゃないかしらね。というか、それ以外になーんにも思いつかないもの」



 マジョリカにとっても考えた事のない事態だ。

 数階層分の高さがある……巨大且つ太い木の根の壁。

 唐突過ぎて、マジョリカも最適な案を思いつかなかったのだ。



「……なら、先にロイドさんのお見舞いに行こうかな」


「……えぇ、そうしましょ」



 結局、二人は足早にロイドの下へと足を運ぶのだった。




 *




 マジョリカの先導で、アインがロイドの運び込まれた場所へ向かう。

 そして、道中……。



「殿下ーッ!」


「王太子殿下万歳ッ!万歳ッ!」



 バードランドで防衛に当たっていた騎士達。

 彼らがアインを見つけると、大きな声で称賛の声をあげた。



「はは……」


「ま、当然よね。本国に居たはずの王太子殿下が、危機的状況にこうして援軍に駆けつけて――敵軍の撃退に大きく寄与した。もしかすると、今の士気があれば、私たちが来なくても撃退できたかもしれないわね」


「……そうだね」



 バードランドの大通りを二人で歩き、騎士の声に応えながらアインはロイドの下を目指す。

 アインは先程のような戦いを見せたせいか、身体に多くの気怠さを感じる。



「でも、少し疲れたかも」


「――船に乗ってバードランドに到着。それから、急いで馬を走らせてここまで来たのだから……当然ね。特に殿下は、あのおじ様との戦いとか……良く分からないけど、すごい根っこも出したんだし、しっかりと休まないといけないわ」


「あぁ、そうかもしれない。明日の事も考えて、ちゃんと休むことにするよ」


「そうしてちょうだいね。……さ、着いたわよ」



 マジョリカが足を止めた場所は、貴族も使うことがある一級の宿屋。

 シックな色合いの木材で建てられているが、職人の彫刻が施された、シンプルながら独特の高級感を感じさせる店構えだった。



 戦場で使うには豪華すぎるが、ハイムの軍勢が近づいても即座に対応するためには、町の入り口近くの宿を借りる必要があったのだろう。



「いい宿だね」


「これは経験談なんだけど、高名な冒険者ほど良い宿屋を借りるのよ。お金に余裕があるから……てのもそうだけど、設備が充実してるから、身体を癒すのにもってこいだもの。だから、ここは立地の面も含めれば、戦争中の騎士には最高の宿だと思うわ」


「あー、そういう考えもあるのか。なるほど……」



 アインが素直に頷くのを見て、マジョリカは彼らしさにくすっと笑みを浮かべて宿の扉に手を掛けた。



「ア、アイン様ッ……よくぞご無事で――いや、どうして来られたのですかッ!命を晒すような真似をどうしてッ!」



 扉を開けて早々、ロビーに持ってこられたベッドの上から、ロイドが勢いよく身体を起こす。

 この宿はどうやら老舗のようで、アンティーク調の調度品が美しい。

 アインはこの空間にあっても慌ただしい様子のロイドを見て、周囲の人々が慈悲深さを感じるような表情でロイドに近づいた。



「それも説明するから。ちゃんと横になってて」


「……父上。お願いですから、今はしっかりと横になっていてください」



 すると、ロイドのそばにいたディルがアイン同様にロイドを諫める。



「む、むぅ……しかしだな……!」


「バーラ。ロイドさんの様子はどう?」


「……はっ。その、元帥閣下にもお伝えしたのですが……やはり、片目はもう――」



 ロイドの治療にあたっていたバーラに尋ねると、バーラは重苦しい様子でアインに答えた。

 物憂いだような声を聞き、アインがロイドの目元を見ると、左目の付近が仰々しく包帯で覆われている。



「あら、いいのよバーラちゃん。元帥閣下だって、むしろ儲けものぐらいに思ってるでしょ?」


「はははっ!マジョリカ殿の言う通りだ。――片目を渡して命を拾えたと思えば、これほど安いものはない。……戦運びの間違いで醜態をさらしたことのほうが、私にとっては辛いのだからな」


「っ……も、申し訳ありません……!」



 気丈な姿を見て、バーラが口元を抑えて嗚咽を耐える。

 アインがエドの言葉を思い出してバーラを見るが、やはり少し迷ってしまった。



「――今は聞くべきじゃないな。この士気を落とす必要もない」


「アイン様?何か仰いましたか?」


「いや、なんでもないよ。ディル」



 ベリアの話を聞いてからというもの、ウォーレンやベリアに対しての疑念は徐々に霧散した。

 その影響もあってだろう。すべてを丸投げして信用する……なんてことは難しいが、バーラを拘束する気にはなれなかった。



「たださ、自分がしたことを信じてみようかなって」


「……何のことは分かりませんが、決意をなさったということなんですね」


「うん。そういうこと」



 イストでの偶然の出会い。

 それからアインに拾われ、城で仕え続けた彼女を信じてみたくなった。

 エドが二人を、バーラとメイを捨てたというのは事実だろう。それはエドの態度を見れば分かったのだ。



 ――夜にでも聞いてみよう。



 バーラの件をこう決めると、ロイドが横たわるベッドの傍の椅子へと腰掛ける。



「えっと、どこから話せばいい?」


「……こういうのは相場が決まっております。全てですな」


「そりゃそっか。うん、わかった。なら教えるよ――どうして俺がここに来たのかをね」




 エドとの戦いは、アインの思っていた以上に体力を消耗したらしい。

 椅子に腰かけると、気怠さが数倍に感じられるほど押し寄せたが、アインはそれを気にすることなく語り始めた。



「ロイドさんが送った伝令。その連絡がすぐにこっちにも届いたんだけど――」



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― 新着の感想 ―
だよねぇ~。なんとなくキル○ーンや、ヒソ○を思わせる奴だもんね。ある意味ラスボス感。
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