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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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74 理不尽な力

 セラフィナは、夢の中の世界に来ていた。

 心の中の部屋にはモトキの姿は見当たらず、セラフィナは奥の部屋の扉を開く。

 そこでモトキは剣を振っていた。


「モトキ、大変なことになったわ」

「ああ、聞いてた。アラビスを裏から操っていた魔人が居たって」

「操っていた……とは少し違うけど」


 アンネリーゼ達が遭遇した魔人、アルタイル・トライホーク。

 アルタイルの話では、アラビスの行動は全て、本人の意思によるものだと言う話だ。


「アラビスは歪んでいた! けれどその愛を俺は否定しない」


 愛する者の意思を無視し、自分の想いを一方的に押し付ける行為。

 それはモトキが良しとする愛の形とは違うものだ。

 それでもアラビスは、アンネリーゼの事を愛していた。


「アラビスが悪いのは分かってる! 魔人化した結果、アンネちゃんへの愛を忘れると知っていたら、アラビスは絶対にあの結晶を使わなかった!」

「そうね……それだけは確かだわ」

「だからアンネちゃんを傷付けようとしたのはアラビスじゃない! きっと無念に思ってる! だから全部がアラビスの意思だったなんて、俺は認めない!」


 モトキは剣を振りぬくと、鞘に納めた。


「その魔人の事がムカつく。だけど俺には力がない。疑似的な魔人であるアラビスにすら、手も足も出なかった……」

「人の力は魔人に傷1つ付けることは出来ない……。分かってはいたけど、あそこまで理不尽な存在だったなんて……」


 それはまるで、ゲームの絶対に倒せない敵のように、いくらレベルを上げても、決して届くことの無い存在。

 世界より上位の存在に、そう設定されているかのような理不尽さ。

 いくら剣を振っても、魔人との闘いの役に立たないという現実が、モトキの心に影を落としていた。


「アラビス勝てたのは運が良かっただけだ。そして本当の魔人には、運が良くても勝てない……」

「魔人殺しの秘術……まさか特定の道具が必要だなんてね」


 エドブルガより聞いた、魔人殺しの秘術の実態。

 秘術が、王にしか継承されない理由。

 それは秘術を使う為の道具が、一国に1つしかないからだ。


「お父様や各国の王に任せるしかないわ」

「俺には何もできない……」


 もしセラフィナ達が、アルタイルと対峙することがあったとしても、アラビスの無念を晴らすことは出来ないのだ。


「そもそもモトキが気負う必要がないのよ。私達とアラビスに、直接的な関係はないのだから。それに私が倒すなんて言ったら、また皆に心配をかけることになるわ」

「……ご尤もだ。ちょっと熱くなりすぎたな」


 大切の人の為や、いつもの誘拐犯トリオを捕まえる為なら、多少の危険は受け入れられる。

 しかしそれ以外で、皆に心配をかけてまで、セラフィナが危険に目に遭う訳にはいかない。


 他でもないモトキが、そう言う前提で戦っているのだ。

 アラビスの事は、魔人と戦う要因の1つでしかない。


(戦う気がなくても、魔人と戦わざるを得ない状況になる可能性はある。その時セラフィナを護れませんでしたじゃ――)

「ていっ」

「あたっ」


 セラフィナがモトキにデコピンをくらわす。

 決して痛い訳ではないが、モトキは反射的にそう反応してしまう。


「なんで……」

「モトキの考えていることなんてお見通しなのよ。そうね……「戦う気がなくても、魔人と戦わざる負えない状況になる可能性はある。その時セラフィナを護れませんでしたじゃ、俺は俺を許せない」ってところかしら」

「なんで!?」


 一語一句違わない予想に、モトキは驚愕する。

 流石のモトキでも、イサオキとエアの考えていることを、ここまで正確に予測することは出来なかった。


「モトキは私の剣でしょ? その役目は未来を切り開くこと。護ることじゃないわ」

「あ、あぁ」

「私がモトキに頼まれた約束は長生きすること。だったら私の命を護るのは、私の役目じゃないかしら?」

「……死んだら未来はないから、俺の役目じゃないかな?」

「だとしてもモトキ1人で抱え込むことじゃないわ」


 モトキは今まで、自分が頑張れば何とかなると、努力で物事を解決してきた。

 そうやってイサオキとエアを繋ぎ留め、守り続けてきたのだ。


 それはモトキの狂気であり、一度狂ったものは簡単には治らない。

 大切な人の為に努力し、護ろうとするのは、モトキの根幹にあるものなのだ。

 そして今のモトキにとって、その最大の対象はセラフィナである。


 それは決して悪いものではない。

 しかし魔人と言う、努力でどうしようもない存在は、モトキの根幹を揺るがす存在だった。

 セラフィナはそれを、逸早くそれを見抜いていた。


「それでも俺はセラフィナを――」


 セラフィナは、モトキを抱きしめる。

 モトキが人にするように、優しく撫でながら。


「私達は肉体を共有しているのよ。だから私はモトキから離れたりしない」


 イサオキとエアのように、頑張らなくても離れ離れになることはない。


「私達の命は2人のもの。だからモトキ1人で護る必要はない」


 セラフィナは、モトキが一方的に護る存在ではない。


「1人で頑張る必要なんてないわ。あなたがセラフィナなら、私もモトキなのだから」


 今のモトキには、前でも横でも後でもない、同じ場所で一緒に歩く人がいるのだ。

 モトキは目を瞑ると、セラフィナに体を預ける。


「あんまり甘やかすなよ……。駄目になる……」

「モトキが自分の事に鈍感なのが悪いのよ。これくらいはっきり言葉にしないと伝わらないでしょ?」

「一緒にか……」

「それでも足りないけどね。そもそも魔人は人類全体の問題よ。だから各国の王が会議を開いている。モトキ1人が頑張ってどうにかなるなら、人類の天敵などと呼ばれないわ」

「……みんなで力を合わせれば、誰も死なないで済むかな?」

「難しいでしょうね。だけど不可能とは言わないわ。可能性を解き明かすのが研究者だもの」

「そうだな……」


 モトキは、セラフィナの腕の中で眠りについた。

 夢の中の世界で、モトキがセラフィナより先に眠るのは初めての事だ。


「モトキのやっていたことを真似ただけなのに……。私にこんな才能があったのね」


 以前モトキがカリンに使った、母の愛を忠実に再現したもの。

 それを更に再現したものだ。

 技術的には遠く及ばないものだったが、戦いが終わっても気を張り詰め続け、精神が疲労していたモトキには効果が抜群だった。


 セラフィナは、モトキを抱えたまま倒れ込むと目を瞑り、そのまま眠った。


(一緒に護ろう……。私も……。私達の大切な人達も……)


                    ・

                    ・

                    ・


 セラフィナが眠っている間にも、王達は魔人の対策を練っていた。

 ほぼ丸2日、最低限の休憩のみを挟んで行われた会議。

 そしてようやく1つの決議が下りた。


「我が青の国では、以前より計画されていたことだが、これを四色王国全体で行う。各王も相違ないな」

「うむ、問題ない」

「同じく」

「仕方があるまい。我も同意しよう」


 それは300年前に、魔人により壊滅的被害を受けた、青の国の案だ。

 僅かとはいえ、魔人に有効だと証明された魔術。

 その魔術の力を用いた、魔人に対抗する為の新たな組織。


「各国に、魔術騎士団を設立する!」


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