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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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57 青の国の姫

「……え?」

『なんて?』

「わたくしは! あなたの! 未来の! 義妹でしてよ!」

「あ、うん。聞こえなかったわけじゃないの」


 目の前の少女の言葉が、あまりに突拍子がなかった為、脳が理解することを拒んだのだ。


 セラフィナとモトキは、改めて目の前の少女、アンネリーゼを見た。

 ウエーブがかった長い青髪の少女。

 年齢はセラフィナと同じくらいに見える。


「えーと、アンネリーゼさん?」

「アンネとお呼びくださいな、お義姉様」

「待って……色々待って。私に分かるように説明して」

「愛ですわ!」

『愛かぁ……』

「分からないわよ!」


 現状セラフィナには、アンネリーゼの名前以外は、外見的特徴しか分からなかった。


「1から説明して!」

「1からというと、わたくしとエドブルガ様の馴れ初めからということで、よろしいでしょうか?」

「エドブルガが原因か……」

『なんかカリンちゃんと初めて会った時の事を思い出すな』


 1年と少し前。

 カリンがシグネの言葉を勘違いし、セラフィナに勝てば護衛騎士の試験を受けられると思い込み、城に不法侵入した事件だ。


(そういえばカリン、さっきから静か――カリン!?)


 セラフィナは、後ろに立っているカリンの方へ眼を向ける。

 カリンは、大量の汗を流し、目を回しながら、必死にセラフィナの後ろで立っていた。


 護衛騎士の仕事は、仕える主を守ることだ。

 しかし、周囲に居るのが王族ばかりのこの状況では、揉め事を起こすこと自体が大問題であった。

 先ほどのアデリンダとマルムーラとのやり取りでも、セラフィナがやらかさないかと気が気ではなかったのだ。

 実際少しやらかした。


 このような他国の王族が一堂に会する場に出るのが初めてのカリンは、緊張で一杯一杯だったのだ。


(気付かなかった……。ごめん、カリン)

『視野が狭くなってたんだな。俺達も意外と緊張してたのか。ごめんな……』

「立ち話も何だし、そこの椅子に座りましょう」

「はい、そうしましょう」

(ほら、カリン)

「ですぅ……」


 セラフィナは、カリンを周りからはエスコートをしているように見せかけながら、近くの椅子に座らせた。

 護衛騎士が、主に気を使ってもらっている所など、他国の者に見られたら、何を言われるか分かったものではない。

 白の国だからこそ、大目に見られるのだ。


「それでエドブルガとは、どういうご関係で?」

「そう、それは3年前の四色祭でのこと。最終日の王闘で、会場はとても盛り上がっていましたわ」


 3年前の四色祭。

 エドブルガとアンネリーゼは、当時6歳だった。


 王闘の決勝戦は、白の国と青の国の試合だった。

 3本勝負で、1勝1敗の決定戦に、会場は大盛り上がりだ。

 アンネリーゼもその例外ではなく、身を乗り出しながら応援していた。


 すると突如、アンネリーゼが手を付いていた部分が崩れてしまったのだ。


「手すりが劣化してないのだとしたら、手から魔力が漏れ出ていたのかしら? 地属性で魔力量が多いと、物質を破壊してしまうことがあるから」

「ご明察! 流石はお義姉様!」

「お義姉様はやめて……」

「当時のわたくしは、魔力に付いて全くの無知。そのようなことになるとは、夢にも思っていませんでしたわ」


 客席から落下するアンネリーゼ。

 あまりに突然の事で、横にいた護衛騎士のアラビスを含めて、誰も反応が出来なかった。

 ただ1人、近くで観戦していたエドブルガを除いて。


 エドブルガは、アンネリーゼが落ちると即座に飛び降り、壁を走り下り、追い抜く。

 そしてアンネリーゼの下敷きになることで助けたのだ。


『よくやったエド君! 君は男だ! 俺は誇りに思うよ!』


 心の中でモトキがエドブルガに拍手を贈る。


「わたくしも突然の事で何が起きたか分かりませんでした。気付いた時にはエドブルガ様に助けて頂いたのです」

「エドブルガも同じことをして中庭に落ちたことがあったから、その分早く反応できたのね。反応できても、普通は他人の為に即行動できないでしょうけどね」

『そこがエド君の凄いところだ』


 人を助けることに迷いがない。

 将来、王となる人間としては、少々危なっかしいが、それでもセラフィナとモトキは、そんなエドブルガを誇らしく思っていた。


「そう、エドブルガ様は、無縁の相手であるわたくしを、何の躊躇もなく助けてくださいました。職務でわたくしを守っている騎士とは違う。その本当の優しさに、わたくしは心奪われてしまいましたの」

『分かる』


 アンネリーゼは、エドブルガとの美しい思い出にうっとりしている。

 そんなアンネリーゼに、モトキは深く同意していた。

 セラフィナも、エドブルガの事を褒められて、満更でもない様子だ。


「アンネ様! 確かにあの時は出遅れてしまいましたが、私がアンネ様を守りたいという気持ちは、決して職務だからではなく――」

「黙ってなさい、アラビス」


 思い出に水を差してきた護衛騎士のアラビスを、アンネリーゼは一蹴する。

 サラサラの金髪碧眼で高身長イケメンの青年。

 この迎賓館に集まっている各国の王子達を差し置いて、もっとも王子らしい容姿をしている。


「それから帰国までの短い間でしたが、わたくし達は交流を深めましたわ。そして心に決めたのです。わたくしはエドブルガ様の妻になると」

「それで未来の義妹と言う訳ね」

「その通りですわ、お義姉様!」

「お義姉様はやめて……」


 セラフィナとしては、エドブルガが誰と結婚しても構わないが、この年で義姉と呼ばれるのは抵抗があった。


「アンネ様、お考え直しを! 聞けばあのガ――少年は、白の国の王位を継ぐとの事! 国の名と別の髪色では、正妻にはなれません!」

『今、ガキって呼ぼうとした?』

(こいつ……)


 金色の瞳の子が産まれても、国の名前と髪の色が違うなどということを防ぐためである。

 また、側室は別の色の髪色であることが許されているが、他に王位継承権を持った子供が産まれるまでは、王と子を成すことは出来ないという制限があるのだ。


「アンネ様が奴の侍らすハーレム要員の1人に堕ちることなどあってはなりません!」

「側室を何だと思っているの!?」

「黙ってなさい、アラビス」


 アラビスは再び黙らされた。

 見た目に反して、性格はかなり残念なようだ。


「確かにわたくしでは、エドブルガ様の正妻にはなれませんわ。けれどわたくし、こう見えて控えめな性格ですのよ」

「側室でも構わないということ?」

「ええ、わたくしの事を1番に愛してくださるのなら、側室でも構いません」

(十分強欲だった!)


 セラフィナは、大声でツッコミを入れたかったが、喉まで出かかった声を、何とか飲み込んだ。


「エドブルガ様から、お義姉様は優秀な魔術研究者だとお伺いしています。ですから、お義姉様と良好な関係を築けるようにと、わたくしは魔術師になったのですわ」

「3年前ならそこまで……でもディダスターグランドの術式は刻んだ後か」

「お義姉様が望むのでしたら、わたくしの体を好きなように使っていただいて結構ですわよ!」

「き、貴様! アンネ様に何をする気だ!」

「術式の話よね!? 別に何もしないわよ!」

「ストーンショット」

「ぐほっ!」


 アンネリーゼは術式を起動させると、アラビスの股間に石礫を打ち込んだ。

 アラビスは、股間を抑えながら、蹲り、悶絶する。


「あ、ありがとうございます!」

「黙ってなさい、アラビス。出来の悪い護衛騎士でごめんなさい。義姉様の護衛騎士は、まだお若いのに、物静かで落ち着いた人で羨ましいですわ。オルキスも彼女を見習いなさいな」

『本当は緊張して、喋れる状態じゃないだけなんだけどね』

(疲れる……)


 それぞれの愛に暴走しているアンネリーゼとアラビスに、セラフィナはどんどん体力を削られていく。

 なのでセラフィナは、話を終わらせるための話題を振ることにした。


「エドブルガとは、どこまで話が付いているの?」

「え? それは、その……まだ告白もしておりません」

「私には、こんなに積極的なのに?」

「エドブルガ様を前にすると、緊張して言葉が出ないのです……」


 アンネリーゼは、顔を真っ赤にしている。

 彼女がどれだけエドブルガに本気なのかが伺えた。


「だから外堀から埋めようと、私に接触したと」

「それは……その通りですわ。気を悪くしてしまいましたら謝ります。申し訳ありません」


 セラフィナは溜め息を付く。

 しかしそれは決して、悪感情から出たものではなかった。

 ここまでのアンネリーゼの対応から、彼女の人柄が分かったからだ。


「とりあえずお義姉様と呼ぶのはやめて。良好な関係を築きたいなら、まずは友人からでお願いします」

「わたくしとお友達に!? あぁ、ありがとうございます。セラフィナ様の友人として、精一杯務めさせていただきますわ」

「様付けはやめて、友人と言うのは対等な関係だから。あなたのことはアンネと呼べばいいのよね?」

「はい。ではわたくしはセラフィナさんと呼ばせていただきますわ」

「それで構わないわ。よろしく、アンネ」

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」


 セラフィナが握手の為に左腕を伸ばすと、アンネリーゼは、その手をしっかりと握った。


                    ・

                    ・

                    ・


「あっ、やっと見つけた。ソフィアー」

「セラフィナ!」


 リシストラタと話していたソフィアは、セラフィナの姿を見つけると、一目散に駆け寄って行った。

 しかしセラフィナの隣に、いかにも仲が良さそうな、見知らぬ少女の姿を見ると、ソフィアの動きが止まった。


「……どちら様?」

「アンネリーゼ。青の国の姫よ。さっき友達になったの」

「始めまして。アンネリーゼ・エルブルースと申します。アンネとお呼びください」

「ボクはソフィア・ドレットノート……え? 友達?」

「アンネは優秀な魔術師らしいから、私達とも話が合うと思うのよ」


 セラフィナに他意はない。

 ソフィアは、しばらく沈黙すると、アンネリーゼに向き直る。


「セ、セラフィナの1番の友達はボクなんだから!」

「ええ、それはお譲りしますわ。ですがわたくしは、セラフィナさんの未来の義妹でしてよ?」

「義妹!? セラフィナ、どういうこと!?」

「えーと、話すと長くなるのだけど……」


 セラフィナは、新たな友人を得て、今までにないほど賑やかな一夜を過ごした。



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