表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
64/662

63 万に一つ

「そこまで! アルステーデ選手の勝ち! よって第2回戦は、青の国の勝利となります!」

「え、もう終わり?」


 セラフィナ達が試合の開始より少し遅れて、王族の観戦席へ行くと、既に試合は終わっていた。


「お前達やっと来たのか。見ての通り、2回戦は終わっちまったぞ」

「え……まだ始まったばっかりだよね?」

「シグネ、エドブルガ、何があったの?」

「何がと言うか……何もなかった結果だね」


 エドブルガの説明によると、青の国のアルステーデが、黒の国のムロトを瞬殺したという事だ。

 あまりに早く決着が付いた為、アルステーデが強かったのか、ムロトが弱かったのか、それすらも分からない。


「幸か不幸か、見れたとしても、特に決勝の参考にはならない戦いだったね」

「けれどアルステーデには、モトキ(わたし)の手札を全て見られていることに変わりはないわ」

「そうだな。ただでさえセラフィナの技は、初見殺しが多いから、こっちが圧倒的に不利だな」

『おまけに向こうは余力が有り余っているのに、俺は両足の筋肉が悲鳴を上げていると。まいったね、こりゃ』


 セラフィナ達は、アンネリーゼの方をチラリと見る。


「セラフィナさん、わたくしはあなたを応援すると言いましたが、立場上助言をすることは出来ませんわ」

「そうよね、ごめんなさい」

「応援だけでも力が湧いてくるってもんだ」

「ただ先程も言いましたがアルステーデは、リシストラタさんを倒す為の秘密兵器と噂される方。決して弱いはずはないはずですわ」

「……?」


 モトキは、アンネリーゼの言い方に違和感を覚える。

 しかし皆の前でそれを聞いてはいけない気がした為、それを言及することは控えた。


 ソフィアとアンネリーゼが、自国の席に戻ると、次の試合が始まった。


「それではこれより3回戦を開始します! 選手入場です!」


 3回戦目は、初戦と2回戦の敗者による3位決定戦である。

 カーネギアとムロトがステージに上がると、今までより少し控えめな歓声が上がる。

 観客も、今の内に休憩だと言わんばかりに疎らであった。


『カーネさん頑張れー!』


 モトキは、カーネギアを応援する。

 結婚の話は置いておいて、熱い戦いを繰り広げた好敵手には頑張ってほしいのだ。


『黒の国の武器は……刀?』

「知っているの? 珍しい形をしているわよね」


 遠目の為、はっきりとは分からないが、ムロトの持つ武器は、日本刀のように見えた。

 黒い髪と着物のような服装も合わさって、まるで時代劇や歴史ドラマの登場人物の様だ。

 ムロトやツルギサンと言う名前も、どこか日本を思わせる名前である。


『まさかイサオキ……文化侵略とかしてないよな?』


 モトキはこの世界、アステリア自体にも、ある程度愛着を持ち始めていた。

 その為、アステリアの文化や歴史を尊重したく、地球のそれで塗り潰すことを憚る様になっていたのだ。

 菓子を人に振舞うことはあっても、そのレシピは誰にも教えていない。


「王族の使う武器は、四色王国が誕生してから変わってないはずよ。正確な年数は分からないけど、新暦になってから既に847年。300年前の彼は、関わりようがないわ」

『そっか。まあ、あくまで俺個人の意見だから。イサオキが何をしても否定する気はないけど』

「それでは試合開始!」


 1戦目は先程と同様、すぐに決着が付いた。

 切りかかって来たムロトの刀を、カーネギアの右の剣で払いのけ、左の剣を喉元に突き付ける。

 カーネギアの圧勝だ。


「弱い……」

「ええ、私は四色祭で毎回王闘を見ていますが、ムロトが勝ったところは、見たことがありません」

「そんなに頻繁に出ている人なの?」

「私が知る限り、毎回です」


 リシストラタの年齢は、現在30と少しである。

 覚えていないであろう幼少期を除いても、10回は参加して、全て最下位ということだ。


『そりゃ観客も少なくなるわけだ。試合に見所ないもん』

「何で黒の国は、そんな人を参加させているのよ……」

「他に参加資格を持つ者がいないからです。黒の国の王族で、金色の瞳を持つのはツルギサン王とムロト王子の他には、まだ3歳のリョウマ王子しかいないそうです」

「んん? その子は、ムロト王子の子?」

「いいえ、ツルギサン王の子です」

「元気ね、ツルギサン王……」


 ムロトが最低でも10回は王闘に参加しているとすると、初出場が10歳だとしても、現在37歳ということになる。

 ツルギサン王は、かなりの高齢に見えるが、最低でも37歳の子供がいる年齢だ。

 それが3,4年前まで子供を作っていたというのである。


『セラフィナ』

「あら、品がなかったかしら?」

『黒の国の王子と話がしたいんだけどいいかな?』

「今から行ったらインターバルが終わるわよ?」

『直線距離なら間に合う』

「なるほどね。カリン、私を抱いて黒の国側の入場口まで飛んで」


 モトキが具体的に何をするかは、セラフィナにとって重要ではなかった。


「また何かやらかす気ですか?」

「これから決勝戦があるのに、失格になるようなことはしないわよ」

「……了解したです」


 カリンは、セラフィナに言われるがまま、ホールの下層まで飛んだ。

 突然の事にイオランダは驚愕し、話を聞いていたリシストラタは笑っている。

 他の皆は、慣れた様子で、別段驚いてはいない。


 黒の国側の入場口に辿り着くと、モトキが表に出て、大声で叫ぶ。


「ムロト王子! ちょっといいですか!」


 ムロトはモトキの方に振り向くと、少し考えてから近付いてきた?


「白の国のセラフィナ姫だね? 僕に何か用かな?」


 近くで見たムロトは、40歳以上の中年男性だった。

 自身なげな目と、弱気そうな声のせいで、余計に老けて見える。

 セラフィナと同じ金色の瞳のはずなのに、その輝きは酷く濁って見えた。


「先に失礼なことを言うことを謝罪します。申し訳ありません。時間がないので言いたいことを一方的に言わせてもらいます」

「は?」

「あなたではカーネギアには、万に一つも勝ち目はありません」

「……知ってるよ」


 ムロトは視線を下げた。

 自分の弱さを自覚し、何かを諦めた目をしている。


「ですがもし、(わたし)があなたに取り憑き、その体を自由に動かせることが出来たとしたら、それが初めてだとしても、万に一つは勝ち目があります」

「それは君がカーネギア君に勝ったから――」

「慣れない体を動かすのは大変なんです。そんな(わたし)でも万に一つがあるなら、慣れてるあなたには、それ以上の勝ち目があります」


 ムロトは何かに反応すると、下げていた視線を、モトキの顔まで上げた。


「毎回王闘で負け続けたせいか、それとも他に何があるのかは知りません。でも戦う前から諦めてたら絶対に勝てませんよ」


 モトキは一度、自分の生を諦めたことがある。

 しかし決して諦めないセラフィナに影響され、モトキも諦めが悪くなっていた。


「……君に何が分かる」

「この場にムロトさんの勝利を信じてる人が何人いるでしょうか? みんなムロトさんが瞬殺されると思って、碌に試合を見ていません。そこでムロトさんが活躍したら、見てなかった人達はどう思うでしょうか? (わたし)に分かるのは、その程度ですよ」

「どう思うか……」

「両選手、ステージへ!」


 インターバルの終わりが告げられると、再びカリンはモトキを抱き上げた。


「応援の言葉は贈りませんよ。(わたし)も他の観客と同じ気持ちで観戦しますから」

「……」


 言いたいことを言ったモトキは、城の国の観戦席に戻って行った。


「ムロト選手! ステージへ!」

「は、はい!」


 実況に囃し立てられ、ムロトは急ぎ足でステージに向かった。

 ステージにはすでにカーネギアが立っている。


「セラフィナはなんだって?」

「発破をかけられました……」

「俺もあなたと同じですよ」

「そうですか……。真っ直ぐな子ですね」

「それでは試合開始!」


 結果的にムロトは敗北した。

 カーネギアに一矢報いることも出来ない、一方的な試合だった。


 しかし長年鍛え続けてきた技は、決して容易いものではなく、カーネギアの剣を3分もの間凌いだ。


「あぁ、これはいい気分だ……」


 終わった頃には、3回戦が始まった頃とは、比べ物にならないほど、大きな歓声と拍手が送られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ