81 成長
四色国歴853年。
無色の大陸の都市「アステロ」では、年に1度の魔術の祭典が開催されていた。
「第300回世界創作魔術コンテスト! いよいよ優勝者の発表だ!」
コンテストが開催されている、アステロセンターホールの盛り上がりは最高潮だ。
ここまで発表された順位から、優勝者は予測されている。
その人物の人気もあり、観客は優勝者の登場を、今か今かと待ち焦がれていた。
「優勝は魔宝姫の1人! 血炎のセラフィナ選手だ! おめでとうございます!」
「やったぁああああああ!」
『今夜は赤飯だ!』
「うぉおおおおお!」
第294回から7度目。
セラフィナは、魔術研究者として着実に成長していき、ついに世界の頂点に君臨した。
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「おめでとうセラフィナ!」
「ありがとうソフィア。これで好敵手としての面目躍如ね」
ソフィアは今年こそ2位だったが、昨年はセラフィナより一足先に優勝していたのだ。
前回2位だったセラフィナは、ソフィアの優勝を自分の事のように喜んだが、同時に強い対抗意識を抱いていた。
その為、今回は例年以上に気合を入れていたのだ。
「こっちは師匠としての面目丸潰れだ。すっかり追い抜いてくれちゃいまして」
「コンテストの結果だけで、私達の師弟関係は変わらないわ。これからもご指導お願いします」
オルキスは6位であった。
弟子であるセラフィナの成長が嬉しい反面、悔しく、寂しくも思っていた。
それでもオルキスは、船酔い魔術を貫くのだ。
「あっ! 魔宝姫のセラフィナ選手とソフィア選手よ!」
「本当だ!」
「サインください!」
セラフィナ達が選手専用の出入り口から外に出ると、待ち構えていたファンに取り囲まれた。
2人は若くしてコンテストで多大な成果を残し、今や魔術研究者のカリスマ的存在だ。
その優れた容姿と、無色の大陸では常に一緒にいる事も合わさり、いつしか魔宝姫とアイドルユニットのように呼ばれるようになっていた。
「はいはい、一列に並ぶですよ」
「そこ! 押すんじゃねぇよ!」
カリンとカリストは、ファン達を誘導する。
毎年の事なので、2人とも慣れた様子だ。
オルキスは少し離れたところで、寂しそうに見守っている。
それから小1時間が経過し、2人はやっと解放された。
そう思ったのも束の間、会場の外には別のファンが待ち構えていたのだ。
「また!?」
「いい加減、疲れてきたよ……」
お人好しのセラフィナと、控えめなソフィア。
この2人は頼まれると断れない性格だ。
だからと言って護衛騎士の2人に任せれば、ケガ人を出してしまうかもしれない。
「皆さん! こちらですわ!」
セラフィナ達とファンの間に、1台の馬車が割り込んできた。
中にはアンネリーゼが乗っており、セラフィナ達を乗せると、その場から立ち去った。
「助かったわ、アンネ」
「危うく帰れなくなるところだったよ」
「お二人共、ご自身の人気を軽く考えすぎですわ。来年からは飛行船で出入りすることも考慮に入れた方が良いかもしれませんわね」
『それやったら完全にアイドルだな』
セラフィナ達は、迎賓館に向かう。
本来は四色祭のように、もっと大勢の王族が集まった際に使われる場だが、セラフィナとソフィアの影響力を考慮して、特別に使用の許可を得ていた。
「やっと落ち着けるわね」
「そうですわね。遅くなりましたが、優勝おめでとうございます、セラフィナさん」
「ありがとう、アンネ」
「ソフィアさんも、準優勝おめでとうございます」
「次はボクが優勝して、セラフィナを抜き返すよ」
「そうはいかない。今度は私がリードしてみせるわ」
次なる目標を見据え、燃え上がるセラフィナとソフィア。
そして共に全力を尽くすことを誓い、2人は固い握手をする。
「その前に四色祭があるが」
「アルス、水を差してはいけませんわ」
「そうだったか、すまない」
「別に構わないわよ」
アルステーデは、アンネリーゼの護衛騎士になっていた。
その実力と、アラビスから助け出した実績を考えれば、妥当な人選だ。
アルステーデは王族に対して蟠りがある。
それを少しでも払拭できないかと、アンネリーゼが慮った結果でもあった。
「セラフィナ姫、今年の王闘には出るのか?」
「流石に今年はエドブルガに譲るわ」
3年前の王闘でも、本来はエドブルガが出る予定だった。
しかし他国の参加者であるアルステーデ、カーネギア、ムロトの3人全員が、セラフィナと戦いたいと言い出したのだ。
その結果、6年前と同様に、モトキが参加することになったのだ。
『3年前は散々だったな……。アルス君に1回戦で負けて。3位決定戦でムロトさんに負けて。その後、個人的に戦ったカーネさんに負けて……』
要するに惨敗である。
モトキは6年前より強くなっていたが、他の3人はもっと強くなっていたのだ。
更に3年が経過した現在では、その差はより広がっていることだろう。
「身体能力差が縮まないのに、技術力の差だけ埋められたら、勝ち目はないわよね……」
「姫様の技の冴えは、いつ見ても見事なんですが……」
「もっと背が伸びれば、もうちょっと戦えたのかしらね」
セラフィナの身長は、6年前と比べると伸びた。
それでも15歳とは思えないほど小柄だ。
グングン伸びたソフィアと比べて、頭1つ分以上の身長差がある。
「デッドウェイトだけは無駄に増えたし……」
『うん、これは正直やり辛い』
胸はそれなりに成長していた。
大量に食べた栄養が、背にも筋肉にも回らなかった結果である。
ただ重いだけでなく剣を振る時に当たる為、最近のモトキの悩みの種だ。
当たることに対しては、セラフィナは気にしていない。
「カリンが羨ま――」
『よせ、セラフィナ!』
「はい……護衛騎士として……理想的な体……です……」
モトキがとっさに入れ替わったが、間に合わなかった。
カリンは悲しい目で遠くを見つめている。
「と、とにかく今の俺じゃ、みんなの期待には応えられないよ。ごめんな、アルステーデ」
「俺は強さだけに期待している訳ではないんだが」
モトキは強さの壁にぶち当たっていた。
姫剣も、6年経って4つしか実践レベルに達していない。
基本的に頑張れば何でもできるモトキの、人生死後初のスランプである。
それ故に、いろいろと自信も失っていた。
「四色祭……あれから現れないね、魔人」
「そうですわね……」
6年前に現れた魔人アルタイル。
各国に魔術騎士団を設立し、新たに強力な魔術を研究し、魔人に有効な武器を開発し、大陸間を高速で移動できる技術を開発した。
世界の技術レベルは飛躍的に上昇したが、本来の目的で使用されたことはない。
「赤の国では、カリスト達の勘違いだったんじゃないかって話が出てるよ」
「青の国もですわ。控えめに言って、当時の緊張感は皆無ですわね」
「白の国では、エドブルガが何とか盛り立てているけど、やはり全体の士気は落ちているわね」
オルキスを除いた、ここに居る全員は、6年前に魔人ないし魔人化したアラビスと接触している。
その為、他の者達よりも強い危機感を抱いていた。
それでも6年と言う歳月は長すぎるのだ。
セラフィナも先日見た夢のおかげで、久方ぶりに危機感を取り戻したくらいだ。
「一生現れないのなら、それに越したことはないのだけど……」
「世界のどこかに潜んでいること自体が脅威ですわ。必ず討伐しなくては」
魔人に対して、変わらぬ敵対心を燃やし続けているのは、アンネリーゼだけだった。
「何を暗い雰囲気を出してんだ! 今日は姫と白の姫のお祝いだぞ! もっと盛り上がれ!」
カリストが、山のようなご馳走を運んできた。
意外なことに料理上手なのだ。
「……そうですわね。セラフィナさんの優勝とソフィアさんの準優勝。2人の健闘と魔術の発展を祝わなければ!」
「その通りだ! ほら、クラッカーを持て!」
「「「おめでとう!」」」
セラフィナとソフィア以外の全員がクラッカーを鳴らし、2人の事を称える。
セラフィナは、念願だった魔術コンテストの優勝を、今更ながら実感し、嬉し涙を流した。
それからは辛いことや難しいことは、心の片隅に追いやり、パーティーを楽しんだ。
「だけど残念だったね。せっかく優勝できたのに」
「フリージアさんの事?」
「うん」
ソフィアが優勝した前回から、フリージアは魔術コンテストに参加していないのだ。
アンネリーゼに確認しても、確かな情報は得られない。
「フリージアさんとの約束……。ちゃんと自分のトロフィーは手に入れたけど……」
「フリージアさんを追い抜く約束は果たせてないわね。成長した今の私達を見てほしいのに……」
一昨年以前の魔術コンテストでも、フリージアは常に2人より上の順位を取り続けていた。
その為、2人は優勝を喜びきれていないのだ。
「来年は出てくるといいわね」
「うん、そしたら2人で追い抜こう」
「おーい、主役がそんな隅っこにいるな! 真ん中で堂々としてろ!」
「もう、カリストは……」
「行きましょう」
「うん」
2人は笑顔で皆の輪の中に入って行く。
セラフィナは疑っていなかった。
来年も魔術コンテストに参加できると。
明日もきっと笑っていると。
6年前の女性陣の身長は
カリン>アンネリーゼ>ソフィア>セラフィナでした
6年後の女性陣の身長は
ソフィア>カリン>アンネリーゼ>セラフィナとなります
ソフィアは魔術騎士団の団長にされてから、グングン成長しました




