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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二十九章 愛する人へ
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621 統率者

 3日前。

 アーノルダ達とデネブを相手に戦っていたプロキオンは、魔王の死を感じ取ると、戦いを中断し、シリウスの捜索へ向かう。

 しかしアルタイルによってアステリアに送られている為、いくら魔人の星を探しても、見つかるはずがなかった。


「シリウス様……何処だよ。くそっ、こういう時ベティがいれば手っ取り早いんだがなぁ……」


 プロキオンは仕方なく街に戻ると、そこに住む人々は、自分達の神である魔王の死を嘆き、無気力な状態になっている。

 つい半日前まで、意気揚々とアステリア人を襲っていたとは、とても思えない。


「……脆すぎだろ。魔人ってのは、この程度のもんだったのか?」


 魔王が現れる100年前、シリウスが統治していた頃ならば、たとえシリウスが死んだとしても、こうはなっていなかったであろう。

 今の魔人達の心は、魔王に依存しきっている。


 魔王は魔人達に対して何もしていないが、ただ存在しているだけで、皆に希望を与えていた。

 荒廃した大地も、発展性のない未来も、そういった不安を全て何とかなると思わせる、圧倒的な存在感があったのだ。


 そして実在するか分からなかった神が、実際に存在した上で、アステリア人に殺されてしまった。

 その喪失は、魔人達の心を完膚なきまでに圧し折っていたのだ。


「……シリウス様だ。この状況を何とか出来るのは、シリウス様以外にいねぇ」

「ああ、僕もそう思う」


 プロキオンが声を聞き振り返ると、そこには黒い穴から出てくるアルタイルの姿があった。

 全身に傷の手当てをした跡があり、満身創痍の状態だ。

 プロキオンはアルタイルの姿を見ると、胸倉を掴み、体を持ち上げる。


「アルタイル! テメェどの面下げて――」

「よせ、プロキオン」

「シリウス様!」


 アルタイルに続き、黒い穴からシリウスが姿を現す。

 するとプロキオンはアルタイルを雑に離し、シリウスの下に駆け寄った。


「申し訳ありません! 俺達はアステリア人の侵攻を阻止できず、まんまと魔王を――」

「分かっている。謝る必要はないよ。これはアステリア人を侮り、トライホーク一派の裏切りに気付けなかった、私達全員のミスだ」

「そうだ……テメェ等が裏切ったりしなければ!」

「裏切ってなどいない。僕達は最初から、全て利用する気だったんだ」

「どっちにしろ、テメェは殺す!」

「プロキオン、今は堪えろ」


 アルタイルに襲い掛かろうとするプロキオンを、シリウスは再び制止する。


「何故ですか!」

「彼にはこれから働いて貰わなければならない。アステリア人との交渉の為にな」

「アステリア人と交渉!? 何の為に!? シリウス様なら、アステリア人を皆殺しに出来る! 奴等と話す事なんてありませんよ!」

「確かにそれは可能だしかし。アステリア人も、それを黙って受け入れはしないだろう。こちらも甚大な被害を受ける事になる」


 シリウスの力がどれだけ強大であろうと、一瞬で全てのアステリア人を殺す事が出来る訳ではない。

 シリウスがアステリア人を皆殺しにしようと動けば、アステリア人も魔人を皆殺しにしようと動くはずだ。

 そうなれば今の無気力な状態の魔人達は、なす術がないであろう。


「アステリア人の側には、空間転移能力を持つトライホークの一派が付いている。更に私と同等の力を持つレグルスを、長時間拘束する術を有している。私がアステリア人を皆殺しにするより先に、私とレグルス以外の魔人が皆殺しにされるだろう」


 それは魔人にとっても敗北といっていいだろう。

 レグルスはそんな事を望んではいない。


「くそっ! 魔人である俺達が、アステリア人相手にここまで……」

「しかしアステリア人も、これ以上の闘争を望んではいない。それ故の交渉だ。私は魔人の代表として、アステリア人と停戦協定を結ぶ」

「……俺もご一緒しますよ」

「頼む。会談は2日後。それまでに被害状況を確認し、動ける者を集め、少しでも立て直すぞ」

「はい!」


                    ・

                    ・

                    ・


(しかしまさか……アステリア人と交渉を行う事になるとはな)


 シリウスとプロキオンは、会談の場に用意された席に付く。

 机を挟んで向かいには、リツィア達各国の代表4人が座り、その後ろにはセラフィナとソフィア、アルタイルが立っている。


「他のトライホークの者や、アルデバランは来ていないのか? 彼等もアステリア側に付いているのだろう?」

「アルデバランは負傷の為不参加だ。他のトライホークに付いてはこちらも知らんな」

「アルタイル、ベガとデネブはどうしているの?」

「こちらでも探しているが、2人共行方知れずだ。先の戦いで命を落としたか……」

「デネブは死んでねぇよ。命に関わる程の怪我は負わせてねぇからな」


 プロキオンが立ち去った時には、デネブはまだ余力を残していた。

 あの状況から、デネブが更に戦闘を行ったとは考えにくい。

 姿を現さないのは、何らかの目的があっての事だろう。


「ラサルハグェは?」

「彼女も目下捜索中です。こちらとしても彼女とは話をしなければならないので、何か知っている事があれば、教えて欲しいのですが」

「残念ながら」

「そうですか」

「ところセラフィナと言う魔人殺しは、そちらの彼女でよろしいかな?」


 不意に話しかけられたセラフィナは、一切臆することなく、シリウスに視線を向ける。


「はい、私がセラフィナ・ホワイトボードです」

「はあっ!? このちんまいのが、最強の魔人殺し!?」

「よせ、プロキオン。私の従者が失礼した」

「いえ、私が弱いのは事実ですから」

「いや、君は強い。弱者はそんな目をする事は出来ない」

「恐縮です」


 セラフィナの強さは、モトキの存在があってこそだが、誰よりも多くの魔人と対峙してきた事に変わりはない。

 数多の死闘を生き抜いてきたセラフィナは、たとえシリウスを前にしても、恐怖に呑まれることはなかった。

 そもそも魔人に対する恐怖が、他の者と比べて殆どないのだ。


「セラフィナ姫、君も話し合いに参加してくれないか? 私の見立てでは、君が最も魔人に理解あるアステリア人だと思う」

「どうしますか?」

「構いません。あなたも席に付きなさい」


 アルタイルは黒い穴から予備の椅子を取り出し、セラフィナも話し合いの席に付いた。

 セラフィナとしても、この場で話したい事があった為、願ってもない状況だ。


「さて……それでは始めましょうか」


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