表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第九章 失われた笑顔
92/662

91 裏切り

 テティスに連れられて、街の中を進むモトキ。

 食事の目処が付いた為、モトキに他の事も考える余裕が生まれた。


「テティスさん、この街は何処なんですか?」

「ん? モトちゃんは他所から来たのかな? ここはテオドールっすよ」


 聞いたことの無い街だった。

 そもそもモトキが把握している街の名前自体が少ないのだが。


「えーと……王都からはどれくらい離れているんですか?」

「オウト?」

「はい、白の国の王都」

「シロノクニ? ちょっと分からないっすね」


 モトキは愕然とした。

 原理は不明だが、遠くに移動してしまった可能性は考慮していた。

 しかし四色王国ですらない場所だとは思わなかった。

 何故なら言葉が通じるからだ。


(そうか、神の加護には翻訳機能もあるんだった。けど拙いぞ。ここから白の国に戻るまで何ヶ月かかるんだ……)


 最悪なのは、モトキの手元にペンダントがある事だ。

 白の国にペンダントが残っていれば、エドブルガかリシストラタが、イオランダの代わりに、魔人殺しの秘術を使える可能性がある。

 他の3国も魔人に襲われて、応援が期待できない現状、白の国に生き残る術はなかった。


「どうしたっすか、モトちゃん」

「いや……お腹が空き過ぎて、立ち眩みがしただけです……」

「もうちょっとだから、頑張るっすよ」


 そう言いながら、テティスはモトキの手を引き、更に奥へ進んでいく。

 すると段々と、街の人通りが少なくなっていく。

 建物もあれて者が増えていき、たまに見かける人も柄が悪い。

 そして辺りを確認してから路地裏に入ると、明らかに隠れ家的な場所に辿り着いた。

 テティスが扉を叩くと、中からもノックをが聞こえた。


「テティスっす」

「山」

「川」

「よし、入れ」


 ベタ過ぎる合言葉だ。

 そもそも合言葉が必要な時点で、穏やかではない。

 モトキは嫌な予感しかしなかった。


 扉の先には、見るからに警察と仲の悪そうな男が10人ほどいた。

 タバコの臭いが強烈で、空腹なことも相まって、モトキは眩暈を感じる。


「ちわーっす! 良さそうな女の子、攫ってきたっす!」

「誘拐だった!」

「あははっ、ごめんっす」


 テティスは笑いながら、モトキを部屋の中央に突き飛ばす。

 男達はジロジロと、モトキの事を値踏みしている。


「おい、こんな薄汚いガキのどこが良いんだよ」

「片腕だし、こんなの金になるかよ」

(金色の眼なのに、こんなこと言われる日が来るとは……)


 散々金色の眼は金になるという事で、誘拐事件に巻き込まれてきた為、この反応は新鮮だ。

 しかしセラフィナのことを、薄汚いガキ呼ばわりすることは、腹に据えかねた。


「いやいや、確かに汚れてるっすけど、よく見るとすんごいっすよ、この子!」

「うぎゅっ」


 テティスは濡らした布切れで、モトキの顔の汚れを拭きとる。

 幼いながらも整った容姿、透き通るようなきめ細やかな肌、手入れの行き届いた美しい白髪、宝石のような金色の瞳。


生まれ持った資質に、王族として育った環境と、神の加護による治癒力の高さ、そしてモトキの美容テクニックが合わさり、セラフィナはとびっきりの美少女になっていた。


「どうっすか! 片腕なんてお釣りがくるっすよ!」

「分かってるじゃないか、テティスさん」


 モトキは、セラフィナの事を褒められて誇らしげだ。

 もちろんそんなことを気にしている状況ではない。


「確かにこれは、そうそう居ないレベルだな」

「どこで拾って来たんだよ、こんな上玉」

「5年後なら俺が欲しいくらいだぜ」


 ちなみに身長は、すでに止まりかけている為、5年程度では大きく変わることはないと、モトキは思っている。


「それとこの子、片腕なのに滅茶苦茶手先が器用っすよ。ほらさっきの石を回すやつやってみて」

「えー」


 モトキは言われて渋々2つの小石を取り出し、コインロールをしてみせる。

 それを見て男達は感心し、拍手を贈った。


(ひょっとして大道芸でもすれば、食事代稼げたのかな?)

「どうっすか! これなら売れるっすよね!」

「そうだな……8000リアで引き取ってやる」

「もう1声!」

「7500――」

「8000でいいっす……」


 リアがアステリアの通貨であるアスと比べて、との程度の相場かは分からない。

 しかしテティスの反応から、そう高額と言う訳ではなさそうだ。

 テティスは男から金を受け取る。


「まいどっす! それでは私はこれで!」

「おう、出る所を見られるなよ」

「はいっす!」

「おい、手錠を――」

「あいたっ!」


 テティスが立ち去ろうとすると、その後頭部に小石がぶつかる。

 モトキが持っていた2つの小石の1つだ。


「テティスさん、家でご飯を食べさせてくれるって約束ですよ」

「そ、そんなの嘘に決まってるじゃないっすか! あなたを売る為の口実っすよ!」

「知ってる。だけど一応確認をね」


 モトキは立ち上がり、男達を見る。


「悪いんだけど、今の取引はなしで。金はテティスから返してもらってね」


 そう言ってモトキが出入り口に向かおうとすると、男達に取り囲まれた。


「もう取引は終わった。嬢ちゃんは俺達の所有物なんだよ。」

「俺は剣として、その全てを1人の女性に捧げると決めた。他の誰の者にもならない」

「物わかりの悪いガキだ。ちょっと痛い目に遭わせてやるか」

「顔は止めておけよ。価値が下がる」

「分かってるよ!」


 男の1人が、モトキの胴に蹴りを入れる。

 モトキはその足の上に乗り、一気に接近すると、首に手刀を入れて気絶させた。


「なにぃ!?」

「マジっすか!?」

「ここがどこか分からなくて、みんなの安否も不明で、今までにないくらいお腹が空いてて、はっきり言ってかなりイライラしてるんだ……」


 モトキは全員を睨みつける。

 見た目は子供だと言うのに、その威圧感に男達は委縮する。


「これが最後だ。俺の邪魔をするな」

「ふ、ふざけるな! お前達、やれ!」


 男達は一斉に、モトキに襲い掛かる。

 モトキはそれを、次々に避けていく。

 そして隙を見せた相手を、1人ずつ手刀で気絶させていった。


「これ貰うよ……不味っ!」


 モトキは机の上に乗っていた豆を頬張り、酒瓶をラッパ飲みして流し込む。

 神の加護の影響で、アルコールに酔うことはないが、問題はその味だ。


 生前は20歳の誕生日に亡くなり、アステリアでの飲酒は18歳以上からなので、モトキは酒を飲んだことがないのだ。

 精々料理酒の味見をした程度だが、酒の旨さは理解できなかった。


 それでも多少は腹が満たされた為、モトキの動きは格段に良くなった。


「また消えたぞ!」

「なんなんだ、このガキ!」

「探せ! 近くに居るはずだ!」

「ごはっ!」


 モトキはここに入ってから、ずっと男達を観察していた。

 筋肉の付き方や佇まいから、その凡その実力は把握できる。

 それは城の兵士とは比べ物にならないくらい弱かった。


 モトキは小さな体を活かして、物陰に隠れ、足元を潜り抜け、天井に張り付き、次々と奇襲を仕掛けていく。

 王闘で負け、エドブルガに負け、魔人にも負けたモトキ。

 それでも国の兵士と比べても、中堅以上の実力を誇るモトキにとって、何の訓練も受けていないチンピラなど敵ではない。


「これで終わり!」

「ぐふっ……」

「あっ、その……」


 10人いた男達は、僅か2分足らずで、全員気絶させられた。

 部屋で意識があるのは、モトキとへたり込んでいるテティスだけだ。


「さ、さっきのは冗談っす! えーとえーと……そう! 彼等は私の財布でして、攫うとか売るとかは、お金を引き出す為の隠語なんす!」


 モトキは無言・無表情でテティスに近付く。

 テティスの前に立つと、顔の横の壁を、おもいっきり踏みつける。


「ひぃいいいいい!」

「財布なら全額引き出してこい。それと一番小柄な男の服を剥げ」

「りょ、了解っす!」


 モトキはボロボロのドレスを脱ぐと、小柄な男から剥いだ服に着替えた。

 小柄と言っても、セラフィナより20センチ以上大きい為、だいぶブカブカだ。

 テティスは全速力で、気絶した男達の財布から金を抜き取ると、1つの袋に纏めて、モトキに差し出した。


「ど、どうぞ!」

「それはテティスの金だろ? テティスが持っていればいい。あっ、さっきの飲食と、この服の代金は建て替えておいて」

「いや、それは……」

「付いて来て」


 モトキは隣の部屋のドアを開ける。

 そこには手錠を掛けられた5人の子供達がいた。

 酷くおびえた様子だ。


(人の気配がすると思ったら、やっぱりか)


 それはモトキと同様に誘拐された子供達だった。

 モトキは、優しい笑顔で子供達に近付き、テティスが金を集めている間に見つけた鍵で、子供達の手錠を外す。


「怖かったね。もう大丈夫だよ。悪いおじさん達は、おねーちゃんがやっつけたから」

「……本当に?」

「パパとママの所に帰れるの?」

「もちろん。だけど今日はもう遅いから、帰るのは明日。今日はあそこのおねーさんの家でお泊りだ」


 モトキはテティスの方を見る。

 テティスは「え?」と言いたげな顔で、自分の事を指さしていた。

 モトキは子供達には見られないように、テティスの事を睨みつける。


「わ、私に任せるっすー。……はぁ」

「それじゃあテティスおねーさんの家に行きましょう。何を食べさせて貰えるか楽しみだねー」


 モトキ達は再びテティスの家に向かう。

 テティスは道中、モトキに目を付けたことを激しく後悔した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ