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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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58 心配事

 四色祭は7日間に渡り行われる。

 1日で終わる競技もあれば、数日間かけて行われる競技もある。

 競技の審査は、2ヵ国以上の王族が務め、女神アステリアの名の下に、厳正で公平に行われた。


 セラフィナとソフィアは、魔術コンテストで入賞したという実績を買われ、魔術競技の審査員を幾つか任された。

 10歳と言うのは異例の若さであり、シグネにエドブルガ、アンネリーゼも務めたことがないことだ。


「き、緊張したぁ……」

「失敗しなくて良かったわ……」


 そして7日目の午前中には、王闘を除く全ての競技が終了した。

 2人は自分たちの役目を、立派に果たしきったのだ。


「私、魔力のコントロールには自信があるから、魔術の射的競技なら結果が残せるかもしれないと思っていたけど、やっぱりその道のプロは凄いわね」


 魔力量の少ないセラフィナは、魔力を完璧にコントロールしなければ魔術を使えなかった。

 魔術に魅せられて、自分でも魔術を使いたかったセラフィナは、猛特訓の末に何とか魔力消費量が最低の魔術を1回使えるだけの捻り出しているのだ。

 そして少ないが故に、抜群の安定性を誇っていた。


 しかし魔術競技は、その安定性に加え、飛距離や速度と言った要素も必要となり、セラフィナにはそれが足りないのだ。


「魔術コンテストとは違った凄さがあったね。そういえば魔術競技に、フリージアさんは参加していなかったけど」

「それは私も気になっていたわ。あの人なら競技でも結果を出せそうなのに」

「そうでもありませんわ」


 セラフィナとソフィアが、競技を振り返っていると、アンネリーゼがやって来た。


「セラフィナさん、ソフィアさん、お疲れ様ですわ。素晴らしい審判っぷりでしたよ」

「そ、そうかな……えへへ」

「ありがとう、アンネ。それで、フリージアさんの事を何か知っているの?」

「ええ、何を隠そう、わたくしに術式を刻んで下さったのは、フリージアさんですから。あの方は国の方で支援していますから、会う機会が多いのですわ」

「それは羨ましい」


 最初はアンネリーゼに対して、敵対心を見せていたソフィアだったが、この7日間で無事に打ち解けることが出来た。

 アンネリーゼが気遣いの上手い正確なことに加え、セラフィナではなくエドブルガにゾッコンなことが、ソフィアの警戒心を解いたのだ。


「それで、あの方は魔力のコントロールが得意ではありませんのよ。0距離でなければ、的には絶対当たりません」

「ああ、そういえば……」


 セラフィナとソフィアは、魔術コンテストでフリージアが、アイスショットをあらぬ方向に飛ばしていたのを思い出す。

 それは術式の作り込みが甘かったせいではなく、フリージア自身に問題があったのだ。


「やっぱり研究者と競技者では、勝手が違うんだね」

「ええ、控えめに言って天才であるわたくしも、術式を読むのは苦手ですから」


 アンネリーゼの天才と控えめの尺度は、2人にはまだ理解できていなかった。


「そうそう、他の競技の結果が出揃いましたわよ。魔術競技の結果と合わせて確認しませんこと?」

「ええ、そうしましょう」


 セラフィナとソフィアとアンネリーゼは、ここまでの結果を考察することにした。

 7日間の間に行われる競技は100を超え、大きく分けて3種類に分別された。


 1つ目は、運動系の競技。

 各種スポーツに格闘技、個人戦に団体戦と、もっとも参加者が多い分野である。


 2つ目は、魔術を用いた競技。

 魔術コンテストのように魔術そのものを競うのではなく、魔術を扱う技術を競うものだ。

 しかし、そもそも魔術を使える人間がとても限られている為、競技数もさほど多くはない。


 3つ目は、ユニーク競技。

 競技自体に事前登録が必要な分野で、毎回開催される種目が変わるのだ。

 ミスコンやじゃんけん大会、大食い等は定番だが、早口言葉やあやとりと言った地味すぎる競技。

 地方のローカルな遊びや、ひたすらゲップを繰り返すといった、意味の分からないものと、どこに需要があるのか分からないものも多い。


「やっぱり運動系は、赤の国が強いわね」

「魔術系は、青の国の独走だね」

「白の国は、ユニーク競技の勝率がいいですわね」

「お母様、また審査員なのにミスコンで優勝しているし」

「えっと、現在の総合優勝は……黒の国だね」

「控えめに見せかけて、地味に全系統で勝ち星を稼いでいますわ」


 国の特色がよく出ている結果だ。

 ここまでの結果は、毎回似たような結果になるのだ。


「まあ王闘で優勝すれば、10勝分ポイントが入りますから、どの国も逆転のチャンスがありますけど」

「事前の結果次第では、逃げ切り可能なポイントだけど、他の人の頑張りが低く評価されているみたいで、あまり好きじゃないわね」

「それだけ王族は、国の期待と責任を背負っているということですわ。だからこそ本気で戦う。故に観客も熱を上げるのですわ」


 アンネリーゼもその1人だ。


「だからこその危険もある……。セラフィナ、本当に出るの?」


 今日までに何度も聞かれたことである。


「あのね。ボクのお兄さんのカーネギアは、手加減とかが苦手だから、危ないんだよ」

「わたくしの国のアルステーデは、リシストラタさんを倒す為の秘密兵器との噂ですわ。控えめに言って、セラフィナさんに勝ち目はないかと」

「えっと……頑張るわ」


 誰もセラフィナの勝利を信じていなかった。

 ソフィアとアンネリーゼは、セラフィナが王闘に参加すると聞いてから、その動きを改めて観察していた。

 その結果、セラフィナの行動の節々から、運動音痴の片鱗が見えたのだ。


 セラフィナとしても、王闘はモトキ任せである為、2人を安心させるような、気の利いたことは言えなかった。

 モトキも、心の中の部屋の奥に籠って出てこない為、頼りにならない。


 しばし3人の中で沈黙が続いく。

 すると部屋にノックの音が響き、カリンの声が聞こえてきた。


「お姫様、王子様が来てるですよ」

「エドブルガね」

「エドブルガ様!?」


エドブルガが来たことを知ると、アンネリーゼが先ほどまでの空気を、良い感じに場の空気を壊してくれた。


「あっ、アンネも一緒だったんだね。もうすぐ王闘の時間だから迎えに来たんだ。一緒に馬車に乗ってく?」

「是非に!」

「あ、あの、エドブルガさん!」

「ん?」


 不意にソフィアが、エドブルガに話しかける。

 この1週間で面識を得ていたのだ。


「エドブルガさんは、セラフィナが王闘に出るのってどう思ってるの?」

「姉さんなら、きっと何かやらかすと思ってるよ」

(エドブルガにまで、やらかすってイメージ持たれていたんだ……)


 人一倍慕ってくれているエドブルガにそう思われるのは、セラフィナも少しショックだった。


「それだけ? セラフィナが心配じゃないの?」

「心配? 僕は楽しみだけど」

「えぇ……」


 エドブルガが一切の躊躇いもなく言い切る為、ソフィアもそれ以上追及できなくなってしまう。

 モトキと剣の稽古をしているエドブルガに、セラフィナが弱いのだという認識はなかった。

 もちろんセラフィナの体が戦いに向いていない事実は変わらないのだが、感覚がすっかりマヒしているのだ。


「ソフィア、怪我だけはしないように気を付けるから、そこは安心して」

「……うん」


 ソフィアは渋々納得した。

 セラフィナ達は馬車に乗り、王闘が行われるアステロセンターホールへと向かう。


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