10話【ヨハンシュ】結婚披露宴
結婚式を滞りなく終え、ヨハンシュたちは披露宴会場にいた。
上級貴族や、王の縁戚にあたる貴族たちが集う場だ。
王と第二妃は結婚式だけ参加し、この場にはいない。
階の上にいるのは王女ナナリーだけ。
てっきり王子ダントンも同席するのかと思ったが、退席したようだ。
(小言を言われるとおもっているのか?)
まだ王子が幼い頃、侍従や護衛騎士に対して暴言を吐いたり、暴力をふるうことがままあった。誰も注意しないので、ヨハンシュがしかりつけたことがあったのだ。
よほど怖かったのか。ダントンは以来、ヨハンシュを避けるし、ヨハンシュのいる前では礼儀正しい王子の面をかぶっている。
「いやしかし、王女はお美しくなられた」
「公の場ではついぞお姿をお見かけしなかったので。このように素晴らしく成長されているとは」
上位貴族たちがしきりにフォーゼをほめたたえる。
彼女はそのたびにいたたまれないとばかりに身をすくめ、「ほめていただき、光栄です」と目を伏せる。
代わりにヨハンシュとジゼルシュが、「本当にお美しい王女で」「それだけではなく多芸でもあらせられるのです」と応じた。
そのたびにチリチリとした視線を感じる。
階からだ。
王女ナナリーだろう。
たぶん、だが。
彼女の想像とは全く違った結婚式であり、披露宴となっているのだろう。
ナナリーが着ているのは、この日のために仕立てあげられた、ゴテゴテした重たそうなドレス。
それをほめる者は誰もいない。
みな、フォーゼをほめているからだ。
王女ナナリーの予想では、自分だけがほめたたえられ、結婚式の主役であるはずのフォーゼは誰からも顧みられない。
そんな風に考えていたのだろうが……。
(ざまぁみろ。意地悪をするからそうなるのだ)
まったくあの王女と王子はどうして性格がひん曲がっているのだろう。
「中将。そろそろパレードのお時間が……」
進み出てきたのは騎士団の団長ふたりだ。
戦勝報告パレードのために連れて来たのだが、帰りはまさかの結婚披露パレードだ。
「わかった。兄上は?」
「すでに会場を出られました」
うなずくと、団長たちは敬礼をして下がっていった。
空気を読んだのだろう。
上位貴族たちも会釈をして離れていく。
さて、移動をするかと考えたが。
(……一発、かましてやらないと腹が立つな)
王女ナナリーのことだ。
あいつの嫌がらせで、ただでさえ細いフォーゼがさらに細くなってしまったではないか。
「王女、退席の前にナナリー王女にご挨拶をなさいますか?」
ただ、彼女が嫌がるならやめよう。自分ひとりだけ行って来よう。そう思って声をかけると、彼女はうなずいた。
「参りましょう」
そこでヨハンシュは彼女を連れて階へと移動した。




