表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
60/662

59 王闘

「さあ、いよいよ始まります! 四色祭を締めくくる最後の競技、王闘! 各国の王子・王女が今回も素晴らしい戦いで、我々を魅せてくれるでしょう!」


 四色祭最終種目「王闘」。

 四色祭で最も人気の高い競技の為、試合が行われるアステロセンターホールは満席だ。

 その盛り上がりは、魔術コンテストの比ではなかった。


「モトキ、準備はいい?」

『ああ、万全だ』


 四色祭の間、殆ど心の中の部屋の、更に奥の部屋に引きこもっていたモトキが姿を現す。

 セラフィナと記憶の齟齬が出来ないよう、会話を聞くだけで、話には一切関わってこなかったのだ。


「ほぼ1週間籠っていたけど、調子はどうなの?」

『悪くはない。やることもやった。あとは頑張るだけだ』

「でも、なんでそこまで?」


 肉体的に成長の余地がないセラフィナの体で、より強くなるには技術面を鍛えるしかない。

 それだけなら表に出ている必要はないと、ほぼ1日中、精神修行をしていたのだ。

 魂を人の形として、自由に動ける状態での精神修行を。


 だがセラフィナには、モトキが何故そこまでするのか分からなかった。

 普段通りにしていれば、一緒に四色祭を楽しめたのだから。


『確かにセラフィナと一緒に四色祭を見たかったけど、それじゃあ失礼だからな?』

「誰に?」

『王闘で戦う相手に。相手はこの日に備えて準備して、勝つために全力を尽くしてくる。だったら俺も全力を出せる状態でいないと』


 今回戦うのは、敵でなく他国の王族。

 セラフィナの剣ではなくセラフィナ・ホワイトボードとして戦う場である。

 ただ戦うだけではなく、礼を尽くさねばならないと考えたのだ。


「抽選による、試合順が決まりました! 1回戦は、赤の国のカーネギア選手対白の国のセラフィナ選手!」

『いきなりか』

「ソフィア達のお兄さんね。啖呵を切っておいてボロ負けしたらカッコ悪いわよ」

『そうだな。せめて1本は取らないと』

「2回戦は、黒の国のムロト選手対青の国のアルステーデ選手! 3回戦は、1回戦と2回戦の敗者による3位決定戦! 4回戦は、勝者による決勝戦となります!」


 その後、実況者から王闘の細かいルールが説明されていく。


 大雑把に説明すると、選手は国で定められた武器を使用して戦う。

 白の国なら、剣がそれに該当する。


 相手に有効打を与えるか、有効打と見なされる寸止め、または血を流した時点で1本。

2本先取した方が勝者となる。


「それではこれより1回戦を開始します! 選手入場です!」


 先に出たて来たのは、赤の国の王子カーネギア。

 ソフィア達と同じように赤髪に褐色の肌、そして金色の瞳を持った青年だ。

 腰には少し短めの、2本の剣が携えられている。


 カーネギアの姿を確認すると、会場から歓声が沸きる。

 当然ながら、歓声は赤の国からのものが多く、更に女性からのものが多かった。


「カーネギア選手は、各地で暴れまわる凶悪な魔獣を、次々と退治してきた勇士! その勇猛さと甘いマスクから、赤獅子の貴公子と呼ばれています!」


 実況の説明が終わると、カーネギアは握った右手を高く掲げる。

 それはカーネギアのお決まりのポーズであり、観客による黄色い声援は更に大きくなった。


「凄いわね。登場前から完全にアウェイよ」

『セラフィナは王闘初出場で、国での知名度も低いからな。仕方ないさ』


 カーネギアの登場演出が終わり、続いてセラフィナが出る。

 するとカーネギアの時と比べると小規模だが、それでも大きな歓声が沸いた。

 それは魔術関連の人達だ。


「セラフィナ選手は、今年の魔術コンテストにて、初出場、若干9歳ながら、9位入賞と素晴らしい成果を見せてくれました!」

「あっ、あの司会の人、魔術コンテストでも司会をしていた人よ」

『セラフィナの事を覚えていたんだ』


 セラフィナの魔術コンテストでの成果は、フリージアの偉業によって、一般にはあまり知られていなかった。

 それでも魔術に熱心な一部の人達の中では、セラフィナの存在が確かに根付いていたのだ。


「そっか……私って魔術研究者として、ちゃんと名を遺せていたのね」

『ああ、分かる人には、ちゃんと理解してもらえる。実際セラフィナは凄いんだから』


 セラフィナは感動して、少し涙ぐむ。


「しかし彼女は魔術だけの人間ではない! なんと白の国に現れた、地竜の首を切り、止めを刺した戦士でもあるのです! 人は彼女をこう呼びます! 血炎の首切り姫と!」

「初耳よ!?」

『姫以外、物騒な単語しか付いてない……』


 会場は、セラフィナの偉業を聞くと、更に沸き上がった。


 一方、セラフィナは、感動の涙が引っ込んだ。

 地竜の件は、城下の街に噂が流れた程度の事である。

 しかし司会者の男は、それが事実だと確信して話していた。

 つまり王族の誰かが、地竜の件を司会者に伝えたのだ


 セラフィナは、王族が集まっている席に目を向ける。

 それに気付くと、リシストラタが得意げな顔で親指を立てた。


『リシスさんが犯人だ』

「余計なことを……。何よ首切り姫って……」


 セラフィナのテンションが一気に下がり、心の中に引っ込むことにした。

 表に出たモトキは、カーネギアが先に立っている、ステージの中央に向かう。


「アデリンダから聞いたぞ、マルムーラが悪かったな」

「え? いや、こちらこそ。挑発的な言い方をしてしまってすみません」


 向かい合うなり、カーネギアは謝罪してきた。

 マルムーラの事は、家族の皆が問題に思っていることなのだ。


「最初に君を見た時は、俺も正直場違いだと思った。しかし、こうやって直接向き合ってみると、君からは戦士としてのオーラを感じる。地竜の首を切ったと言うのも事実なんだろ?」

(わたし)だけの成果じゃありませんけど事実です」

「君に言われた通り、全力で相手をさせてもらう。よろしく」

「こちらこそ。あっ、握手は左でお願いします」


 カーネギアは、握手をしようと右手を差し出した。

 しかしモトキに言われ、改めて左手を差し出し握手を交わす。

 カーネギアは、その行為を疑問に思ったが、モトキが右腕の義手を外し、ステージの外で待機していたキテラに渡すと、その疑問は晴れた。

 それと同時に驚愕した。


(隻腕!? まさかそれで戦うつもりなのか!?)


 赤の国の王族の武器は「双」。

 両手で対となる武器を使用するのが習わしである。

 その為、赤の国の王族にとっての隻腕は、他の国より致命的に思われるものだった。


「あれだけでも、やっぱり外すと体が軽くなるな」

『これで準備万端ね。あっちも本気で戦ってくれるみたいだし』

「そうだ……な?」


 モトキがカーネギアの方を見ると、明らかに先ほどと目が違った。

 それは哀れみか、それとも軽視か。

 どちらにしても本気で戦う者の目ではなかった。


 会場の観客達も、明らかにセラフィナを軽く見るようになっている。


「……」

『モトキ?』


 モトキは無言で開始位置に立つ。

 お互いに武器を構え、開始の合図を待った。


「それでは試合開始!」

「よし、来――っ!」


 モトキは、試合開始と同時に、カーネギアに向かって剣を投げつけた。

 カーネギアはとっさに剣を避けるが、あまりに予想外の行動に、モトキから目を離してしまう。

 カーネギアは、すぐさまモトキの方に目を向けるが、どこにも見当たらなかった。


 モトキの気配も感じず、移動する足音も聞こえず、カーネギアは戸惑う。


(消えた!? どこに――ぐあっ!)


 モトキは態勢を低くし、カーネギアの懐まで接近すると、腹に剣の鞘を思いっきり突き刺す。

 モトキの一撃は、正確に急所を撃ち抜き、カーネギアは溜まらず蹲る。


 モトキは先程投げた剣を拾うと、カーネギアの首元に当てた。


「そこまで! セラフィナ選手の勝ち!」


 あまりにあっさりと1本取ったことに、会場は一瞬静まり返るが、程なくして歓声が上がった。


「この腕は、セラフィナ(わたし)にとっての、愛の象徴だ! 軽んじるな!」


 モトキは、カーネギアに向かって。

 そして会場の全ての人達に向かって宣言した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ