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婚約破棄を繰り返す〝モーリウスの毒婦〟が嫁⁉ 離婚即滅亡の危機を溺愛で脱しろ!  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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21話【ヨハンシュ】侯爵領到着1

□□□□


 次の日。

 予定通りに侯爵領に到着したヨハンシュたちを出迎えたのは、予想通りの義姉リリィだった。


「まあああああああ! まああああああ! この方が義妹となるフォーゼ王女なのね!」


 リリィが隣国の第4王女と聞いていたからだろう。

 カーテシーをしようとしたフォーゼにリリィは抱き着いた。


 いや、リリィからすれば抱き着いただけなのだろうが、細くてまだ栄養不足の気があるフォーゼからすれば体当たりにひとしい。


 慌ててヨハンシュはフォーゼの背を支える。


「義姉上! フォーゼ王女が驚いておられます!」

「あら! ごめんなさい、つい」


 あはは、と笑ってリリィは身を離した。

 だが、腕はフォーゼをつかんだまま。


 リリィのほうがだいぶん背が高いらしい。

 覗き込むようにしてフォーゼを見た。


「初めまして。ジゼの妻のリリィよ。ヨハンシュはかたっ苦しく『義姉上』なんて呼ぶけど、リリィでいいわ」


 ぱちりと片目をつむって見せる。

 その言動や態度はフォーゼとまるで正反対のように見えた。


 高身長で身体のメリハリがしっかりとしたリリィ。銀色の髪は束ねているだけなのに、その襟足がどこか色っぽい。紫色の瞳は常に光をきらきらと反射させているようで、肌も健康的な色だ。


「こちらこそ、お初にお目にかかります。フォーゼと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 当初勢いに飲まれたフォーゼだったが、そこはやはり王女として育てられただけはある。立て直しが早かった。


「ジゼから話は聞いていたけど、早く会いたかったの! ぜひ、あなたのお話をたくさん聞かせて!」


 リリィは言いながら、フォーゼの手を引いてテーブルに向かう。

 茶菓子や茶器が用意されていて、執事が椅子の側に待機していた。


 ちらりとフォーゼが視線をよこすから、苦笑いして「すぐ行きます」と伝える。

 フォーゼも笑んでうなずくと、姉に手を引かれる小さな妹のようにリリィのあとをついて行く。


「で、現状どうなのだ」

「わ……っ!」


 真後ろからいきなり言われてヨハンシュはあわや大声を上げるところだった。 

 振り返ると、ジゼルシュが立っていた。


「仲は深まったのか。同衾したか。溺愛しているのか。王女はお前にメロメロなのかっ」


 前のめりに圧をかけられ、ヨハンシュは背をそらしかけたが。


「そ、そのことですが」

 ぐい、と背筋を伸ばす。ジゼルシュが目を瞬かせる。


「なんだ」

「兄上にぜひとも相談したいことと、現状報告と……」


 普段ならこんなことをしないのだが、腕をつかんで部屋の隅に移動する。待機していた執事たちが、さささ、と場所を開けてくれた。


「現状、一緒のベッドで寝ることになりましたが、同衾はできておりません」

「いかなる理由で。まだ体調不良なのか。見たところ、初めてお見かけしたときよりも人間味が増したが」


「どうやら王女の心の中にはレオなる人物がいるようです」

「レオ? 誰だそれは。王城内の貴族か?」


「王女の二番目の婚約者のようです」

 ふむ、とジゼルシュは顎をつまんだ。


「至急調べよう。そのレオなるものを極めれば、王女の好みや攻略ポイントがわかるやもしれん」

「そのことですが」


「うむ」

「王女も離婚は望んでおられないようで」

「……良いことではないか……っ!」


 ヨハンシュは兄のガッツポーズを初めて見た。


「ただ、その。まだ性交渉などは考えも及んでおられず……」

「そんなもの時がくればそうなる!」


 え、それはいつでどんなものなのです、とヨハンシュは真面目に聞きたかったが、ジゼルシュは魂を口から吐くのではないかと思うほど深い息を吐いた。


「よくやった、ヨハンシュ。とりあえずは第一関門突破だな。王女に嫌われてはなんともならん」

「そう……ですね」


 言いながらも、それでいいのだろうか、と少し感じる。

 そこよりももう少し踏み込みたい。

 そんなことを考えるヨハンシュは、多くを望みすぎだったりするのだろうか。


「体力的にはどうだ。もう発熱等はないのか」

「ええ。熱を出したのは結婚式直後だけです」


「そうか。ならば大丈夫か」

「いかがしました」


 ヨハンシュが尋ねると、ジゼルシュはわずかに眉根を寄せた。


「モンテリス領領主より、フォーゼ王女に謁見申請が来ている」

「モンテリス領?」


 ヨハンシュはおうむ返しをする。

 侯爵領の北側に位置するところだ。


「フォーゼ王女の実母。亡くなられた第一妃のご両親にあたる」

「あ」


 となれば、フォーゼからすれば祖父母。


「王城にいる間は、謁見が認められず、孫だというのになかなか会えなかった、と。手紙には切々とそのあたりが書かれていた。あとで読むなら渡そう」

「……では、フォーゼ王女にとってはよい縁者になりそうですか?」


 ヨハンシュは慎重に問う。


 そう。

 もう毒を吐いたり、言葉のカミソリで斬りつけるような人間はフォーゼの周囲に置きたくない。


 親族だろうが、祖父母であろうが、フォーゼに害を与えるなら、ヨハンシュにとって不要な人間だ。


「わたしの直感でしかないが、フォーゼ王女の味方にはなりうる」


 ヨハンシュはじっと兄の目を見る。

 兄はこういうところで間違った判断をいままでしたことがなかった。


「兄上におまかせします」

「わかった」


 兄弟が互いに顔を見合わせてうなずいたとき。


「ねぇねぇ、ジゼ。ヨハンシュ」


 スキップを踏むような声に顔を向けると、テーブルではリリィが兄弟に対して手を振っていた。


「明日の郷士会にフォーゼを出席させてはダメ?」

「だめです」


 兄がなにか答えるより先に、ヨハンシュが断言した。ずかずかとテーブルに近づき、椅子に座ってお茶を楽しむリリィを睥睨する。


 まったく。兄といい、兄嫁といい。

 どうしてフォーゼに無理をさせようとするのだ。



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