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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
十一章

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城下町の最後。

 ――はっ……はっ……。



 リリは体力に自信がある。

 隠密行動を主とする部隊に居ながらも、剣の腕前も近衛騎士に負けない程の実力があった。

 暗部の仕事を担うこともあってか、精神的にも安定した強みがある。



 しかし、今のエウロの城下町は、そんなリリにとっても異常に思える光景をしていた。



 勢いよく走りながら、視界に映る城下町を見て、眉間に深く皺を作り上げる。



「……腐ってる?」



 イシュタリカの騎士が犠牲になった。

 だが、その死因とは違い、いくつかの犠牲者が、まるで腐ってしまったかのような姿をしていた。

 死因が不揃いな事が、リリに不信感を抱かせる。



「まだなのっ?」



 共に走る騎士を見て、リリが急かすように答えを求める。



「もうすぐ見えてくるかとっ……!ですが、リリ様もどうかお気を付けくださいっ!」


「ん。わかってる」



 気を付けてと言われても、相手の事を理解していない現状では、ただ通過するだけというのも難しい。

 そのせいで、精強なイシュタリカ騎士が犠牲になったのだ。

 最低限出来る事といえば、相手の攻撃を食らわないように守備を固めるぐらいだろう。



「――キ、キキッ!」



 一瞬の事だった。

 リリの死角となった箇所から、例のネズミが姿を現す。



「リリ様ッ――」



 騎士がそれに気が付くが、リリはネズミに目を向けない。

 ネズミの襲撃に気が付いていない、このままではリリが危ない……。

 そう思った瞬間、ネズミの頭部が半分に割れる。



「……確認して」


「リ、リリ様……!?い、一体何を」


「別に。ただ、ナイフを投げただけ。脳が死んでも体が生きてるのか調べて」



 こんなことよりも、今は先に進みたい。

 しかし、情報がゼロに近い今は、このネズミが丁度良かった。

 動きを止めたネズミを一瞥すると、リリが騎士にこう命じる。



「……お、お見事です」



 騎士はリリの手腕を褒めたたえると、恐る恐るネズミに近づく。

 剣を使いネズミを裏返すと、肥大化した魔石が点滅を繰り返していた。



「魔石の消失反応です。恐らく、数秒もすれば息絶えるかと」


「うん。わかった。どんな生態なのかは知らないけど、頭を潰せば殺せるなら、それで十分かな」



 頭を潰し、魔石も破壊するという二度手間。

 その手間が無かったことに、リリは心の中で安堵していた。



「音、匂い、そういうのに頼ってるかは知らないけど、頭を狙えばついでに目も潰せる。その二つを狙うように攻撃すれば、危険は少なくなると思う」


「はっ!」



 リリはこう口にすると、騎士に案内の続きを求め、再度走り出す。



「……はぁ。面倒だなぁ」




 *




 ――燃やせ!家屋の損害は気にするな!



 ――きりがないぞ!駄目だ、もう走り抜けて船に向かうべきだ!



「……お?」



 それから、少し走ったリリの耳に、イシュタリカ騎士達の声が聞こえ始める。

 状況は何とも面倒くさそうにしか思えなかったが、目的の人物がいるかもしれないと思えば、その気怠さも多少は収まっていく。



「どうやら、我々の味方も交戦中のようですね」


「うん。でも色々と間に合ってるみたい、急ぐよ」


「はっ!」



 リリが急ぐと口にした理由。

 それは、騎士同士の会話にあった。

 きりがないという、何とも耳にしたくなかった言葉を聞き、リリは状況が芳しくないことを察する。



「うーん……どうしよう」



 自分が連れて来た騎士達が、少なくとも、苦戦以上に面倒な状況にあるのは理解できる。

 なにせ、戦場を捨てて逃げることを検討しているのが聞こえたからだ。

 するとリリは、現状をどう打破するべきかを検討する。



 ――ごそごそ。



 豊かな胸元を漁り、何かないかなーと呟く。

 致死性の高いアイテムは持っているが、なにぶん身内やハイムの者達が居る。

 そんな場所に、危険なアイテムをぶん投げるわけにもいかない。



「あ、あー。これだこれだ」


「リリ様?どうなさいましたか?」



 すると、一つだけ良い物を見つけたリリ。

 納得したように何度か頷くと、5cm程度の球状の物体を手に持った。



「良い事思いついただけかな。さてさて、どんな状況かなー……って、うへぇ……」



 状況が分かりやすい箇所に到着すると、騎士の喚きに同情した。

 例のネズミやウサギだけでなく、大きな蛾などの数種類の虫も蔓延っており、押し寄せるように騎士に襲い掛かっていた。

 ……よく見ると、イシュタリカの騎士達は、何かを守るように戦っている。



 数えるのも面倒な、百なんて軽く超えていそうなその生物たちを相手に、騎士達は必死になって防衛をしていた。



「……偶然かもしれないですけど。エレナ様、エウロを目指したのは、結果的には正解ですよ。まぁ、あの王子様がいるのは良く分かりませんけど」



 イシュタリカの騎士に守られていたのは、負傷したハイムの騎士や給仕、そしてエレナとティグルの一同。

 いくら精強なイシュタリカ騎士とはいっても、まさに多勢に無勢に苦労しているようで、更に、守りながらの戦いが厳しさを増していた。



「それじゃ、早速助けましょーかね」



 ある程度の状況を確認すると、リリはすぅっと大きく息を吸った。



「――チャージッ!」



 戦場に響き渡るその声を聞き、騎士達は一斉に盾を構える。

 すると、その盾を使いネズミ達に打撃を仕掛け距離を作ると、一斉に盾を前方に構えた。

 守られていたエレナたちからすれば、一瞬で鉄の壁が出現した形になった。



「……ほい、っと」



 盾を構える瞬間、リリは手に持っていた球状の物体を、騎士達と襲い掛かる生物の間に投げつける。

 それは地面に落ちた瞬間、大きな音を発しながら発光し、襲い掛かる生物たちの正気を奪う。



「ふぅん……。目と耳も使ってるんだ」



 ニヤニヤと笑い、高い効果が出たことを確認した。

 こんな、目くらましでも効果があるのなら、対処は苦難とはならない。

 残った面倒事といえば、その敵対生物の数が多いということぐらいだろうか。



「とりあえず、続きは後にしよっと。――保護して一気に船に向かう!生存を第一にして、背後は燃やしていくよ!」



 リリの指示を聞くと、騎士達は一斉に怪我人を担ぎ、船に向かって走り出す。



「っ……くぁ……」


「な、何が起きたのっ……!?」



 急な音に驚いたのか、エレナとティグルも耳を抑えてうずくまっている。



「貴方はこっちの王子を担いで、私はエレナ様を担ぐから。いい?」


「はっ!」



 案内をしてきた騎士に声を掛けると、リリはエレナを肩に担ぐ。



「っだ、誰!?」


「はいはーい。貴方の大好きなリリちゃんですよー」



 ……とか答えてみても、耳が麻痺しているのかエレナにその声が届かない。

 目くらましも直撃したのか、目も薄っすらとしか開けていなかった。



 不安なのだろう。エレナは担がれた後も少しばかり暴れてしまう。



 その様子を見ていたイシュタリカ騎士は、どうしたもんかと困った様子を見せた。

 リリはどうしたのかと思いその騎士を見ると、その困ってしまった理由を察する。



「……楽でいいじゃん」


「――えぇ。……ですね」



 騎士に担がれたティグルは、腰が抜けたのか驚きに負けたのか。

 気を失った様子で静かに担がれていたのだ。

 なんとも力の抜けてしまう姿だったが、運ぶ側としては楽な事この上ない。



「ところで、君って赤弾(・・)持ってる?」


「はい。三つほど持ってきておりますが」


「じゃあ、船に着くまでにいい感じに全部撒いちゃって。ここは私が撒いとくから」


「はっ。承知しました」



 リリはこう命令すると、懐から赤い玉を取り出す。

 それは魔石の様に半透明で、中には赤い煙の様なものが蠢いていた。

 中身がこうなっていることを確認すると、地面に向かってそれを投げつける。



「ほーら、エレナ様。そろそろ暴れないでってば―」


「……もしかして、貴方ッ――」



 ――やれやれ、ようやく気が付いてくれたのか。



 目と耳が回復して来たのか、リリの雰囲気を察したエレナ。

 それに安堵したリリは、船に向かって足を進める。



 ……と同時に、投げつけられた玉を中心に、火柱が広がっていった。



「――ッキァ……!?」


「キッ――キキッ!」



 やはり燃えると痛いのだろう。

 炎が広がると、リリたちを追う速度も遅くなり、いくらかの生物がその炎に焼かれていく。



「出し惜しみなしでいいから、どんどん燃やしていくよー」



 他国の城下町で、随分と好き勝手な振る舞いかもしれない。

 だが、結局のところ重要なのは身内の命だ。

 リリはエレナたちを救出すると、この赤弾を使い、襲い掛かる生物を躱しながら船に向かって行くのだった。




 *




 ――ティグルの私兵というのは、いくつかの選考を通って合格した騎士達の事だ。



 彼らの中には、城で近衛兵として勤めていた者もいれば、警備兵を経験していた者もいる。

 この私兵は例外なく、ハイムの中でも一握りの騎士という事になる。

 技術や力、そして体力など……多くの面で、ハイムの平均的な騎士に勝る実力を秘めている。



 だが、彼らも一人の人間という事には変わりなく、数人が例の生物による犠牲になってしまった。



「怪我人は然るべき場所に運んで。生存者は、戦艦に入ってすぐの場所で待っててもらって」



 戦艦の前まで戻ってきたリリたちは、被害状況を確認している。

 幸いにも、イシュタリカ側の被害は最初の一人のみで、あとは軽症で済んでいるのが幸いに思える。



「……リ、リリ?貴方、どうしてここに?」


「むしろ、それって私のセリフなんですけどね」



 呆れたように笑うと、エレナに答えたリリ。

 エレナは完全に正気を取り戻した様子を見せるが、ティグルは今だ気を失っているらしく、簡易ベンチに横たわっている。



「詳しくは話せないんですけど、ハイムの暗殺の話で、少し思う所があった訳ですよ。それで、私も急遽エウロにやって来てたってことです」


「……やっぱり、イシュタリカでも何かを掴んでいたのね」


「――我々(イシュタリカ)"でも"、ですか」



 つまり、エレナたちも同じく考える事があったのだろう。

 リリはエレナの言葉を聞くと、すぐにそれを察した。



「まぁ、その話は後で聞きますよ。……ところで、どうしてエウロに来てたんですか?」


「……良く分からないのだけど、敵味方の区別がつかなくなったのよ。それで、苦肉の策でこうして行動してたの」


「はえ?敵と味方の区別がつかなかったって、どういう意味です?」



 あっけらかんとした様子で続きを促し、エレナに近づく。



「犯人と疑われる男が、ハイム貴族と関係があるの。それで、その男はエウロに居るっていうから、それを尋ねる意味でやってきたのよ」



 ラルフの事や、ブルーノ家の事は伏せて説明した。

 どうにもキナ臭い話に感じ、リリは再度エレナに問い詰める。



「ちなみに、その男っていうのは誰なんです?」



 アインの推測を思えば、その男は赤狐との関係を疑うことができる。

 思わぬところで得た手がかりに、リリは喜んだ。

 ……そして、エレナの答えを聞くと同時に、その確信を得たのだった。



「エドっていう、槍使いの男性よ。ローガス殿が負けるくらいの強者なのだけど……」


「――っ、へぇ……あの人ですか。なるほど、なるほど」



 この情報だけでも、リリがエウロにやってきた甲斐があったというもの。

 これ以上ない土産話を得た事で、リリは納得したように頷いた。



「そ、そういえばリリっ!エウロの人たちは、それにアムール公たちはどこに!?」



 するとエレナは、町の惨状を思い出し、慌てた様子でリリに尋ねた。

 アムール公に尋ねるという目的もあったため、アムール公の安否も同時に尋ねる。



「うーん……。犠牲者は数えたくないぐらいいますけど、アムール公は無事ですよ。それに、いくらかの城下町の民も保護しています」



 この答えを聞いたエレナは、胸に手を当てて安堵する。

 一方、リリはこう答えると、ベンチに横たわっていたティグルに近づいたのだった。

 すると、横に置いてあった水を手に取り、それをティグルの顔にぶちまけた。



「っぶ……ぶはぁっ!」


「お、あっさりと起きてくれましたね」


「な……ななな、お、お前!急に何をっ!」


「おーおー。元気で何よりです」



 リリの起こした突然の行動に、エレナは呆気に取られて物も言えない。

 ティグルが起き上がったのを見ると、リリはティグルにある提案をした。



「敵味方を区別できない状況で、わざわざエウロにやってきたっていう話です。それはつまり、半分逃げるようにハイムを出発して来たってことですよね?」


「……そうだ。と言ったら、どうするのだ」



 随分と素直に答えたのが、面倒くさく無くて好印象だった。

 さっきのような、不躾な起こされ方だったというのに、話が早く進む事もリリは好ましく思う。



「取引ですよ。取引」


「……取引?」


「エレナ様とか大事な部下の皆さんを、助けてほしいんじゃないんですか?」



 もしかすると、今のティグルが一番聞きたかった言葉かもしれない。

 釣り下げられた餌に食いつくように、ティグルが真剣な瞳で頷いてしまう。



「あちゃー。交渉事をするなら、もう少し粘るのがいいと思いますけど。――まぁ、エレナ様の安否を心配してくれるのは嫌いじゃないです」



 少しばかり上機嫌に答えると、リリはベンチの側からタオルを取って、それをティグルに投げつける。

 ティグルはそれを受け取り、リリに掛けられた水を拭いていった。



「ここまでの扱いを受けたのは、産まれて初めての経験だ」


「人生、なんでも初めての経験ばかりですから。あんまり気にしないでいいと思いますよ」



 皮肉を軽く受け流すと、へらへらと笑いながらこう答えた。



「……頼む。私は構わない、だからこの者達の命を守ってやってくれんか」



 リリも、まさかこの王子が頭を下げるとは思わなかった。

 それもしっかりと深い角度で腰を曲げ、彼なりの真摯な気持ちを見せつける。



「今までの貴方たちの行いを知って、こうして頭を下げるんですか?それって、勝手にも程があると思いますけど」


「……承知の上だ」



 近くに見える城下町は、リリたちの赤弾のせいで、いくつもの箇所で燃え盛っている。

 それは戦艦があるこの場所の近くも同じことで、風に乗って熱い空気が押し寄せて来た。



「それで、貴方は我々に何を供出してくれるんです?助ける利点を示してください」



 あくまでも強気に、頭を下げたティグルに対してこう告げる。

 それを聞いたティグルは、心の中で覚悟をして、次のように答えた。



「私にできる事なら、どんなこと――」



 ――どんなことでもする。



 きっとこう答えるつもりだったのだろうが、ニマァっと笑ったリリが、食い気味にその言葉を止める。



「はい!言質とりましたー!」


「……は?」


「いやいや。は?じゃなくて、言質取りましたからね。それじゃ、早速向かいましょうか」



 鼻歌を歌い、騎士に指示を出すリリの姿。

 会話を聞いていたエレナも、つい言葉を挟んでしまう。



「ちょ、ちょっとリリ!?なんなのよ今のやり取りって……!」



 あまり詳しく聞かないというのに、事情を察したかのように話をしたリリ。

 そもそも、これから何処に向かうのかすら説明が無い。

 ……想像は出来るが、まさか本当に向かうというのだろうか。



 リリの空気に敗北したティグルが、ぽかんとした様子で虚空を見つめる。



「はいはい、船入りますよー。これ以上ここにいるメリットありませんし、さっさとイシュタリカに帰りますから……ほら、さっさと来てください、この色ボケ王子」



 イシュタリカの騎士やリリにとっては、とんぼ返りをする結末となった。

 しかし、情報の取れ高は十分すぎる成果を上げたと言えよう。

 ところで、最後のリリの暴言は、ティグルに届いたのだろうか。



「あ、それと。エレナ様に一つだけ良い事教えてあげますね」


「……何よ」



 自分の不満を聞かず、まさに我が道を行くリリに対して、少しばかり不貞腐れた様子で答えた。

 すると、その答えはエレナも求めていた内容だったため、エレナは深刻な表情を浮かべる羽目になる。



「――あのですね。エドさんって、ここ数日間の間に行方不明になってるんですよ」




 *




 リリの言葉に、エレナは強い確信を得た。

 その確信というのも、少なくともエドは犯人に近い人物という事だ。

 だが、それが分かっても、ハイムの敵味方が判明したという理由にはならない。



 エウロに留まったら死を待つのみで、ハイムに帰る途中でも命を落とすかもしれない。

 そのため、ティグルがリリとの交渉の上で、保護してもらえることになったのだ。



 前回エレナが乗ったのは、イシュタリカの貨物船だ。

 だが今回の船は戦艦であり、これに乗るのはエレナも初めての体験。

 ティグルに至っては、この技術の違いに驚くばかりで、もう色々と諦めたような顔を見せた。



「リリ様。アムール公との交渉が終わりました」


「どんな感じ?」


「"見舞金"として、我々が被害額の一割を負担します。こちらが承認の署名となりますので、ご確認ください」


「……うん。それじゃほかの船にも伝えて」



 今いる場所は、戦艦の指令室だ。

 操作に関してもこの部屋で行うため、ここは船の正面の景色を見ることができる。

 大きな窓の外には、変わり果てたエウロの城下町が映っていた。



「主砲、用意して」



 ――はっ!



 文官からの報告を受け、リリが乗組員に指示を出す。

 主砲とかいう物騒な言葉に、エレナとティグルが驚きの表情を浮かべた。



「お、おい!主砲を用意とは、一体何のつもりだっ!」


「……あの良く分からない生物が、町のいたる所に隠れちゃってますんで、一斉に殺しちゃうってだけですよ」



 アムール公との交渉という言葉を考え、エレナが一つの答えに至る。



「……貴方たちは、エウロの城下町ごと滅ぼすつもりなの?」


「ご明察ですね。報告によれば、エレナ様たちを襲ったのは、ほんの一部みたいです。あれがおびただしい量で存在してるなら、これ以外にいい手段はありませんから」



 こう語る皆を横目に、戦艦の中央部が開き、巨大な筒が姿を見せる。



「ティグル王子。会談の結果次第では、その日のうちに、港町ラウンドハートに打ち込む予定だった主砲です。三隻一斉に打ち込みますので、ついでに見ていってください」



 その巨大な筒は、ティグルたちには読めない模様が描かれているが、無骨なまでに色合いは地味だ。

 全身が灰色の堅牢な姿に、複数の支柱が厳重に繋がっている。



「本当は海龍とかにも使えればいいんですけど、狙いがどうにも定まりませんからね。それに、この主砲の性質上、あいつらには相性が良くないんで」



 真正面を見つめながら、リリは淡々と説明を続ける。

 エレナやティグルは尋ねたいことがあったが、巨大な主砲の姿に目を奪われ、その光景をじっと見つめていた。



「――三隻同時発射まで。3、2、1……」



 数字を数えたのを聞き、乗組員が操作を開始。

 リリの指示はほかの戦艦にも届いているらしく、三隻が同時にその操作を行う。



「――ゼロ」



 最後の言葉を合図に、三隻の主砲が発射された。



「っ……は……?」



 自然と漏れた言葉が、ティグルの心境を表していた。



 ――発射された主砲の威力は、一斉にエウロの城下町を滅ぼしにかかる。



 弧を描くように波動が広がっていくと、空気が炸裂するかのように衝撃が広がる。

 爆風で破壊されたようにも思えるが、まるで粒子に分解されたようにも見えた。

 恐るべきは、それが町全体を問題なく囲える範囲で、一斉に襲い掛かっていったという事。

 青や緑、あるいは紫に光る光を放ちながら、その攻撃は数秒に渡って続いた。



「技術者の間では、魔石砲とかいう名前で呼ばれる兵器です。魔石が持つ魔力を爆発させて、それを任意の方向に放つんですよ。一発の費用も馬鹿にならないんで、あんまり使えないんですけどねー」



 軽く語られた説明だが、その威力は、ティグルたちに恐怖を与えるのに十分な効果を発揮した。

 エウロの町は決して狭くない。

 大きさを言えば、港町ラウンドハートと比べても同程度かもう少し広いと言える。

 そのエウロ城下町が、たかが数秒で滅ぼされてしまったのだから、ただただ恐ろしさを抱くことしかできなかった。



 ――光が消え去った後、エレナとティグルが見た光景は、半壊した岬の上にある、砕け散った土砂の塊だけだった



そろそろ主人公も復帰するはず……はず……。

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― 新着の感想 ―
ティグルを「良い人」のように見せていくのは残念だなあ。 ハイムとの会談でも思ったのだが、敵国認定したハイムに クローネの母親エレナがいる設定の所為で、ふいに慣れ合いの様なエピソードが 挟み込まれて、敵…
[一言] これも自分の幼さ故であると思われるが、私は勧善懲悪に則った結末を望む。敵の改心とか、急に反省してまともになる、というのは正直好まない。
[良い点] リリエレナてぇてぇ(3回目)
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