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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二十九章 愛する人へ
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631 時を越えた繋がり

 シリウスとの会談が行われた日の夕方。

 イサオキはアルタイルを向かいに寄越し、スラミティスと共に無色の大陸に戻ってきた。


 イサオキはスラミティスを連れてくるかどうか迷っていた。

 スラミティスは300年の石化から回復したが、石化の直前は魔人ミラとの決戦だ。

 イサオキによって手当てを行われたが、体力は戻り切っていない。

 療養を行うなら、白の国の城の方が適しているだろう。


 そしてなにより、無色の大陸にはアルデバランがいる。

 スラミティスを石に変えた怨敵であるが、その立場から殺す事は出来ない。

 そんな場所にスラミティスを連れていく事を、イサオキは躊躇っていたのだ。


 しかしスラミティス本人は、イサオキと一緒に行く事を選んだ。

 曰く、たとえそこに魔人がいたとしても、この時代で唯一の友人であるイサオキと共にいる方が、安心して体調の回復が早くなると。

 イサオキも医者として、精神状態による回復促進を理由にされては、強く反対する事が出来なかった。


 だがイサオキは気付いていた。

 スラミティスがイサオキに話していない、何らかの決意を持って付いて着たと。


(やはりアルデバランと……今は神器がないから無茶はしないと思うが……)

「到着だ」

「もう? 確かに先程までとは空気の感じが違うけど……」


 イサオキ達は黒い穴を通って、無色の大陸に停泊中の飛行船、その中にあるイサオキの部屋に転移してきた。

 空間転移初体験のスラミティスは、少々戸惑った様子だ。


「この一瞬で城の大陸から無色の大陸に……少々信じがたい話ではあるけど――」

「事実だ。魔人の魔法には、常識を超えたものが多々ある」

「常識を超えてるアースが言うなら信じるしかないね。あっ、イサオキって呼んだ方がいい?」

「好きにしろ。どちらも僕の本当の名だ」

「うん、じゃあアースって呼ぶよ」


 スラミティスは黒い穴の力に戸惑ってはいるが、魔人であるアルタイルと協力関係にある事に対しては、問題なく受け入れていた。

 それはスラミティスがイサオキを指針としている為だ。

 イサオキが受け入れているアルタイルの事は特に気にせず、イサオキが理解しきれていない黒い穴には不安を感じている。

 スラミティスはそういった心の機敏を感じ取れるのである。


「いいか、何度も言うが、問題を起こすなよ? 魔人と遭遇した場合は――」

「決して目を合わせない事。大丈夫、アースの迷惑になるような事はしないさ」

「ならいいが……」


 イサオキ達は部屋を出て、現状確認をする為に、飛行船の中心にある広間へ向かった。

 この時間ならば誰かはいるだろうと。


「アース・イサオキだ。誰かいるか? 魔人シリウスとの会談の結果は――」

「あっ、お帰り」


 広間にはセラフィナを始め、各国の主要メンバーが大体揃っていた。

 いないのは重症であるエドブルガとテティスとイムヒルデくらいである。

 そしてアルデバランもそこに来ていた。


「アルデバラン……」

「え? 彼が? 確かに似ているけど、イメージが違う様な……」

「当たり前だ! どうしてそんな恰好をしている!?」


 アルデバランは四つん這いの体勢になり、その上にセラフィナが椅子として腰かけていた。

 その姿に人類の天敵としての威圧感は一切感じられない。


「あなたがスラミティス姫ね。白の国のセラフィナ・ホワイトボードよ」

「するとあなたがアースの生前のお兄さん? アースにはお世話になっているよ。白の国でもとても良くしてもらった」

「挨拶は終えたな! なら次はアルデバランの有様を説明しろ!」

「お仕置きよ。大勢を石に変えた事に付いては目を瞑ったけれど、そこに金色の瞳が含まれているとなれば話が変わって来るわ」


 立場的にアルデバランを罰する事は出来ない為、セラフィナとモトキによる1時間以上の説教と、今日一日椅子になる事で、一先ず不問にしたのだ。


「魔人を椅子にしたアステリア人は、セラフィナが初めてだろうな……」

「よく大人しく椅子になっているな。惚れた弱みにしても、少しはプライドもあるだろう」

「ああ、確かに男として、この状況は流石に屈辱だった。しかし今の俺は、かつてない程にセラフィナと密着している。そう考えると、この状況は存外悪くないと――」

「何を言っているのよ。これはお仕置きだという事を忘れてないで」


 セラフィナは踵で、アルデバランの横っ腹を蹴る。

 魔人であるアルデバランに、セラフィナの蹴りは通用しないが、アルデバランの心の中には、今まで感じた事のない感情が芽生えた。


「あ……ありがとうございます!」

「妙な扉を開くな!」

「えーと……」

「そう言う事でスラミティス姫。今はこれで勘弁してくれないかしら? これから魔人とは仲良くやっていきたいから、これくらいが限界なのよ」

「……いや、事情はアースから聞いている。正直理解が追い付いていないけど、魔人との和平……素晴らしいと思う。ワタシはそんな事を考えもしなかった」


 スラミティスはセラフィナに向かって手を伸ばす。


「辛い事は沢山ある。けれどワタシは、この時代で生きていくしかない。ならせめてやりたい事をやろうと思う。だから……ワタシにもあなた達を手伝わせてほしい」

「スラミティス姫……」

「今のワタシは姫じゃない。ブルーベリー家は王位を退いたようだしね。スラミティス個人では力不足かもしれないけど――」

「いいえ、あなたは和平に対して前向きに考えている。今はそういう人が増える事が、何よりもありがたいのよ」


 セラフィナは立ち上がり、スラミティスの手を握る。


「イサオキの友人なら、私も姫としてではなく、セラフィナ個人として付き合いたいわ。だから呼び捨てで構わないわよ」

「うん、ありがとう、セラフィナ」

「こちらこそ、スラミティス」


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