表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄を繰り返す〝モーリウスの毒婦〟が嫁⁉ 離婚即滅亡の危機を溺愛で脱しろ!  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/37

14話【ヨハンシュ】初夜が明けて

「遠慮なく。もし俺が倒れたら、フォーゼ王女に食べさせてもらいますから」


 そう言ってみたものの、「いえ、いやです」と言われたり、「絶対自分で食べます!」と主張されたらどうしようと、ヨハンシュは内心ひやひやしていた。それだけではなく、背中に滝のような汗だって流れていた。


 だが、フォーゼは迷った末に、口を開けてくれた。

 その様子はまるで、初めて川面に顔をつける子どものよう。


 ヨハンシュはその口に匙を含ませる。


 ぱくり、と。

 フォーゼが口を閉じ……。


 そしてあきらかに目の色が変わった。


 人間、こんな風に覚醒するのかというぐらい瞳孔がぎゅっと開いた。

 やばいもん入れてるんじゃないだろうな、とヨハンシュがうろたえたぐらいだが、その目は「早く次を!」と訴えてくる。


 ヨハンシュは匙を深皿に沈める。


「おいしい……」

 ぽつりとフォーゼがつぶやく。


 それを聞きながら、ふとそういえば彼女が食事をしているところを見ていないな、と気づいた。


 初めてあった館内。あそこでバスケットに入れられたサンドイッチを勧められたが、当の本人は食べていなかったのではないか。


 昨日の結婚式や披露宴でもそうだ。

 ジュースや水を飲んでいるのは見たが、なにか食べていた様子はない。かくいうヨハンシュだって昨日は早朝に食事をして、次の食事は深夜だった。


(そりゃ、医師に叱られるはずだ)

 夫だと言うのに、妻がなにも食べていないことに気づいていないのだから。


「よかった。次は卵部分、どうですか?」


 胸に沁みて広がる罪悪感を払うように、ヨハンシュは半熟卵を割り、パン粥と一緒に口に運んだ。


 途端にやっぱり、ぎゅんとフォーゼの目に力がみなぎる。

 あとでちょっと自分でも試食してみなければなんか恐ろしくなってきた。


 そのあとの食欲たるや。

 まだヨハンシュが小さい頃に飼っていた鷹の幼鳥並みだ。


 次々と口に入れてやらないと、怒ったように鳴くので、せっせと食べさせたのを思い出す。……まあ、あのときは生ひき肉だったが。


 そうして完食したフォーゼ。

 ちょっとヨハンシュは驚いた。


 目に生気が戻り、頬が上気した彼女は。

 とても、愛らしかった。


 初めて目にしたときは、陶磁器人形のようだったが、今目の前にいる彼女は違う。


 唇は赤くつややか。

 青い瞳は宝石のようにきらめき、磁器にさえ見えた頬はしっとりと潤んでいた。


 二十歳、にはまだ見えない。

 細くて小さな分、まだやはり思春期のような危うさをもってはいるが。

 それでも、とても美しい少女には見えた。


(やはり栄養が足りてなかったんだろうか)


 そもそもの食事量も足りていなかったのだろう。

 あの医師が指摘したことは正しかったのだ。


 ちらりと脳裏に浮かんだのはナナリーの姿だ。

 健康的でのびやかな肢体。

 フォーゼとはまるで違う。


 血のつながった同じ娘をどうしてこんなに区別して育てられるのだろう。


 また暗澹たる気持ちが胸に湧くので、「さて、それでは」と声を出してみた。

 とにかく、いま、彼女は完食した。

 そしてこれからも完食する。させる。 

 そう決意し、にっこりと微笑んだ。


「待望のデザートを持参いたしましょう」


 そう言うと、驚いたことにフォーゼが前のめりになって声をかけてきた。


「あ、あの!」

「はい?」


 なんだろうと思いつつも、声に張りと力があることに気づき、ヨハンシュはちょっとだけうれしくなった。


「もう力が入るようになりましたので、自分で食べられます!」


 言われてみれば、膝の上でそろえられている手もしっかりと握れるようになっていた。


「そうですか? それはうれしいですがちょっと寂しいですね」


 ヒナに給餌している気持ちだったのにな、と。

 それに黙々と食べる女性というのは見ていてすがすがしい。ちょっとだけ残念。そう思っていたら……。


「なので! そのよろしければ、ヨハンシュ卿と一緒に食べたいのですが……!」

「なるほど」


 ヨハンシュは目を細めてうなずいた。

 それならば、彼女の食事を見ながら自分もデザートが食べられる。


「それはいい。早速準備いたしますね」


 ヨハンシュは扉の向こうに待機させている執事に合図をする。

 空の食器はすぐに下げられ、すぐにデザートが出てきた。


 カステラにフレッシュチーズと果物が添えられたものだった。

 ヨハンシュのものにはリキュールが加えられていたが、フォーゼのものは違ったらしい。


 彼女はまるで子どものように嬉しそうに完食した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ