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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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68 世界の闇

「カリスト! ちゃんと青い砂を見えてる!?」

「大丈夫だ! ちゃんと追ってる!」


 アンネリーゼ救出に向かう一行。

 先頭を走るのはカリスト。

 カリストの足は速く、抱えられているソフィアが、ちゃんと目印を把握できているか心配になるほどだ。

 カリストにやや遅れて、カリンとアルステーデが追走している。


(相変わらず早いですね。ソフィア姫より、こっちのお姫様の方が絶対に軽いのに……)


 セラフィナはソフィアより身長が低く、右腕もない為、よっぽどのことがない限り、ソフィアより重いはずがない。

 それでもカリストより遅いのは、それだけ身体能力に差があるという事だ。


(同じ護衛騎士として負ける訳には――)


 カリンが必死になっていると、背負っているセラフィナを、アルステーデがヒョイと持ち上げた。


「へ?」

「……軽いな」

「な、何するんですか! お姫様を運ぶのは、私の役目ですよ!」

「俺の方が速い」


 そう言うとアルステーデは、カリンを追い抜いて、カリストたちとの距離を縮めた。

 明らかに超重量である大剣を背負っているのにである。


「やるな! だったら俺も本気を出すぜ!」

「分かった」

「なっ!」


 カリストとアルステーデは、更にスピードを上げる。

 カリンは身軽になったというのに、そんな2人に付いて行くのがやっとだった。


(なんで……こんなに……)


 カリンは、自分の不甲斐なさに涙が出そうだったが、堪えて必死に走った。


「……可哀そうなんだけど」

『だからと言って私達が慰めたら、騎士としての沽券に関わるわ。触れないであげるのが主としての優しさよ』

「すまない。君に話を聞いてほしかったんだ」

「相談? そりゃ聞くって言ったけど、今? 走りながらとか辛くない?」

「平気だ」


 アルステーデは、モトキによるフィジカルランキングの1位になった。

 モトキが知る、この世界で1番強い人間であるリシストラタ。

 そのリシストラタに対する秘密兵器と称される、アルステーデの評価は妥当だと判断したのだ。


「分かった。なに?」

「ああ。俺は12歳の頃まで、王都とは別の街に住んでいた」


 アルステーデは、自分の過去を掻い摘んで話し出した。


 今から2年前、アルステーデは、街の鍛冶師である父と2人暮らをしていた。

 しかしアルステーデは、父とあまり似ていなかったのだ。

 髪色も違い、母親似なのかと言われれば、それも違う。

 その家には、母親は居なかった。

 家を出た訳でもなく、亡くなった訳でもなく、最初からいないのだ。


「当時は疑問に思わなかった。けれど今思うと、俺は父の子ではなかったんだと思う」

「誰かから引き取ったか」

『もしくは捨て子だったか』

「今では確かめることは出来ない。ただ当時の俺は、外に出ることを禁止されていた」

「王族でなくても、金色の目は狙われるそうだからな」

「そう、俺は金色の瞳だ。街の連中は、俺を祭り上げて、クーデターを計画していたんだ」


 街では独自の軍が作られており、ある日、青の国の王族に戦争を仕掛けた。

 戦争と言っても、実際は局地的なテロリズムだ。

 真の王アルステーデの名の下に、各地に出向いていた王族を殺していった。


「俺は訳も分からず、各地に連れまわされた。流れる血と国の燃える匂いは今でも覚えている」

「……だけど、そんなの現実的じゃない」

「ああ、2ヶ月もしない内に、革命軍は全滅した。俺の父も殺された」

「それは……この世界の王位継承の闇だな」

『分かってはいたけど、実体験として聞かされると……』


 歴史も紐解けば、どこの国でも経験のあることだ。

 歴代の王達も分かっていながら、何千年も変えずに続けてきた、王位継承のルール。

 もはや誰が、どういった意図で決めたかも分からないというのにだ。


「だがアンキセス王は、俺だけは殺さなかった。「お前を国を守る騎士にする」と言われて、様々な訓練を受けてきた。それは厳しいものだったけど、待遇は悪くないと思う。父と暮らしていたころより、ずっといい生活をしている」

「だけどそこに大切な人はいない」

「ああ、悪いのは父と街の人達だ。血も繋がっていなかったはずだ。それでも俺にとっては唯一の家族だ」

「分かるよ。家族って言うのは血の繋がりだけじゃない」

『そうね……』


 セラフィナも、リツィアとは血の繋がりがない。

 それでもセラフィナにとっては、間違いなく母親なのだ。


「青の国は、俺にとって父の仇なんだ。けど復讐をしたい訳じゃない。だからといって、守りたい存在でもないんだ」

「そっか……。無理強いさせちゃったな、ごめん」

「構わない。不幸になって欲しい訳でもないから」


 アルステーデが国に抱いている想いは複雑だ。

 それは本人は勿論、モトキとセラフィナにも理解しきれないものだ。


「話は聞いてほしいだけか? (わたし)に何か求めてるんじゃないのか? 生憎とそこまで察しがいい方じゃないんだ」

「……俺はどうするのが正しいんだろうか」

「人生経験をたくさん詰むことだな。自分にとっての正しい答えは、経験と共に変わっていく。変化するんだから、1つのものを応えることは出来ないんだ」

「経験と共に変わる……」

「もし青の国が嫌になったら、白の国に来るといい。そしたら少しは力になれると思うから」

『他国の騎士に引き抜きの話をするとか、問題になるわよ』

「問題になったら困るから、来るときはコッソリな」

「分かった」

「おい! あれを見ろ!」


 カリストが青い砂の向こう側を指さす。

 そこには今にも離陸しようとしている飛行船があったのだ。


「あれって、青の国で開発された空飛ぶ船だよ!」

「まさか飛んで逃げる気か!?」

「空に逃げられたら、追いかけようがないですよ!」


 そんなことを言っている内に、飛行船は離陸を始めた。

 一行はそれでも必死に走ったが、近付いた頃には、既にかなりの高さまで飛んでいた。


「推定高度10メートル弱! (わたし)の体重は30キロもない! いけるか!」

「問題ない」


 アルステーデが剣を抜き、その上にモトキが乗る。

 頭の上で剣を回転させ、勢いを付けると、飛行船に向かって投げつけた。


                    ・

                    ・

                    ・


「本当に空を飛ぶんだな」

「それに逃げちまえば誰も追ってこれませんね、アニキ!」

「これで大金が貰えるなんて、チョロい話ですね」

「うぉりゃぁあああああ!」


 飛行船の出入り口の傍には、3人の男達がいた。

 飛行船が無事に飛び、誰も追ってくることが出来ないと思っていると、アルステーデの大剣が出入り口を突き破り、モトキが侵入した。


『だと思ったわよ!』

「やっぱりお前等か!」

「げっ! 白の国の姫!」


 3人の男は、セラフィナとモトキの予想通りの人物。

 セラフィナを誘拐しようとし、エドブルガを誘拐し、ソフィアを誘拐した、誘拐の常習犯。

 セラフィナが、アゴ・ハコ・ハゲと命名した3人組だった。

 アゴとハコの髪は、少しだけ伸びてきたが、ハゲだけは相変わらずだ。


「何が「げっ」だ! (わたし)の乗ってる馬車を襲っておいて、追いかけてこないとでも思ったか!」

「聞いてねぇよ!」

「お前に関わると碌なことにならないって分かってんのに、わざわざ襲うか!」

「あんたがいるって知ってたら断ってたわ!」


 自業自得なのに、散々な言い分だ。


「とにかくアンネちゃんを誘拐したのはお前等だな! 空の上なら逃げ場はない! 覚悟――って、えぇ!?」


 男達は、迷うことなく飛行船から飛び降りた。

 モトキは慌てて確認すると、大きな凧のようなものと、ハゲの風属性魔術で、滑空しているのが見える。


「どんだけ逃げ慣れてるんだよ!」

『この距離じゃファイヤーショットで撃ち落とせないわね……。仕方がないわ、切り替えましょう』


 セラフィナ達の第1目的はアンネリーゼの救出である。

 口惜しくはあるが、3人の男達は見逃すことにした。


『あいつ等にアラビスをどうこう出来るとは思えないわ。断るというセリフから、他にも協力者がいるはずよ』

「まずはみんなと合流しないとな。えーと……あった!」


 モトキは運よく、長いロープを見つけた。

 ロープを柱に結び付け、外に落とす。

 飛行船は既に20メートル近く飛んでいたが、ギリギリ地面に届く長さだ。

 飛行船を追いかけていたカリン達は、ロープを伝って登りだした。


『もう数秒遅れていたら間に合わなかったわね』

「あとはみんなが付くまで、バレないことを祈るだけだな。流石にこの状態で1人で戦うのは――」

「気を付けて」

「っ!」


 突如背後から声を掛けられて振り返る。

 そこには金色の髪と瞳の女性が立っていた。

 その女性は、薄っすらと光っており、今までに感じたことの無い、不思議な空気を纏っている。


『さっきまで居なかったわよ!?』

「ドアが開いた気配もなかった。いつの間に……」

「この先に彼の力を感じるわ」


 それは魂に響くような声で、2人は不思議と聞き入ってしまう。


「だから……気を付けて、兄さん」

『兄さん?』

「君は――」


 2人は近付こうと1歩踏み出すと、女性は光の粒になって消えてしまった。


「今のは……」

『なんなの……』


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