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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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60 赤獅子の貴公子

 セラフィナの勝利で1本目を終えると、2人はステージを降り、介添人、いわゆるセコンドの下へ向かう。

 セラフィナの介添人はキテラ。

 カーネギアの介添人はアデリンダだ。


「どうしたカーネギア。油断したのか?」

「油断……もした。だけどそれだけじゃない。彼女が俺に接近するまでに何があったんだ?」

「何が? 鞘を投げて、弧を描くように走って近付いてきただけだ。それ以外に特別なことはしていない」

「それだけ?」

「ああ、特別動きが速い訳でもなかった」


 カーネギアは、納得できなかった。

 それだけなら気配や足音で察知できるはずだと。

 セラフィナは、一瞬だがカーネギアの認識から消えたのだ。

 それは実際に対峙したものにしか、分からない違和感だった。


「両選手、ステージへ!」


 インターバルの時間が終わり、モトキとカーネギアは、再びステージの中央に立つ。

 1本目を取ったモトキは、不機嫌そうな顔をしている。


「カーネギアさん、(わたし)は怒っています。戦士のオーラとか、全力で相手をするとか言った傍から……」

「ああ、すまなかった。ここからは本当に油断せずに戦おう」

「本当に頼みますよ。(わたし)は、隙を容赦なく突いて行くタイプなので、気に入らない方法でも、勝機は逃しません」

「十分に身に染みた。俺も国を背負う者として、無様を晒すわけにはいかない」

「試合で証明してもらいます」


 モトキは、剣の鞘をキテラに預けてきた。

 2回通用する手段ではなく、少しでも体を軽くする為である。


「それでは試合開始!」


 モトキは、何の小細工もせず、真正面からカーネギアに近付き、切りかかる。

 カーネギアは、左の剣で打ち払うと、無防備となったモトキに左の剣を振り下ろす。


 モトキは、大きく体を仰け反らせて回避すると、そのまま足下を切り払う。

 カーネギアは、後方に飛び上がり回避すると、不安定な体勢のモトキに次々と斬撃を放つ。

 モトキは、無茶な体勢から、更に無茶な体勢を取りながら、カーネギアの剣を受け流していく。


(何故その体制で倒れない!?)

(セラフィナのバランス感覚は世界一!)


 もちろん実際に確かめた訳ではない。

 モトキは、下からの切り上げを受け流さず、剣でしっかりと受け止めると、体が宙に浮く。

 打ち上げられると同時に、体を跳ね上げることで、モトキはカーネギアの頭上まで飛ぶ。


(予想以上に軽い! だが空中で避けることは――いや!)


 カーネギアが右の剣で、空中のモトキに切りかかる。

 モトキは、虚空を蹴り、高速で落下することでそれを避け、カーネギアの胴に切りかかる。

 しかしカーネギアはそれを予測し、左手の剣で受け止めた。


(初見の技を予測された!?)

「貰った!」


 今の一撃で決めるつもりだったモトキは、着地の際に大きな隙を作ってしまう。

 カーネギアの二刀同時の一撃を、モトキは真正面から防御しようとする。

 しかし単純な腕力では、モトキに勝ち目はなく、受けた剣はステージの外まで弾き飛ばされてしまう。


 カーネギアは、右の剣の切っ先を、モトキの眼前に突き付ける。


「そこまで! カーネギア選手の勝ち!」


 会場が歓声に包まれる。

 先程とは違い、短時間ながら激しい攻防の末の決着の為、観客もより盛り上がっている。


 カーネギアは、剣を鞘に納めると、モトキに手を差し出し引き上げた。


「これで証明できたかな?」

「ええ、お陰様で凄く楽しいです」


 2人はお互いに不敵な笑みを見せると、インターバルの為に、ステージの外へ向かった。


「拙いな。身体能力で惨敗してるのに、技術面でも大して差がない」


 モトキは、負けたというのに楽しそうにしている。

 それを聞いているセラフィナも嬉しく感じていた。


『やっと本気で戦えているわね』

「楽しいとかじゃなくて本気? 俺はいつだって本気だけど?」

『気付いてなかったの? 1人で訓練しているときより、誰かと練習試合をしている時の方が、動きが鈍くなっているのよ』

「嘘っ!?」

『嘘じゃないわよ。私の素人目で見ても分かるくらいだから、リシス叔母様やシグネ達には、露骨に手加減しているように見えていたと思うわよ』

「知らなかった……」


 モトキは無意識に手加減していたのだ。

 もちろんモトキにそんなつもりは一切なかった。

 モトキは、他の皆より弱いのだから、手加減などする必要がないのだ。


『私が思うに、モトキの原動力って、自分以外の大切な誰かの為に頑張ることよね?』

「ああ、前の世界ではイサオキとエアの為。今の世界ではセラフィナの為」

『それは1番大切なもので、私の家族や城の皆だって大切なことに変わりはないでしょ?』

「それは……そうだな」

『大切だから本気で剣を向けることに戸惑いを覚えているのよ。モトキが強くなって、勝てなくても、攻撃を当てるくらいは出来るようになってきたから』


 モトキに思い当たる節は多々あった。

 モトキは強くなるほど、大切な人に対して本気で戦えなくなっていくのだ。


『でも今、相対しているのは、他国の王子。モトキにとって何の思い入れもない相手よ』

「なるほど、そういうことだったのか……」


 モトキは、リシストラタがセラフィナを王闘に参加させた、本当の意味に気が付いた。

 ただモトキに経験を積ませたいのではなく、モトキが本気で戦える舞台を与えたかったのだ。

 それはリシストラタだけではなく、一緒に訓練をしているシグネにエドブルガ、そしてカリンも噛んでいることは明白だった。


 モトキは、何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。


「どうしよう……すごく嬉しい」


 モトキはこの世界で、初めてセラフィナ以外の相手から何かを貰った。

 セラフィナ・ホワイトボードにではなく、ミタカ モトキだけの為のものを。

 剣を通して、モトキを見ているのだ。


「姫様、怪我はありませんか? 今の内に栄養補給を」

「うん、ありがとうキテラ」


 モトキはキテラの用意したスペシャルドリンクを飲む。

 神の加護で体調は常に万全であり、モトキの苦痛に鈍感な性質が合わさり、疲労で動きが鈍くなることは無い。

 しかし全力で動き続ける為には、相応のエネルギーが必要となる。

 エネルギーが尽きると、電池が切れたように動けなくなってしまうのだ。

 セラフィナの体が、あまりエネルギーを貯めておけない為、途中で栄養補給をする必要があるのだ。


「……キテラ」

「なんですか?」

「キテラも(わたし)が王闘に参加することに絡んでる?」

「姫様の事で、私が相談を受けていないはずがありませんよ」

「相談を受けてどう思った?」

「姫様の剣は、一見滅茶苦茶ですが、研ぎ澄まされた動きは、とても美しいものです。それを人々に魅せるのも良いと思いました」

「そっか……」

「両選手、ステージへ!」


 モトキは立ち上がると、三度ステージに向かった。


「ごめん、セラフィナ……」

『明日は筋肉痛ね。そこまでするなら勝つのよ』

「ありがとう」


 モトキは、カーネギアと向かい合うと、大きく息を吸う。


「俺が勝つ!」

「俺?」

「気にしないでください、気合を入れただけです」

「そうか……だが勝つのは俺だ!」

「それでは試合開始!」


 モトキは先程とは違い、動かずにカーネギアの出方を窺う。


「来ないか。なら今度はこちらから行かせてもらう!」


 カーネギアは右の剣を前に出し、左の剣でいつでも防御が出来るように、モトキに向かって駆けだした。

 モトキは、カーネギアの剣が届く直前に、横に飛び回避する。

 それからモトキは、体を回転させ、左右から連続で攻撃を仕掛けった。

 しかしカーネギアの二刀の剣の前に、それは全て防がれてしまう。


(二刀流の弱点は、片手故に威力と正確さが落ちること。それと単純に重い。けれど身体能力に差がありすぎて、そのデメリットが殆ど意味を成してない。なら――)


 モトキは、カーネギアの背後に回り込もうと、左右に走り回る。

 その動きはやや単調で、ある程度パターンのあるものだった。


 もちろんカーネギアは、そんなことで背後を取れるほど甘くはなく、モトキの動きに合わせて向かい合い続ける。

 それはモトキにも分かっていたことであり、狙いは別にあった。


 長い攻防の中で、カーネギアが瞬きをしたのを、モトキは見逃さなかった。

 気配と足音を消し、パターンとは違う動きをすることで、モトキはカーネギアの認識から消える。

 そのまま背後に周り込み切りかかる。

 しかしカーネギアは、それにすら反応してみせた。


「甘い! その技は最初に見たぞ!」

(甘いのはそっちだ! この技は最初に魅せたぞ!)


 カーネギアは、振り向き様にモトキに切りかかる。

 モトキは、それに合わせて、移動と回転で勢いを付けた一撃で受ける。


「は?」


 モトキの渾身の一撃は、あっさりと弾かれた。

 十分に加速した一撃のはずなのに、まるで空を切ったかのように、無抵抗で弾けてしまったのだ。

 カーネギアは、一瞬戸惑ったが、構わずモトキに切りかかった。


 カンッ!


「なに!?」


 カーネギアが斬る為に振りかぶると、剣に謎の衝撃が走る。

 しかし剣に何かが当たった様子はない。

 それはまるで先程の一撃が遅れてやってきたようだった。


(ディレイソード! 俺がこの世界で学んだ未知なる既知だ!)


 カリンより教わった、地球の物理法則では再現できない技。

 それはアステリアの人間として、モトキが真の意味で生まれ変わったことの象徴だった。


「まだだ!」


 カーネギアは、バランスを崩しながらも、もう一刀の剣を振り下ろす。


(そしてこれが、この世界で生み出した、セラフィナの剣! 奇剣で危険な姫の剣!)


 モトキは、足の筋肉の力を限界まで引き出す。


 モトキは、地球での経験とアステリアの経験から、5つの技を構想していた。

 そして1週間、心の中の部屋に籠ることで、ようやくその1つを実用段階に持っていくことが出来たのだ。


姫剣(きけん)! 衛り星!」


 モトキの剣がカーネギアの剣に触れると、モトキはカーネギアの背後まで駆け抜ける。

 実況者や審判には何も見えなかったが、カーネギアは首の周りを刃が触れた感覚があった。

 モトキは、足の力を限界まで引き出した為、動けないでいる。


「……俺は今切られた。俺の負けだ」

「そこまで! セラフィナ選手の勝ち! よって第1回戦は、白の国の勝利となります!」


 一際大きな歓声が沸き起こる。

 戦いの熱気に当てられた観客達は、どこの国など関係なく、セラフィナの勝利と2人の健闘を称えた。


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