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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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75 姫達の決意

 魔術騎士団。

 文字通り、魔術を用いた騎士の集団である。


 青の国では、以前より計画されていたことだが、魔術を使える人間が少ないことから、設立までは至っていなかった。

 魔術研究に力を入れている青の国でさえ成せていないことを、他の3国で行えるはずがない。


 それでも秘術以外で魔人に対抗できる数少ない手段だ。

 その為、やや強引ではあるが、国中から余増魔力を持っているものを探し出し、徴兵する計画が立てられたのだ。


「白の国では、オルキスに指導を行ってもらうことになるわ」

「魔力量はそこそこだけど、知識と技術ならオルキス以上の魔術師は居ません。良い判断だと思います」


 セラフィナは、リツィアより魔術騎士団の詳細を聞かされていた。

 魔術騎士団を任せられる予定のオルキスが、無色の大陸に来ていない為、魔術研究者であるセラフィナに意見を求めに来たのだ。


「しかし魔術騎士団……。疑似とはいえ、実際に魔人と相対した身からすると、正直心もとなく思います」

「それでも王が到着するまでに、僅かでも魔人の足を鈍らせることが出来れば、決して無駄ではないでしょう」


 あくまで魔人を殺すのは、魔人殺しの秘術を持った王の役目である。

 魔術騎士団の役目は、王が来るまでの時間稼ぎや、被害を抑えることにあった。


「そして魔術騎士団の団長には、キテラを任命します」

「えっ!?」


 キテラはクールを装った顔を崩して驚愕する。

 しかしセラフィナは、全く動じていない。

 キテラはエドブルガに次いで、国で2番目の魔力量の持ち主だ。

 身体能力も低い訳ではない為、妥当な人選なのだ。


「お、恐れながら王妃様。私には姫様の傍付きと言う大事な仕事が――」

「セラフィナ、問題ありますか?」

「えーと……」


 セラフィナにとって、キテラは居て欲しい存在である。

 しかし病気にならない今のセラフィナには、決して必要不可欠な存在ではないのだ。

 そして今は個人的感情を優先できる状況ではない。


「キテラ、私も魔術研究者として全面協力するつもりよ。一緒に頑張りましょう」

「姫様……」


 キテラとしては、セラフィナ以外の主に使える気はなかった。

 それでもセラフィナが頑張ると言っているのに、自分だけ我儘を通す訳にはいかなかった。


「……謹んでお受けします」

「あなたを団長に任命しましたが、あくまで一時的なものです。今後、事態の鎮静化、もしくは組織の安定化が進んだ際には、セラフィナの傍付きに戻ってもらう予定です。もちろん団長職を継続することも可能ですが」

「事態の鎮静化、もしくは組織の安定化に全力を尽くさせて頂きます! 全力を!」


 リツィアは、人を使うことが上手かった。

 特に城に勤める優秀な人材については、何が有効かをほぼ把握しているのだ。


「セラフィナ。先程魔術研究者として全面協力するとの事でしたが」

「あっ、申し訳ありません。また勝手なことを……」

「いいえ、こちらから頼む予定でした。あなたの魔術研究者としての才覚は、今更疑う余地はありません。また王族が関わることで、兵の士気を向上させることも出来るでしょう。オルキスと共に、魔術の指導をお願いします」

「はい、精一杯頑張ります!」

「頼みましたよ、セラフィナ」

「はい、お母様」


 セラフィナは、リツィアに期待され、張り切っている。

 キテラは魔術騎士団の詳しい説明を受ける為、リツィアと共に部屋を後にした。

 残ったのはセラフィナだけだ。


『むりやり徴兵ってのが引っ掛かるけど、人類の危機にそんなこと言ってる場合じゃないか』

「せめて少しでも楽しく魔術を覚えられるように頑張らないと」

『まあ白の国なら、そんなにキツイことにならないと思うけど。他の国はどうだろう』

「青の国は、元々魔術に通じている人が多いから問題ないと思うわ。黒の国も、国全体の結束が固いらしいし。心配なのは……」

『魔術軽視の赤の国か……。ソフィアちゃんの頑張り次第かな』

「そうね……」


 確認に行きたい気持ちはあったが、カリンがいない状況で外出するわけにもいかない。

 セラフィナは部屋で大人しくしていることにした。


                    ・

                    ・

                    ・


「むむむ無理です!」

「姫ならやれるって! 自信持てって!」

「ああ、我もそう確信しているぞ、ソフィア」


 赤の国の女王エルザも、魔術研究者であるソフィアに、魔術騎士団の事を話している。

 しかしその内容は、セラフィナのものと大きく違っていた。


「魔術の指導だけならまだしも、ボクに魔術騎士団の団長なんて務まりません!」

「魔人と戦う象徴は、王族が努めねばならない。他の兄弟が魔術を軽視しているのは知っておろう? お前以外に誰が務まる?」


 金色の瞳の持ち主は、例外なく余剰魔力を有している。

 その為、カーネギアを始めとした一部の王族も、魔術を使うことが出来るのだ。

 使うことは出来るだろうが、ソフィアと積み上げてきたものの足元にも及ばないだろう。

 しかも魔人と対峙したという実績までついている。

 ソフィア以上に、魔術騎士団の団長に相応しいものはいないのだ。


「ボクは攻撃の魔術が殆ど使えなくて……」

「お前に団長として求めているのは指揮だ。戦闘は他のものに任せておけ」

「自信がありません……」

「お前は友の為に、自らの意思で戦地に赴いたと聞いている。その気概があれば出来る」

「でも……」


 エルザが、今までで最もソフィアを評価している瞬間だ。

 ソフィアも、そんな母の期待に応えたくはあった。

 しかしどうしても勇気が湧かないのだ。


「……やはり我が国にはセラフィナが欲しいな。カリスト、カーネギアを呼んでこい。今度は本気で口説かせよう」

「や、やるよ! やります! やらせてください!」


 セラフィナの為なら、幾らでも勇気が湧いた。

 ソフィアは、セラフィナと義姉妹になることは悪くないと思っていた。

 しかしセラフィナが誰かのものになることは、まだ受け入れることが出来ないのだ。


                    ・

                    ・

                    ・


 エドブルガとアンネリーゼは街を歩いていた。

 その少し後をエドブルガの護衛騎士が付いて来ている。

 しかしアンネリーゼにとって、これは2人きりも同然であった。

 その上エドブルガの方から誘われて、街に出ているのだ。

 アンネリーゼの心臓は、爆発しそうなほど激しく脈打っていた。


(まさかエドブルガ様からお誘い頂けるなんて! しかも実質2人きり! これは控えめに言ってデートなのでは!? デートなのでは!!? デートなのでは!!!)

「アンネ」

「ぐふっ!」


 危うく爆発しかけた。


「大丈夫?」

「だだだ大丈夫ですわ! なんでしょうか!?」

「うん、街が平和だなって」


 海竜が出現してから2日。

 各国の王と兵士の活躍で、街は殆ど被害を受けなかった。

 魔人が出現したことも、一般人には知らされていない。


 街は、そして世界は、普段通りの平和な日常を取り戻していた。

 そんな街中を、のんびり散歩することが出来るのも、平和であるからこそ出来ることだろう。


「僕達王族は、こんな当たり前の平和を護る為に戦うのが務め。きっと僕が今感じているものより、ずっと重い物なんだと思う」

「……そうですわね。魔人は容易く国を滅ぼせる存在。その責任は重大ですわ」

「実際に魔人と対峙したアンネは、余計にそう思ってるよね」


 アンネリーゼは、飛行船で会った魔人、アルタイルの事を思い出す。

 黒い結膜と、鳥の様の羽を持つ少年。

 恐怖は一切感じなかった。

 強いとも思わなかった。

 それでも魔人であることは疑わなかった。


 何千年と続く、人類と魔人の闘いの歴史。

 それによってヒトの遺伝子に刻まれた本能が、アルタイルを人類の天敵だと理解させるのだ。


「アラビスの――個人的な感情を抜きにしても、あれは絶対に殺さないといけない存在ですわ」

「そうか……分かったよ」

「何のことですか?」

「魔人を絶対に倒さなくてはいけない存在。知識としては知っていても、実感が湧かなかったんだ」


 エドブルガだけではない。

 アルタイルと対峙した3人以外は、魔人の存在を認識しきれていなかったのだ。

 各国の王も、危険だという前提から対策を練っているだけで、アンネリーゼが抱えている感情を理解できていなかった。


「それはきっと魔人と直接対峙しないと分からない感情だ。だけどアンネリーゼが魔人を敵視している事実は分かる」

「わたくしの……」

「アンネリーゼの敵は僕の敵だ。それさえ分かれば、僕は戦える」

「はうっ!」


 アンネリーゼのハートは撃ち抜かれた。

 過去に撃ち抜かれすぎでスカスカの状態だが、それでも残っている部分にクリーンヒットしたのだ。


「つまりは……わたくしの為!?」

「んー、そうだね。それが一番具体的な原動力になると思う」

(これは控えめに言って告白なのでは!?)


 告白ではない。

 エドブルガの言葉には、「大事な友達」と言う前提が付いている。


「今後魔人が、どの国に現れるかは分からない。だけどもし青の国に現れたら、絶対に助けに行くから」

「そそそそれは大変嬉しいことですわ! ですがわたくしの方が、白の国に嫁ぐ予定でしたのに!」

「そうだね。天才魔術師のアンネが来てくれたら心強いよ」

(それはいつでもお嫁に行って良いという事ですか!?)


 アンネリーゼは、興奮により体温が40度に達していた為、正常な受け答えが出来なくなっていた。

 エドブルガは、上手い具合に脳内変換している為、アンネリーゼの真意には気付いていない。

 アンネリーゼが、エドブルガと話す時、多少支離滅裂なのは最初に出会った頃から変わらないのだ。


                    ・

                    ・

                    ・


 翌日、各国の王族は、自国に帰ることになった。

 魔術騎士団を始めとした魔人の対策を、一刻も早く進めなければいけないのだ。


「ソフィア。アンネ。お互い頑張りましょう」

「うん、セラフィナの為に頑張るよ!」

「わたくしもエドブルガ様の為に頑張ります!」

「2人とも、まずは自国の事を優先してくれよ……」


 セラフィナとソフィアとアンネリーゼ。

 3人は共に、非凡な魔術の才を持っている。

 それは近い将来始まる、魔人との闘いに、大きく影響するものだろう。


 3人は新たな決意を胸に、自国へ向かう船に乗り込んでいった。


『セラフィナ。次会う時は、何の憂いもなく、笑って再開できるように――』

「ええ、魔人に人類の力を見せつけてやるわ」


 セラフィナとモトキも誓い合った。

 光り輝く、人類の未来を見据えて。


第六章はこれで終わりとなります

そして特に表記はされていませんが、これで第一部完となります

第二部から世界は大きく動きますが、これからもご愛読よろしくお願いします

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