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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
最終章 モトキのいない世界
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653 戸惑い

「はぁ……どうしましょ」

「鬱陶しい……もう行けよ」

「だけど仕事が……」

(ずっと手が止まっているだろうが……)


 もうかれこれ1時間以上、エアは悩み続けていた。

 魔術には特に興味はないが、セラフィナからの頼みは可能な限り聞きたい。

 しかし魔術コンテストの観戦など、どう考えても娯楽だ。

 自分の罪の為に子供達が働いているというのに、自分だけが娯楽に興じるなど、むしろ拷問である。


「私よりベガを誘ってくれれば良かったのに……」

「うーん、確かに私は行きたかったけど、セラフィナがあえてお母さんを誘ったのには、何か意味があると思うわ」

「それは私もそう思うけど……。ほら、私が出かけると、監視の仕事が増えるし」

(……もう駄目だ)


 いつまでも煮え切らない態度のエアに対して、デネブは我慢の限界を超えた。

 デネブは無理やりにでも観戦に行かせようと、エアの下へ向かおうとする。

 しかしその直後、中継ターミナルにアナウンスが流れた。


「1番ポートに転移反応を感知。チェックをお願いします」

「なに?」


 エア達3人は、誰も転移能力を使用していない。

 つまり外から誰かがこちらに転移して来るという意味だ。

 当然この場の3人以外でそれが出来るのは、1人しかいない。

 ①と書かれたシャッターが開くと、そこには既に黒い穴が展開されており、中から3人の人影が姿を現した。

 イサオキとアルタイル、そしてスラミティスだ。


「モト兄! アルタイル!」

「それにスラミティス」

「ああ、失礼するぞ」

「こんにちは」


 アルタイルは軽く、スラミティスは深々と頭を下げて挨拶をする。


 身寄りのないスラミティスは、当初トイトニアに青の国に来ないかと誘われていた。

 300年前とはいえ、青の国の人間ならば、こちらで保護するのが筋だと。

 しかしスラミティスはそれを拒否。

 300年前の事とは言え、王位を奪ったエルブルース家に頼りたくなかったのだ。


 現在はイサオキ達と共に各国を跳び回り、看護師見習いとして手伝いをしている。

 本人としてもイサオキと一緒にいるのが一番安心できるので、理想の職場と言えよう。


「体の調子が悪い者はいるか? 今は全員を診察する暇がないから、急を要する者だけ申告してくれ」


 イサオキは挨拶をしないで、ターミナル内を見渡し、全員の顔色をチェックする。

 アステリア人と魔人が共に働く場所故に、最初の頃はストレスで体調を崩す者が多かったのだ。

 しかし半年の間にすっかり慣れ、今はそう言った理由で体調を崩す者はいなかった。


 最も別の理由で体調を崩している者はいたが。


「デネブ、僅かに顔色が悪いぞ。体調が悪いなら自分で言え」

「別に……いや、ストレスで気分が悪い。母さんを何とかしてくれ……」

「母さんが? 何があったんだ?」

「いや、大した事じゃ――」

「母さん、セラフィナに魔術コンテスト見に来てって言われたんだけど、中々踏ん切りがつかないのよ」

「ベガ!」


 イサオキはあまりにもしょうもない理由に、深く溜め息をついた。


「なんだ、セラフィナの頼みは聞きたいが、コンテスト観戦は娯楽だから、罪を償っている身で行くのは憚られるのか? ベガの言い方から誘われたのはエアだけか。ベガとデネブが働いている最中に、自分だけで駆けるのも申し訳ないと思っているな? 後は監視員の手間が増えるくらいか」

「うん、全部あってる。イサ兄って読心術使えるの?」

「兄は妹の考えが大体分かるものだ」


 ベガはうんうんと頷いているが、デネブはそんな馬鹿なと思いながら、苦々しい表情をしている。

 ベガはデネブとアルタイルの考えている事が何でも分かっているつもりだが、実際は割と外しているのだ。


「とにかくコンテストでもどこでもいいから、連れて行ってくれ……。ハッキリ言って仕事の邪魔だ……」

「ひ、酷い! これが反抗期!?」

「半年前にとっくに迎えたわ……」

「丁度いい。僕等もこれから魔術コンテストの観戦に行くからな」

「え? イサ兄、魔術に興味があるの?」

「まあ多少はな」

「今日はワタシが頼んだんだ」


 イサオキもスラミティスも、現代魔術には興味があった。

 300年前にシロヴァが作り出した魔術が、どのような進歩を遂げているか。

 その最先端を見てみたかったのである。


「エアの監視は僕が引き受ける。アーノルダ、問題ないな?」

「はい、アース先生なら安心です」

「いや、私まだ行くとは――」

「アルタイル」

「了解」


 アルタイルはエアの体を持ち上げ、強引に外へ連れて行く。

 エアは往生際悪く手足をバタつかせていたが、イサオキのチョップで黙らせられた。

 魔人であるエアは、アステリア人であるイサオキの攻撃は痛くも痒くもないが、これには逆らう事が出来ない。

 幼少の頃からエアが暴走するたびにストップをかけてきた常套手段であり、癖で大人しくしてしまうのだ。


「それじゃあ行ってくる。デネブは後でしっかりと診てやるからな」

「いや、別にもう……」

「いってらっしゃーい!」


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