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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第七章 異常な普通の日常
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78 地球人の実力

「それにしても凄い発展具合ね。アステリアの何世紀先を進んでいるのかしら?」


 セラフィナは、ただ散歩しているだけだというのに、驚きの連続だった。


 目が回りそうなほどカラフルな街並み。

 どうやって建てたのか、想像が付かないほど高いビルやマンション。

 アステリアのものより遥かに小型でありながら、鮮明に映像を写すディスプレイ。

 もの凄い数と速さだと言うのに、衝突することなく、起立の取れた動きをする自動車。

 携帯電話に至っては、セラフィナの理解を超えすぎて、独り言を言っているようにしか見えていない。


 それは数多のSF小説よりも、圧倒的にサイエンスなフィクションだった。


「酔った……」


 神の加護の効果で、酒にも乗り物にも、今まで1度も酔ったことのないセラフィナが酔った。

 あまりに突飛な情報を一遍に詰め込んだ為、セラフィナの脳はパンクしたのだ。

 セラフィナは、小さな公園を見つけると、そこのベンチで休むことにした。


(あまりにも未知が過ぎると、驚いてばかりで、いまいち楽しみ切れていないわね。モトキが解説してくれれば、違ったのだろうけど……)


 セラフィナは、ボーっとしながら脳を休ませる。

 公園では、小さな子供達が楽しそうにボールで遊んでいた。


(どこの世界でも、子供の無邪気さは変わらないものね。落ち着くわ……)


 自分の知識と乖離の少ない光景に、セラフィナは和み、自然と頬が緩む。


 セラフィナは知る由もなかった。

 二十歳前後の男性が、平日朝の公園で、小さい子供を見て嬉しそうにしている。

 日本でそれが、どのような意味を持つかを。


(気のせいか、大人の視線が痛い気がするわ……)


 母親達による無言のプレッシャーがセラフィナに突き刺さる。

居心地が悪くなってきたセラフィナは、その場から立ち去ろうと立ち上がった。


 すると子供達が遊んでいたボールが、車道に飛び出すのが目に付いた。

 子供の1人がそのボールを追いかけて行く。

 するとタイミングの悪いことに、追いかけたボールの先に、トラックが迫っていた。

 母親達は、セラフィナの存在に気を取られて気付いていない。


(あれって絶対危ないわ!)


 自動車に付いて知識の浅いセラフィナでも、質量の大きい物体が、高速でぶつかれば、どうなるかは分かる。

 セラフィナは、子供を助けようと全力で駆け出す。

 しかし子供は、母親を挟んで更に向こう側だ。

 とても間に合う距離ではない。


「……あれ?」


 気付いた時には、セラフィナは子供を抱えて、道路の反対側にいた。

 背後からはトラックが通り過ぎる音と、母親の悲鳴が聞こえる。


(え? 瞬間移動? 夢の中だし、出来ても不思議じゃないけど、まさか……)

「なに?」


 助けたセラフィナも、助けられた子供も、事態を認識できず、混乱している。


「ゆーくん!」


 子供の母親と思われる人物が、血相を変えて走ってきた。

 彼女からしたら、子供がトラックに跳ねられて、姿を消したように見えたのだ。

 そしてセラフィナが子供を抱えているのを見て、ホッと胸を撫で下ろした。


「あぁ、ゆーくん、良かった……。ありがとうございます」

「え? はい、怪我がなくて良かったです」

「ママ、どうしたの?」

「ゆーくんが車に跳ねられそうになったところを、このお兄さんが助けてくれたのよ! 駄目でしょ! 周りを見ないで車道に飛び出しちゃ!」

「ごめんなさい……」

「本当に……無事で良かった……」


 母親は強い口調で子供を叱る。

 子供が涙目で謝ると、母親は強く抱きしめた。


 騒ぎに気付き、他の子供や母親も集まってきた。


「ゆーくん、けがしたの?」

「ううん、このおにーさんがたすけてくれたって」

「ボクみたよ! おにーさんすごいね! ニンジャみたいにシュパってゆーくんのところまでいってたよ!」

(やっぱり走っていたのね!)


 人間の体は100パーセントの力を出すと、自身の筋肉を壊してしまうため、脳にリミッターが設けられている。

 モトキは、いざという時の為に、それが外れやすくなるよう訓練していた。

 それは精神と肉体の、両方を鍛えていたのだ。

 その為、セラフィナでもモトキの体の限界を引き出すことが出来たのだった。


「本当にありがとうございます。何とお礼をしたらいいか」

「いえいえ、人として当然の事をしただけですから。それではこれで」


 セラフィナは、母親の制止を振り切り、足早にその場を立ち去る。

 そして人気のない所までやって来た。


(脳にリミッターが付いていることも、それが外れると凄い力を出せることも知っているけど、モトキの身体能力ってその範疇なの?)


 イサオキとエアの為なら何でもするモトキ。

 そのモトキなら、人類の限界を超えた身体能力を持っていても不思議ではない。

 少なくとも技術面では、かなりとんでもないものを持っているのだ。


 セラフィナは、その場で垂直に飛んでみる。

 すると2メートルは軽く超えた高さまで飛べた。

 限界ではなく、全力の段階でこれである。


 それはアステリア人を大きく上回る身体能力だ。


(これは地球人にしたら普通なの!? モトキの普段の言い方から、平均以上ではあると思うけど――)


 あまりにも軽々と、ありえない距離を飛んだことに動揺するセラフィナ。

 するとたまたま通りかかったお婆さんが、セラフィナに拍手をしていた。


「凄いね、お兄さん。オリンピック選手かい?」

(意味は分からないけど、とんでもないことをしたのは分かる!)


 セラフィナは適当に誤魔化し、ミタカ家に戻ることにした。


 その日は、見るもの全てに驚かされたセラフィナであったが、1番驚いたのは、良く知っているはずのモトキの存在である。

 その為、玄関を開けた先に、金色の髪と瞳の薄っすら光る女性が立っていても、あまり驚かなかった。


(私、鍵かけたわよね? と言うかこの人、どこかで見た気が……)


 地球にセラフィナの知り合いは、モトキ自身しかいない。

 イサオキとエアでさえ、羊毛フェルト人形から当たりを付けて判断したのだから。

 つまりこの女性は、アステリアで会った事がある人物なのだ。


「そうだ! アンネが攫われた時、飛行艇に乗っていた人ね!」

「探して」


 女性の言葉には、相変わらず脈絡がない。

 それでも不思議と聞き入ってしまう声だ。


「探してって……何を?」

「あなたなら読めるから」


 そう言うと、女性は光の粒になって消えてしまった。


「読める……本か何か? それを探せばいいの?」


 女性の目的は一切不明だ。

 それでも女性の言葉に従った方がいいと、無条件に思ってしまうのだった。


「前に会った時も、こんな気分になったわね……。まあ今思えば、あの時の忠告も的を得ていたし、今回もとりあえず従ってみることにしましょうか」


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