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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
最終章 モトキのいない世界
661/662

660 第五の世界

 半年前。

 エアの夢の中の世界での戦いで、敗北を覚悟した魔王の魂は、膨大な魔力を持ってして、自爆しようと試みた。

 しかし結果としてそれは失敗。

 魔王の魂はアステリアに魔力を体外に排出され、それをエアが宇宙へと転移させた。

 そして最後の力を振り絞った自爆も、モトキのコスモの剣により、その威力を大きく削り足られる。


 魔王の魂は砕かれた。

 その際にモトキの魂も限界を迎え、砕け散ってしまう。

 魔王の魂の自爆は、威力を大きく削り取るも、完全に無力化した訳ではない。

 爆心地にいたアステリアとコスモも、跡形もなく消え去ってしまった。

 後にセラフィナが確認した際に、何の痕跡も見つけられない程に。


 それもそのはず、その痕跡は全てエアの黒い穴によって、魔王の魔力共々、宇宙に転移していたのだから。


「――うっ。……ここは?」

「気が付いたか、アステリア」

「コスモ……?」


 アステリアが目を覚ますと、宇宙空間に漂っていた。

 その隣にはボロボロになりながらも、辛うじて剣の形状を残しているコスモがいる。


「私達は……まだ生きているのですね……」

「魂だけの状態の私達を、生きていると言うかは疑問だがね。どちらにしても長くは持たないだろうが……」


 アステリアもコスモも、その魂が少しずつ砕け続けていた。

 コスモに至っては、もはや聴覚以外の五感が死んでおり、会話以外の行動が出来ない状態だ

 今すぐという訳ではないが、2人ともこのままでは確実に消滅するだろう。


「……皆はどうなったのでしょうか。プレア、セラフィナ、モトキ、エア……」

「プレアデスは分からないが、セラさんとエアは無事だ。モトさんが護り抜いた。だが……」


 2人の周囲にはキラキラ光る破片が無数に散乱していた。

 それはアステリアの、コスモの、そしてモトキの魂の破片だ。

 アステリアはそっと手を伸ばすが、破片もアステリア自身も、触れれば消滅してしまう程に脆かった。


「モトキ……結局あなたを死なせてしまいました。ごめんなさい……」

「――」

「え? なに?」

「ん? 私は何も言ってないぞ?」

「いえ、確かに聞こえたわ!」

「――」


 2人は耳を澄ませると、確かに何かが聞こえた。

 この場には他に誰もいないはずなのに、自分達以外の誰かの声が。

 そしてその声の聞こえる方向に見当を付けると、アステリアはコスモを連れて、その場所に向かう。


「これは!」

「何があった?」

「……プレアの魔法の残滓です」


 そこにあったのは、プレアデスが戦闘に用いていた、背後から生やしていた黒い帯。

 それが一塊に丸まっていた。

 先程から聞こえる声の発生源はこれだ。


「アステリア……コスモ……よく来てくれた」

「この声はプレア!」

「まだ生きていたのか……」

「いや、我も――もうこんな話し方をする必要もないか。俺も間もなく消える。今の俺は、もう1人の俺が消える間際に残した、単なる影だ」


 それは魂ですらない。

 魔王の魂の強すぎる想いが、プレアデスに一時の時間を与えたのだ。

 そしてプレアデスは、その一時の奇跡を、別の奇跡を起こす為に使おうとしていた。


「プレア……私は――」

「待ってくれ、アステリア。俺も話したい事が沢山あるが時間がない。これを……2人に託す」


 そう言うと一塊に丸まっていた黒い帯が解ける。

 その中には人の頭部の形をした、壊れかけの魂があった。


「モトキ!」

「そうだ。先程の爆発の際に、何とかこれだけ保護する事が出来た。勝手な話ではあるが……俺は彼とセラフィナには、魔人の未来を託したんだ」

「ええ、2人はアステリア人と魔人の和平を本気で考えています。既に魔人との対話を行い、和平の具体案を提示し、実現する為に動き出している段階です」

「そうか……彼等に託したのは間違いではなかったか……」


 プレアデスは穏やかな表情で微笑む。

 魔人御未来だけが気掛かりだったが、セラフィナに任せれば、悪い結果にはならないだろうと思えた。

 だがセラフィナには、きっとモトキが必要なのだ。


「先程も言ったが、俺には時間がない。だから代わりにモトキを助けて欲しい」

「モトさんを助けたいのは私達も同じだ。だが時間がないのは私達も同じだ。そもそも手段が――」

「俺には何も思いつかないが、切っ掛けなら与えられる。この一帯には、魔力が充満している。もう1人の俺が自爆しようとした際に使おうとした魔力が」

「あの膨大な魔力が……」


 その魔力量は、世界改変を2回行ってもまだ余る程だ。

 魔力を用いる事象ならば、大概の事は可能とする量だろう。


「出来るか?」

「……やってみましょう。コスモ、知恵を貸してください」

「もちろんだ。この魂が消える瞬間まで、足掻いてみせよう」

「ああ……頼んだ……」


 それを最後に、プレアデスの声は聞こえなくなった。

 2人にモトキを託した事で、最後の力を使い切り、完全に消滅したのだ。


 アステリアは両腕を広げると、モトキを中心に、周囲の魔力を搔き集める。

 そして世界を作り出していく。

 傷付いた魂を修復するには、自然治癒しかない。

 その為には器となる肉体が必要なのだ。


 新たに作り出す世界こそがモトキの新たなる肉体。

 カー、地球、アステリア、未開の星に続く、5つ目の世界。

 第五世界「モトキ」を。


                    ・

                    ・

                    ・


 宇宙に漂う1つの小惑星。

 その名を知るものは、もはや誰1人として存在しない。


 恒星、惑星、準惑星、小惑星、彗星。

 大きさや性質に関わらず、それら全てには魂が宿っている。

 生きているのだ。

 新たに進む為、あるいは終わる為に、長く、あるいは短い命を輝かせながら。


『……暗いな。ここは何処だろう。体が動かない。頭が回らない。眠い……』


 星は惹かれ合う。

 互いの発する引力によって。

 だがその星が求めるのは、星よりも小さな、1人の人間。


 愛する人、あるいは自分の半身。

 遠い宇宙の果てにあろうとも、二人は一人である事を求める。


『……忘れてない。知っている。覚えている。会いたい。どこにいるんだ……』


 何も見えない漆黒の世界に、一筋の光が見えた。

 暖かく、一点の曇りもない、真っ白な光が。

 そこへ行きたかった、欲しかった、失いたくなかった。

 だから手を伸ばし、掴み取ったのだ。


                    ・

                    ・

                    ・


 気付けば周囲は光に溢れていた。

 自分の足で立ち、自分の右手は何かを掴んでいる。

 俯いていた顔をゆっくりとあげようとすると、頭の上に乗っていた黒い布切れを、誰かにめくり取られる。

 そこにはずっと会いたかった人がいた。


「……モトキ?」

「ただいま……セラフィナ」


次回最終話となります

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